42.天皇家の使命

 その後、食事とトイレを終えたじいちゃんとばあちゃんは、二人で寝室に行き、エリクサーを飲んだ。

 すると、二人は静かに眠った。

 その体をベッドに横たえてしばらくすると、じいちゃんとばあちゃんの身体が光りだした。

 ある一定の間隔でその光は明滅しだした。

 俺はこの光景とよく似た状況を見たことがある気がする。


 しばらく見守っていたが、それ以上の変化はないので、寝室はそのままにして、俺たちはリビングに再び集まった。


「それで、トモロウ。お前はどれだけの人にエリクサーを飲ませようと考えているんだ?」

 と父さんは俺に聞いてきた。

「そうだな。星野家、朝峰家のこの中で菜月は妊娠しているから大事を取って出産後にした方がいいだろうね。お腹の中の赤ん坊にどういう影響が出るかわからないからね。それとヤタガラスのメンバーで30歳以上の人には全員飲んでもらおうかと思っている。」

「……それだとえらく人数が多くならないか?エリクサーは供給できるのか?」

「うん。大丈夫。すでに1,000本ほどは作ってあるんだよ。おそらくヤタガラスの総勢で500人ぐらいだろうと思っている。」


「あとは…。」

「そうだね。メライト家だね。メライト家もイザベルさんは妊娠中だから菜月と同じ理由で後からになるけどね。メライト家の場合はどちらかというと身を守るためにという方が近いけどね。」

「というと?」

「メライト家の皆さんには今回の『ガイアの治療』には、関わらせないようにしようと考えているんだ。あくまでこれはこちらの世界の問題だからね。むしろ万が一のことを考えて、俺たちが編纂した資料や地球の文化を継承できるように向こうの世界で『知識の番人』としての仕事があるよ。そのためにエリクサーを飲んでもらうつもりなんだ。」

 と俺は答えた。


 そこに母さんたちが紅茶を入れてくれた。

 俺たちはそれを飲んで一息入れた。

 しかし、まだまだ話さなければいけないことがある。


「さて、話の続きをしますね。まず、日本に帰ってきてからゼクウさんがどのようなことをしていたかが、朝峰神社に残っていた文献にあると思うんです。だからあれらの書籍を早急に解読しないといけません。」

 そこへ宮司が

「私たち夫婦も、友朗さんのおじいさんの後にエリクサーを飲ませていただけませんか?気の増量と体力の増強があれば単純作業も早く終わると思うんです。」

「確かに能力は向上しますが…。表に出ることができなくなりますよ。少なくとも朝峰家以外の人たちとは会うとばれてしまいますからね。」

「そのあたりはご心配に及びません。私どもは朝峰家の人たち以外との交流は昔からないのです。なるべく神社の秘宝が人の目に触れたりしないように私たち朝峰神社の一族はある意味この里に隔離されていたのです。逆に若返ったことと秘宝がすでに私たちの手が離れたことで、いろんなところに行けると思います。」

 と宮司夫婦はにこにこしていた。


「そうですか。それは大変でしたね。わかりました。それでは今からでも飲まれますか?うちには開いている部屋がありますので、ご夫婦でどうぞ。食事とトイレは先にお願いします。」

 と促すと宮司夫婦もキッチンへと向かっていった。


「では、神社の文献の解析は宮司夫妻が回復してからにしましょう。」


「ちょっといいですか?」

 と宮司の娘の花梨さんが俺に声をかけた。


「昨日までですでに大まかに秘宝の本のタイトルだけは書きだせました。それがこちらです。」

 と秘宝の書籍のリストを渡してくれた。

「おぉ。もう、リストはできていたんですね。拝見します。」

 と俺はそのリストを受け取り目を通した。

 するとタイトルからもわかることが出てきた。


「なるほど。やはり予想通り、日本に戻ってきてからのゼクウさんの動きが書かれた本がありそうですね。『是空日記』の2から7までがあります。…なるほど。もし先に秘宝庫が発見されたら、そこから是空日記の1を探すためのヒントにもしたのかもしれませんね。それ以外には…これは日本中を旅してまわって何か調べ物をしているようだ。

 …なるほど。ここにあるのは龍脈の場所に関するものみたいですね。これも世界中の龍脈を探す手掛かりになりそうだな。」

 と俺は『龍脈探査』と書かれた1から10まである本のリストを指さした。


「他には…やはり魔法と魔道具、薬と錬金術の書かれた本もあるようですね。これらは私が引き取ってまとめてみますね。宮司さん一家は龍脈探査を解読してください。日記についてはそのあとで結構です。」


 そう言って俺はそれらの本を引き取って解読することにした。


「それとこれなんですが…。」

 とビニール袋を取り出した。

「本の間に挟まっていた布切れやほこり、それと髪の毛がやはりありました。」

 と俺にそのビニール袋を差し出した。

「ああ。ありがとうございます。これで分析にかけられますね。しかし、ここまで事態が動いてくるとやはり一度皇室、できれば陛下にお会いして話をした方がいいのかもしれませんね。」

「どうしてですか?」

「俺の予測が正しければ、恐らくですが、この地球が死にかけているということを陛下はご存じのはずなんです。

 それとゼクウさんはおそらく歴代天皇のどなたかではないかと思います。

 それとこれが一番大事なことなんですが、天皇家自体の存続の意味というのが、これらのことと密接につながっているように思うのです。」


 続けて俺は俺が組み立てた仮説を話していった。

「これは俺の推測なのですが、ゼクウさんが天皇家の一人だという仮説もこのことと無関係ではありませんが、天皇家はもともと祈祷師の一族ではないかと思うのです。

 これ自体は特別新しい発見ではないのですが、天皇家は日本の安寧を祈ることがその使命といわれていますからね。

 そしてその一族は『気』を使うことができた。

 だからこそ未来が予測できたし、国も治められたと思うんです。

 それがある一時期を境に大幅に変化してきた。

 それが明治維新だったと思うのです。

 そしてその頃の世界情勢を見てもこの明治維新をはさんで前後100年ほどで世界が大きく変わっているのです。

 つまり、先ほどの話で言うと気の巡りが悪くなっているのです。

 そしてそれははるか昔から分かっていたことなんじゃないかと思うんです。


 このまま発展していくと、地球が滅亡すると。


 それを少しでも遅らせるために天皇家は手を尽くしていたんじゃないでしょうか。

 今考えてみると遷都もその一環だったのかもしれませんね。

 それはさておき、今までも疑問に思っていたんです。

 異世界にわたってでも皇室が延命を望んでいた人物は誰だったのか。

 このあたりに天皇家の本来のやってきたことと、これからどういう役目を担っているかのヒントがあると思っています。

 そして先ほど俺がゼクウさんは400年ほどでなくなったといった根拠は、ここなんです。

 もしゼクウさんが朝峰家の初代が異世界にいくことを知っていたら、エリクサーを渡せば済んだ話なんです。

 おそらく大量のエリクサーを持っていたはずですからね。

 自分の延命のために。

 それが星家の子孫が、異世界への渡り方を伝授している。


 まあ、最もその時には海外の龍脈の状況を見に出かけていた可能性もありますが。

 しかし少し不自然に思えるんです。

 今はまだ何もわかっていないので憶測にすぎませんのでこの辺にしておきますね。

 それと龍脈探査を読み進めると当て字で海外の場所を示唆する記述が出てくるかもしれません。

 ゼクウさん自身は飛行魔法も転移魔法も使えたはずですので、世界中を探していても不思議じゃないんです。

 それは頭に入れておいてくださいね。」

 と俺は花梨さんに言った。


 そして俺は少し大きな声を出して、一人に呼び掛けた。


「長野隊長。山本代表と一緒にこちらに来てもらえませんか?どうせこの部屋はあなたたちに盗聴されているのでしょう。こちらで話に加わってください。」


 俺がそう言うとみんなびっくりしていた。

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