24.王女の不始末

 あ、


 そうか。そういうことか。

 俺は気づいてしまった。

 俺はインカムから流れてくる菜月の声を聴きながらため息をついた。


 王子の無事を抱き合って喜んで、涙まで流している王女に向けて俺はこういった。

「おい、王女さんよ。これってお前が仕組んだな?もともとお前さんはあのキース爺さんの手先だったんだろう。それが俺の暗殺に失敗した。そこで俺にキースを殺させて、お前の兄さんまで殺そうとしてたんだな。お前の毒が塗ってあるナイフはこっちで預かってるようだ。」

 そう言った時、馬車から菜月が下りてきて、ナイフを掲げた。


 王女は慌ててスカートのあたりを探していたが、やがてナイフがないことに気づいたようだ。

「うん、もうそのさまを見ただけでお前が仕組んだのはわかったよ。」

 俺はようやく拘束を解かれた王子に向かって聞いてみた。


「王子さんよ。その王女、お前さんも殺そうとしてたぞ。どうする?俺はその王女のおつきの執事とメイドに殺されかけたんで、落とし前はつけさせてもらった。恐らくお前さんが国を治めると今までのように贅沢はさせてもらえないってことが犯行動機なのかもね。いや~浅はかな一族だこと。」

 俺は額を撃ち抜かれて死んでいるキース爺さんを指さした。


 その時、王女がスカートの中から何か取り出そうとしているのを見て俺はためらわずに拳銃の引き金を引いた。

 王女の頭が打ちぬかれ、スカートの中には針のようなものが仕込んであったようだ。

 ご丁寧に毒付きで。


「おい、王子さんよ。そこに転がっている王女がお前を助ける代償にってなんでも払うって約束したんだけど、お前が払ってくれるよな?」

 俺は銃口を向けながらそう聞いた。


「は…はい。王のしでかした不始末、王女のしでかした不始末、先代キース王がしでかした不始末。すべて賠償をいたします。」

 王子はその場で土下座して詫びた。

 俺はさっそく要求を出した。


「よし、それならこの王城の中にある魔法と錬金術と、薬術に関する文献を貸してくれ。こっちで写しを取ったら返すからな。それと、初代が残した宝物ってのを見せてくれ。場合によってはそれをもらい受ける。あとは…そうだな。金貨100万枚ぐらいで勘弁しておいてやるよ。俺たちは宝物を見せてもらって本を貸してもらったらもう帰るぞ。そろいもそろって王族に3度命を狙われたら、お前たちの信用なんかないというのはわかるよな。」

 俺はそう言って、王子に宝物庫を案内させた。


 そこで初代が残したという様々な遺品を見せてもらった。

 すると一つだけ、俺が気になったものがあった。

 星野家の家紋が付いた箱だ。

 星野家の家紋は名前が示すとおり、六芒星、いわゆるダビデの星だ。

 それが正面に書かれている箱があった。


 その箱を上から見ると六芒星を半分にしたような形をしている。

 この箱ってどっかで見たことがあるんだよな。

 俺はその箱といくつかの魔道具を解析するために借りることとした。

 箱については俺が所有者ということでもらった。

 あとの魔道具は…気が向いたら返すよ。

 それと賠償金として金貨100万枚。

 日本円にして100億円?

 それがこの国の値段だ。


 やっすぅ。


 俺が宝物庫から帰ってくると、すでに馬車を元に戻して、俺が言った本が大量に積まれていた。


「じゃあ、俺たちは帰るよ。これ以上この町にいてもいいことないだろうしね。マローンところのメライト領には手出ししないように通達しといてくれ。もし手出しするようなら、俺が行ってその命令を出したやつを殺して回るからな。よーく言い聞かせておいてくれ。」

 俺はそう言って馬車を進めさせた。


 そうやって俺たちは実に短い滞在期間を経て、王都を去った。

 山ほどの金貨と、山ほどの魔道具と山ほどの本をもって。


 俺は山賊か?


 俺たちはまた、5日かけてメライト領に戻り、俺たちは日本に帰ってきた。

 ああ、やっと休まるよ。

 俺は家の自分のベッドに寝ながら、ポンタが俺の上に登ろうとしているのを感じながら眠りについた。


 さて、国交を結ぶほどじゃなかったな。


 俺はよく朝起きて朝食をとり、いつもの日課の鍛錬を終えた後にじいちゃんたちや源蔵さんたちやおやじたちを呼んで、事の顛末を話して聞かせた。

 その席に宮内庁の職員も同席している。


「ではあなたは向こうの国の王を撃ち殺し、王女と先代の王も撃ち殺してきたということなんですね。」

「ん。端的に言うとそうなるね。一つ訂正すると当代の王は自分の息子に首をはねられて死んだんだよ。」

「こ…これは大問題です!国交を結びに行ったにもかかわらず相手の王族を殺してくるなどとは前代未聞です。」

 そう、宮内庁の山本は俺に言った。


「ん?俺に全権をゆだねてきてたんじゃないのか?」

「だからといって相手の王族を殺してくるとは…。」

「まあ、納得はしないだろうな。王都で何があったかは馬車に取り付けておいたカメラと俺が胸から下げていたカメラで映ってるから見るかい?まあ、あんまりおもしろいもんじゃないけどね。」

 俺はそう言って、昨日寝る前に何とか仕上げた動画をテレビに映し出した。

 1時間かけて見終わった後、宮内庁の職員は表に飛び出して吐いていた。

 じいちゃんと親父はじっと目を伏せていたが一言

「よく家族を守ったな。」

 とほめてくれた。


「よ…よくわかりました。これらの映像をいただくわけにはいきませんか?」

「いやいや、無理だよ。俺が人殺しをした証拠映像だぜ。いくら日本の法律で裁けないといってもどこから流出するかわかんねぇし。」

「皇室には報告書で伝えてくれ。写真、静止画ぐらいなら隊長さんに渡すから、どのシーンの静止画が欲しいか後で言ってくれ。キャプチャー取ってデータで渡すようにするよ。」

 と宮内庁職員にはそう言った。


 俺はじいちゃんと親父を俺の寝室に呼んで3人で話すことにした。

「じいちゃん、親父。この箱を見てくれ。ゼクウ王国の宝物庫で見つけた初代国王の遺品らしい。どうにも開け方がわからなくてそのまま放置してあったらしいんだけど、俺この箱に見覚えがあるんだ。じいちゃん、うちの蔵にこんな箱なかったかな?」

 と俺は星野家の家紋が付いた箱をじいちゃんに手渡した。

「う~ん。確かに見た覚えがあるな。それにこの箱、うちの家紋がついてるじゃないか。」

「うん、そうなんだよ。それで気になってもらってきたんだ。」

「一度東京の道場に行って探してこよう。」

 じいちゃんはそう言うと、親父と一緒に東京のじいちゃんの方の家に向かった。


 じいちゃんらなりに俺に気を使ってくれたんだろう。

 俺が人を殺したことを知っても、一切動揺を面(おもて)に出さなかった。


 …ひょっとしてじいちゃんも親父も人を殺した経験があるのかもな…。

 じいちゃんも前にチャイニーズマフィアがどうのこうの言ってたし、親父も中東の方に単身赴任が長かったし。


 あまり突っ込まないでおこう。

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