第9話 変転
振り下ろされた一刀。突き出された一閃。
心臓目掛け繰り出されたその一撃は政宗の紅月に逸らされ彼の脇腹を抉るのみに終わる。
対し政宗の放った渾身の一撃は神槍をも弾くまでに至り、そしてルーの体に確かに一筋の赤き線を刻んだのだ。
「うっ……ぐっ……!?」
予想外の一撃に揺らぐ少女。
傷をその手で押さえるが、その現実を受け入れられないようだ。
「もう……これ以上はやめろ……!!これ以上戦闘すれば君は死ぬ……!!」
「そんな事……構わない……!!」
政宗の制止にも応じず少女は闘志を燃やし、再度その槍を構えようとした。
『悪いけどルーちゃん、それは僕が許可できない』
瞬間、少女の体は止まった。
「ブリューナク……!?」
『彼の言う通りこれ以上は君が死ぬ。プランナーから君は絶対死なせないように命令されてるからね』
少女の体は強張ったまま反転する。
そして振り返る事もなくそのまま立ち去ろうとした。
『ああそうだ』
思い出したように足を止め、その槍が少年に問いかけた。
『君の名前を教えて欲しい』
「え……?」
『別に名前を知った所で何か能力が発動するわけじゃない。ただその妖刀を制御し、ルーちゃんを破った剣士の名前くらい知っておきたいと思っただけさ』
「……」
政宗は戸惑い一瞬黙り込んだが、それでも真っ直ぐな眼差しで口を開く。
「僕は、柊木政宗。妖刀『村正』の使い手だ……」
『政宗と村正……。気弱に見えてその実冷静に確実に勝利を勝ち取らんとする肝の座った使い手と、殺意に満ち溢れているようで己の使い手の技量の容量を鑑み最大限までに引き出す刀剣、僕らと同じくらいぴったりな組み合わせじゃ無いか』
『あ?何ぬかしてんだてめえ!?』
『加えて二刀流の君も悪く無い。もう少し冷静に戦えるようになれば、能力も相まって僕らゼノスの脅威となるだろう』
その槍は冷静に淡々と、同時に少し声を弾ませながら語っていた。
『では、また次の機会を楽しみにしているよ』
あまりにもあっさりとした別れの言葉。
その言葉と共に少女の身体は飛び上がり、遠くへと消えていった。
「逃すかこのや……!!」
悠里が彼女を追おうとした瞬間、みぞおちに刀の柄がぶつけられる。
そのまま悠里は意識を失い、地面に倒れ伏した。
『手慣れたもんだなぁ、政宗』
「もう慣れたよ、このやりとりは……」
全てが終わったことを確認し彼も地面に座り込む。
「政宗!!」
駆け寄る遥。声はまだ震えているが、それよりも焦りの方が強く表に出ていた。
「遥、怪我してない?」
「私は大丈夫だけど……それより政宗の方が……!!」
「そう……だね……藪先生に連絡……おね…が……」
言い切る前に事切れた政宗。
「しっかりして、政宗!!」
戦いが終わると同時、彼の意識は深い闇へと沈んでいった……
—————————————————————
UGN N市支部 屋上
「蒼也!!」
「黒鉄さん!!」
放たれた弾丸。
音が届くよりも早くそれは守りに転じた黒鉄の両腕を貫き、胸部から鮮血が吹き出した。
紫月と宮本の叫びも虚しく、彼の身体が揺らいだ。
だがこの瞬間、宮本は己の眼を疑った。
黒鉄は銃弾を受け、致命傷を受け激痛を負っていたはず。
そうであったにも関わらず、
「黒鉄……さん……?」
彼の口角は、上がっていた。
※
数ヶ月前 UGN訓練室
「あーー、惜しかったなぁ!!」
「稲本さんの動きをもう少し止められればどうにかいけそうだったんですが」
「動きは悪く無かったぜ二人とも。連携をもう少しスムーズに取れりゃ追いつくのも近い事だろう」
訓練を終えた3人。タオルで汗を拭き取っていたその時、宮本はふと疑問が頭をよぎった。
「どうした宮本?」
「いや、稲本さんってめっちゃ強いですけど、黒鉄さんとどっちの方が強いのかって」
「ああーー……」
「確かに興味あります。プロトタイプと稲本さん、どちらも実力としてはかなり上位にいますから」
「まぁー……俺とあいつのタイマンなら互角だな。もしお前たち二人で戦えば恐らく良いところまで行くだろうなぁ」
「あら、意外なこった」
「プロトタイプも所詮その程度なんですね!!」
「お前は嬉しそうだな雨宮……」
答えを聞き感心していた二人。
「ああ、ただ————」
それに付け加えるように稲本は口を開いた。
「部隊同士で奴と戦うなら、俺は絶対に勝てん。というかあいつと部隊同士で戦って勝てるのって戦闘部隊のストライクハウンドくらいじゃねえのか……?」
「え、そんな強いんすか黒鉄さん」
「強いも何も元FHの対UGN部隊の隊長だしな……2手3手どころか4手先まで考えて指揮をしてくるからかなりの強敵だ」
「どうやったら勝てます?」
「んーーー……そうだな……」
※
目の前の光景と同時に、宮本には彼の言葉が再生されていた。
『もしあいつに勝ちてえならあいつのあいつ自身以外の弱点をつけ』
黒鉄は弾丸の勢い故に一歩後ずさる。
『そんで持って隠し玉で一発であいつの意識を飛ばせ』
力なく落ちる両腕が吹き出した鮮血に赤く染まる。
『もし、飛ばせなかったら……?』
その中でその男は————
『実戦なら逃げな。死にたく無かったらな』
「心臓まで3mm……想定内のダメージだ……!!」
『なっ……!?』
笑っていたのだ。
「俺の弱点を狙い俺がそれを庇う、悪く無い狙いだったなレッドバレット。だが、お前が狙うべきは頭だったな」
硬化したアーマースキンの破片が宙を舞う。
それも必要以上に電気を帯びた。
『そうか電磁バリアの一点防御……でもまさか胴体狙いを読んでいたっていうのか……アンタは!!』
「お前は無駄のない男だからな。俺を無力化するならば的の小さい頭ではなく体を狙うと予想できたよ……」
息と同時に血を漏らし、片膝をつく。
そんな傷を負いながらも彼は、
「さあ、逆襲開始だ……!!」
闘志をその目に宿していた……
続
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