43.ポンタ商会ヤタガラス部隊

 日本の自衛隊が、皇室が、陰の五族がこの部屋を盗聴していない(・・・)なんてありえない。俺は確信を持っていた。


 しばらくするとインターホンが鳴り、長野隊長と山本代表が現れた。

「恐れ入りました。トモロウさんにはやはりわかっていましたか。」

「はい。あなたたちが私たちの監視でいることももちろん気づいています。恐らくですが、盗聴された席には皇室の方がどなたかいたのではないですか?」

 と俺は聞いてみた。すると


「恐れ入りました。おっしゃる通りです。それと先ほど話されていたことはほとんど正解でしょう。」

「なるほどね。さっきの予想でゼクウさんが皇室の関係者なら、皇室にそのことが残ってないはずがないですからね。」

「…」


「で、どこまで把握されていますか?ヤタガラスとして。」

「先ほど友朗さんが話されたことがほぼすべてですね。もっともその情報が解禁されたのは今行われているゼクウ王国での戦争へ介入すると決めた後ですね。」

「なるほどね。すると皇室は俺たちに協力してくれると考えていいんですね。」

「もちろんです。それこそが皇室の悲願でもあります。皇室のある方が大変驚かれておりました。ゼクウ王国に介入して、そのまま敵国を葬り去るのではなく、一度解体して、大義名分をもって周りの国を併合する。そして併合が終われば国民すべてが魔法を使えて、強くなっている。これには驚かされたとおっしゃっていました。」


 誰がそれを言っていたのかはあえて聞かないでおこう。


「それではヤタガラスの方々もエリクサーを飲んでいただけるということでよろしいですか?」

「はい、もちろんです。しかしそれには一つ条件がございます。」

「条件ですか?」

「はい。ヤタガラスのポンタ商会への編入です。」


 これには俺も驚いた。


「それは…その武力もすべてということですか?」

「はい。その通りです。トモロウさんにはヤタガラスをすべて率いていただきます。もっとも、エリクサーを飲んだ時点でそれまでの生活を捨てねばなりませんからな。これは当然友朗さんに責任を取っていただかねばいけません。」

 と山本さんはにこにこしながらそう言った。


 俺はその笑顔を見てようやく気付いた。

 そこまで見込んでのゼクウ王国への援助だったのだと。

 ある意味、ゼクウ王国での戦時処理はヤタガラスのデモンストレーションと訓練を兼ねたものだったのだと気づいた。


 道理で途中からやけに気前よく人員を追加してくれてると思ったんだよな。

 ゼクウ王国に行くためにはゲートをくぐらなきゃいけない。そのためには気の鍛錬が必要。気の鍛錬ができてゲートをくぐれれば魔法を使うこともできる。

 そしてそれを俺に悟らせないように一人として俺の前でヤタガラスの人たちは魔法を使っていない。

 気が付くべきだった。水も配給しているところで。


 まあ、どのみちこうなることしか選択肢はなかったのだろう。


 俺は天を見上げてため息をついた。

 そして言った。

「わかりました。すべてのヤタガラスの人たちはポンタ商会でお預かりします。その前に皇室のえらいさんに合わせてください。これまでの答え合わせと、今後の相談のために。」

「わかりました。さっそく手配をいたします。」

 そう言って長野隊長と山本代表は出ていった。

 出る間際にこの家から盗聴器は外しておくように頼んだ。


 それから2日後にじいちゃんとばあちゃんは目を覚まし、3日後に宮司夫妻が目を覚ました。

 どちらも目を覚ました時にはすっかり痩せていたが、身体は若返っていた。

 起きてからは黙々と食事をして、結構元気に回復した。


 大事を取って2~3日休養を取ってから、朝峰神宮へ行き、ガイアと接触してもらった。

 この時ばあちゃんも一緒に行くといって聞かず、一緒に接続したようだ。

 また、2日ほど寝込んだが、そのあとは気力が充実しているようで、すっかり元気になっている。食事の量は大幅に増えたようだが。

 まあ、太ることはないだろう。今は身体の消耗を早く取り返そうとして得いるのだろう。

 一方宮司夫婦も、起きてからは食欲も増し、みるみる血色もよくなってきている。

 早速娘さんと一緒にパソコンを使ってスキャンしては解読作業に没頭している。


 父さんと母さんはじいちゃんたちが目覚めた次の日にエリクサーを飲んで眠った。

 その次の日には源蔵さんと貴美子さんが、その次の日には先代のマルクス爺さんとシャーロットさんが。そうしてみんなが徐々にエリクサーを飲んで若返っていった。


 セバスとマリアも飲んでくれた。

 騎士団長のマルコスさんも飲んだ。

 表に出ているマローンは今飲むわけにはいかないと奥さんと一緒に飲むそうだ。

 メライト組は基本日本で生活するようになった。それでもたまに用事があるときは別の名前で領主邸に入り込んでいるようだ。もちろんメイドたちにはばれているが…。

 俺はヤタガラスの人たち用のエリクサーを長野隊長に託そうとした。


「長野隊長。エリクサーは何本いりますか?」

「おおよそ1,000本ほど必要です。」

「え?そこまで多いのですか?」

「はい。今の時代、里には大勢の老人がおりまして…。この話を長老会にかけると全員が協力すると申し出て来まして…。これであの人たちが若返ると最強の戦士たちが500人ほど増えることになります。」

「…なるほど。ヤタガラスの技術をもって、年を重ねた人たちが500人ですか…。」


「友朗さん。多分世界を征服できますよ?」

「いやいや。そんなことしてる暇はないですよ。まあ、いつものようにその土地ごとの非合法組織はつぶしていきますけどね。」


 俺は源蔵さんと話をして、うちの家よりさらに奥にある湿地帯と山を埋め立てて整地し、そこに1,000人が暮らせる村を作ることにした。


 その話を長野隊長から話してもらうとぜひ手伝いたいと申し出を受けた。

 俺は1,000本のエリクサーを渡して、ヤタガラスのみんなを若返らせてもらっている間に朝峰工務店の人たちと造成地について打ち合わせしていた。

 いっそのこと、ボーリングして温泉が掘れないかと相談していた。

 道路を中心に左右に振り分けて、又道路を敷設して、左右対称に500棟ほどの集落を作ってもらう計画を立てた。

 1軒当たり最大5人までなら生活できるだろう。

 今後家族が増えることも考えておかなきゃね。

 宅地造成に3億、500棟の建設に10億ほど必要になった。

 これらのお金は前に日銀に両替してもらったお金を当てた。

 まだ資金的には50億ほどが残っている。

 これは俺個人の資産とは別だ。

 俺は忙しくポンタ共和国と行き来しながら、空いている時間で秘宝庫の書籍の翻訳を行っていく日々が続いた。

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