39.ヤタガラス

 メライト領以外はすべて他国の軍隊が占拠していた。

 しかし、本来なら奪えるはずの食料や金品、売り飛ばせるはずの奴隷になる住民も誰もいないため、ほとんど街にも被害がなく、そのまま占拠して使っているようだ。

 それにしても食料がないことが痛いようだ。

 占拠した町同士で争ったりしていたが、もともとの町には何も残っていなかったということを知り、そのまま残っていても飢え死にしかなくなって、次々に母国に帰って行った。

 その兆候をヘリやドローンの調査部隊が察知して、次々にホバーボードに乗った騎士たちが襲い掛かっていった。

 次々と魔法の餌食となり、敵兵は死んでいった。


 ものの1か月もかからないうちに元のゼクウ王国圏内は取り戻した。

 さあ、次には難民たちを自分たちの町に返してあげなきゃね。

 再び自衛隊の皆さんにお願いして、取り返した街にトラックで分散して人々を元の町に帰していった。

 その際、それまで使っていたテントはそのまま差し上げた。

 だって汚れたテントが20万張りも戻ってきてもねぇ。

 みんな喜んでくれているようだ。


 それに日本から運んできた食料も一人5㎏という制限はつけたが、持って帰ってもらった。コメなどもみんな難民キャンプで食べ方を教わったので、結構気に入っているようだ。

 それにこの機会にと全員で魔法の練習と気の巡らせ方の鍛錬を毎朝行っていた。

 だから、ほぼすべての人が魔法を使えるようになっていた。

 クリーンの生活魔法が使えるだけでも身ぎれいになるので重宝しているようだ。

 ウォーターやファイヤなども生活に欠かせない魔法になっている。


 井戸掘り機は回収しておいた。

 これは今後メライト領でも活躍するからね。

 もっとも領都付近は結構な数の井戸があるけどね。


 さて、ここからはマローンとタクマの外交手腕にかかっている。

 ゼクウ王国に攻め入った各国に対してタクマは損害賠償を請求していった。

 それに対して拒否した国には逆侵攻して、ポンタ共和国に編入していった。


 損害賠償は膨大な金額に上っている。

 一国の全国民をいったん非難させて、その国民を食べさせて、又土地を取り戻して、国民を輸送した。

 その経費が全部計上されている。

 言い分としてはお前たちの国が攻めてこなけりゃこんな費用は掛からなかっただからこの費用はお前らが負担しろという言い分だ。


 どこの国もこの条件を飲まなかった。


 そこでマローン率いるホバーボード部隊とチャリンコ部隊が電光石火でその国の首都を占拠して、降伏させた。

 それらの国には倍額の損害賠償を行い、国庫はすべて没収の上、王族と貴族は処刑。

 その国に残されていた文献などはマジックポーチを使って全回収。

 その国民の中から代表者を選定させて、その人たちの合議で議会を回して領の方向性を決めさせた。王都も一つの領として、各国の貴族領はそのままに代表者を選出して、方針を決めて納めさせた。ポンタ共和国への税は粗利の20%とした。

 これには各国の住民が驚いたようだ。

 20%を国に。10%をその税を集めた地域に還元するように法を定めた。

 各国で若干の混乱はあったものの概ね国民は受け入れてくれたようだ。


 マジックポーチを各領に10個程度ずつ配布した。

 一つで100m×100m×10mの容量を持つポーチだ。

 このポーチで税を納めるように指示を出した。

 そうしないと野菜などは腐っちゃうからね。

 小麦以外にも野菜などでも税が支払えるようにしている。

 小麦畑などでも取れたものの3割を税として納めて後の7割は作ったものが自由にできる。

 これが戦後特需を呼んだ。

 今までは逆に税で7割取られていた地域も多かった。

 それが倍以上手元に残ることになる。

 みんなの財布も緩む緩む。

 それに、魔道具を使っての魔物の狩りもあって、どんどん魔物は駆逐されていった。

 駆逐したところはどんどん畑などの農地に変えられていった。

 農民も土魔法などが使えるために、よりよい畑に変化させていった。


 ポンタ共和国は周辺7国を併呑した巨大国家となった。

 そしてそれぞれの地域(元国家)の代表を住民自ら決めて、その代表者たちが集まって国の方針を決める評議会を行う。


 第1回評議会議長はタクマが就任した。

 事ここに至ってようやくタクマは、俺がとった作戦で国を大きくし、貴族を撤廃し、国民を守ったことに気づいた。

 評議会議長の任期は5年を2期までと定めた。


 ポンタ共和国の主都はメライトになった。

 ご意見番として日本の星野家、朝峰家も評議会に名を連ねている。

 そして首都の領主は当然マローンだ。


 俺はマローンに建設機械を渡し、それを住民に操作する練習をさせて、どんどん職人を作っていった。日本で売っている中古重機はどんどん買い入れて、ポンタ共和国に運んだ。首都メライトはどんどんと拡張されていった。


 俺は戦争が起こって3か月たったころからは日本で様々な調整を行っていた。

 ようやくゼクウ王国改めポンタ共和国と日本国が国交を結ぶための下準備ができたのだ。


 日本政府の政治家たちとも懇談会を開いていた。

 しかし、魔法という新技術を公表することは世界を敵に回すということにもつながりかねないため、公表は見送られた。

 また、日本国としての調整作業は宮内庁管轄の『ヤタガラス』という組織に託された。

 このヤタガラスこそ、皇室の影の五族のことだった。


 実は古来より日本は様々な国から接触があったが交渉に関してはこのヤタガラスが一手に引き受けていたそうだ。

 表には出ない影の歴史があるようだ。

 俺は非公式ではあるが、ヤタガラスの全権大使としてポンタ共和国とかかわることになっている。

 ヤタガラス内部でもいろいろあるようで、日本のためになる技術を公開しろと迫ってきたやつもいた。そういうやつは問答無用で殴り飛ばした。

 そういうやつらがいる組織には入れないと拒否したところ、直ちに皇室からの指示でそのような一派の粛清が始まった。

 どうしても長い歴史の中には利己的な利益しか考えないやつが出てくるからね。

 俺とのことはうまく利用されたようだ。


 俺は長野隊長をはじめとするヤタガラスの自衛隊メンバーと共に戦場を駆け巡っていたが、日本に戻るたびにヤタガラス専用の暗記や武器、乗り物などの開発も精力的に行った。


 そして半年ほど経過したころ、1週間ほど長野隊長と3名ほどを連れて米国に休暇に出かけた。


 表向きは。


 実際の目的は武器弾薬などを入手するために米国の裏組織の人間と取引をしていた。

 途中で襲ってきそうになったので、これを撃退し、壊滅させてその組織が持っていた情報、武器、資金を根こそぎいただいてきた。

 資金についてはヤタガラスと折半した。


 ヤタガラスも独自費用で動いていたためにたいそう喜ばれた。

 情報と武器弾薬は俺が所有している。


 俺はいつも使っている腕時計を魔道具化してマジックボックス化している。

 これは俺の魔力が届く範囲なら手を触れなくてもマジックボックスに収容できるものにしてある。大体その距離は20mほどだ。

 この腕時計に武器弾薬はしまってある。


 スマホには裏のケースの蓋に魔方陣を張り付けてあり、魔力増幅と魔力注入の機能を持たせている。

 あとは普段来ている服やスーツ、靴などにも魔方陣が仕込まれている。

 それぞれに汚濁防止や防御シールド、衝撃吸収が盛り込んである。


 それから、いろんな国に行っては裏組織の連中と揉めては壊滅させるということを繰り返していた。


 おかげで世界中に転移拠点を作って回れた。

 これは長野隊長たちにも気づかれていない。


 後に月に一度1週間ほどの海外旅行を繰り返しほぼ地球全域に転移できるように転移拠点を作って回ったのはそれからまた一年後だった。

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