44.無事出産

 そうこうしているうちに日々が過ぎ、菜月とイザベルさんの出産が迫ってきた。

 俺たちはほとんど同時に破水が始まった二人を急遽朝峰町の総合病院に連れて行き、出産を見守った。

 このころポンタは3歳を迎えていた。


「もうすぐ赤ちゃんが出てくるの?」

 ポンタが俺にそう聞いてきた。

「うんそうだよ。弟かな?妹かな?ポンタは赤ちゃんのお兄ちゃんになるんだね。ちゃんと面倒見れるかな?」

 と俺は頭をなぜながらポンタに言うと


「うん。僕が遊んであげるんだ。ポン吉もポン子も楽しみにしてるよ。」

「そうか。お前たちの妹か弟になるんだもんな。ちゃんと面倒見てやってくれよな。」

「うん。」

 そう返事してポンタはそわそわしている俺たちを見て笑っていた。

 俺とマローンはそんなポンタを見て大きくなったなと実感していた。

 最近では言葉もちゃんと喋れるようになった。もうすぐポンタも幼稚園に行くことになる。

 スフィアさんもわくわくしながら待っていた。

 遅れて源蔵さんや貴美子さん、じいちゃんとばあちゃん、先代夫妻も駆けつけてきた。


「まだなのか?」

 と俺にじいちゃんが聞いてきた。

「まだだね。それにしてもじいちゃんとばあちゃん、派手になったね。」

 俺は二人を見てそう言った。


 二人は見た目的に20代中盤にしか見えない。

 ばあちゃんはボディコンでじいちゃんは革ジャンスタイルだ。

 じいちゃんは金のメッシュを入れており、ばあちゃんは同じところに赤いメッシュを入れていた。


「これぐらいじゃないと若い世代には追い付かないんだよ。それより友朗。そのじいちゃんとかばあちゃんとか呼ぶのはよしとくれ。元春と小百合ってちゃんと名前を呼んでおくれ。生まれてきた子には「お姉ちゃん」って呼ばせるんだから。」


 …と、うちのばあちゃんは申しております。


 はぁ~。


 ポンタが俺に小声で

「え?じいちゃんとばあちゃんって呼んじゃいけないの?」

 と俺に聞いてきた。

「ポンタはいいんだよ。でも元春兄ちゃんと小百合姉ちゃんって呼ぶ方が喜ぶかもね。」

 と俺はポンタに耳打ちした。

 するとポンタは

「小百合お姉ちゃん、元春お兄ちゃん。」

 と呼ぶもんだから二人とも真っ赤になって照れていた。


 そうだろ?孫からお姉ちゃんやお兄ちゃんって呼ばれるとどれだけ恥ずかしいかわかっただろ?

 二人が照れるものだからポンタは調子に乗って二人をお兄ちゃん、お姉ちゃんと呼び続けた。


「ポンタはいいんだよ。もう、恥ずかしいったらありゃしない。」

 そう言いながらばあ…小百合さんは照れてポンタを抱き上げていた。


 父さんと母さんはそのやり取りを見て自分たちもそう呼ばせようとしていたのを思いとどまったようだ。父さんと母さんも若い。じいちゃんたちと同じぐらいの世代に見える。


 そんなバカなことを繰り広げているうちに、子供が生まれたようだ。

 二人はほぼ同時に出産したらしい。


 俺のところの子供は女の子で、マローンのところは男の子だった。


 俺たちは面会を許され、それぞれの妻のところに駆け寄った。

「菜月、よく頑張ってくれたな。ありがとう。」

 俺は真っ先に菜月に感謝した。

「うん。頑張ったよ。赤ちゃんの顔も見てあげて。」

 と菜月が抱いていた赤ちゃんを渡された。

 俺は少しかがんで、ポンタにも見えるように抱っこした。

「ポンタ。お前の妹だよ。名前は何にしようかな?」

「う~ん。ポン子?ポン子はもういるね。う~ん。」

 ポンタは悩みだした。

「ハハハ。ポンタっていうのは前にも言ったけど父さんがつけたあだ名だ。ポンタの名前はみらいだからね。」

「そっか。じゃあ何がいいのかな。」

「またあとでみんなで考えようね。」

 そう言って俺は赤ちゃんを父さんや母さん、じいちゃんとばあちゃんにそれぞれ抱かせた。


 父さんたちはみんな若返ったもんだからそれぞれ戸籍を捏造してもらった。

 長野隊長に頼むと

「うちもちょうどその問題が出てるところなんで、出身がうちの里でよければついでに作っておきますよ。」

 と、言ってくれた。


 そ…そうか。


 ヤタガラスのところは1,000人からの戸籍を作らないといけないからな。

 ついでに、マローン所の分もお願いしておいた。


 1週間ほどたち、それぞれが退院してきた。

 俺たちはワゴン車で迎えに行った。

 マローンはこの日のために自動車の免許も日本で取得し、俺と同じワゴン車を手に入れていた。


 我が家はまたにぎやかになり、ポン吉とポン子はこの日初対面で朝からそわそわしていた。

「かわいい子かな。」

「いじめないかな。」

 といろいろ悩みながらもわくわくしているのが隠し切れないでいた。


 ポン吉とポン子は恐る恐る赤ちゃんに近づいていきそっとほっぺたをなめていた。

 どうやら家族のあいさつをしたかったらしい。


 そういえば、ポン吉たちがしゃべるようになって一つの謎が解けた。

 それはどうやってポンタが日本に来たのかということだった。

 ポン吉とポンタの話を総合するとあの日、親とはぐれた二匹は母親を探していたそうだ。

 そして探しているうちに光の祠を見つけて、ここに親ダヌキがいるんじゃないかと探しているうちにメライト側に転がり込んだらしい。

 そこでもいろいろと探していると、どうやら変な格好をした男たちが、床に赤ん坊を置いて話をしていたらしい。


「どうするんだよ。こんな赤ん坊攫ってきて。」

「仕方ないだろ。こうでもしないとこの赤ん坊がメライト家を継ぐことになるんだぞ。」

「確かにそれはまずいな。それじゃこの子を殺すのか?」

「う~ん。それもかわいそうなんだよな。」

 と話すところを見ていたそうだ。


 そして、このままじゃ赤ちゃんが殺されると、隙を見て赤ちゃんがくるまっていた布をかんで鏡の間まで引きずって行って、日本の山まで避難していたそうだ。

 で、赤ちゃんを見守りながらも母親を探しているところに俺が出くわしたということだった。

 行き場をなくしていたポン吉たちは素直についてきたそうだ。

 それと俺から漏れていた気が心地よかったそうだ。


 よく人の、それもゼクウ語を話しているのがわかったなと聞くとどうやら今と同じように翻訳魔法がかけられていたようで、話す言葉がわからなくてもなんとなくそういうことだと理解できたそうだ。

 確かにあのゲートには出入りする人間に翻訳魔法をかける仕組みがついていた。

 しかし、それなりに魔力を持っていなければ、その魔法も効かないはずだ。

 よく考えればこの狸たちは単独であちらの世界に言ったほどに魔力保有量は多いということになる。

 やはり相当賢かったんだろうな。

 そのうち俺たちの家で生活することで徐々に言葉を覚え、俺が翻訳魔法をかけた時に頭の中で話しかけていた言葉が俺たちに伝わったようだ。


「なるほどね。」

 俺はようやくポンタが日本に現れた真相を聞くことができてすっきりした。

 この二匹がやはりポンタを救っていたのだ。


 この話を聞いたマローンはその犯人がだれか気づいたようで、さっそくポン吉とポン子に首実験をしてもらい、犯人を特定して、厳罰に処した。

 マローンの分家にあたるいとこの男が主犯だった。

 これでマローンのところも安全になっただろう。

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