第29話 ボーイ・ミーツ・ボーイ&ガール②

 それから少しして、4人は改めて自己紹介をしていた。


「どうも、俺はアラタと言います……通りすがりの一般庶民です」

わたくし、アラタ様に仕えておりますアンジェリカと申します……通りすがりのメイドでございます。アンジェとお呼び下さい」


 通りすがりの庶民とメイドのアンバランスさと怪しさに、目を見合わせて苦笑いする2人であったが、男の方から名乗りを上げる。


「俺はスヴェンだ……まぁ、一応アストライア王国で騎士をやっている。こっちは、同僚のコーディだ。よろしくな」


 スヴェンは、名乗ろうとする美女を制すると彼女に代わり名前を告げる。

 その不自然な行動に一瞬違和感を覚えたアラタ達ではあったが、2人がアストライア王国騎士団の人間という事実に意識が集中していた。


 アストライア王国は魔王軍を敵と見なしており、もしアラタ達が魔王軍の人間であると発覚した場合、戦闘になってしまう恐れがあった。

 互いに知り合いになった者同士、出来れば命の奪い合いなどしたくはないしアラタは戦えない為、戦力比は単純に考えると2:1でアンジェが不利になる。

 一緒に長くいる程、2人の正体が露見する恐れが高くなるため、すぐに別れた方がいいという結論に至ったのであった。


「さて……そろそろ、帰らないと皆が心配するな。アンジェ、帰ろうか」

「そうですね。おいとましましょう」

「「それじゃ、さようなら」」


 特に打ち合わせをすることもなく、息を合わせてこの場を去ろうとする2人であったが、逆にそれが不自然さを際立たせる。

 スヴェン達がアストライアの騎士と名乗った直後に、あからさまに帰宅の意図を見せてしまったことを若干後悔するアラタ達ではあったが、幸いにも彼らが追及してくる素振りは見られなかった。


「そうか……じゃあ、気を付けて帰れよ。町の中は魔物が出ないが、逆に人が沢山いる。人の方が魔物より恐ろしいなんてことはよくあるからな」


 先程までとは打って変わって、真面目な表情で意味深なことを言うスヴェンを軽く肘で小突くとコーディが笑顔で補足する。


「町中では窃盗とか物騒なことが起きるからということよ。ここは、商業が盛んで様々な人が集まるから注意してほしいという意味。スヴェン! あまり人様を脅かすようなこと言わないの!」

「ああ、悪い。お前らも悪かったな」

「いや、そんなことは。心配してくれてありがとう。気を付けて帰るよ。じゃあな、2人とも」


 アラタは手を振り、隣ではアンジェが一礼をして去っていく。そのような2人の後ろ姿を、少し寂しそうに見つめるスヴェンの姿があった。


「俺達がアストライア騎士団の人間だと言った瞬間に、急によそよそしくなったな……当然と言えば当然か」

「一般人からすれば、あまり関わりたくないもの。仕方ないわよ。私達と彼らでは生きている世界が違う。分かっていたはずでしょ? ……それにしても以外だったわね」

「何がだよ?」

「だって、あなたが誰かとあんなに楽しそうにしている姿なんて、あまり見たことがなかったから。本当は結構残念なんでしょ? せっかく仲良くなれそうな友達ができたのに」

「そんな訳あるか。俺には、他にやるべきことが沢山ある。お前も分かっているはずだろ? 星読み達の予言通りなら、今この町に奴がいる! 正真正銘の魔王がな! もし、奴が本格的に行動を起こせば、これぐらいの町の1つや2つ一瞬で滅ぼされるはずだ」

「ええ、そうね。彼らのためにも私達が気を引き締めていかないとね。……ふふっ!」


 真剣な話をしている途中であるにもかかわらず、急に嬉しそうに笑みをこぼすコーディをいぶかしんだ目で見るスヴェン。

 彼の視線に気づきながらも、なおも彼女は嬉しそうにしている。


「ごめんなさい……でも、何だか嬉しくって。やっと、あなたにも〝勇者〟としての自覚が出てきたのかなと思ったら……ね。さっきの彼らのおかげかしら? だったら感謝しないと」

「うるせーよ。あいつらは関係ない! ……でも、俺達の戦いにあいつらを巻き込みたくはない。ただ、それだけだ」


 にこにこ顔が止まらないコーディの隣でばつが悪そうな顔をしているスヴェンではあったが、既に視界から消えた2人の背中を今なお真剣な表情で見送っていた。

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