30.マンガ家洋子

 俺は由美から依頼のあったメライトの庶民の生活を伝えるために、街を歩いていろんな人や街並みを撮って歩いた。

 そしてそれを由美に送って、マンガ家さんに送ってもらった。

 マンガ家さんは二つ返事で請け負ってくれたらしく、明日か明後日にもコマ割りと絵コンテを上げてくれるらしい。

 それをちゃんとゼクウ語でせりふが嵌るか確認してから絵をかいてもらうという段取りになっている。

 明日には由美も帰ってくるだろう。


 こうやってメライト発になるマンガ本の製作はスタートした。

 マローンに確認を取ったら、兵士用は100部、生活魔法用は1,000部の注文をもらった。


 そうやって、由美がマンガ家さんと何度かやり取りしてくれて、いよいよ完成品が見れるというときに、由美が申し訳なさそうに俺に切り出してきた。

「お兄ちゃん、あのね。どうやら洋子に異世界のことがばれちゃったみたいなの。」

「ん?洋子ってマンガ家さん?どういうこと?」

「マンガを完成させたときに、まさかねと思いながらも試してみたんだって。」

「ん?何を?え?ひょっとして魔法?」

「そう。そしたら洋子に素質があったみたいで魔法ができちゃったらしいんだ。それとどう見ても実際の風景を移した資料の写真。エルフなんかも写ってたからね。で、どうしても異世界に連れて行ってくれって聞かないの。」

「う~ん。仕方ないね。いいよ、メライトを案内するよ。」

「え?いいの?ありがとう。」

「ただし、条件はあるよ。メライトのことを話さないように契約魔法で縛るし、向こうの人に日本のことを話すのもだめだよ。情報はある程度絞っておかないとね。それと他領からのスパイが暗躍しているらしいから、誘拐されちゃったりしかねないからね。一度うちに連れてきて、その辺をじっくり話してからだね。」

「ありがとうお兄ちゃん。実は今日こっちに向かってるってさっき電話があったんだよ。今から駅に迎えに行ってくるね。」

 そう言って由美は迎えに出かけた。


 そうか。日本人でも魔法が使えたか。

 元々ゼクウさんは日本人だからね。

 となると、その洋子さんに下書きも含めて処分してもらうようにお願いしないといけないな。

 俺はキッチンに言って一人今日の夕食を追加してもらった。


 そうこうしているうちにマンガ家の洋子さんはうちについた。


「初めまして、狩谷洋子といいます。この度は私のマンガを採用していただいてありがとうございます。」

「こちらこそ初めまして、由美の兄の友朗です。ようこそわが家へ。」

 そう言って洋子さんを招き入れた。

「魔法が使えたそうですね。おめでとう。」

「はい。ありがとうございます。」

「それで、作品はどんな感じに仕上がったのか見せてもらえるかな?」

「はい、こちらです。」

 と洋子さんはUSBメモリーを俺に渡してきた。


「えっと、デジタル?」

「はい。私はアナログでもデジタルでも両方マンガは描けるんですが、今回のお仕事ではデジタルで挑戦させてもらいました。」

「そうか。これは大事なことだから先に聞いておくね。下書きも含めてデジタルなのかな?もしペーパーベースで書かれたものがあったら、それらは処分してほしいんだけど。」

「はい、今日は下書きも含めてすべて持ってきています。初めにいただいた絵コンテなんかもすべて。今回のお仕事はほかに漏れると大騒ぎになると直感的に感じて。だからメモも含めて今回持ってきたものですべてです。」

「じゃあ、作品を見せてもらうよ。その上でOKだったら、下書きも含めて処分してね。」

「はい。わかりました。」

 と洋子さんは了承してくれた。

 この感覚は…。ひょっとして気の鍛錬をして思考能力なんかも向上しているのかもしれないな。

 俺は作品を見せてもらった。

 かなり面白く書けていて文句なしの合格だ。


「うん。いいね。合格だよ。」

「ありがとうございます。」

 と洋子さんは嬉しそうにそう答えた。

「もし洋子さんがいいならほかにもいろいろと作ってほしい作品があるんだけどどうかな?もちろん謝礼は弾むよ。」

「わあ。それは私からすれば願ったりかなったりです。」


 俺はそれぞれの大全の初級編、中級編、上級編の挿絵なども書いてもらおうと考えていた。

 特に薬術や魔道具、錬金術には細かい絵や状況を説明する絵が欲しいと思っていたのだ。

 俺は一通り、今までにあったことを話した。

 洋子さんは目を輝かせながら、ポンタのことや国王とのいざこざなどを聞いていた。

 一通り話し終えると洋子さんは話し出した。

「私マンガ家志望というのもあるんですけど、異世界にすごくあこがれてて、ぜひ行ってみたいんです。」

「ああ、一通りの訓練ができたら案内してあげるよ。」

「ありがとうございます。それと、先ほどお聞きした話もマンガにしてもいいですか?」

「えっと。ポンタのことやゼクウ王国のこと?」

「はい。お兄さんを主人公にした冒険ですね。」

「ハハ。いいね。ポンタが大きくなった時に説明しなくてもマンガを見せたら理解できるようなものがいいね。」

「はい。頑張ります。」

 それから洋子さんは俺たちの家の住人になった。

 ただ、マンガなんかを書くにも仕事場があったほうがいいと思って、朝峰工務店さんを呼んで打ち合わせをさせて、洋子さんの家を建ててあげることにした。

 もちろんログハウスで。

 洋子さんはその提案に感激していた。

 そのあと、詳細を詰めて年俸1,000万円で初年度の契約をした。


「でも、残念ながら今のところ日本で洋子さんの本を発売することができないね。メライトでは大々的に売り出すんだけどね。」

「いえ。それで充分です。」

「親御さんとかは心配してない?まだ大学も残ってるんでしょ?」

「すでに大学は退学してきました。親にはいただいた500万円をすべて送って、マンガで食べていくから心配しないでと伝えてあります。」

「そうか。それでも日本でいつまでたっても発売されないと変に思わないかな?」

「マンガ家の中でも企業の専属や、今回お話をいただいたようなマニュアル作り、広報マンガ何かを専属に書く人もいますので、そういう風に説明するつもりです。」

「なるほどね。確かにそういう人たちはいるね。じゃあ、これからはポンタ商会の専属だ。よろしくね。」

「はい。よろしくお願いします。」

 ととても喜んでいた。


 夜には家族みんなに紹介して、みんなに取材することもあるかもしれないから答えてあげてと頼んでおいた。

 自分たちが洋子さんのマンガに出てくるというと、みんな喜んでいた。

 特にマローンたちはマンガそのものの文化がないので、すごく楽しみにしだした。

 一方、源蔵さんからもイラストなどのリクエストが来た。

 薬屋の看板や広報用のイラストらしい。

 ポンタとポン吉とポン子をモデルに使ったお店のマークが欲しいらしい。

 うんうん。確かにそういうのがあったら親しみやすいよね。

 そのマーク、ポンタ商会にもほしいなぁ。

 ポンタ商会では朝峰薬局で作ったマークをべた塗りでシルエットにしたものをロゴマークにすることにした。

 これで同じ系列だということも匂わせることができるからね。

 そんな話をしているとイザベルさんもメライト領でも使いたいと言い出した。

 これはライセンス料も弾まないとだな。

『ゴブリンでも』シリーズにも朝峰薬局で採用する予定のカラーイラストの方を入れることにした。

 俺はすでに下書き段階で作っておいた写植をマンガに入れたあるものをマローンたちに見せた。

 まだ、デジタルデータだけどね。

 最近ではすっかりメライト家のみんなもタブレットを使いこなせているから、話が早くていい。

 日本のみんなにも日本語表記したものをデータで渡した。

 特に親父やじいちゃんたちにも魔力の扱いの項目は監修してもらったからチェックしてもらった。

 みんなに大好評だった。

 特に身体の中をめぐっていく魔力の表現が絶賛で、これは洋子さん自身が魔力が身体をめぐる感じを表現するために、そのあたりは書き直したらしい。


 こうして日本組にもメライト組にもOKをもらったものを印刷することになった。

 もちろん印刷するのはゼクウ語表記のものだけだ。

 下手に日本語表記したものが印刷所なんかで作られると目も当てられない。

 メライト語ならばそこに何が書いてあるかわからないだろう。


 俺は翌日、メライト表記の『ゴブリンでもわかる生活魔法』1,100冊と『ゴブリンでもなれる兵士になるための鍛え方』120冊、それにゼクウ語かるたを1,050セット印刷するために東京の印刷所を回ってお願いした。

 今はデジタル入稿もできるらしいのだが、実際にどんな人が作ってくれるかを確かめたかったのと、その印刷のため試刷りでもどこにも出回らないように念押しと魔法契約を結ぶためにわざわざ足を運んだのだ。

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