はいチーズ! の日 前編


 天秤は。

 重い方に倒れるもの。


 じゃあ、どうしてシーソーは。

 右に左に。


 ぎったん。

 ばったん。


 揺れるのかと言えば。


 それは、浮いている方が。

 地面に戻りたいと。

 強く願うから。


 願っているうち。


 『思い』が『重い』になって。


 ばったん。


 こうして。

 地面に落ちるわけだ。


 すると今度は。

 反対側に座った相手のことを。


 浮かんだままで可哀そうに思えて。


 『憂く』が『浮く』になると。


 ぎったん。


 再び宙に浮かぶ。



 ぎったん。

 ばったん。


 お互い同じ願いを胸に秘めているのに。


 ぎったん。

 ばったん。


 口にすることが出来ないまま。

 いつまでも同じ距離。


 ぎったん。

 ばったん。


 前に進まない二人だが。

 まあ、それも良いじゃない。


 ぎったん。

 ばったん。


 だっていつまでも。

 


 いて。


 想い。



 ずっとこうして。

 繰り返していられるのだから。






 秋乃は立哉を笑わせたい 第4.9笑

 =友達を名前で呼ぼう=



~ 八月二十二日(土) はいチーズ! の日 ~


 ※狐疑逡巡こぎしゅんじゅん

  きつねが疑い深くてなかなか動かないのと同じようにぐずぐずすること。




 夏の日差しも和らぐ。

 山の緑と古い町並み。


 神社へ至る川沿いの道に。

 立ち並ぶ色とりどりの屋台。


 提灯と笛の音に導かれて。

 石段を上って境内に入ると。



 そこには。



「うわ……。すごい、ね?」

「おお、動画そのもの。いや、それどころじゃねえ迫力」


 一般的に、盆踊りと言えば。

 二列くらいの踊りの輪が

 やぐらの周りを囲んでいるって感じだろう。


 でもこれは。

 この踊りの輪は。



 列で数えることができない。



 櫓のそばから外縁まで。

 境内が躍る浴衣で埋め尽くされて。


 電子レンジで湯がいたうどん。

 うねうねくるくる回ってやがる。


「見物人より踊り手の方が多いって謳い文句。虚飾なんてどこにもねえってわけだ」

「熱気の渦……」



 これが、四百年もの歴史を持つ。

 日本三大盆踊りのひとつ。



 郡上ぐじょうおどり。



 七月から九月の頭まで。

 郡上八幡ぐじょうはちまんと呼ばれる地域で行われる伝統行事。


 期間中、点々と会場を移しながら行われる盆踊りは。

 見物客より踊っている人数の方が多いことで有名だ。


 そして、とりわけすげえのが。

 四日間ぶっ通しで開催される徹夜踊り。


 一週間前に来てればそれも見れたんだが。

 この週末に足を運んだ理由は他にある。


「へへっ! お前ら初めて見たのか? 動画じゃ、この熱気は伝わんねえだろ!」

「ほんとだぜ。すげえな」


 舞浜と二人、あっけにとられて踊りの渦を見つめていると。

 車で俺たち四人を連れてきてくれたカンナさんが。

 凜々花の頭をくしゃくしゃ撫でながら問いかける。


「おいバカ凜々花! 早速突撃かますか?」

「かますかますぅ! 踊らにゃそんそん!」


 ミニスカートにTシャツの凜々花と。

 デニムパンツにゆったりカットソーの刃物女。


 俺が二人の荷物を預かっている間に。

 慌てて携帯を取り出して。


「凜々花ちゃん。出陣前の写真を……」


 レンズを向けるこいつは。


 舞浜まいはま秋乃あきの


 七分丈のデニムパンツに黒のレーススカートを合わせて。

 襟元がかっちりとしたYシャツ風のブラウスを。

 ワインレッドの幅広ベルトで腰にきゅっと絞っている。


 ……洋服ダンスの一番上に来ていたTシャツGパンな俺と。

 並べられたらちょっと困る。


 まあそのくらいおしゃれで。

 綺麗な女ではある。


「んじゃ! 凜々花隊、ソルジャー祇園精ぎおんしょうジャー突撃ジャー!」

「あははっ! 突撃ジャー!」


 そして、わたわた携帯を構えた舞浜が。

 ぱしゃりとやる頃には。


 二人組の凜々花隊とやらは。

 すでに踊りの輪に飲み込まれていた。


「撮れたか?」

「ぶれぶれ……」

「だろうな」


 あいつ、カメラ向けられても動きっぱなしだから。

 綺麗に撮るのは至難の業。


「今回の目標……、難題」


 舞浜は、どうやら凜々花の写真が欲しいらしく。

 この目標を旅行中に成し遂げるのだと。

 鼻息荒く宣言しているんだが。


「難題ってか、不可能かもしれん。驚くことに、俺の家にもあいつのまともな写真なんて二枚しかねえから」


 凜々花が我が家でスカイフィッシュと呼ばれるゆえんを聞いて。

 苦笑いした舞浜が。


 ビールケースに板を渡した。

 急ごしらえの椅子に腰かけて。


 ふと、まじめな表情で俺を見上げる。


「…………どうした、の?」

「は? なにがだよ」

「探し物?」

「おお、よくわかったな」


 下手に誤魔化したところでバレる。

 だから、隠し立てせず。

 でも伏せる必要のあることは言わず。


 平静を装う策士な俺。


 ……つまり。

 

「何を探してるの?」

「そ、それはあれだ。舞浜には一切何にも絶対関係ねえもんだから気にすんな」


 伏せる必要のある所を聞かれると。

 平静ではいられなくなるわけだ。



 ……この辺りには売ってないか。

 なんとか探し出さねえと。


 無理な相談だってことは分かってる。

 でも。

 一縷の希望を抱かずにはいられない。


 車の中で。

 舞浜のかんざしを見せてもらっている時。


 凜々花が急にテンション上がって立ち上がって天井に頭打って。


 ふらふらしたとこで急カーブ。

 俺に向かって倒れて来たから。


「……ほんと、ただの探し物?」

「ああ、そうだけど。そんなに俺、おかしいか?」

「うん……」


 すげえな、女って生き物は。

 どうして気付いてほしく無い物から順に察することができるんだろう。



 ……かんざしなんて。

 同じもの探すには。


 砂浜からガラスの欠片見つけ出す様なもんだ。


 無茶なことだって分かってる。

 分かっていても……、お?


「こっちだこっち! 春姫はるきちゃーん!」


 人混みの向こう。

 ぽつりと見えた金髪が。


 再び波に沈む前。

 俺に向けて、軽く手をあげてくれた。


 実は、春姫ちゃんはかんざしの件に気付いてくれて。

 小物屋を探してくれていて。


 俺たちとは別に歩いていたんだが。


 ここまで混み合うとは思ってなかったからな。

 不安な思いをさせちまったかもしれん。


「それにしても、耳がいいな。これだけ騒々しいのに一発で聞き取ってくれた」

「春姫って、聞き取りやすいから……、ね?」

「なるほど」

「でも、舞浜だと聞き取りづらい……」

「そうか?」


 一瞬首をひねったが。

 なるほど、距離があるとM音って判断付かないのか。


「『あいはあ』になるってことか?」


 そうなのと苦笑いしたこいつの事を。

 遠くから呼ぶようなことになったら。


 M音を意識して声に出そう。


 あるいは……。



 秋乃?



「……立哉さん。大声、恥ずかしいからやめて欲しい」

「お、おお。悪いな」


 丁度、下の名前ってもんを意識した瞬間だったから。

 春姫ちゃんに呼ばれて。

 思わず身を固くしちまったが。


 みょうなもんで。

 これほど緊張するってのに。


 舞浜の事を。

 名前で呼びたい俺がいる。


 夏休みに入ってから。

 ずっと願っているのに。


 どうにも実行できねえ。

 小さな小さな俺の望み。


「…………保坂君。今、緊張した?」

「全然そんなことねえっての」


 だから。

 なぜ気づく。


 これだから女って生き物は……。


 いや? そうか。


 こいつも、俺のこと名前で呼びたいから。

 春姫ちゃんの言葉に反応したわけか。


 二人揃って。

 なんてヘタレ。


「凜々花ちゃんの写真も大切だけど……、もう一つの目標も、頑張る」

「課題がいくつもあって実に良いことですな」


 舞浜め。

 そうは問屋が卸さねえぜ?


 俺にだって課題が二つあって。

 そのうち一つは、お前の望みを阻止することなんだから。


 だって。


 まだ、名前で呼ばれるなんて恥ずかしい。


 でも今はそんなことより。


「じゃあ、春姫ちゃん。一緒に一回りしようか」

「……ああ。お供しよう」

「舞浜、すぐ戻って来るからここにいてくれ」

「うん……」


 お囃子はやしが一つ終わり。

 踊りの輪が、盛大な歓声と拍手を森から空に解き放つ。


 士農工商。

 老いも若いも隔てなく。


 同じ笑顔に。

 同じ歓声。


 そんな郡上踊りのコンセプトは。

 時を越えて、今もこうして受け継がれているわけだ。


 俺は春姫ちゃんの手を引いて。

 大歓声に包まれた境内から離れ。


 ようやく階段を下り切ったところで。

 春姫ちゃんからの報告を聞くことにした。


「どうだった?」

「……南側はないな」

「じゃあ、駅の方か北の方を探すか」

「……北にはなかろう、山ばかりだ」


 なるほど、そりゃそうだな。

 俺は携帯で辺りの様子をざっと確認すると。


 西を目指して歩き出した。


「……しかし、そのかんざし。私がずいぶん昔にお姉様にあげた安物だぞ?」

「いや、金額じゃなくてだな。大切なものを折っちまったってことがこの際問題なわけで」

「……正直に言えば、お姉様も笑って許してくれると思うが」

「そうはいかねえ。男はミスなく何でもスマートにこなすもんだ。こんなドジはしねえ」

「……やれやれ、安いプライドだな。要は、頭を下げるのが嫌だということか」


 さすが春姫ちゃん。

 俺の心をバッチリ読んでやがる。


 しかし、姉妹揃ってよく分かるな。

 今日の俺は、おでこに考えてることが文字で浮かぶのか?


 なんとなく額をさすって歩いていたら。

 ベルトがぐいっと下に引っ張られた。


「ちょおっ!? んななななな、何する気!?」

「……声がひっくり返って乙女になっているぞ。男のプライドはどうした」

「その男のプライドが外にこんにちはするわ!」

「……どうせお粗末なプライドがへこへこ頭を下げているのだろう。それより」


 ひでえセリフと共に春姫ちゃんが指差す先は。

 屋台にしては珍しい小物屋だ。


 キラキラ光る腕輪やら。

 真っ赤に光るプラの剣やら。


 子供がせがみそうなもんがずらりと並ぶ中……。


「お? 確かに似てる……」


 髪留めがごちゃっと入った籠の中。

 舞浜のものとそっくりなかんざしが顔を出していた。


 ……いや。

 そっくりと言うか。


「おお! まさに同じもん!」

「……だな。さすが立哉さん、いい運を持っている」


 髪留めの籠に手を伸ばそうとしてた女の子たちをがるると威嚇して遠ざけて。


 件のかんざしと、ポケットに入れていた舞浜の物とを見比べる。


「間違いないな。……おっさん! こいつをうおっ!?」


 店のおっさんに向けて突き出した俺の手に。

 なにか、赤いものが体当たり。


 あまりのことに驚いて。

 手を胸元に引っ込めながら。


 そいつの正体を見て。

 さらにびっくり。


「キツネぇ!?」

「……いや、しかしこの色は……」

「ああっ! かんざしっ!」


 まるで舞浜の髪のような。

 飴色の毛並みの狐が。


 ぶどう色の唇から剥きだした牙の間に。

 さっきのかんざし咥えてやがる。


「こ、こいつ! 返せそれ!」

「…………千円」

「こら親父! それどころじゃねえ……、って! 俺が払うの!?」

「千円」

「……立哉さん、早く!」

「くそう!」


 俺がポケットから出した千円札を親父に投げつけると。

 同時にキツネがすたこら人混みを縫うように走り出す。


「ま、まてこら! 春姫ちゃんは喘息出るからそこにいろ!」

「……走るのは大丈夫。急ぐぞ」

「無理はすんなよ!」


 こうして、妙な捕り物が。

 郡上八幡を舞台に始まったわけなんだが。


 バズって、そこら中で「あいつがキツネに翻弄されるおもしろ可哀そうな高校生か」と指をさされるようになるまで。

 要した時間は一時間。


 結局、赤いキツネを。

 捕まえることはできなかった。



「……ふう、ふう。うどんと油揚げでも買って来れば釣れたのではないか?」

「ぜえ、ぜえ。…………俺は緑派だっての」




 ~´∀`~´∀`~´∀`~




 キツネを追って。

 えらい時間走り回って。


「…………すまん」

「ううん?」


 待っていろと言われた言葉を。

 律義に守り続けていた舞浜に深々と頭を下げる。


「……プライドは?」

「やかましい」

「……服がよれよれで、顔を出しそうだぞ? プライドが」

「ちょっと黙ってろお前は」


 一緒に走り続けてくれた人に言うセリフじゃねえけど。

 女子中学生がそんなこと口にしちゃいけません。


 俺に引き換え、涼しい顔した春姫ちゃんが。

 何かに気付いて、軽く手をあげる。


 いつものフリフリドレスが振り向いたその先から。

 湯気を上げながら戻って来たのは。


「踊り狂ったー! 満足!」


 汗だくになった凜々花だった。


「あれ? カンナさんは?」

「向こうでビール飲んでる! 後で合流するから遊んでろって!」

「おいおい、しょうがねえな」

「ハルキー、屋台回ろ! 綿あめできる様子見る約束!」

「……口でいくら説明しても分かってもらえなかったからな」


 車の中で話してたあれか。

 凜々花、ザラメが綿あめになるって事がどうにも納得できなかったんだよな。


「いいぞ、行ってこい。三十分で必ず戻って来いよ」

「おっけーおっけー! ほんじゃレッツらドン!」

「……では、お姉様をもてなしておけよ、立哉さん」


 春姫ちゃんに言われるまでもねえ。

 一人にしちまった舞浜に。

 楽しんでもらわねえとな。


 俺たちは妹コンビに手を振って。

 板の椅子に腰を下ろした。


「ほんと悪かった」

「ううん? 踊り見てたから、楽しかった……、よ?」

「そうはいかねえ。この旅行の間、悲しい思いさせねえって約束してやる」

「…………やった」


 ようやく笑顔が見れたけど。

 まあ、そう言っちまった以上。

 かんざしを何としてでも手に入れなきゃならなくなった。


 でもとりあえず。

 仕込んでおいたネタでこいつを笑わせるか。


 俺は保冷バッグからラムネの瓶を取り出して。

 栓抜きでビー玉を抜いて。


「ほい。祭りと言えばこれだろ」

「くれるの? ありがと……」


 バレねえように平静を装って。

 舞浜に手渡してやった。



 ふっふっふ。

 この日のために、わざわざ入手した面白グッズ。


 そのラムネ瓶で飲めば。

 いちいちふたが閉まるんだ。


 だって。

 ビー玉つっかえさせる窪みがどこにもねえんだからな!



 さあ、舞浜!

 無様に笑いやがれ!



「……うん。冷たくておいしい……、ね」

「あれ?」

「ん?」

「いや、なんでもねえ」


 ……こいつ。

 上品に傾けてるから。

 普通に飲めてやがる。


「しまった! おもしろくねえ!」

「……なにが?」

「いや、お前そのニヤニヤ顔! 気付いてたな!?」

「なにに?」

「なんでもねえ!」


 くそう!

 肩揺すってんじゃねえ!


 そういう笑いが欲しいわけじゃねえんだよ、まったく。


「私も、保坂君にあげる……」

「なにを」

「ラムネ」


 こいつも保冷バッグからラムネ出して。

 俺に渡してきたんだが。


 ネタなのか?

 どうなんだ?


「それ、栓がね?」

「待て! ……自分の栓抜き使う」


 じっくり栓の周りを観察してみたが。

 普通っぽい。


 ならば栓抜きにネタが仕込まれているに違いない。


 わっはっは!

 舞浜、破れたり!


 俺は自分の栓抜きを出して。

 嫌味顔を舞浜に向けながら、ぐっと栓を押し込んだんだが。


「……あれ?」


 こいつ、固いな。

 まるで抜けねえ。


「そ、そうじゃなくて……」

「いやいや! 別に力がねえ訳じゃねえから!」


 うわ、恥ずかしい!


 しっかり瓶を支えて。

 まっすぐ上から……、栓抜きを……。


「あ、あれ? 散々走ってちょっと疲れてんのかな……」

「私が開ける……」

「いや、これ固いぞ? そう簡単には……」


 ぐずる俺から瓶を取り上げた舞浜が。

 くるっと逆さに持つと。


 底の部分をクルクル外して。

 スクリューキャップよろしく外しちまいやんの。


「はい」

「うはははははははははははは!!! なんだそりゃ!?」

「保坂君が買った面白ラムネ瓶と、同じシリーズ……」

「まじか!」


 なんてこった!

 策士、策に溺れるとはまさにこのこと!


 恥ずかしいけど。

 舞浜、楽しそうに笑ってるし。


 恥ずかしいけど。

 結果オーライとしよう。


 恥ずかしいけど。



 ……くそう、恥ずかしい。



 くすくす笑ってた舞浜は。

 そのご機嫌っぷりが伝わって来るほど軽やかに椅子から立つと。


 くるりと振り返って。


「あれ、乗りたい……、な?」


 境内の隅っこ。

 やたら子供たちがいるあたりに目を向ける。


「なんでこんなとこにあるんだ?」


 そこには。

 境内に似つかわしくないシーソーが一台。


 地面についていた側の端っこに。

 舞浜は、嬉々として腰かける。


「だれが相手するって言った。嫌だよ恥ずかしい」

「でも、きっと楽しい……、よ?」


 くそう。

 さっき、こいつに悲しい思いをさせないって宣言したばっかりだし。


 しょうがねえから付き合ってやるか。


 俺の側、浮き上がってるシーソーに手をかけて。

 舞浜を宙に浮かせた後。


 手すりよりも外側に腰かけて。


「よし。吊り合うまで痩せるから、ちょっと待ってろ」

「私も同じだけ痩せちゃうよ?」


 舞浜をくすりと笑わせたところで。

 ふと目に入って来たものがある。


 それは舞浜のさらに向こう側。

 こっちの様子をうかがっている男の子。


 乗りてえのか?

 ……いや。



 ありゃあ、親とはぐれたんだな。



 これほどの人混み。

 迷子なんて幾人も出るだろう。


 不安だろうけど。

 周りに、他の大人も沢山いるし大丈夫。


 今は舞浜の機嫌を取るのが優先だ。


「よっし。俺はどのあたりに座ればいいんだ?」

「五対七だから、中心から71.42857パーセントくらいの位置に……」

「分かるかそんなもん!」


 笑いながら、適当にバランス取れるあたりを尻で探って。

 ゆっくり地面を蹴ると。


 舞浜の側が静かに地面について。

 今度は舞浜が地面を蹴る。


 二度ほど往復したところで。

 男の子のそばにいた大人が騒ぎ出す。


 すると人混みを掻き分けて現れたお父さんらしき人に。

 男の子は、半べそかきながらしがみついた。


 ……この時ようやく。

 舞浜の耳に、後ろの様子が伝わったんだろう。


 こいつはシーソーから下りて。

 親子を見つめて。


 ほっとしたような表情を浮かべた後。


「保坂君……。気付いてた?」

「え? ……いや?」

「……そう」


 俺に、にっこりと微笑んでくれた。



 ……地面に落ちたシーソーにまたがったまま。

 見上げた舞浜の微笑は。



 しばらく見ていなかった。

 仮面の笑顔に見えた。




 後半へ続く!

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