第37話 最低な世界6

 深夜。寝静まった頃。

 ルカとギギはニアのいる屋敷の前にいた。

「さて、始めるか、ギギは留守番宜しく」

「分かったでしゅ」

 ルカは腰に銃を下げ、身軽に動き、二階のたまたま開いていた窓から、屋敷に入った。

(ここ、ニアの部屋だったんだ~)

 たまたま入った部屋がニアの部屋だった。

(可愛いな~)

 寝返りをうつニアを、覗き見た。

(おっと、仕事しないと)

 音をなるべく立てず、他の怪しい部屋探した。

 そして、ニアの部屋から一番離れた場所に、その怪しい部屋があった。

 ルカは気配を消し、会話を聞いていた。

『ニアがまさか、ここに……』

 ニアの父が言う。

『あなた、どうします?』

 ニアの母が困っている。

『まあ、理解して貰うさ。これでな』

 黒々とした小さな水晶を見せた。

『本気ですか?』

『ああ、力を手に入れれば、ニアも分かる。力を欲する為に魔界に来た我々の理解も得られる』

(違法装置か)

『魔界は凄いな。埋め込みに行くぞ』

(やべっ)

 ルカはとっさに、隣の部屋に入った。

 扉が開き、ニアの両親が部屋を出た。

「どうやら、また、ネズミが入って来たようだな。まあ、いい」

 二人はルカに気付いていた。

(って、なんだよこれ)

 ルカは嗚咽を口で抑え堪えた。

 人の肉片や骨が転がっている部屋を、見てしまった。

(ニアが危ない)

 ルカは窓から出て行き、ニアの部屋に向かった。

 ニアの部屋にまた窓から入った。

「ニア」

 ルカは優しく起こした。

 しかし、目を覚まさない。

「よし、こうなったら……」

 ルカはニアの唇に自分の唇を、持って行った。

「なにやってるスケベ魔王」

 ニアのパンチがルカの顔面に入った。

「あたたたっ」

「って、ルカ。なんでいるの?」

「しー。話は後でする。それより……」

『やはり、止めません?』

『もう、後戻りは出来ない。止めるな』

 扉が開き、ニアの寝ていたベッドに銃口を向けた。

「いない。そこか」

 窓の方に銃口が向けられた。

「娘に銃向ける何て、とんでもない親だな」

 ルカはタバコをくわえ、火をつけた。

「ほう、ネズミが娘を庇うとは、長生きしないぞ」

「生憎、俺は可愛い同行人を見殺しにしてまで、長生きはしたくないな」

「ほう、では、お前が連れて来たのか」

「まあな」

「お父さん。なんで」

「なんで? そうか、そこの男から何も聞いて無いのか、苦痛は一時、その後は快楽に変わるそれを教えたかった」

「どういう事よ」

「ニアの両親は、違法装置をニアに取り付けようとしたのさ。銃で弱らせ、その装置を付ければ、魔族並みの回復力が得られる。しかし、人から外れ魔力に飢えて人を襲ってしまう、そんな副作用がある。自分だけじゃなく、娘にまでそんな事するなんて、信じがたい話だがな」

 ルカはニアを庇う体制を取り続けていた。

「なんで?」

「俺に聞くな。俺はその違法を止めに来ただけだ」

「何処の狗ですか? ポリスですか? 何処かのマフィアそれとも……」

「ギルドだよ」

「とうとう、あそこが動きましたか、しかし、それにしては、役不足な相手ですね。こんな人間がやってくるとは、随分、舐められた物だ」

「人間か、まあ、いいや」

 ルカはあえて、魔族の血が流れていることを言わなかった。

「こちらはあまりよくないのですが、まあ、いいです。あなたを倒してからニアに埋め込めばいい」

 黒い装置が光り出し、ルカの倍の大きさの、魔物となった。

「くっ、やるしかないのか? ニア、俺は出来る事なら、戦いたくない。頼む説得してくれ」

 ルカは銃を構えた。

「うん。分かった」

 ニアは頷いた。

 ニアの父はその持っていた無数の触角で、ルカに攻撃した。

 ルカは避けながら、銃を撃ち魔物に当てた。

「そんな攻撃効かん」

 食い込んだ弾を弾き、弾を落とした。

 弾の跡が修復された。

「ちぃ」

「お父さん止めて」

「ニア。この男がたぶらかしたのか?」

「違う。ルカはそんな事はしていない!」

「副作用には、妄想もあるのかよ。俺はそんな事してねーよ」

 ルカは舌を打つ。

「黙れ。ニアに手を出したクズが」

 触角がルカの足を絡め、近くの壁まで飛ばし、更に触角でルカを襲った。

 ルカは壁に強く叩き付けられ、一瞬意識が遠のきそうな所を堪え銃を剣に変え、触角を切って攻撃を回避した。

「クズか、正直、俺はニアをたぶらかしたかったが、ニアが俺を友人以上に見てくれなかったんだ。そんな子をどうこうする程、教育が悪かった訳じゃないし、俺もモテない訳じゃない、なにより女に困ってもいないよ」

「じゃあ、私へのセクハラ行為を詫びれ! スケベ魔王」

 ニアが怒った。

「それはそれだ。可愛い子は、からかいたくなるんだよ」

 ルカは惚けた。

「後で、殴る!」

 ニアは拳を作っていた。

「そこまで、ニアと親しくなるとは、やはり、生かしておく訳にはいかないな」

「親バカなのか、妄想なのか、はっきりさせてくれないかな~?」

「余裕でいられるのも今の内だ。おい、変身しろ」

 ニアの父親は母親に指示した。

「ええ」

 ニアの母親も姿を変え、羽が生え妖精のような身なりの魔物となった。

「お母さんまで、止めてよお母さん」

 ニアが叫ぶ。

「いいえ」

 ニアの母親はルカの元に一瞬で向かい、伸びた爪で攻撃してきた。

 ルカは瞬時に剣で受け止める。

「あんたら、他人の俺が言うのもあれだが、娘の気持ち考えた事あるのか?」

「ええ、だから、村に置いて行ったのよ」

「彼女がどんなに寂しかったか、分からないのか?」

「ええ」

「だったら、なんで」

「もう、後戻りが出来ないからよ。あなたには分からないのよ。この体と力の意味と凄さを、人間にも必要なの」

「生憎、俺はそう思わねーな」

 ニアの母親の腹部に蹴りを入れた。

「言っとくが今のあんた達は化け物以外のなに者でも無い。彼女はそれを望んでいたとも思えない」

「魔力の凄さも分からない人間が何を言うか」

「凄さならあんた達より、充分分かっているつもりだ。俺は生まれた時からずっと力を持った人間なのだから」

 ルカの左目が赤く染まった。

 暗い闇夜も、ルカの瞳は赤く見えた。

「俺は魔族の三世クォーターだ」

「なんだと」

 ニアの父親は驚いた。

「そんな、悪魔」

 ニアの母親は畏怖の念でルカを見る。

「俺のこれは、今のあんたらとそう変わらない。人間からしたら、それは異端視される。それでも力が欲しいなら、勝手にすればいい。だけど、ニアに同じ事をするな。彼女は化け物になるのを望んでいない。いくら親でも娘の自由を奪う権利は無いはずだ!」

「ルカ」

「くだらない。娘が力を望んで無くとも、娘はここにいる」

「親に会いたかったからだろう。何故踏みにじる」

「魔界がどんな所か知っていて、ここにいるのは、力を手に入れる為」

「違う! ニアはそんな子じゃない」

「お前になにが分かる」

「少なくとも、あんたより分かるつもりだ」

「どうやら、いくら話をしても無駄のようだ。やれ」

 再びニアの父親は、ニアの母親に命令する。

 しかし、動こうとしない。

「どうした?」

「もう、止めにしましょう。ニアだって嫌がっている」

「怖じ気づいたのか?」

「それは……」

「なら、いい」

「えっ?」

「マズい」

 ルカが素早く反応して、ニアの両親の所に向かう。

「さようなら。我妻よ」

「止めろ」

 ルカが剣を振るう。

「男、隙だらけだぞ」

「しまった!」

 複数の触手が伸び、ニアの母親の体を巻き、そして、ルカの手足を縛り付け、剣を奪い、ルカを壁に叩きつけた。

「うっ」

 ルカの目は元に戻り、体の自由が利かなくなった。

「これで、少しは大人しくなるだろう。では、まず、お前からだ」

「止めろ」

 ルカの言葉が虚しく響く。

 ニアの父親はニアの母親をその大きい体を使い、食らった。

「嘘」

 ニアは息を飲む。

 食らいつくすと、骨と僅かな肉片を落とした。

「お母さん」

「やっぱり、あんただったか、あの部屋にあった死骸の山は」

「ああ、そうだ。こいつは、喰らう事を恐れた。喰らえば、更に魔力が蓄えられ、力が入ると言うのに」

 骨を踏み潰した。

「酷い」

 ニアは無残な母親の姿を見て、泣き始めた。

「あんた、究極の外道だな」

 ルカはなんとか立ち上がった。

「ほう、これでもまだやると言うのか」

 ニアの父親は一周り、いや、二周り大きくなり、ルカの前に立つ。

「ああ」

 ルカは触手を腕の力で引きちぎった。

「大した魔力も無いお前が、この剣が無ければ、なにも出来ないようだしな」

 ニアの父親は剣も吸収した。

「ちぃ」

 ルカは再び舌を打つ。

「さあ、どうする?」

「ニア、決めてくれないか? 俺はどうすればいい。どうすれば、俺はニアに嫌われなくって済む?」

 ニアは放心状態となり、話を聞いていない。

「ニア! くっ」

 ルカは一瞬、胸に手を当てたが、それを止め避けながら、武器になりそうな物を探した。

「どうした。魔族なら、炎の一つでも出してみろよ」

(出来たら、とっくにやっとる)

 魔力を形にする役割の剣が無く、スレスレの所で避ける事しか出来ない。

三世クォーターも無力だな。悪魔のくせに」

「そりゃどうも、生憎、言われなれているんでね」

「本当に無力だな」

 鋭くなった触手がルカの頭を襲った。

 ルカは避けきれず、それを手で止めようとしたが、速すぎて止められず、ルカはとっさに左腕を出し、左腕を犠牲にして、急所をかわした。

「うっ」

 血が流れ出た。

「やはり、大した事無かったな」

 沢山の触手が飛んできて、ルカを襲った。

 ルカは頭と胸を腕で守っていたが、それ意外の場所は体を貫き、切り傷だらけになった。

「うっ」

 ルカは膝をついた。

 その隙をつき、ニアの父親はルカの触手に体を巻き付けられた。

「なあ、ニア、どうしたらいいんだ?」

「私は……」

 血まみれのルカが、必死にニアに問いかける。

「どうするって……」

 ニアも困っている。

「あの世で後悔しろよ」

 ザシュ

 ルカは体を貫かれた。

「ゴホッ」

 口から大量の血を吐いた。

 ニアの父親は一気に触角を抜くと、夥しい量のルカの血が、一気に落ち、首を倒しルカはそのまま意識を無くした。

「きゃぁぁぁ」

 ニアは叫ぶ。

「ギルドも大した事無かったな」

 ルカを放すと、ルカは倒れ込み、大量の血が流れ出た。

 ルカはそのまま動かなくなった。

「哀れな最後だったな。こんな奴の魔力なんざ、吸う価値もない」

「ねえ、ルカ」

 ニアは揺さぶりをかけたが、反応が無い。

「嫌よ。そんな」

「さあ、ニア。初めようか」

「お父さん、どうして……」

「それも、すぐに分かる。さあ、始めようか」

 ルカを跨ぎ、ニアに徐々に近付く。

「来ないで」

 ニアは後ろに下がり逃げていたが、追い込まれた。

「さあ」

「嫌よ」

 ニアはルカの言葉を思い出した。

『俺はどうすればいい?』

(ルカは、私がいるから、本気を出せなかったの?)

「ルカ。お願い。お父さんを倒して!」

「死んだ男の名前を、哀れだな」

「哀れなのは、お前だ」

 後ろにいたルカがゆっくりと立ち上がった。

「ニア。いいんだな」

 ルカの血が、また、大量に落ちた。

「ええ」

「ああ、分かった。ニアの覚悟俺が受け止めた」

「この、死に損ないが」

 振り向き、攻撃を仕掛ける前にルカは左胸から、銃を取り出し胸に撃った。

「そんな攻撃。効かなっ、なに、体が修復しない」

 ニアの父親は動揺を隠せない。

「当たり前だ。俺が撃ったのはエクソシストの銃だ」

 月明かりがルカを照らし、真っ白い銃が現れる。

「俺はお前を倒せなかった訳じゃない。倒して、ニアが俺を嫌うのが、嫌だっただけだ」

「なんだと、こんな弾取り除けば」

「そんな事しても、お前は助からない。いや、助けない。床を見ろ。俺の血で真っ赤に染まっている。いい事教えてやろう。エクソシストの銃はその白き銃より意味があるのは弾の方だ。こいつには仕掛けがあってな。弾には魔を討つ者の血が混ざっているんだ。お前らが呼ぶ勇者のな。その血が魔物の体内に入り込み、反応が起こる。銃はその起爆剤に過ぎない。撃った銃は周りの血まで反応する。つまり、この流れ出た血や、お前が浴びた血も一緒にお前を打ち倒す」

「そんなバカな」

「バカなのはお前だ。ニアに謝れ!」

 ルカが言い放つと、ニアの父の体が一気に真っ赤な結晶に覆われ、結晶はすぐ砕け散った。

「お父さん」

 化け物から人間に戻り倒れた所に、ニアが向かった。

「魔族や魔物、魔に完全に支配され、人の原型を留めていない人間は肉体残らねーが、まだ、人間としての魔が支配されていなかったから、その姿に戻ったんだな。だが、もう……」

 ルカは落ちていた剣を拾い、ゆっくりと、その場から立ち去った。

 ニアは沢山の涙を流し、その最後を見届けた。


 ルカの足取りはふらつき、立っているのがやっとだった。

 剣を引きずり、ただ、何処行くあてもなく、屋敷から離れたく、歩いている。

(原因はどうであれ、俺はニアを泣かしてしまった)

 しかし、限界はすぐに訪れた。

 ルカはゆっくりと倒れ込み、地面に叩き付けられそうになった。

 しかし、その前に、ルカを優しくキャッチした者がいた。

「ご苦労だったな」

 ゼブルである。

「……当たり前だ。こんなくだらない事で死んでたまるか、もう、こんな事……二度とゴメンだ」

 薄れゆく意識の中でゼブルに悪態をついた。

「それだけ、この僕に文句が言えれば、上出来ですよ。ギギ」

「はい」

「ルカをギルドの医務室に」

 ゼブルはルカを優しく担ぎ、人の姿となったギギに渡した。

「分かりました」

 ギギは漆黒の翼を広げ、飛び去った。

「さてと、僕は」

 ゼブルはニアの屋敷に入った。

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