第28話 ボーイ・ミーツ・ボーイ&ガール①
その美しい金髪は肩位までの長さでウェーブがかっており、顔は非常に整っておりどことなく気品を感じさせる。
そんな美女は青年――スヴェンの近くまで来ると鬼の形相になり彼に詰め寄る。
「スヴェン! あなた、私の財布から3000カスト持って行ったでしょ? あれどうしたの? 白状なさい!」
「これになりました」
アンジェは、すかさずセクシー本を美女に見せる。その表紙を数秒程凝視すると、美女の顔は
このメイドとは異なり、そっち方面への耐性はあまり高くはないようだ。その様子を見て、美女の純な行動に新鮮さを感じるアラタであった。
(なぜだ!? なぜうちのメイドには、ああいう羞恥心というものがないのだろうか?)
美女は再びスヴェンの方に顔を向き直すと、依然として真っ赤になりながら彼を睨み付けており、その赤みは怒りから来るのか恥ずかしさから来るのか判別できない状況であった。
「なっ! なんて物に私のお金使っているのよ! 怒るわよっ!」
「既に怒っているじゃないか」と目で訴えるスヴェンの様子を、すぐ近くでニヤニヤしながら見ているアラタ。
普段、周囲からいじられる彼にとって自分以外の誰かがいじられている様を見るのは実に新鮮で楽しかった。対岸の火事とはよく言ったものだ。
そんなリラックスするアラタに気付いたスヴェンは目で「助けろ」の意思を訴えるもアラタは顔を軽く横に振り、極力関わらないように徹する。
「申し訳ありません。そちらのスヴェン様と私の主が共同でその書物を購入したらしく、つい先程まで、そのベンチで観賞会を開いていました。私は、その一部始終を見ていたのですが、お2人とも大変楽しそうでしたので止めることはできませんでした。全ては私の監督不行き届きの致すところです」
この結果、金髪碧眼の美女はアラタにも睨みを利かせ始め、対岸の火事はメイドによって飛び火し、こちら側も容赦なく焼き始めようとしていた。
「ちょっ、アンジェ。何てこと言うんだよ! ほらっ! 睨んでるよ、あのお姉さん! 会って間もない人に睨まれてるよー」
「事実ですし、しょうがないです。本屋で1時間以上かけて選んだ本を選んだ者同士ですし、助けてあげてはいかがですか?」
この言葉を聞いてアラタは一気に凍り付く。目の前で抗議の目で訴えてくる女性の事など視界及び思考から吹き飛んでしまう。
「ちょっと待った。そう言えば、一体いつから俺達を見ていたんだ? このベンチに座っていたところをたまたま見つけたんじゃないのか?」
青ざめるアラタの顔を正面から見据えながら、淡々とアンジェは口を開き始める。
「いいえ。アラタ様が、1人で意気揚々と商店街に向かっていくところから後を追っていました。もちろん何かを決意するような表情で本屋に入る様子も見ましたし、1時間以上かけて同じところを周回しているところもしっかり拝見させていただきました」
「……それって、全部じゃないですか」
「はい、そうです。フライパンは諦めて、こちらに来て良かったです。おかげで、アラタ様の新しい一面、というか生態を確認できました」
遠い目をしながら、満足そうに語るアンジェの目の前で突如アラタは膝を折り、彼女に懇願の姿勢を取っていた。
その様子を驚きながら眺めるスヴェンと美女は、この少年とメイドのやり取りを眺めることに夢中になっており、既に毒気が抜かれていた。
「……お願いします。今回のことを皆には言わないでください。お願いします。俺に出来ることなら何でもしますから」
「アラタ様、顔を上げてください。別に私は、今回の件をネタにしてアラタ様を脅したりなどとは全く考えていません。ええ、全く考えていませんとも。ただ、私の記憶に留めておくのみです」
そう言いながら自らの胸にそっと手を置くメイドを前にして、ますます彼女に逆らえなくなったアラタ。
そんな彼の悲壮感漂う背中を見て、先程まで修羅場であった2人は優しく彼の背中を叩くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます