27.マローンからのお願い

 皇室の方は一度俺の方から真実を話しに行くべきなんだろうな。

 是空日記と未来に告げるを携えて。


「あ、それから俺からも一つトモロウに頼みがあるんだが…。」

「なんだ?何か日本の製品で新しいものを見つけたか?」

「いや、そうじゃないんだが…完全に外れているわけでもない。実はゼクウ王国での魔法はかなり廃れているんだ。君も知っての通り、我々でも『あの鏡』を通り抜けることができなかったからね。国民全員が魔法を使えるようにしてやりたいんだ。」


「?どういうこと?」

「つまり、4大大全を網羅して理解しているトモロウに、国民向けの魔法の教科書を作ってほしいんだ。使える魔法は生活魔法限定でもいいんだ。」

「なるほどね。確かにうちのじいちゃんの気の鍛錬法がわからないと魔法自体も使えないからな。それらも魔法大全には書いてあったけどね。」

「そこだ。効率がいい魔力の錬成方法。そして魔法の発動方法をだれでもがわかりやすい、見てわかる類のものが日本にはあるだろ?」

 俺はそこまで言われて気づいた。


「魔法を使うための教本マンガを作れってこと?」

「ああ、その通りだ。今我が領では識字率の低さが問題になっているんだ。そこでトモロウたちが作っていたあの辞書だ。俺は作っている最中に見せてもらったけど、写真やイラストを多用してどちらの国民が見ても理解できる素晴らしいものだったと思う。あれのゼクウ王国版だ。まず文字が読めて、文字が読めればマンガも読めて、魔法が使えるようになる。これならみんなこぞって魔法の練習をすると思うんだ。」

「なるほどね。面白そうだし、いいんじゃない。じゃあ、製本まで日本でした方がいいな。それとかるたや絵文字板なんかも文字を覚えるのには有効だよな。かるたは日本で、絵文字板はメライトで作ればいいかもしれないな。」

「おお、これでまた雇用が生まれる。」

 と、マローンは喜んだ。


「もしかして、マローン。その先も考えがあるのか?」

「やっぱりトモロウにはわかるか。うん。魔法で攻撃できる兵士の育成がしたい。」

「そこまで情勢が悪いのか?」

「う~ん。これはトモロウに言いたくなかったんだが、あの王都での一件がかなりの波紋を呼んでいる。」


「王族の粛清か。」

「王族の粛清そのものにはどの貴族も理解を示している。問題はあの時に使った銃やミサイルだ。」

「なるほどな。確かにあんな武器があれば欲しがるよな。」

「欲しがる程度ならまだいいんだが、あの武器を俺たちメライト領が独占して、自分たちも襲われるんじゃないかと変な噂が立っているんだ。」

「う~ん。わからんでもないけどね。でもそれはあくまで異邦人の武器だと知ってるんじゃないのか?」

「うん知っている。でも疑いは拭いきれんのだよ。そしてその中にはメライト領を襲ってでもその武器や異邦人の秘密を手に入れたがっている奴らもいる。」

「……そういえば前王が俺たちを捕縛しようとしたのも、100円均一ショップで手に入れた商品を独占したいが為だったよな。つまり、大手の商人がバックについた貴族か。」

「その通りだ。ここのところ他領の間者が後を絶たない。」

 俺はようやく合点がいった。


「それなら俺たちにもその責任はあるからな。ぜひ協力させてもらうよ。さっきの国民用とは別にメライト領兵士のための教科書も作る必要があるな。それと武器になる魔道具の製作も必要だな。あとは兵士を徴用するときの基本マニュアルのようなものか。」

「そのマニュアルというのはどういうものなんだ?」

「基本的に兵士に求める能力が書かれていて、その能力を得るための方法も書かれているものだ。つまり、その兵士育成マニュアルを読んで実践するとメライト領が必要な質の兵士が集まりやすくなる。」

「それはぜひ欲しい。」

「だよな。問題はマンガ家だな。由美と菜月に相談してみるよ。できるだけ早い方がいいんだろう?」

「ああ、早ければそれだけ助かる。」

「わかった。善処するよ。その代わり王様の方はうまくやってくれ。」

 そう言って、マローンは自分の屋敷に帰っていった。


 メライト家はすでに活動拠点をこちらの屋敷に移している。

 奥さんのイザベルがどうしてもポンタから離れたがらないからだ。

 スフィアも由美と毎日何かを作ったり、魔法の研究をしているようだ。

 トイレ一つとっても風呂にしても、もうあちらの生活に戻れそうにないようだ。

 先代さんたちも散歩がてら毎朝こちらに来て、夕食をみんなで食べてからあちらに戻っている。

 その間に俺たちの作業を手伝ったり、工房で何か作ってみたりと毎日楽しそうだ。


 さて、由美と菜月を探さないと。

 俺は家のキッチンを覗いてみた。

 やはりそこに菜月たちは集まって昼ご飯を作っていた。

 俺はタツキと由美を呼んで、マローンからの提案を話した。

 由美は面白そうにしていた。

「お兄ちゃん。それなら私の知り合いにマンガ家の卵で結構絵のうまい子がいるから、その子を使ってあげて欲しい。もちろん原稿料は出るんでしょ?」

「もちろん出すつもりだよ。それも口止め料も込みで奮発するよ。ああ、魔法の契約で縛らせてもらうけどね。それも魔法の契約といわなければただの覚書だからね。契約内容としては今回の件で知りえたことの他言無用ってとこだな。」

「それなら基本的な契約と同じだから大丈夫だよ。で、どんなものを作るか考えてるの?」

 それから、俺と菜月と由美で、大体の絵コンテを書いて、それをマンガ家に打診して、やってくれるかどうかを聞いてみることにした。


 製作物はいくつもあるな。

 1.ゴブリンでもわかる生活魔法の使い方(ゼクウ語)

 2.ゴブリンでもなれる兵士になるための鍛え方(ゼクウ語)

 3.ゼクウ語文字を使ったかるた

 4.ゼクウ語文字を使った絵文字板

 5.火魔法の出る魔道具

 6.雷魔法の出る魔道具

 7.拘束のための魔道具

 8.防御のための魔道具


 こんなところだろうか。


 4についてはイラストを描けばいいか。

 製作はメライトでやるからな。

 サンプルぐらいはこっちで作ってやった方がいいかもな。


 1と2と3がマンガ家に依頼するものになるな。

 5~8は俺が作らないとだめだな。


 今のメライトの魔道具協会には初級と中級が少し残ってるぐらいだもんな。

 いっそメライトの魔道具協会を抱き込んで上級まで作れるように教育するのも手かもしれんな。魔法の契約書があるし、それで縛れば技術の流出もないだろう。

 う~ん。悩ましいな。


 魔法と魔道具に関しては生活全般と攻撃防御のものの二つにもう一度編纂しなおしたものを作るか。生活全般については魔道具協会に公開して、攻撃防御の魔道具や魔法に関してはマローン預かりとしてマローンに考えてもらうか。

 そうしよう。


 俺はそうして攻撃用魔道具製作のために動き出した。

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