26.王国からの書簡

 六芒星の箱は半分は星野家の家宝でもう半分はゼクウ王国の宝物庫から友朗がもらってきたものなので、トモロウが管理することとなった。

 トモロウが計6冊の本の翻訳も行うことになった。


 それから半年後、ようやく俺は6冊の解読、翻訳に成功し、それらをゼクウ語、日本語にそれぞれまとめたものを電子書籍の形にした。

 結果的に王国の宝物庫から借り受けてきた魔道具はすべてその使い方と製作方法までが解析できた。


 これは六芒星の箱から出てきた『魔道具大全』にすべて書かれていたからだ。

 あれら『大全』と書かれた本は全部で4冊あったが、どれも見た目ほどの分量ではなかった。


 表紙を開けるとめくるたびにページが増えていき、それそれ3,000ページほどに及ぶ分量があった。もっともその中の半分ほどは図による解説やスケッチなどで、素材の特徴や当時のゼクウ王国近辺のどのあたりに生息していた薬草かなどが記されていた。


 魔道具大全を読み解くと、不思議なことにその魔力回路にあたる部分に日本語の行書体が使われていた。一筆書きで書かれたその魔力回路は魔石の粉と膠などで練り込んだインクを使って書かれており、膠の代用として日本で手に入る樹脂などでも効力を発揮したため、魔力回路そのものの工業生産が可能だということが分かった。

 日本で1,000年前というと平安時代になる。

 その頃の書き言葉が使われていることがわかっている。


 また、『是空日記』から、建国したのは日本の平安時代の是空という僧侶で、当時魔物に襲われた人たちを助けて、城壁を築いたのもこの是空だった。そして驚いたことにその是空の執事を務めた人物が後に建国したゼクウ王国の初代国王だったとわかった。


 ゼクウ本人はその後日本に帰り、子孫に六芒星の半分を託していたようだ。


 星是空。この人が星野家の始祖でもあることが判明した。


 王家の名前にあるホシ・ゼクウは星是空から来ているということだった。

 これには俺も驚いた。


 なぜならこれまでこの土地と星野家に関係は一切なかったからだ。

 では、朝峰家はどういう由来でゼクウ国とかかわることになったのだろうか。

 そのあたりは『未来へ告げる』に書かれていた。ただ、読み解いた上での推測に過ぎないが。


 朝峰家がゼクウ王国にわたったのは、星一族から異界渡りの魔道具を託され、魔力操作の修業を受けた朝峰家の初代が、帝の病のために異界渡りをし、無事エリクサーを持ち帰ったようだ。

 このあたりの詳しいことは朝峰神社の宮司が保管していた書物に記載されていた。

 そして、すでに朝峰家が異界渡りを行った頃には、失伝している魔道具や薬術などが多く、そのエリクサーの量産はかなわなかったようだ。そこで、薬草の苗や種を持ち帰り、朝峰家一族で育成、栽培し薬(当時は丸薬だったようだ)として販売して、時の殿様の一族などが病の際にその薬で治したということもあり、重用されていたようだ。

 時代的には江戸時代の中期ごろだと推測される。


『未来へ告げる』というのはやはり俺たちが推測したように、ポンタに残した相続品のことのようだ。

 その内容は預言書のようでもあり、いつかゼクウ王国と日本とが交わることがあるだろう。その時に両方から資質を受け継いだ未来の相続人に六芒星の箱は託されていた。

 現時点ではこの相続人は俺なのだろうが、俺にはどうしてもポンタへの贈り物に思えて仕方がない。


 魔術、薬術、魔道具、錬金術のそれぞれの大全には世界を変えるようなものまであった。

 俺はこれらの書を初級、中級、上級、秘匿の4段階に区分して、それぞれが本の形になるようにし、その前段階が理解できないと次の段階の書を呼んでもわからないように工夫した。

 秘匿級は文字通り秘匿されるべきもので、これは絶対に世に出してはいけないと俺は考えている。

 しかし、将来子孫でどうしても必要な時には使えるように残しておく必要性も感じていた。

 恐らくゼクウさんもだからこそ、ゼクウ王国と日本にそれぞれ受け継がせたんだろう。

 本来なら絶対にそろうことのない二つの箱だからな。


 俺は薬術大全の上級までを朝峰家に公開することにしている。

 実はエリクサーは秘匿編に収められている。

 この薬は死にかけている人がいても若返らせてしまう、つまり死にたくても死ねない恐ろしい薬でもあるのだ。


 秘匿級にして封印した薬の中には安楽死できる薬や、身体を超人に作り変えてしまう薬、人間を魔物に変えてしまう薬など多岐に渡る。

 ゼクウさんが研究した成果がすべて残っている。


 俺たちがそうやって解読をして、日本で製造できる薬や魔道具をいろいろと製作し始めたころに、マローンが真剣な顔をしてやってきた。


「どうした、マローン。えらく真剣な顔をしているな。」

 と俺は声をかけた。

「ああ、トモロウ。実はタクマ・ホシ・ゼクウ王から友朗に取り次いでほしいと一通の書簡を託されたんだ。これがその書簡だ。」

 懐から出した封筒を俺によこした。

 俺はそれを開いて、その書簡を読んだ。

 俺はもう既にゼクウ語は完ぺきに読み書きできる。

 ノートパソコンに入れたゼクウフォントも使いこなしてブラインドタッチができるほどだ。


 書簡の中身は近況とお願いだった。

 まずは先日の王都での失態の詫び。その上でもう一度国交を樹立できないかという打診だった。

 すでにタクマ王に逆らう勢力は一掃され、近隣諸国へのお詫びも済ませて、それぞれと国交回復を行ったとのこと。

 書かれている内容をマローンに確認すると、その通りのようだった。


 う~ん。国交ね。

 俺が是空日記を読んで受けた感想としては、ゼクウ王国は是空が作った国であって、今の王家が作った国ではないということ。つまり、ゼクウさんにおんぶにだっこ状態だったんだろうという感想を持っている。

 その人任せ、他力本願なところが子々孫々に受け継がれて、あのバカ王たちを作ったんだと俺の中では結論づけている。


 そんな国と今更国交を結ぶメリットが今の日本にあるのか。


 この話を皇室にするとぜひ国交を結びたいといってくるだろう。

 元々皇室はゼクウ王国に借りがあって、それに報いたいという善意の感謝の心がある。

 それはいいんだが…。


 恐らく、タクマ王の目的は俺が持って帰った六芒星の半箱にあると俺は思っている。

 あの箱の謎を解いていると踏んだうえで、国交樹立を願い出てきている。

 ……ということは、ひょっとしたら開けることはできなかったが、あの箱がどういうものかを王室は知っていることになる。


 俺は書簡を読んで推測したことをマローンに伝えて、国交を結ぶべきかどうかのアドバイスをもらうことにした。

 マルーンは実にあっさりと

「トモロウの言うとおり、今は結ぶべきじゃないね。」

 と言った。


「もう魔道具も王室から持ち出した書籍もすでに翻訳も済んだんだろ?じゃあ、それらをまず返還することにすればいいんじゃないかな。六芒星の箱も中身は全部取り出したうえで、「何もわかりませんでした。」と言って返してもいいだろうし、今の友朗なら同じ箱が作れるんじゃないのか?じゃあ、新たな六芒星の箱を作ってもいいしね。」


 なるほどね。執着しているものを全部返すか。

「なるほど。じゃあ、それらを返すためにマローンの方で段取りしてくれる?もう俺は王様を撃ちたくないからね。」

 と俺は笑いながら言った。


「本当にシャレにならないジョークだな。わかった、それならすべての書籍と魔道具は返還することで手配するよ。」

 と、マローンは言ってくれた。

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