04.これまでとこれからと

 俺がただいまと玄関を開けると

 3人がほっとした表情で出迎えてくれた。

 警察で話したこと、警察から聞いたことを伝え、明日にも事情聴取に警察が来ると思うので対応してくれと伝えた。


 菜月さんは改めて話をしている最中に思い出したようで震えていた。

 下手したら、強姦した挙句に輪姦されて、風俗に沈められていたかもしれない。

 そういうことに思い至ったのだろう。声をあげて泣いていた。


 俺は今後もちゃんと朝峰家の人たちは守ると伝えて、その日は家に帰った。


 もう既に夕方になっていた。

 俺はバイクでゆっくりと家に帰って、母屋の方にあるガレージ兼バイク工房の中にバイクをしまった。


 バイクは小型のスクーターとハーレーとBMのツアラーが置いてある。

 車は四駆のオフロード車とワゴン車、それに畑仕事用の軽トラがある。

 それらを置いてもまだまだ余裕がある。

 1階のほとんどがガレージになっている。それ以外にはボイラー室と薪置場だ。

 俺はガレージから出て、工房に向かい、工房での作業が途中だったので後片付けをしてから母屋に戻った。


 母屋の玄関に向けての階段を上がるころに、車が一台俺の家に近づいてきた。

 待っていると、朝峰家の皆さんだった。

 俺は家に3人を招き入れて、とりあえず夕食にすることにした。

 夜中にも襲われるかもしれないという恐怖があったのだろう。

 この家ならそれほど心配する必要がない。

 防犯システムも完備しているし、何より俺がいる。

 一応狩猟免許も持っているので猟銃もある。

 ある意味要塞に近いのかもしれない。

 昔ながらの農家とは違うので、安全度はけた違いだろう。


 俺たちは囲炉裏端で火をおこし、冷凍しておいたヤマメなどを解凍して串に刺し、塩を振りかけて焼いて食べた。ソーセージなども適当に焼いてつまみにしているころに貴美子さんが作ってくれた鍋が囲炉裏にかけられた。

 あったかいものを口にしてようやくみんな緊張がほぐれたのだろう。

 結構いろいろあった末に離婚したことを話し出した。

 俺はすでに工房で製作の傍らや、酒を飲んでいるときに源蔵さんから聞いていたので知っていたが、一つ一つうなずきながら聞いていた。


「確かにいろいろあって怖かっただろうけど、あんな奴らのためにおびえて暮らすのはばかげてる。何だったら一家みんなでこの家で住んでもいいよ。その間に今の家も少し改築して、防犯上も安全なように補強したらいい。先祖代々が住んでいただろうから、思い入れも相当あるだろうしね。」

 俺は軽い気持ちでそう言った。


 俺はこの土地に住んで、ようやく自分を取り戻し、今は平和に暮らせている。

 それもこれもこの家族がいたからこそだ。

「何だったら、この横にもう一軒建ててもいいよ。どうせ土地はたくさん譲ってもらったしね。」

 俺はそう言って少しおどけて両手を広げた。

 ここ一帯の山が俺のものなんだもんな。


「それならいっそのこと菜月を嫁にもらっちゃくれねぇか?そうすれば俺たちも安心できる。」

 源蔵さんは酒を飲みながら俺にそう言ってきた。


「そうよ。それがいいわ。今もほとんど親子みたいなものですものね。一緒にいろいろ作ってるし、毎晩一緒に晩酌してるし。」

 と、貴美子さんも言い出した。


 俺はポカーンとその状況を見ていた。

「いやいや、菜月さんの気持ちも考えなきゃ。ただでさえ結婚でいい思い出がないのに、まだ心の傷も癒えていないだろうに。」

 俺はそう言って話を終えようとした。


「なんだ?菜月では物足りんか?こいつも俺が言うのもなんだがかなりの器量よしだし、料理も家事も仕込んであるぞ。」

「いやいや、そういう話じゃなくて、菜月さんの気持ちも考えてあげろって話だよ。」

 俺はそう言った。


 黙って聞いていた菜月さんはそこで口を開いた。

「私、友朗さんとなら一緒になりたい。」

 と爆弾発言をした。


 俺は困ってしまった。

「う~ん。菜月ちゃんは美人でグラマーだし、俺の好みにもあってるよ。性格もいいし、面倒見もいいしね。けど、今はまだ俺も結婚を考えてないよ。今日あんなことがあったから、いろいろと心細くなってるんだろうけど、みんなもう少し冷静になってからもう一度考えようね。」

 俺は結論を先送りにした。


 菜月ちゃんのことは確かに好きだ。

 美人だし、グラマーだし、俺より3つほど年下だし。

 バツイチなんてのも気にならない。

 でも、今のこのタイミングでなし崩しに結婚となるとちょっと違う感じがする。


「じゃあ、さっきお前さんが言ってた、ここのすぐ隣に家建てるってのはどうだ。そこに俺たちが住む。飯も一緒に食えばいい。あの家はちょっと手を入れないと老朽化も激しいからな。建ててる間はここで世話になるってのでどうだろう。一緒に暮らしてればそのうちお互いにいろんなこともわかるだろう。友朗、それでいこう。」

 源蔵さんのその言葉で俺たちは一緒にこの家で暮らすことになった。


 早速隣の家をどうするかの話し合いが始まった。

 ちょっと気が早くない?

 まあ、楽しそうだからいいか。


 俺の作った家は2階建てになっている。

 駐車場を入れると3階建てになる。

 1階にキッチン、リビング、風呂場、トイレ、洗濯機などを置いているサニタリールームがある。

 2階には俺の部屋とそれ以外にも5室ある。

 俺の両親たちが来ても泊まっていけるように設計している。

 この近くにホテルなんかないからね。


 俺には実家に母親と妹がいる。

 会社を辞めて田舎に引っ込んだことは電話で伝えてある。

 しかし、就職してからはまだ会いにも帰っていない。


 そろそろ一度顔を出した方がいいのかもしれない。

 俺はそう思いながら、みんなの話を聞いていた。


 その日から俺たちの共同生活が始まった。


 隣には俺の家と同じ間取りでもう一軒建てることになった。

 確かに設計もできてるから申請も楽だろうし、一度作ったことがあるから、要領も心得ている。

 しかし、その家は俺たちで作るのではなく、朝峰一族の系列にある工務店が立ててくれることになった。俺がお世話になった工務店だった。

 外観だけは少し変えるようで、貴美子さんと菜月さんが楽しそうに相談していた。


 俺はそのあくる日からも同じようなルーティーンで日々を送っていた。

 違うのは頻繁に行き来していた朝峰家への道のりを歩かなくなったことぐらいだ。

 そのうち、貴美子さんも菜月さんも工房で何か作り出した。

 俺はこのころから菜月さんのことを菜月ちゃんとちゃん付で呼ぶようになった。

 年も下だし、その方がより近く感じられたからだ。


 俺は今年28だ。確かにそろそろ結婚していてもおかしくない年頃だ。

 菜月ちゃんは25だ。

 源蔵さんが50で、貴美子さんは48だ。

 俺のところの両親も偶然にも同じ年だ。

 妹は菜月ちゃんより2つ下になるのかな。

 今23だ。


 うちの親父はほとんど単身赴任で海外で暮らしている。

 だから実家にはおふくろと妹しかいない。

 妹も今は大学に行っているはずだ。

 今年卒業になるのかな。


 一度うちの家族をここに呼ぶのもいいな。

 ……その前に俺が今どういう状況なのかを説明しに行った方がいいのかな…。

 会社辞めるときには心配かけただろうから、一度実家に帰ってみるか。


 俺たちが一緒に暮らし始めて半年が過ぎたころ、隣の家が完成し、一家はそちらに移っていった。

 ほぼ同じ間取りで作ったので今までと生活の勝手が同じでいいらしい。

 もともと住んでいた家も間取りはそのままで、老朽化した部分を新調し、リフォームが終わっていた。昔ながらの名主の家なので、大広間なんかがあって、会合などに何かと使いやすいらしい。


 最近では町に住んでいる弟君も毎週末うちに来て、酒を飲んでいる。

 家まで押しかけてきた高藤の一件以来、姉のことを心配しているのだろう。


 俺はそんなみんなが笑っていられる日々がずっと続くことをいつも願っていた。

 そしてその願いはずっとかなっている。

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