頭はいるの?(3)

 ファトラは噛み砕いて説明してくれました。

 機体各部に置いたカメラからの映像を合成加工して頭の位置から見た映像にするのは技術的に難しくはありません。それでも合成処理に数十ナノ秒の時間が必要。人間に知覚できない極微小な時間でも、宇宙速度となればそれなりに誤差が生じるみたいです。


「全ての環境で使えないと実用的とは言えないの」

 ギナははっきりと言います。

「それが君の基本スタイルですもんね。これこれこういう条件でしか使用できませんという発明品など誰でもできるって言うのですから」

「なのなの」

『よって頭部に直接カメラを置くのが最も効率的です。操作円環バーゲを介するのも処理時間が必要になるので、実視モニターの使用を前提としております』

 ファトラは絞られた条件を教えてくれました。

『或る意味、効率的だと思うぞ、主』

「そうなんですか、ラノス?」

『システムは単純化されるほど故障は少なくなるものだ。更にメンテナンス性も上がるのであれば実用に近付く』

 ギナは「ラノスは分かってるの」と褒めています。


 そういう理由でいきなり頭部の設計から入ったようです。確かに技術的な内容ですが、順を追って説明を受ければぼくにも理解できました。


「だったら、こんなセンサーの塊みたいな形状をしてなくてもいいんじゃないですか?」

 あくまで効率を重視したのか頭部のデザインは機械的なんです。

「ファトラの操る作業用義体のように人間的な造形にするか、何ならもっと威圧感を増すようなデザインでも構わないと思うんですけど」

「…………!」

『盲点でした』

 ギナは絶句し、ファトラもすぐさま落ち度を認めます。


 カメラなどのセンサー類を集中するなら強固な防御が必要だと思うんです。そういう意味でも実用一辺倒な形状は捨ててもいい気がします。


「やっぱりレリはすごいの!」

 彼女は手を叩いて喜んでいます。

「素人の視点は大事なの!」

「まあ、その通り素人なんですけど」

『素晴らしいです、レリ様』

 軽く落ち込みましたがファトラが持ち上げてきます。

「いっそのこと、目とか鼻とか、口はあまり意味がないかもですね。耳なんかもそれっぽくつけて、相応の機能を持たせてみてはどうです? 悪ノリですかね?」

「最高なの、レリ。それでいくの。ファトラ、今の素案は廃案なの」

『はい、もう一度組み直しですね』

 模型から頭部が消えてしまいました。


 ギナが新しい頭部のイメージを操作円環バーゲ越しに伝えているようです。それを再構築してファトラが形にしていきます。

 模型の丸い頭部にカメラアイがつけられ、耳のような突起に音響センサーが配置されていきます。方針が決まればスピーディーに進みます。


「これで殴る目標もできたの!」

「どうしても殴り合いがしたいんですね」


 ストレスでも溜まっているんでしょうか?

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