四季再々

涼暮有人

シキ

 どうやら昔、この国にはシキというものがあったらしい。

それは巡り、人々に時には試練を、時には豊穣を与えたという。


 ノードBに住む私は、比較的恵まれた環境で過ごせている。他のノードと比べて、ノードHレベルとまでは言わないがまともな環境設定だ。

平均気温は25℃に設定されており、時々少し誤差が出るくらいで大きな変動はない。


 今日は複数のノードを跨いだ様々なゲームの大会が開かれるらしい。

会場は私の家からほど近いノードCのアミューズメントエリア17。

ゲーム好きな私は会場を知った瞬間に見に行こうと決めた。


 着ていくアバターを決め、家を出る。

「ノードC、アミューズメントエリア17に送って」

機械的な音声が家から帰ってくる。

「権限確認……authorized,転送します。3……2……」

目を閉じて到着の音声を待つ。

どうも私は転送中の光が好きでない。

「到着しました。目的地へのガイドを表示します」

視界に黄色い線が表示され、行くべき道が示される。


 会場に到着すると、そこには多くのアバターが浮遊していた。

ステージでは既にリズムゲームの大会が始まっており、小柄な少年アバターと全身メタリックのアンドロイドの対戦が映し出されている。

アンドロイドの方は動画サイトで見たことがある気がする。

確かメリックという名前だった気がする。

少年の方は初めて見るプレイヤーだ。


 1曲目のスコアは少年が少し上回り、2曲目、3曲目は少年の圧勝だった。

名も知らぬ少年が著名プレイヤーに圧勝する姿に、会場のボルテージは最高潮になった。

少年はステージから消える前に何かに気づいたように私の方を見て手を振っていった。

なんだろう、私のアバターが知り合いにでも似ていたのだろうか。


 そこから格闘ゲームの数戦を見て、私は家に帰ることにした。

人がやっているのを見ると自分もプレイしたくなる性分なのだ。

家に帰ると、通知欄に1件のメッセージが来ていた。

差出人はノードH……H?!

私に最高位ノードに住む友人なんて居ないはずだ。

恐る恐るメッセージを開くと、突然転送の光が私を包んだ。

同時に、家の機械音声が警告を発する。

「強制転送です、動かないでください。繰り返します、強制転送……」

強制転送というのは、ノードHに住む人間にのみ許された、下位ノードの住人を呼び出すシステムだ。

しかし、普通は事前に通知が来るはずであり、今回のように突然起きることではない。

いったい私は何に巻き込まれたのだろうか。

バグなどでないといいのだが……


 長い転送を経て、目を開くとそこは真っ白な空間だった。

ノードH、その名の通り天国のような雰囲気だ。

A〜Fまでのノードとは格が違う。


 部屋の主であろう少女が、私を見て微笑んだ。

私はかすれる声で疑問を口にした。

「あの……私に何の御用でしょうか……」

本来ならばこんな少女に丁寧な言葉を使うことはないのだが、ノードHの住人ともなれば話は別だ。

特権階級の人間に逆らえば何があるかわかったもんじゃない。

「待ってたよ、​──さん。ちょっとこっちに来てくれる?」

少女は私の問いには答えずに私を呼び寄せる。

私が素直に歩いていくと、少女は聞いたことの無い言葉を発した。

「ねぇ、あなた。四季って知ってる?」

シキ……初めて聞くのに、何故か昔から知っていたような気がする。

少女は続けて言葉を発する。

「覚えてるはず、春も夏も秋も冬も」

アキ、ハル、ナツ、フユ。

この言葉も知っている。

唐突に謎の頭の痛みが私を襲う。

私は痛みに耐えきれず、その場に倒れ込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

四季再々 涼暮有人 @sky_February

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る