38.反撃ののろしを上げよ

 急遽五族の皆さんは災害救助の名目で皇室の許可と、政府でもトップに近い方々だけが集まる会合で異世界への災害派遣について話し合われた。

 いろいろともめたそうだけど、最終的には古米の放出はもちろん、米国から買わされている小麦粉の放出もしてくれた。腐らすよりましだそうだ。


 俺はそれの対価としてゼクウ王国の金貨で支払えるように交渉した。

 実は日銀には金が本来持っておかなければいけない保有量を大幅に下回っていた。

 これはアメリカが金を集めたために起こった現象だ。

 だから、金貨は喜ばれた。


 極秘に運び入れられた大量の金貨は計量され、鋳溶かされて新しい日銀発行の金のプレートに作り変えられていった。


 最終的には800万枚(480億円相当)ほどの金貨が日本に流れた。

 そして清算した結果のおつりは日本円で変換してもらった。

 おつりだけで100億円ほどの現金が手に入った。


 そのお金で衣服も調達していった。

 縫製の甘い安い中国製品がアメリカや現地中国でも大量に余っていた。

 それを買いたたいていった。

 50万人がそれぞれ5着ずつ250万着ほどを1枚100円などの捨て値で買っていった。

 これらの買い付けには五族の皆さんが協力してくれた。


 お俺は自衛隊の協力を取り付けてくれた長野隊長と、王国民の避難誘導の陣頭指揮を執った。

 いくつもドローンを飛ばして、地図の作製も行った。

 広大な王国全土を測量するのには時間がかかるが、取り急ぎ国境付近を重点的に行った。

 また、各貴族の館にヘリコプターで乗り付けて、国王からの申し送りとして貴族領の接収、貴族位の剥奪などを宣告し、資産没収を行った。


 激しい抵抗があったが、自衛隊の皆さんに「死ななければ『有草』で直しますから」と手足を撃ってもらい鎮圧していった。

 かなりの横暴なふるまい、盗賊のような所業。


 俺って死んだら天国行けるのかね?

 時間は差し迫っているし、一人でも多くの人を救いたいと懸命に動いた。


 そして他国からの侵略は始まった。

 しかし、ゼクウ王国に進行しても人っ子一人遭遇しない。

 家ももぬけの殻になっている。

 俺は避難民に家財道具をすべて入れて持ってくるようにとウエストポーチを1家に一つ支給していた。

 自分達が食べるための食料などもすべて持ってこれたため、食糧難などが起こることはなかった。


 問題は家だ。

 俺はテントで済むところはテントで済ませたかったので、テントメーカーに協力を仰いでテントのターフとロープだけでも先に納入してもらった。

 在庫のテントは根こそぎ買っていった。

 テントメーカーと直に交渉して、大量に購入することで量販店などと同じ販売価格の半額ぐらいで手に入れることができた。

 日産3,000張りほどは縫製できるということだったので、フル増産してもらった。

 結果テントを20万張り購入することができた。これだけで10億が飛んだ。


 あとは飲み水のための井戸を掘るために日本から井戸掘りの機械を50台ほど導入して1日1本を目標に掘ってもらった。


 これらの機械の使い方や、テントの張り方などは小冊子にまとめたマニュアルを配って自分たちで行ってもらった。

 洋子さんがマンガマニュアルを書いてくれたのだ。

 これらも20万部印刷して現地に運んだ。


 源蔵さんたちには有草の生産を行ってもらった。

 ハーフ有草を作ってもらったのだ。半分ほどの効能が出るもの。

 なんでもは直せないけど、ある程度は改善するというもの。

 これで実際に問題はなかった。


 腰の曲がったおばあちゃんたちもシャキッと歩けるようになったらしい。

 …有草の発表は早まったのかもしれない。

 このハーフ有草は自衛隊の必需品として100本単位で各隊員たちがマジックポーチに入れて持っていた。


 マジックポーチも量産した。国民配布用に20万個と自衛隊配布用の1万個を予備も含めて生産していった。

 これは日本でウエストポーチを購入して、そこに魔方陣を張り付けることでマジックポーチとして機能できるように作ったのだ。

 朝峰一族が頑張って魔方陣の貼り付けを行ってくれた。このポーチだけで6千万円ほどが出ていった。


 俺は何人かに使い方を教えて魔方陣をパソコンから出力していくチームを率いた。

 これにはメライトの迎賓館を使って、メライトの人を雇って行った。

 メライト領主の号令の下、大量の魔道具職人を集めてもらって、作っていった。

 そしてちょうどいいやと防御の指輪や攻撃魔法が出る杖なども魔道具職人に任せていった。

 それぞれ1,000個を目標にして作成してもらったところ、やはり職人ならではの勘所でパソコンや3Dプリンターなどもうまく使いこなしてくれた。


 俺はマローンさんに託した移民受け入れに関しても少しツールを使ってみた。

 バーコードリーダーと写真入りの身分証明書の発行だ。

 一人ずつ名前を聞いて、年齢を聞いてそれをその場でパソコンに打ち込み、その場で写真を撮ってカードサイズに印刷して出力。

 それを隣でパウチ化して、バーコードリーダーで裏にあるバーコードを読み取り、入力ミスがないかなどを確認、本人に渡していった。

 このカードがないとテントの配給も食事の配給も受けれないと念を押したためにみんな大事に扱った。


 由美が気づいて、途中からパウチした後に隅に穴あけパンチで穴をあけて、50㎝ほどのひもを一本ずつ渡していった。

 そうするとみんな教えたとおりに自分でその穴に紐を通して結んで首からかけてくれるようになった。

 これで大分管理しやすくなった。


 こうして3か月が経過するころ、ようやく全国民をメライト領に収容することができた。

 途中で何度も交戦があったようだけど、自衛隊のライフルには勝てないよね。

 盗賊のような奴らだろうから、身ぐるみ剥いで結束バンドで拘束して放置してもらった。

 いちいち捕虜にしてると食事もいるし面倒ばかりがかかる。

 魔物さんに処理してもらうのが一番いい。

 トラックでもメライト領から何日もかかるところには補助でヘリコプターが物資を都度届けていた。


 こうして自衛隊の協力のもとゼクウ王国避難作戦はひと心地着いた。


 そうしている間にもメライト領に進行してこようとする他国の軍隊もいた。

 しかし、魔法攻撃のできる杖でその半数以上を打ち取り、撃退していった。


 俺は思いついて、皇室を通じて政府と交渉して、大量の放置自転車を引き取ることに成功した。

 まあ、せいぜい1万台ほどなんだけどね。

 それらを魔道具職人と共同でグリップに魔力を注ぐと走るように魔道具として改造していった。自転車の機能はそのままで、魔道具としての魔力を注ぐと回るという機能を付け足した形だ。

 兵士たちをこれに乗せて訓練した。


 これを使ってどんどん勢力圏を取り戻していこう。


 中にはその自転車を見て、荷台やハンドルに魔法杖を取り付けたり様々な改良が加えられていった。


 俺は重力軽減などの魔方陣を使ってホバーボードも作った。

 これは日本で廃棄されるような型遅れのスノーボードを引き取ってきて、それに浮く機能を付けたのだ。

 手から伸びたコードがボードにつながっていて、手には親指操作できるジョイスティックと人差し指で引き金を引く形でアクセル機能を持たせた。アクセルで浮上して前進や左右移動や後退はジョイスティックでコントロールするようにしたのだ。これも兵士たちに渡して訓練させてみた。


 これが騎士たちに大いに受けた。

 立体軌道ができるので戦術も広がったようだ。

 騎士たちには攻撃魔法も伝授しているので片手にジョイステックをもって自由自在に飛び回って、相手に魔法攻撃を仕掛けている。

 うん。これはすごいよね。

 志願兵には自転車、騎士にはホバーボードという住み分けができていた。


 さあ、いよいよ反撃ののろしを上げよう。

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