第35話 最低な世界4

 ルカとニア、そして、ギギはロビーでお茶をしていた。

「それにしても。なんで、そんな質問したの?」

 ニアはショートケーキの苺を口に入れた。

「ああ、それね」

 ルカはまだ、落ち込んでいる。

「何時まで落ち込んでいるでしゅ」

 ギギが突っ込んでいた。

 ギギの所にも、チーズケーキとコーヒーがあって、羽を使い器用に食べている。

「だって~」

 ルカはチョコレートケーキを、フォークで刺した。

「だから、どうしてよ?」

 ニアが少し苛立ち声を荒げた。

「俺のじーちゃんや、ルシアオジサンは、結婚して子供いるだろう?」

 ケーキを口に入れた。

「ああ、確かに」

「ゼブルオジサンは、まだ独りなんだ。それを気にしているんだよ。そんな中、一/一〇位しか、生きていない、俺が女引き連れて来たら日には、嫉妬するんだよ」

「で、あの質問ね」

「同行人と言ったから、一時間で許可が下りる事になったが、もしも、付き合っています。何て言っていたら、二日は魔界に入れなかったよ」

「なんで、そんなにかかるのよ!」

「知らねーよ。ゼブルオジサンが、ギルドの長の一人で、ハンコ捺すのもオジサンがやるから、早いもんなんだが、俺に女がいるのが、そーとー、気に入らないみたいなんだよ」

「あの人は子供かい!」

「まあ、実際、ああ見えて、一番子供なのは、あの人だと思うよ」

 ルカは紅茶に砂糖を、二個入れてかき混ぜた。

「そうなの?」

「だってよ。考えてもみろよ。一度も結婚して無いんだぜ。二百年以上生きているし、このご時世、人間や魔族と結婚するなんて、しようと思えば簡単だろう? 大体理由を、女性のせいにするような人だし『僕はしっかりしています』なんて言い始めてさ~。俺だけじゃない、孫がいるじーちゃんや、子連れのルシアオジサンにも嫉妬するなんて、ガキじゃん。まあ、だから、相手見つかんないだけどな。それに、オジサンその事気にし過ぎだし……」

「悪いな。気にしていて」

 ルカの背後からもの凄い殺気がした。

 ルカは寒気を感じながら、後ろを向いた。ゼブルがいる。

「やあ」

 ルカは愛想笑いをした。

「しばらく会わない内に、随分態度が大きくなりましたね。僕をオジサンと呼ぶなんて、なに様ですか?」

 怒っている素振りは見せていないが、威圧感は感じる。

「いや、それは、そうだ。言葉のあやだ」

 ルカの目が泳いでいる。

 ゼブルは怒る時は、無表情に人を見る。

 それが返って怖かった。

 眼鏡を指で上に上げ、ルカをじっと見る。

「そう。まあ、いいです」

 ゼブルはニアを見た。

「ニアさん。この資料を読んで下さい。もし、よければ、サインもお願いします」

「あっ、はい」

 ニアは受け取った。

「サインを書いたら、受付に渡して下さい。場所はそこのバカガキが、知っていますので聞いて下さい。それでは」

 ゼブルは歩き去った。

「はあ、なにもされなかった」

 ルカはホッとして、ケーキを見ると見事に無くなり、蝿が一匹飛んで行った。

「やられた。あの蝿!」

「ルカ、どうしたの?」

 ニアが聞いた。

「ゼブルしゃんの分身が、ルカしゃんのケーキを全部食べたんでしゅ」

 ギギが説明した。

「そんな、いつの間に!」

 ニアはケーキが跡形も無くなった、ルカの皿を見た。

 確かに、ゼブルが来る前まであった。

「蝿はゼブルの一部で、蝿にこの位の芸当は簡単に出来る使い魔だ」

「ゼブルしゃんは、蝿の王と呼ばれる魔王でしゅ。本来の姿は、巨大な蝿と言われているでしゅ」

「言われていない。真実だよ。俺見た事あるもん。ガキの頃一度だけな。俺はその背に乗ったよ。それがそーとー気に入らなかったのか、今はなろうとしないな」

「へー」

「なん度も言うが、魔王が魔王たる所以はその力、故恐れられているから、ゼブルオジサンだって例外じゃない。まあ、ケーキを蝿の分身に盗み食いする辺りは、魔王らしく無いがな」

「確かに」

 ニアもその意見には、賛成だった。

「んで、大半の魔王は本来の力を、自ら封じているんだ。これも、時代の流れだな。ゼブルオジサンが、巨大な蝿の姿を捨てたのも、そんな理由だ」

「じゃあ、他のルシアさんや、メフィストさんも力を封じているの?」

「まあな。最も、ルシアオジサンは逆に、魔力を遣ってるけどな」

「遣っているって?」

「武器だよ。魔力を持たない。刃物に魔力を付与するには、力を直接入れる方が、手っ取り早いんだ。そうやって、ルシアオジサンは力を、捨てている訳」

「じゃあ、メフィストさんは?」

「じーちゃんは、胸に弾を入れたんだ。只の弾じゃない。勇者が撃った弾をな。こいつを取る事が出来るのも、勇者だけだ」

「でも、撃たれた魔族は魔に反応するんじゃないの?」

「ああ、でも、手加減したとか、しないとか。ばーちゃんがやったから、そこは分からない。だけど、さしで戦ったら、どの魔王よりも弱いのは分かる。まあ、それを望んだのは、じーちゃん自身だけどな。それでも、人間には負けないから、魔王の地位は保っているんだよ」

 ルカは紅茶を飲もうとした。

「そうなんだ」

「辛っ!」

 ルカは大きく、咳をしていた。

「忘れてたでしゅ。ゼブルしゃん。タバスコを大量に紅茶に入れてたでしゅ」

「あの蝿!」

 ルカの声が響いていた。

(本当に一番子供ね)

 見た目は大人だが、メフィストやルシアよりよっぽど、子供であった。

 ニアは残念なルカを見て、ため息をついた。

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