肩は大変かも?(1)
この前送ったプロットは編集さんと少し詰めをするだけで通りました。中身はもう頭の中でできあがっていたので文章にするのは簡単。初稿を仕上げて、今はチェックしてもらっています。その間にぼくは研究所に出向いてみました。
『いらっしゃいませ』
ファトラが義体を操作してお迎え。
「あれ、ギナは?」
『お悩みのご様子です』
「お邪魔ですかね?」
『いえ、レリ様のご助言が必要な頃合いかもしれません』
彼女に続いて研究室へと向かいます。
ギナは操作卓に着いているものの、卓上に置いた両手の上に顎を乗せて頭をゆらゆらと左右に動かしています。彼女が本気で考えている時の姿勢。長い付き合いの中で承知しています。
「上手くいかないんですか?」
声を掛けると寝ていた三角耳がピンと立ちました。
「レリ!」
「お邪魔でないなら手伝いますよ?」
「待ってたの! 嬉しいの!」
感情表現がストレートなギナは満面の笑みに変わりました。ぼくとしては照れくさくもあるのですが、そんなご褒美があるからこそずっと彼女に寄り添っているのかもしれません。
「ずいぶんとお悩みのようですけど?」
「困ってるの。閃かないの」
ファトラ曰く、ここ数日はこんな調子だったようです。
「どこがです?」
『こちらを』
3Dモデルが投影されます。できあがったらしい頭部は細かい部分まで反映されていますけど、それ以外はフレームのままでした。
そこに幾つものパーツが重ねられていき、肩の周辺を形作っていきます。ですが、形になりそうになっては消えるを繰り返します。組み上げかけては没にするを繰り返しているようですね。
「肩が上手くいかないの」
落ち込んだ気分が声の弱さに表れています。
「みたいですね。でも、見せられたものでは、ぼくにはどこがダメなのか分からないんです。順を追って教えてくれませんか?」
「肩って複雑な動きをするの」
「それは何となく分かります」
人体の中でもかなり可動域の広い部分だといえるでしょう。腕を横へと開けます。前後にも振れます。ほぼ360°回転できますね。更に肩そのものも上下します。関節部分が胴体に対して固定された位置にないんです。これは特殊ですよね?
「構造的に難しいんですか?」
「本物と同じ動きをさせたいの。できなくちゃ嫌なの」
彼女の拘りたい部分のようです。
「その辺りがよく分かりません。だってファトラの作業用義体は人間と同じ動作が可能ではありませんか。それの拡大版ではいけないんですか?」
「無理なの。大きさが違いすぎるの」
ギナは両手を広げて大げさなジェスチャーで訴えてきました。
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