第15話 VSエンザウラー①
「なぜ奴があのような行動を取っているかは、分かりかねますが、これはチャンスです。今なら遠距離から一気にエンザウラーに攻撃できます。炎に耐性があると言っても上級魔術ならダメージを与えられるはず。まず私が先制攻撃を行うので、皆は続いて攻撃をしてくれ」
「駄目だ!」
状況を冷静に分析し、最善の手を考えたセスであったが、間髪入れずにアラタが異を唱える。
「それじゃ、奴の足元の小さいのが攻撃に巻き込まれて死んじまう!」
アラタの意味不明の発言について手短に説明をするドラグ。それにより、他のメンバーも状況を理解することが出来た。
だが、そのアラタの発言に対してロックが当然と言える疑問を投げかける。
「ちょっと待てよ! 別に俺たちがその小さいのに気兼ねする必要なんてないだろう? どうせ魔物の子供とかだろ? セスが言ったように一気にぶっ飛ばしたほうが一石二鳥でいいじゃないか!」
「そんなの分かってるよ! けど、嫌なんだよ! あんな一方的に、誰かがなぶり殺されるのを黙って見ているのは! でも俺には奴を倒す力なんてないんだよ! ……くそっ!」
沈黙する魔王軍。それもそのはず。アラタがここまで
更に疑問なのは、その苛立ちの理由は自分達と敵対している魔物の子供を助けたいという所から来ているのだ。
「……であれば、命令を!」
「えっ?」
沈黙を破ったのはドラグであった。彼からの意外な反応にアラタは戸惑いの意を隠し切れなかった。だが竜人族の将は尚も言い続ける。
「拙者は、魔王殿の家臣です。御身が戦えない代わりに自分が戦います。さあ、魔王殿の意思を示してください。さすればこのドラグニール、相手が何であろうと戦い抜く所存。さあ、お早く! 間に合わなくなりますぞ!」
アラタが、エンザウラーの足元に目をやると、あの小さい生物にほとんど動きは見られなかった。ダメージの蓄積と体力の消耗が限界に達したのだろう。
今すぐに決断しなければ、あの小さいのは確実に死んでしまう。しかし、今自らの考えを言葉にしてしまえば、自分の一存で仲間を危険な目に合わせることになる。
アラタがじっとドラグの目を見ると、ドラグもまっすぐにアラタの目を見返している。
「ドラグニール、俺に力を貸してくれ。俺は、あの小さいのを助けたい!」
「御意! であればすぐに動かなければ! ドラグニール、出陣いたす!」
ドラグはアラタを下ろすと、両手に戦斧を
「だあっ! もう、しゃーねーなー! やってやろうじゃんかよ!」
「どのみち、倒さなきゃならないんだし、構わないでしょ? 遠距離作戦が近距離になっただけよ」
「まずは、エンザウラーの注意をこちらに引き付けるぞ! 間違っても奴の足元に攻撃はしないように!」
魔王軍の切り込み部隊4人がエンザウラーに突撃を開始するのと同時に、アンジェとセスも前衛の支援のために術式を展開しながら攻撃が可能な位置まで接近していた。
「私達はあくまで
「了解!」
そう言うや否やアンジェは、レインショットをエンザウラーの顔に向かって放つが、その皮膚にはわずかばかりの傷がつく程度でダメージにはなり得なかった。
だが、それこそ当初の目的であり、レインショットによって一瞬視界が
そして、その隙に前衛4人の同時攻撃がエンザウラーの腹部に命中し、その
しかし、エンザウラーは同時攻撃にたじろぐことはなく、遊戯を突然邪魔されたことに怒り狂い長い尾をハンマーのように4人に叩き付ける。
すんでのところで攻撃を
一方、エンザウラーは先程まで遊具にしていた、その小さな生物を視界に捉えると、一気に踏み殺そうと近づいていく。
遊戯を邪魔した者たちの狙いがこのおもちゃであると悟り、獲物を奪われるぐらいならば自分で破壊したほうがマシと思ったのだろう。
「やめろぉー!」
魔王軍が再び攻撃に出ようとした矢先、アラタが叫び声とともにエンザウラーに突進していく。
その行動に、全員が青ざめていた。ローブのないアラタでは、エンザウラーのどのような攻撃でも即死するのは火を見るよりも明らかであるからだ。
しかし、そんなことはこの場にいる誰よりもアラタ自身が理解していた。理解してはいたが、動かずにはいられなかったのである。
(皆を危険に
アラタの向かう先は、正確にはエンザウラーではなく、奴もまた向かおうとしている場所であった。その意図にいち早く気づいたアンジェは足止めのために魔術を連発し始める。
「レインショット! スプラッシュ! くっ、止まらない!!」
先程の牽制時より、威力を上げて魔術を使用しているものの、その巨躯は前進を止めない。
確かにダメージはあるが、怒りに我を忘れたその巨大な魔物にとって、この程度の傷はどうという事はなかったのである。
その間、フレイムランス、エアスラスト、雷戦斧、岩砲、エナジーアローといった魔王軍一同の術技が同時に放たれる。
直撃すれば、足止めになるどころか確実にダメージを与える事が出来る。全員がそう思った瞬間、エンザウラーは大地を思い切り蹴り空中に跳び上がり、同時放火は虚しく空を切った。
「なっ! 跳んだだと!」
エンザウラーの予想以上の運動能力に驚く一同、しかしそのような中、一人だけは状況に目もくれずまっすぐ目的地に向かって疾走する。
「アラタ様! 危険です! お戻りください!」
アンジェが制止するのも聞かず、アラタは既に動かなくなっていた小さな生物に向かう。
空中に跳んだエンザウラーもまた、単に逃げたのではなく自重と落下速度による力を利用し確実に獲物の息の根を止めようとしていた。
目的地にどちらが先に辿り着くのか、スピード勝負になっていた。しかし、この勝負はアラタにとって圧倒的に不利である。
下手をすれば、小さな生物ごと自らもエンザウラーの攻撃の
それでも彼は止まらなかった。
「間に合えぇぇぇぇー!!」
直後、エンザウラーはその身を大地に突き立てる。
その衝撃で地面は大地震の如く振動し、衝撃波がエンザウラーを中心として周囲に広がっていく。
その際、細かい岩の破片が勢いよく飛び散っていき、これだけでも何の防御手段を持たない者にとっては命取りになるだろう。
「アラタ様は? アラタ様!」
「そんな、嘘でしょ? こ、こんなことって!」
「魔王殿、すみませぬ! 拙者が未熟なばかりにこんなことに!」
彼らの視界の中に、アラタの姿は何処にもいなかった。
普段はあまり表情を変えず、クールに振る舞っているアンジェも今や表情は青ざめていた。同様に他の者も絶望的な表情をしている。
セスやロックは目の前の光景を信じられないという顔で
その様な魔王軍の反応を見て、眼前の敵は満足そうに笑みを浮かべている様に見え、地面に突き立てた脚をぐりぐりと擦り付ける仕草を見せる。
まるで、その足下にいる者をさらになぶるかのように。その行動が魔王軍の怒りの火に油を注ぐ。
全員がエンザウラーを睨み付け、怒りに身を任せた総攻撃に入ろうとしていた。
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