第31話 最凶な悪魔7

 ルカは夕飯前には戻って来た。

 その時には、ギギの言った通り、いつものテンションに戻っている。

「頂きます」

 夕飯を前にして、ルカは両手を合わせた。

 隣にニアも座っていた。ニアはルカの顔色を伺っている。

「どうした? ニア」

「いや、何でもない」

 さっきの事を忘れているかのように、ルカは振る舞っていた。

「ギギちゃん。可愛いよ~」

 ラグがギギをぬいぐるみのように接していた。

 ラグはギギを凄く気に入っている。

「止めるでしゅ~」

 ギギは飛ぼうとしたが、ラグが抑えて飛べなかった。

「こら、お行儀悪いぞ。後にしなさい」

 ルシアがラグを注意する。

「は~い。ギギちゃんここにいて」

 ラグの隣にギギを置いた。

「凄く逃げたいでしゅ」

 嫌な顔をして呟いた。

「ギギ」

「分かっているでしゅ」

「そうか、それは良かった」

 ルカはお肉を口に入れていた。

「うん、美味い」

 ルカはどんどん食べて行った。

 どう見ても、さっきの事を忘れていた。

 ニアはそれ所では無かったのに。


 食事を終え散々遊び、ニアとルカは部屋に戻った。

 ちなみに、ギギはラグに連れて行かれた。

 ギギがなかなかここに来なかった理由も、ニアは分かった。

(どうしよう)

 また二人になるとは、思わなかった。

 ニアに変な緊張感が襲っていた。

「どうした?」

 二人っきりの部屋でルカはお酒を飲んで、ほろ酔い気分となっている。

「いや、ってか、なんで同じ部屋なのよ!」

 この屋敷、無数に部屋があった。

 バラバラの部屋でもいい位だ。

「ああ、俺が頼んだ。いいだろう? いつも一緒なんだし」

 経費削減と言うか、ニアの経済力では、相部屋が妥当で仕方なく一緒の部屋にしていた。

「よくないわよ」

(お前は私の彼氏か!)

 今日程嫌な日は無かった。

「まだ、怒っているのか?」

「別に」

「じゃあ、俺がまた襲うと思っているのか?」

「それは」

「襲って欲しいなら襲うよ~♪」

 ルカはニアに向かって、抱きつこうとした。

「だから、それは止めろ!」

 ニアは素早くルカの腕を掴み、床に叩きつけた。

「あたたたっ、効く~」

「全く」

 ニアはルカから離れた。

「あんたは、ちょっとデリカシーってもんも考えなさい!」

「だって~」

「だってじゃない。ほら、座りなさい!」

「はい」

 ルカはイスに座ろうとした。

「そこじゃない。床よ」

「はい」

「正座ね」

「ううっ」

 言われるがまま行動した。

「大体、あんたは、テンションが可笑しいのよ」

 ニアはルカの正面に、イスを持ってきて座った。

「何処が?」

「質問しない!」

「はい」

「あんたは、いつもそう。少しは女の気持ちも考えなさい!」

「だって~」

「だってじゃない。あんた、誰かとお付き合いした事無いの?」

「それはある。でも、なにも言われなかったよ」

(付き合った事、あったんだ)

 こんなどうしようも無い男と、付き合う女性を見てみたかった。

「んじゃあ、旅を一緒にしている私は言うけど、もっと相手の気持ち、私やギギちゃんの気持ち考えなさい!」

「充分考えていると思うんだけどな~」

 ニアがルカの頭を殴った。

「何処が考えているのよ。じゃあ、もっと、もっと考えなさい。無神経な分もっと努力するの!」

「はあ……」

「はあ、じゃない。はいよ!」

「はい」

「まあ、あんたを怒らせたのは、私も悪いと思う。でもね。私はあんたが心配なの」

「えっ、心配してくれているの嬉しいな~」

「そりゃ、連れて行って貰っているんだし、何かあったら困るのよ。だから、当たり前よ。だけど、本当にそれだけよ」

「うん。それだけでも嬉しいや。ニア。ありがとう」

 ルカは満足げに、酒とグラスを持った。

「んじゃあ、おやすみ」

 扉を半分開けた。

「ちょっと、何処行くのよ」

「ルシア兄さんの所。俺、そっちで寝るよ」

「ちょっと」

「一人がいいんだろう?」

「そりゃ、まあ」

「どうせ、俺、ルシア兄さんの所で、飲むつもりだったしね。ニアが俺の事、最悪に嫌って無いのを知ったし、ありがとう」

 ルカはそう言い残し、部屋を出て行った。

「なによ。それ、全くワガママ何だから、もう少し、考えなさいよ」

 独りになった部屋を見た。

「寂しいじゃない」

 ニアは一人うずくまっていた。



 次の日の昼過ぎ。

 街の外れにルシアとバイクに乗ったルカ、ニア、ギギがいた。

「もう、行くのか?」

 ルシアは名残惜しいのだ。

「ああ」

「もっとゆっくりしていけば、いいのに」

「いや、そうしたいんだけど……」

 ルカはギギを見た。ギギに元気が無かった。

 昨日散々ラグに付き合わされ、全身が筋肉痛になって、動きがいつもより鈍く元気も無かった。

(どんな事されたんだろう?)

 ニアには想像出来なかった。

「これ以上ここにいれば、ギギが暴れ出しそうだからな」

 暴れ出してもルカには、どうという問題は無かったが、被害が出ては困るのだ。

「そうか、残念だ。まあ、また来いよ」

「ああ、また、ゲーム集めて行くよ」

「楽しみにしてる」

 ルシアはニアを見た。

「ニアちゃん。これ、プレゼント」

 ルシアは指輪をニアに渡した。

 赤い宝石が一つ着いた、指輪である。

「それは特別な指輪だ。持って行ってくれ」

「いいんですか?」

「ああ」

 ニアの耳元で話した。

「武器を持ちたくない気持ちも分かるからな。これは護身用だ。その指輪は、持ち主を守る。ルカを頼むよ」

(ルシアさん?)

 ルシアの言葉の意味を、理解する事が、なかなか出来なかった。

「行くぞ」

「ええ」

 ルカはバイクを走らせた。

「さようなら」

 ニアはルシアが見えなくなるまで、手を振った。

 ルシアも、二人と一匹が見えなくなるまで、手を振っていた。

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