03.どこにでもこういうやつらはいるんだろうな
俺たちはお昼ご飯を頂き、そろそろ工房に帰ろうかと食後のお茶をいただいていた。
そこにピンポンと玄関のチャイムが鳴った。
菜月さんがはーいと玄関の方に対応に向かった。が、何やら揉めだしているようで、ガチャンと何かが割れた音がした。
俺と源蔵さんは急いで玄関に向かうと、金髪のスーツを着た男が、菜月さんの腕をつかんでいた。
俺はすかさずその男の手をひねり上げて、菜月さんを解放させた。
「いてててて。おめー誰だ?なんでこの家にいる?」
と俺に問いかけてきた。
俺は
「隣の家のものです。朝峰さんのお宅にはいつもお世話になっていましてね。今日もお昼をごちそうになっていたんです。それよりあなたの方こそ誰なんですか?菜月さんの腕をつかんでいたので、解放させるためにあなたの腕をひねりましたが。」
俺は腕をひねり上げたまま、そう聞いた。
そして俺は玄関からその男を連れ出し、門の外へ放り出した。
そこには黒い車が止まっており、中から3人ほどチンピラのような連中が出てきた。
「兄貴、大丈夫ですか?おい、お前、兄貴に何しやがった?」
俺に向かってそのチンピラが吠えた。
こういうやつらの方が俺は気が楽だ。
ゆすりたかり、嫌がらせを仕掛けることで飯を食っているような奴ら。
まあ、控えめに言ってもクズだな。
ねちねちと嫌味を言ったり、遠回しに嫌がらせされたりすることに比べればこういうやつらはわかりやすい。
…俺ってつくづくサラリーマンに向いてなかったんだろうな…。
俺は昔の記憶が浮かんできて遠い目をしていた。
そうそう、この兄ちゃんたちの相手しなけりゃ。
「その男が菜月さんの腕を無理やりつかんでいたんでね。解放して叩き出したところですよ。」
俺はチンピラたちを見ながらそう言った。
刃物は…全員持ってそうだな。
俺はそれとなくその男たちの振舞いを見てそう思った。
「菜月は俺の女房なんだ。その女房を連れ戻しに来ただけだよ。」
俺に放り出された男は、俺にさらっと扱われたのを少し不気味に思ったのか、しり込みしながらもそういった。
「なるほど。DVのひどい元夫ってのはあんたか。さぞかし女殴って気持ちよかったんだろうな。女しか殴れねぇんじゃクズだと自分で回りに言いふらしてるようなもんだぞ。」
「なんだ?お前、やろうってのか?こっちは4人だぞ!おい、お前たち!」
とそう言って、ほかの3人のチンピラが刃物を出そうとしたところを俺は襲った。
元夫という男の顎を殴りつけて、懐から出そうとした刃物を押さえつけて、腕が動かないようにしてから、腕を折った。
その後ろから、慌てて後ろポケットからナイフを出そうとした男には足の甲を踏み抜き、しゃがんだところに踵落としを食らわせた。
あとの二人はようやく刃物が出せたようだ。
俺はつきこんでくるドスを小手で交わして手首をつかんでひねり上げ、手からドスを離させた。もう一人のドスを腰だめにしてこちらに迫ろうとしていた男に向かって、その男を投げつけた。
投げつけられた男の太ももにドスが刺さったようだ。
仲間を刺したことに慌てた最後の男のこめかみにフックを入れて、気絶させた。
太ももを刺された男は叫びながらのたうち回っていた。
俺は後ろポケットに入れていたスマホを取り出し、その情景を写真に撮った。
特に武器を所持していたところをいくつか取り、動画に切り替えて、元夫のほほを張りながら起こして、問いかけた。
「お前ら何しに来たんだ?すでに菜月ちゃんとの離婚は成立してるし、お前には接見禁止命令も出ていたはずだよな?」
俺は今までの付き合いの中でそのように源蔵さんから聞いていた。
この男、名前は高藤英雄(たかとうひでお)といい、チンピラたちを束ねているらしい。
昔源蔵さんが世話になった人から縁談を勧められて、断ることができずに娘に合わせた。そのころはこの男も皮をかぶっていたらしく、実業家としてバリバリ働き、金払いもよく、様々な贈り物をしてくれた。そんな一生懸命さにほだされて、菜月さんはついに結婚を承諾したらしい。
しかし、結婚してから分かったのは、この男のやっていた事業がやくざと何ら変わらないことだった。地上げや金貸しで、借金を背負った女を風俗に沈めることも多く、相当に羽振りが良かったようだ。
とはいってもあくまでチンピラの成り上がりで、どこの組に入っていたわけでもない。
やがて、地回りのやくざに追いかけられて、菜月を差し出そうとした。
承諾しない菜月を殴るけるの暴行を加えて、菜月は逃げ出して警察に保護された。
その暴行容疑で高藤は逮捕され、3年ほどの懲役を終えて出所していたようだ。
まったく面倒な奴らだ。
「俺はまだ離婚を承諾していねぇ。こいつは俺の女房だ。俺がどうしようとお前には関係ない。」
と、俺を見ながら高藤はそう答えた。
「お前の言いたいことはわかった。しかし、ここは日本でな。日本の法律ってもんがある。お前らは菜月さんを攫おうとしてここに来たんだろう?俺が開放するとすぐに刃物出しやがって。端から脅してでも連れて行こうとしてたんだろう。どうだ?違うか?」
俺はそう問いかけた。
「だから言ってるだろう。こいつは俺の女房だ。俺がどうしようとお前らには関係ねぇ。」
と、同じことをわめいていた。
「まあ、そんな話は通用しないわな。警察でも同じ話しろよ。」
と俺はそれまで取っていた動画を止めて、スマホで110番に電話した。
わめいていたどすの刺さった男からドスを抜き、太ももの上部で持っていたタオルを使って止血してやった。そんなには深く刺さっていないのだろう。出血はそう多くなかった。
他の気絶していたやつらも、そいつらが着ていたシャツをそいつらが落としたドスで切り裂いてひもを作り、後ろ手に縛った。
もちろん高藤も縛ろうとしたが、暴れたため、もう一度気絶させて同様に縛って転がしておいた。
それから30分ほどたってようやく警察が到着した。
その間に源蔵さんたちには家に入っていてもらい、警察が着たら事情聴取に応じるように話をした。
パトカー1台で駆け付けたため、応援を呼んでそいつらを順次連れて行った。
俺はおまわりさんに事の次第の説明をして、動画と写真を見せた。
俺は一度自分の家に帰って、それらを予備に持っていたUSBメモリーに移して、警察署にバイクで向かった。
その動画と写真を渡して、担当の警察官にどういうやつらなのかを聞いてみた。
「あいつらはこの町でのさばってるチンピラの元締めみたいなもんだな。高藤は出所してからも竹林組に追われて、行き場をなくしてたみたいだ。一緒にいたチンピラはある意味巻き込まれたようなもんなのかもな。出所した高藤は元の仲間に招集をかけたけど、集まってきたのはあの3人だけだったらしい。4人とも刃物を出してるから、傷害未遂、恐喝未遂、拉致未遂ってところかな。おそらく目的は朝峰さんのところの土地だろう。朝峰さんのところはここら一体の大地主だからな。それで狙われてたんだろう。あそこの娘の結婚もはめられたんだろうな。」
そう言っていた。
恐らくこれで高藤は刑務所に逆戻りだろう。
ついてきたチンピラたちもそれぞれ証拠もあることだし、起訴は免れない。
前科があれば、それも加算されて5年ってところかな。
俺も改めて調書を取るために事情聴取を受けたが、相手の骨を折ったことも含めて正当防衛が成立している。
果物ナイフや包丁と違ってドスだもんな。
その目的は人の殺傷。骨ぐらい折られて当たり前だろう。
俺は事情を聴かれた後は釈放されたので、朝峰家へ戻った。
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