第14話 古代竜の魔物

 休憩を終えてから、魔王軍はさっそく魔物の群れとの戦闘に陥っていた。

 現れたのは、俗にいう〝爆弾岩〟の大群である。

 進路を塞ぐように密集しており、無視して通り抜けることが出来なかったため、一瞬ためらう魔王軍であったがどうやら〝爆弾岩〟もどきは炎属性への耐性がないどころか弱点としているらしい。

 そのことに気が付いたセスは、目を輝かせながら前に出て、戦闘態勢に入っていた。

「ふふふふはははは! 来たぞ! この時が!! ここは私に任せてもらおう! 見ていてください魔王様!! 私の魔術を!!」

「……程々にね」

 テンションが振り切れているセスを見て、引き気味の魔王軍一同。

 アラタも同様に、危機感を感じていたが、こうなっては話を聞く状態ではないだろうと思い、とりあえず彼に任せることにした。

 そうこうしているうちにセスは詠唱を始め、彼の杖の先に赤色の魔法陣が出現する。

 詠唱を続けるにつれて魔法陣内の術式が組み立てられていき、数秒後に詠唱が終わると術式が完成したのか、魔法陣が激しく発光する。

「行くぞ! エクス! プロ―ジョン!!」

 普段の冷静沈着な立ち振る舞いからは信じられないハイテンションの中、セスが叫ぶと〝爆弾岩〟もどきの群れの真上に突如魔法陣が発生し、そこから巨大な炎の塊が出現する。 

 休憩中にセスが言っていたように、ファイアーボールとは桁違いの大きさと火力にアラタは驚いていた。

 その巨大な炎の塊からは、かなり距離があるはずだがアラタ達の周囲は一瞬でサウナのように熱く、大気中の水分が蒸発していっているかのように乾燥している状態となった。

 アラタが激しい喉の渇きを感じたのと、ほぼ同時にエクスプロージョンは標的に命中し大爆発を起こす。

 直後、凄まじい熱風が襲ってくるが、魔王軍を包むように障壁が展開され、熱風を弾き彼らを守っていた。

「アラタ様、大丈夫ですか? 危険ですから、この障壁から出ないでくださいね」

「アンジェが守ってくれたのか。ありがとう助かったよ」

 安堵あんどしたのも束の間、前方から何やら声が聞こえてくる。

「ぎいやぁぁぁー!」

「助けてくれー!」

「お母さーん!」

 それは、〝爆弾岩〟もどき達の断末魔の叫びだった。人間のものとさして変わらない〝それ〟にドン引きするアラタ。

(ええー? あいつら喋るのかよ)

 爆弾岩もどきが喋る内容は、断末魔の叫びのみであり、人語を理解し会話をすることはできなかった。

 エクスプロージョンの広範囲に及ぶ攻撃により、次々と爆発していく魔物達。

 さらに、1体が爆発すると付近にいる爆弾岩も誘爆し、連鎖爆発が発生する。

 数分後には全ての個体が爆発し終えていたが、その間続いていた断末魔の叫びによりアラタはげんなりしていた。


「セス! 一体どういうつもりですか? あんな近距離であのような魔術を使うなんて! アラタ様を殺すおつもりですか?」

「いや、そんなつもりは……私はただ魔王様に私の魔術を見てもらいたくて……」

「その結果があれですか? あなたらしくもない。ローブのないアラタ様にとって、とても危険な状態だったのですよ? いつものあなたなら、周囲への被害を考慮に入れて行動できたはずです。一時のテンションに身を任せるからああなるのです!」

 激怒したアンジェによる説教を受けつつ、セスは申し訳ない表情でアラタを見ていたが、そのたびに「よそ見をするな」とさらにメイドの怒りを買っている。

 心なしか、180センチメートル以上の長身が一回り以上小さくなっているように見え、まるで悪さをして母親に叱られている子供のようである。


「アンジェ、もうその位にしてあげたら? 本人も反省しているみたいだし。……そろそろ泣きそうよ」

「……はぁ、仕方ありませんね。セス、あなたは我々の作戦参謀なのですから、誰よりも冷静になっていただかないと困ります。あなたの立てる作戦が、アラタ様の身の安全を守る上で重要になるのですからね」

「はい……大変申し訳ありませんでした」

 トリーシャが助け舟を出したこともあって、アンジェによる説教は終了した。

 すると、すぐさまセスはアラタの所まで駆け寄り謝罪を繰り返すが、アラタは「大丈夫だから」といってセスを責めようとはしなかった。

 さすがに、アンジェにあれだけ絞られた後にどうこう言う気は起きなかったのである。

 むしろ、自分のために張りきった挙句に空回りしてメイドにこっぴどく叱られたことを申し訳なく思っていた。


 ズシン! 不意に大きな振動が魔王軍を襲った。今までになかった突然の出来事に、バルザス達の顔には焦りが見られる。

「セス、いい加減に立ち直れ! 何かヤバい状況だぞ!」

 セスに活を入れつつ、状況を把握しようと振動の原因を確認しようとするアラタであったが、苦せずして〝それ〟が姿を現す。

 〝それ〟は周囲の木々よりも巨大な体躯をしており、爬虫類を思わせる外見をしているが、先程のサラマンダーと大きく異なり後ろ足で自重を支え2足歩行している。

 アラタはその魔物に見覚えがあった。実際に見たことはないが、映画や図鑑等で良く見知った姿であった。

「嘘だろ……あれティラノサウルスじゃないか。俺は異世界じゃなくて、本当は白亜紀にでも来たのだろうか?」

「魔王殿! 失礼つかまつる!」

 アラタが呆けていると、すぐさまドラグが近づき、彼をお姫様抱っこすると全力でこの場所から駆け出していた。

 その直後、先程までアラタ達が立っていた場所に巨大な火球が叩き込まれ、大爆発を起こす。

 その火球が何処から発射されたのか視線を向けると、ティラノサウルスの口元が燃えているのが確認できる。どうやら、あの火球の主はこの魔物らしい。


「これはもうティラノじゃなくてゴジ○じゃないか。ただでさえ、化け物みたいなのに火を吹くって、そんなのありか!」

「ゴジ○が何かは分かりませんが、あれは太古より存在する魔物エンシェントザウラー、略してエンザウラーですな!」

「何!? その無駄にかっこいい響き!」


 魔王軍が、ティラノサウルス改めエンザウラーと距離をとろうと退避行動をとっている中、当の本人は一通り魔王軍のメンバーを見回した後、すぐには襲って来ずに視線を彼らが逃げた方向と逆側に向けたのであった。

 そして、何かを探すように頭を左右に数回動かした後、頭の動きを止めて悠然と前進する。

 動き出したのも束の間、すぐにエンザウラーは後ろ足を地面に叩き付け始めた。 その意味不明の行動に、訳が分からないまま、更に距離をとる魔王軍一同。

 そのような中、アラタは一瞬何かを探す仕草を見せたエンザウラーの行動を思い出し、その足元に目を向ける。

 すると、そこには小さい赤い何かが上空から襲ってくる蹴りを必死に避けていた。

 いや、正確にはわざと直撃しない位置に蹴りは下ろされていた。

 直撃しないまでも、地面に叩き付けられた瞬間に巻き起こる風圧や地面の破片は、その小さな生物に当たっており、徐々に抵抗が弱々しくなっていく。

「! あいつ!」

 その様子に気付いたアラタに怒りが込みあがってきた。

「魔王殿、どうされました?」

「あのティラノもどき、遊んでるんだ!」

「遊んでいる、とは?」

「ああ、奴の足元に小さい生き物がいるんだよ。たぶん人間の子供位の大きさだ。奴は、そのちっこいのを一思いには殺さず、もてあそんでいるんだよ!」

「なんと! そのようなことが!」

(しかし、ここからエンザウラーの所までかなり距離がある。しかも、その足元となるとここからでは拙者せっしゃにはよく見えないが、魔王殿には見えているというのか?)

 ドラグの疑問はもっともであった。実際に、他の魔王軍のメンバーにもエンザウラーの足元に人間の子供位の生物がいるなど、全く見えない距離であったからだ。 しかし、アラタには、はっきりと見えていたのである。

 

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