37.五族の協力

 俺はその場をマローンたちに任せて、日本に戻った。

 戻る前にタクマが、説得したいという貴族だけには話ができるようにマローンに伝えた。

 俺は数日で戻ると告げて日本に帰った。


 まだ日本ではお昼だった。

 俺は皇室から派遣されている宮内庁の職員を呼んで、長野隊長も呼んでもらった。

 呼んでくるまでに俺は急いで昼ご飯を掻きこんだ。


 一番初めにうちに訪れたメンバーだった山本、田中、水瀬、川口、谷田、それと長野隊長が俺の家のリビングに集まった。

 俺は母さんたちが出してくれた紅茶を飲みながら、一息ついて徐に話し出した。


「実は皇室の方にお会いしたい。その昔皇室のご先祖様がお世話になった国がピンチになっている。そのあたりの援助を取り付けたい。それと長野隊長にはトラック50台、ヘリコプター30台ほど自衛隊から貸してもらえないか交渉してほしい。もちろん皇室が賛同してゼクウ王国に援助すると決めてからでいい。今から話すことはあの王都での一件からどんなことが起こっていたかということと、王国が今どうなっているのか。そしてどういう風にしたいのかを全部お話しします。」

 と俺は今日あったことも含めて今後どうしたいかを話した。

 その上で、本来皇室が恩を返さなきゃいけないのはメライト領で、王国ではないことを話した。

 それらの協力を取り付けるために俺が会いたいと話した。


「う~ん皇室のスケジュールはきっちり決まっておりまして、なかなか急に訪問しても会ってはいただけません。一方で私どもは朝峰薬局から今後も万能薬が手に入るように万全を尽くして協力するように申し付かっております。そこで、改めてお聞きしたいのです。エリクサーは手に入るのでしょうか?」


 俺は皇室に協力を取り付けるための切り札を切った。

「はい。手に入ります。その製法は私だけが管理しています。」

 おぉぉと声が6人から上がった。それほどエリクサーを手に入れることは悲願だったようだ。


「もちろん協力していただいた暁にはエリクサーを提供いたします。そうですね年に10本まではご提供できると思います。ただし、この薬は本当に死にかけていても生き返らせてしまいます。いいですか?生き返らせてしまうんです。そしてその人がベストの状態まで身体を修復してしまいます。つまり、若返ってもしまう薬なんです。そんなものが世に出ていいはずはありません。だからこそ私はこれらを秘匿しようと考えています。」


 宮内庁関係者の6人は俺が言った言葉の意味をよく考えていた。


「つまり、例えば今上陛下がその薬を飲むと…。」

「恐らく20代にまで若返りますね。」


「それを果たして本人が望むのかということなんです。もちろん薬の出所は一切伏せていただきます。その状態で、周りにどんな言い訳をするのでしょうか。つまり、現実的には使うこともままならないのです。世捨て人になられるなら別なんですが。で、私はそこまで効力の強くない病気やけがなどは直すけど、若返らせるところまではしないという薬も開発しました。あえて名付けるなら朝峰家に伝わっていた名前『有草』を改めてこの薬につけたいと思います。」


 そう言って緑色に発光している瓶をウエストポーチから取り出した。


「幸いにもエリクサーの本来の効き目を知っている人は誰もいないでしょう。しかし、皇室にはその文献があるかもしれません。だから、エリクサーが危険な薬であることをあえてお話ししました。その上で、その文献に乗っているであろう『有草』という名前の薬をその効能と合わせて、皇室にお伝えしたいと考えました。しかし、どんなことがこれからあるかもわかりません。どうしてもエリクサーが必要になるかもしれないので、せめてあなた方皇室を守られている五族の方々には本当のことを知っていただいたうえで、『有草』を皇室に献上していただきたいのです。先ほども言いましたが年間10本までならエリクサーでも供給は可能です。」


「『有草』はどれぐらい供給ができるのでしょうか。」

「もちろん限度はありますが、いくらでも供給は可能です。ただ使用用途は皇室関係者限定としてください。もちろん五族の方々はこれに含まれます。」


 俺はそう言って追加でウエストポーチと有草を9本出した。


「とりあえずここに10本御座います。先ほどのゼクウ王国の援助と引き換えにお渡しする用意はございますので、なにとぞご協力ください。」

 俺はそう言ってマジックバックになっているウエストポーチに10本の有草を入れて代表の山本さんに渡した。


「このバッグも私が開発したマジックポーチです。内部は違う次元空間につながってまして、時間経過がございません。いつまでも有草は劣化せずにお使いいただけるものと思います。」

 俺はそう言ってポーチごと山本さんに託した。

 山本さんは震える手でそれを受け取り俺に聞いた。


「いいのですか?約束が取り付けられていないうちから渡してしまって。」

「ハハハ。ずるいやり方で申し訳ないですけど、今渡した方が確実に援助がもらえると思っているのです。だって、それを受け取った皇室がもし援助を出さなかったら、これから先、私からの協力は受けられませんし、二度と有草は手に入りません。つまり、受け取った時点で援助するしかないんですよ。もし受け取りを拒否されたら、私は私財をなげうって王国を援助しますが、皇室に手を貸すことは未来永劫ないでしょう。信用とはそういうものだと思うのです。」


 俺はそう言って追加で2冊の本をウエストバッグから出した。


「これは我が家の家宝として代々受け継がれてきた魔法の箱から出てきた書籍を、日本語に翻訳したものです。一つは是空日記。これはゼクウ王国の建国の歴史が書いてあります。もう一つは今の状況を予言したようなことが書かれた未来へ告げると題された本です。両方ともゼクウ本人が執筆したと思われます。この中でこれらの遺産を継承するために私の息子であるポンタ、星野未来のことが書かれています。そしてその未来を教育するための役割を私は担っていると考えています。どうか皇室の方々にこの本を読んでいただきたいと思います。」


 俺はその2冊も山本さんに渡した。


「もしご興味がおありでしたら、五族の皆様にも読んでいただければと思います。デジタルデータもありますから、またあとでお渡ししますね。」

 といってもう五冊ずつをウエストポーチから出して5人それぞれに手渡した。

 デジタルデータが入ったUSBメモリーは長野隊長に代表して受け取ってもらった。


「それで、具体的な援助は何をどれだけというのはあるのでしょうか?」

「はい。まず空のコンテナ10万個、食料として小麦粉、野菜などを50万人分。を3か月ですかね。それと避難誘導のための呼びかけるためのヘリコプターや放送設備が30セット、人員輸送のトラックが取りあえず50台、そしてそれらを操縦する人たちもいりますし、燃料も必要になります。どこまでが援助いただけるかによっては私の方でも私財を使って物を集める必要がありますのでお返事は早めにお願いいたします。」

 俺がそう言うと、ポカーンと口を開けたまま呆けていた山本さんが慌てて言い出した。

「食料が50万人分、3か月。ということは50万人×30日×3か月×3食で…1億3千5百万食、1食あたり1㎏と計算すると単純に1億3千500万キロ。135,000tの食料になります。そこまで集めるのは無理でしょう。」


「例えば日本の農林水産省が持っている古米を提供してもらうだけでもいいんです。

 もちろん買い取れと言われれば買い取ります。

 少し古いデータですが、ネットを調べると平成29年で91万トンの備蓄があるようです。

 この一部を供出してもらいたいんです。

 末端価格で㎏あたり1,000が普通に流通している米だとすると古米としてその半額、さらに卸価格としてその半額、つまり250円/㎏が妥当なところだと思うんです。

 なので337億5千万円ほどになりますか。

 この全部とは言いませんが、一部だけでも援助いただきたいんです。


 一度に全部買い入れるのはこちらもできませんから、徐々にそうですね30億円分を10回ぐらいで分けてもらえるとありがたいです。

 輸送はこのマジックバッグの大容量版を製作してお渡ししますので、それに入れていただければ持ち運びも便利にできると思います。

 もっとも関係者や管理者の口止めは必要でしょうけど。


 野菜なども必要です。

 売れ残りの野菜などを格安で売ってもらえれば東京都内だけでも相当な量の野菜が確保できると思います。

 どこでもいいんです。

 交渉は私も行うつもりです。あとはトラックとヘリコプターですね。

 これらの輸送もマジックバッグを活用します。

 人員は光の祠と呼んでいるゲートからお願いします。


 それとコンテナは住居用に考えているのですが、5人ほどが寝れるテントがあればそれを20万張りでもいいです。

 これらは災害救助名目で行ってくれるとありがたいですがどうでしょうか。」


 それを聞いて、不可能ではないと田中さんは判断したようだ。


「わかりました。最善を尽くし、皇室及び関係各所に協力を仰ぎます。しかしここまで大掛かりな援助ですと、政府にも異世界の存在がばれる可能性は大きいです。」


「私としてはできるだけ異世界の存在は隠した方がいいと思います。というのも異世界の利権を狙って動き出すような政治家などが大勢出てきそうだからです。そういう人たちを異世界で行方不明にしちゃってよければ異世界の存在を明らかにしてもいいですが。世界中からそう言うのは殺到すると思いますよ。ですからなるべく皇室でカバーできる範囲でいいので隠していただきたいと思っています。無理だったら、そういう不埒な奴らは魔物に食われて死ぬんでしょうね。」

 とにっこり笑っておいた。

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