頭はいるの?(1)

 議会が一段落した頃にギナの招きを受けました。約束していた新作のプロットを出版社に送ってから研究所に向かいます。気分転換にはちょうど良い頃合いです。


「いらっしゃいなの」

 少し間が空いたので彼女は嬉しそうな顔で跳ねるように近付いてきました。

「忙しかったの?」

「少し。待たせてすみません」

「ううん、ギナも仕事があったの」

 依頼品の開発でもあったのでしょう。

「急がないからレリの都合の良い時でいいの」

「趣味の研究ですもんね。のんびりいきましょう」


 微笑んで提案すると彼女も両手を上げて振りながら賛同してくれました。その頃にはファトラが作業用義体を操作して二人にお茶の準備をしてくれています。

 茶器からは馥郁たる香りが流れてきます。立ち上る湯気がぼくの鼻をくすぐり、それがかなりの高級品なのだと分かりました。飲まなくても味が想像できるレベルです。


「ありがとう、ファトラ。これは大切なお客様用ではないんですか?」

 気兼ねせず訊いてみます。

『レリ様は大切なお客様です。どうぞお召し上がりください』

「では、ありがたくちょうだいしますね」


 口に含むと豊かな香りが脳を刺激します。思わず耳がピクピクとしてしまうほどでした。疲れが溶けていくような美味しさです。


「熱いの。苦いの」

『大丈夫ですか?』

「はぅ~」

 小さな唇から舌が覗いてピロピロと震えています。

『レリ様と同じ物がよろしいかと思ったのですが、お変えいたしますか?』

「これでいいの!」

「相変わらずお茶を飲むのが下手ですね。熱いうちは苦みが先に立ちます。ゆっくり冷まして、舌の上で転がすようにするんですよ」

 一生懸命息を吹きかけて冷ますと、ちょっとだけ口に含んでモグモグしています。

「ちょっとだけ甘いの。よく分からない味もするの」

「それを美味しいと感じられるようになると大人なんですけどね」

「子供扱いは嫌なの!」

 頬が膨れてしまいました。


 ぼくとギナは昔からこうです。彼女は天才特有の感性で、興味がない事柄には見向きもせずに突っ走っていきます。なので、ぼくは時々呼び止めては後ろを振り返らせてあげなくてはいけません。


「進行具合はどんな感じなんですか?」

『ご覧ください』

 ファトラが立体模型を投影させます。

「頭がつきましたね?」

『頭だけであるぞ、主』

「子供が描いた絵みたいでちょっと面白いですけどね」

 ラノスの指摘に苦笑い。

『あれから重量の調和点を計算し、全高は22mに決まりました。ですので各パーツの設計に取りかかっています』

「頭を付けてみたの」


 ギナが自慢げに指差して言いました。

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