41.エリクサーの本来の使い方
俺は家に帰って丸一日寝てから、みんなに説明するためにリビングに集まってもらった。
もちろん宮司にも同席してもらった。
「まず初めに、宮司があの宝物庫から漏れていた光というのは宮司自身が魔力、気を認識できるようになったからだと思います。それとあの神社はいわゆる地脈の上に立っているようです。地脈は中国などで言われた古い考え方の一つですが、俺が見たところ、どうやら地球自体をめぐっている気のようなものなんだと思います。イギリス辺りではレイラインと呼ばれているものです。そこから気を補充しながらあの宝物庫は稼働していたのだと思います。地脈から魔力を取り出す魔方陣も見つかりました。」
「それでは、あのような宝物庫を作ることも可能だということですね。」
「そうですね。しかし、これは魔道具が半永久的に動くことを証明している事案でもあります。」
「なるほど。」
「どういうことかというと…。例えば国防のために国全体に魔法でシールドをかけることも可能だということです。」
これには全員驚いていた。
「それともう一つ。これは俺が考えた仮説なのですが…。この地球もまた生物なのではないかということです。」
あまりにも飛びすぎたように思える仮説にみんなは息をのんだ。
「俺は、あの宝物庫を解析しているうちに魔力の筋が地中深くに続いていることを見つけたんです。それがどこまで続いているかを探っていくうちに、その地球からのびている魔力の筋の質が変化して、俺の魔力と同調しだしました。すると俺の中に膨大な情報が注ぎ込まれてきたんだ。俺が知っている理論の中にガイア理論というのがある。これはアメリカの科学者や生物学者、地質学者などが提唱している理論なんだけど、かいつまんで説明すると地球と生物が相互に関係し合い環境を作り上げていることを、ある種の「巨大な生命体」と見なす仮説です。しかし、俺が感じたのは地球そのものも生物で、生きているんだということです。昨日丸一日寝てしまっていたのはあまりの情報量に頭が追い付かず、身体が情報整理をするために眠らせたんだと思います。」
俺は周りを見回しながら話した。
「そしてようやくまとまった答えを出すと、かなり大雑把な言い方で申し訳ないんですが、この地球が死にかけているという事実です。」
この言葉は衝撃をみんなに与えた。
「死にかけているといっても、今すぐや2~3年という短いスパンではありません。しかしガイア理論でいうところの地球と生物が共存しているというところ、地球の環境が変わってきているというところです。様々な要因で地球内部の気が膨れ上がってしまっています。人で言うと魔力過多になりつつあるのです。これは本来流れていた気の流れを止めてしまっているものや気の流れが悪くなってしまったから起こる現象です。どうやら気はそのもっと内部にある、すさまじいまでのエネルギーを取り巻く干渉帯のようなものだと思います。そのエネルギーの正体は…。」
俺はそこで言葉を切って天を指さした。
「…。どうやら太陽のようなものです。つまり端的に言うと魔力、気の干渉帯のどこかに滞りが起こりそれを放置しておくと…。」
俺は両手をパンと打ち合させた。
「地球は破裂してしまいます。それも抑圧されたエネルギーが解放されるので地球が消滅するのには一瞬でしょう。」
みんなは静まり返っていた。
「しかし、昨日ようやくその改善点に気づきました。気の巡りが悪いのならば、気が巡るようにすればいいと。どうやら、これが本当に伝えたかった『未来へ告げる』の内容なのだと思います。」
親父が俺に問いかけてきた。
「お前が感じたことは本当のことなのか?これが公表されれば世界中がパニックになることはもちろんだが、お前ひとりが理解しているようじゃ、誰も説得できないぞ。」
「はい、父さん。父さんとじいちゃんには申し訳ないんですが、星家、星野家のものとして、ゼクウの後継者として、この時代に選ばれた俺たちの使命として、『エリクサー』を飲んでもらえませんか?」
と俺は父さんの問いに問いかけで返した。
「どう言う意味だ?」
じいちゃんが俺に聞いてきた。
「俺は体内に膨大な魔力を持っています。じいちゃんの数倍になるほどの魔力です。一方でじいちゃんほど気の操作はうまくない。今のじいちゃんではガイアと接続するには体力も魔力も足りない。父さんもそうだ。そこで『エリクサー』なんです。エリクサーは身体を最善の状態にする効果がありますが、副作用として若返ってしまいます。それともう一つ効果があると思われるのは気、魔力の増大です。器が最適になって初めて扱える魔力が宿ると思われます。又そういう記述もエリクサーの項目に書いてありました。俺も初めは何気なく見過ごしていましたが、今となっては確信できることが2つあります。一つはゼクウ本人もガイアと接続したことがあるということ。もう一つはガイアの気の巡りを修繕するためにはもっとたくさんの協力者がいることだということ。そしてその協力者を作るのが『エリクサー』なんです。」
そこで父さんが聞いてきた。
「で、なんで俺までエリクサーを飲まなきゃいけないんだ?爺さんだけでいいんじゃないか?」
「父さんはある意味一般人より少し気の使い方がうまく、気の量も多い程度なんです。父さんが成功すれば、一般の人でも成功する可能性が増えます。つまり、源蔵さんたちや母さんたちもね。いいの?自分より若造のじいちゃんに偉そうに指図されても?」
俺のその言葉にみんなが笑い、親父は頭を掻いた。
「確かにそれはカッコ悪いな。」
「それに俺たち家族なんだから、全員で若返ったほうがいいじゃない。」
「そうよ。あなたが若返ったら私たちも若返ることができるのよ。いいじゃない。飲みなさいよね。飲まないと寝てる時に点滴でも使って…。」
「わかった、飲む飲む。」
父さんは観念したようだ。
俺は腕時計から1本のエリクサーを取り出した。
「じゃあ、まずじいちゃんから願いするよ。効能はばっちり出てると思う。ただし、身体を作り替えるほどの薬だからね、体力も使うだろうし、しばらく目覚めないかもしれない。だから、ベッドに座ってから飲んでね。あ、その前に腹いっぱい食事して、トイレに行ってからね。」
俺はそう言ってじいちゃんにエリクサーを渡そうとすると、横からばあちゃんがそれをひったくった。
「友朗。私にも飲ませなさい。私はじいちゃんほどじゃないけど徒弟よりは気力もあるわ。それにこの人だけ若返るなんて、私は許しませんからね。」
といって、エリクサーを離さない。
俺はじいちゃんを見たが、じいちゃんもあきらめたのかうんとうなずいた。
俺はもう1本エリクサーを出していった。
「じゃあ、二人ともお願いしますね。食事とトイレが先ね。」
俺がそう言うとばあちゃんは嬉しそうにじいちゃんと手を組んでキッチンの方に向かった。
「話がすごいことになってきたな。それで、そのあとは俺らもエリクサーを飲むってことでいいんだな?」
「はい。適性が高いだろう人から徐々に飲んでもらいます。今ここにいる人でいえばポンタと俺を覗いた全員ですね。俺は実際にその時になってから飲む予定です。」
「その時ってのはいつ頃なんだ?」
「恐らくポンタが成人してからだと思います。ポンタが25歳くらいまでかな。その頃がポンタにとっても肉体のピークでしょうし。今からまだ20年も先になります。」
「それじゃ全員飲まなくてもいいんじゃないか?」
「2回飲むことでより気力を増大させることができるようなのです。これはおそらくゼクウさんが400年ほど生きたことで立証されています。」
是空が400歳まで生きたことを伝えるとみんながまた驚いた。
「恐らく飲み続ければ永遠に生きていくこともできたのでしょう。しかし生きるのに疲れたのか、ゼクウさんはエリクサーを飲むのをやめたようですね。死ぬ間際まで身体は健康な状態ですから、亡くなった時は本当にぽっくり亡くなられたと思いますよ。もっとも、あの『未来へ告げる』に書かれた後、世をはかなんで亡くなっていればという話ですが。」
「……つまり、いまだに生きている可能性がある、と?」
「はい。可能性としてはあると思います。ただ問題はどうやってエリクサーを供給し続けたかというところですが、マジックバッグ一つあればそれも可能ですからね。」
俺自身は生きているだろうと確信に近いものがありながらも話は濁しておいた。
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