第2話 日常
14時頃 ショッピングモール
昼飯時は終わり、人の賑わいがより盛んになっていた。
「これ、アレクシアさんに合いそうですよ!」
「これに、このアクセサリーも加えたらどうかしら?」
「これ、私の髪の色でも映えますね!」
「紫月さん、あの……私の服も見てもらってもいいですか……?」
服屋にて和気藹々と服を物色するアレクシア、真奈、紫月、そして雨宮の4人。
「いやぁ……平和なのはいい事ですなぁ……」
「隣にいるのがお前でなければな。」
そして二人は、フェンスにもたれかかれながら遠目からその様子を見届けていた。
その両手に紙袋を持って。
「いや、デートの邪魔したのは悪かったって本当……」
「それに関してはお互い様だ。お前が謝ることではない。ただお前が隣にいるから苛立っているだけだよ。」
「許すのかキレるのかはハッキリしよう?」
二人はいつものようにココアシガレットを口に咥える。
「で、お前なんでN市にいるの?仕事だとは思うけどさ。」
「その通りだ。分かってることを聞くんじゃない。」
「内容については聞いてねえのかって話だよ。」
「いいや。だが概ねお前も呼ばれたということはそれなりの内容だろう。」
「仮にも霧谷支部長直属の俺と、同じく直属のイリーガルのお前が呼ばれるとはそういう事だろうな。」
二人は納得した様子を見せ砂糖菓子を奥歯で砕く。
「っても、お前ちゃんとこうやって休み取って真奈ちゃんや紫月との時間作ってたんだな。」
「そもそも俺はフリーランスだ。時間は作ろうと思えばいくらでも作れる。」
「でもお前一応霧谷さん直属のイリーガルだろう。」
「幸いこういう面では融通が効く上司でな。今の所お前と組むことが比較的多いこと以外はいい職場だ。」
「ねえ、なんで喧嘩売るのねえ??」
稲本は握り拳を作り黒鉄にガンを飛ばすが、彼は全く持って気にせずココアシガレットをかじり続けていた。
「あの、稲本さん……どうでしょう?」
そんな二人の前に衣装を変えて現れたアレクシア。
「す、凄くかわ……綺麗だよ……」
思わず見惚れた稲本。あまりの綺麗さ目のやり場を失い明後日の方に目を向けた。
「真奈ちゃんと紫月さんに選んでもらったんです!」
「アレクシアさん、スタイルもいいからどのお洋服も似合うから悩んじゃって……」
「でも彼女の髪に合うアクセサリーを考えればこれ一択と思ってね。」
後ろから新しい服に着替え出てきた真奈と紫月と雨宮。
「……似合ってるじゃないか、3人とも。」
黒鉄は相変わらず表情を変える事なく言葉を発した。
「あら、それくらいしか言えないの?」
「レディに失礼ですよ、兄さん!」
「……それに貴方に褒められても嬉しく無いですよ、プロトタイプ。」
「酷い言われようだな黒鉄。」
ケタケタと笑いながら言い放った稲本のみぞおちに一撃。
「〜〜〜〜〜っ……」
「気分を害したなら謝ろう。ただ、これでも覚えたての感情を抑えるので精一杯なんだ。だから、包み隠さずに言えばだな————」
彼は顔を逸らし、小さな声で付け加えた。
「え、聞こえなかったんだけど、兄さん?」
「蒼也、目を逸らさないで。」
「……素直に言えばいいのに。」
言い寄られるも頑なにそれ以上口を開かない黒鉄。かろうじて聞こえていた稲本は口を開いて笑い、しっかりと聞いていた雨宮は苦々しい、とても不満げな表情を浮かべていた。
「全く、騒がしいったらありゃしねえな。」
「でも、こういうのも時には悪くないですね。」
「ああ、最高だ。」
稲本とアレクシアは笑顔で顔を向かい合わせた。
「それで稲本さん、黒鉄さんは紫月さんになんて言ってたんです?」
「っとだなぁ————」
稲本が続けようとした瞬間、携帯が鳴り響く。それも稲本、黒鉄の二人のだ。
「…………っと、有給ちゃんと取ってたってのに。」
「これだからUGNは嫌いなんだ。」
二人は新しく増えた荷物を手に、もたれかかったフェンスから体を起こした。
「すまない紫月、真奈。この埋め合わせは必ず。」
「…………」
「アレクシア、本当にごめん!!」
「わかってますよーだ。稲本さんが忙しいのは。」
二人は申し訳なさげに頭を下げ、足を運んだ。
不服そうな顔で肩を並べ歩く二人。
「……ったく今回の任務が極秘とは言えよ、有給に被せてくるとは酷えもんだな。」
「全くだ。」
「でもまさかお前があんなこと言うとは。」
「……あの電話に感謝するんだな。アレがなければお前の脳漿をあの場にぶちまけていた。」
「『抱き締めたいほどに愛おしい』、なんてお前が言うなんてねえ。ちゃんと紫月に言ってやりゃ良かったのに。」
「ちゃんと後で伝える。口籠ったお前とは違ってな。」
「悪かったな!?」
二人はバイクのキーを取り出し、荷物をシートの中へと入れた後にエンジンに火を灯した。
「さて、向かいますかね。懐かしのN市支部へ。」
「ああ。さっさと終わらせよう。」
スロットルの回転と共に二台のバイクが鳴動する。
白煙は空に上り、空の青に溶けていく。
二人の走り去る痕跡を、ほんの少しだけ残して。
—————————————————————
UGN N市支部 支部長室
本棚に納められた本の数々と、整頓されたデスクには最低限の書類とPCが。
「久しぶりだね二人とも。」
そしてデスクの主人、雲井相模が二人を待っていた。
「ご無沙汰です支部長。支部長もご健勝で何よりです。」
「お久しぶりです、雲井相模支部長。このような形であれどまた会えたこと、光栄に思います。」
「相変わらずで何よりだ。二人とも、急な仕事を受けてくれて助かったよ。」
雲井は二人に礼をすると、書類を手渡す。
内容は薄く簡潔にまとめてあり、最初のページには機密の印が押されていた。
そして資料を元に開始されるブリーフィング。
内容としては単純な物だ。ある物資を日本支部へヘリで輸送する。その間の護衛が彼らの仕事。言ってしまえばただの軽微だ。
たった一つ、
「まさか、積荷が黙示の獣事件関連とはね……」
その積荷が異様な物であるということ以外は。
「君ら二人はよく知っていると思うが、あの地下研究所は爆破され何も残っていないと思われていた。」
「よく知ってるも何も爆破したの俺の隣のやつですし……」
「だが、中からこれが発見されてね。」
資料の中に記載されていたもの。
それは、黙示の獣のアンプル達。
「僅かではあったがこれはFHや各種組織とのミリタリーバランスを崩しかねないものだ。これを確実に日本支部本部に送り届けるため、君達には個別に動き尽力して貰いたい。」
「了解です。」
「了解した。」
「それと君らと紫月君ら正式なエージェント達以外には基本的には内容物については秘匿にし、周辺のパトロールの任務を頼んでいる。その辺に関しても頼んだよ。」
ブリーフィングは終わり、二人の書類は回収されシュレッダーにかけられた。
「以上だ。明日は頼んだよ。」
二人は礼をし、部屋に出て行こうとした。
直前、
「支部長、仮想戦闘シミュレーターを借りてもいいですか?」
「構わないが……」
「ありがとうございます。」
稲本は改めて礼をし、部屋を出て行った。
※
そしてその数刻後、二人は模擬戦闘室にて相対する。
「ったく、何故俺がお前の模擬戦に付き合わなければならないんだ。」
黒鉄は不服そうにしながらもストレッチをし準備を行う。
「ほら、アイツらは今お茶してて夜まで合流できないし、明日の為に一度慣らした方がいいし、それに—————、」
稲本は不敵な笑みを浮かべながら、
「UGNに呼び出された鬱憤を晴らすには丁度いいだろ?」
その左手に一刀を生み出した。
「お前にしてはいいことを言うじゃないか。」
黒鉄も目は睨みながら、口角を上げその右手に雷を宿す。
「よし、始めようぜ。」
「ああ。」
瞬間、二人の顔から笑顔は消える。
刹那の時の後、甲高い硬い鉄の音だけが空間に鳴り響いていた。
続
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