なんでロボット?(3)

「レリはなんでも知ってるの」

 ギナはぼくの広範な知識を欲しているようです。

「作家だからいっぱい知ってるの」

「作家だからじゃないです。立場上、色んな文物に触れる機会が増えたので学んだだけです」

「オブザーバーの仕事、忙しいの?」

「まあ、そこそこ」


 彼女の言う通り、ぼくは作家です。フィクションも書きますが、専門に学んだ政治経済学にまつわる著作がベストセラーとなりました。

 注目を浴びて色々と発言しているうちに政府から主席の補佐官にと要請されたのです。要はブレインの一人に選ばれました。

 でも、ぼく自身は政治参画の意思が全くありませんでしたので固辞したのです。すると譲歩してきて、現在は政府のオブザーバーとしては招聘されることになりました。最近では作家業よりそちらのほうが収入が多くなってきてしまっています。


「つまんないの」

 ギナは唇をとがらせる。

「なりゆきでこんなことになっています。でも、元をただせば君に負けたくなくて勉強を頑張った結果なんですよ」

「二十三歳なのにお国の仕事してるからすごいの」

「ギナだって、このギナ・ファナトラ機械工学研究所を国有化する話を断ったでしょう?」


 本物の天才であるギナに追いつきたかった結果が今のぼくです。でも、まったく追いつける気がしないのが本心です。

 三年前、十九歳の彼女がいくつもの特許技術を生み出し、この研究所を立ち上げました。ところが半年で政府から国の正式機関となる要請がきたんです。彼女は結局拒みました。


「好きなことできないの嫌なの」

 国の機関になれば研究内容も要求されるのは事実ですね。

「ギナは好きな研究しかできないの」

「ええ、君が泣きそうな顔をして嫌がっているから、ぼくが話をしたんですけどね」

「やっぱりレリは頼りになるの」


 今もこの研究所は個人所有のまま。ただし、政府が重要な顧客でもあるのは間違いないんです。一応は線引きするのが限界でした。それくらい彼女の才能は認められているんです。


「そうですか? この件に関しては彼女のほうが役に立つと思うんですけどね」

 どうにも腑に落ちません。

「もちろん手伝ってもらうの」

『レリ様、どうかギナ様をお願い申しあげます』

「ぼくに分かる範囲のことでしか手伝えませんよ、ファトラ」

『技術的な部分はお手伝いいたします。ですが、わたくしでは無理な部分があるとギナ様はお考えなのです』

 透きとおるような響きのある女性の声でファトラが懇願してきます。


 ですが、彼女は人間ではないんです。

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