第30話 最凶な悪魔6

 ルカとニアは、広い庭にいた。

 ルシアが他の仕事があったので、外に出たのだ。

「いやー、凄かったな」

 ルカは庭でタバコを吸いながら、バイクいじりをしていた。

 ルシアが武器を精製する姿を見て、ルカが感想を述べた。

「ええ、まあ、ねえ、ルカ」

「なに?」

(やっぱり聞こう)

 ニアは勇気を振り絞り話した。

「ルシアさんから子供の頃の事聞いたの」

「へー。で?」

「で、って、まあ、それだけだけど」

 ニアは口を閉ざした。

 ルカはそんなニアに気を利かせ、逆に話し始める。

「まあ、俺に両親がいないのなんか、気にしちゃいないしな。俺、恵まれているから」

 ルカはタバコを灰皿に入れた。

「じーちゃんもルシア兄さんも嫌いじゃねーからな。いい人が周りにいたから、済んだのかもな。で無かったら、今頃、白の戦士団辺りに入って、魔族か、あるいは人間か駆逐してたかも」

「そんなの」

「有り得ないって言えるか? 俺は母さんの最後の言葉を一語一句覚えているんだよ。幼少の記憶は殆ど無いが、それだけは今でも、はっきり分かる。じーちゃんは病死と言っていたが、その事でかなり気を利かせていたんだよ」

「そんな」

「母さん。自分がハーフである事、それによって人間に襲われた事、相当、恨んでいたからな。そのガキだ。ひねくれても可笑しく無いよ」

「悲しく無い?」

「悲しいよ。だけど、今更泣く事でも無いし、そんな逆恨みをしても仕方ないだろう? 母さんは戻って来ないし、じーちゃんの気持ちを、踏みにじりたくも無いしな。だからかな~じーちゃんを恨んでいても、殺す気になれないんだよ」

 ルカはバイクいじりを止め、もう一本吸い始めた。

「恨むって?」

「じーちゃんも俺を恨んでいるよ。これはじーちゃんが話したから本当の事だ。俺がいなければ、じーちゃんは母さんを失わずに済んだし、じーちゃんがいなければ、母さんは悲しまずに済んだ。だけどさ~唯一の肉親同士でそんな事をするのは、ただ、見苦しいからな。じーちゃんは俺を恨まず、愛情を注ぐ事にした。まあ、どう間違えたのか過度な愛情だけど。俺はそんなじーちゃんを信じる事にした。信じる事が出来るから、俺にばーちゃんの形見の銃を渡せたんだよ。お互い、やり合う時はイーブンに出来るからな」

「そう何だ」

「俺があれを持っている理由だよ。分かっただろう?」

「うん」

 ニアはゆっくりと頷いた。

「ねえ、ルカ」

「なに?」

「ありがとう」

「なんだよ急に」

 ルカは照れていた。

「だって、私は親がいるから。ルカみたいにそんな気持ちになった事無いし、そんなルカが私を魔界に連れて行くから」

「約束したからな」

「無理してない?」

「無理? 俺が?」

「うん。ルシアさんも言っていました。無理しているって」

「あのオジサンは、無理なんかしてないよ」

「してる。だから、傷つく事で生きている実感を持とうとしている。あんな傷を受けて平気でいる訳無いじゃん。もっと、頼ったらどうなの?」

「んじゃあ、問うが俺はなにを聞けばいいんだ? お前の気持ちなんか知らない。だが、お前も俺の気持ちは分からない。そーだろう?」

 ルカはタバコの火を消し、ニアの目の前に立った。

「それは」

「だったら、そんな事言わないでくれよ」

「ゴメン。ルカが……」

「哀れむのか? 俺を?」

 ルカはいきなりニアの首を絞め、倒した。

「お前に俺のなにが分かる。分からないのに言うんじゃねーよ」

「ルカ、苦しい」

 いつもなら、投げ飛ばしていたが、ルカの力が強い。本来、負ける事無いのだ。

 女好きの性なのだろう。ルカは、力を必要以上にセーブして、結果投げられていたのだ。

「知らねーよ。知った事か、母親に悪魔と呼ばれた俺の気持ちが分かるか? 母親が目の前で死んで、なにも出来なかったんだ。どんな気持ちか分かるか? 同情もなにもいらない。そんな反吐が出る。消えちまえ」

 ルカの左目が赤くなり、それと同時に力も強くなっていた。

 魔力が解放され、ルカは無意識ニアに金縛りをして、余計抵抗する事が出来なかった。

「止めて、ルカ」

「五月蝿い!」

 聞く耳を持たなかった。

「何故、みんなそうやって、俺を見る? 俺はただ、普通に生きていたかっただけなんだ。なのに、誰も俺を理解してくれなかった」

(ルカ)

 ルカは完全に錯乱していた。

 それを止める術をニアは知らないし、徐々に力が抜けそんな考えも出来なかった。ただ、苦しくなる、意識も薄れていった。

「俺はどうすりゃいいんだよ!」

「とりあえず、冷静になるでしゅ」

 ギギがルカの首筋に止まり噛みついた。

「うっ」

 ニアから手を離し、よろけながら、地面に座り込んだ。

 そして、ひと呼吸してニアを見た。

 ニアは咳込み、ゆっくりとルカを見た。

 元の瞳に戻り、悲しい表情をしていた。

「ギギ。ありがとう。ニア、ゴメン」

 後悔だけが、ルカの頭を支配していた。

「全く、僕がいないと感情も抑えられないでしゅか?」

「悪いって」

 首筋に手を当てた。くっきりと、牙で刺された跡がある。

「それに、そこの人間はルカしゃんを、怒らせないで欲しいでしゅ」

 ギギの怒りの矛先はニアにまで行った。

「話さなかったとは言え、ルカしゃんは理性で魔力を抑えているでしゅ、怒りとか負の感情は特に解放し易く、怒れば力に感情が抑えられなくなり、こうなるでしゅ、必要以上にルカしゃんを怒らせないで下しゃい」

「ごめんなさい」

 ニアも謝った。

 ルカと同じ感情を抱いている。

「まあ、僕は久しぶりに血が吸えたから、いいのでしゅがね。美味しかったでしゅ。もっと、しゅっていい?」

「ダメだ。お前は、俺が貧血になってもいいのか?」

「だって、クォーターの血は美味いんでしゅもん。魔王の血と人間が混ざっているのは美味でしゅ」

 ギギは一人、幸せそうな顔をしていた。

「はいはい。また今度な」

 ルカはタバコを吸った。

「ルカ」

「なに?」

「ごめんなさい」

「もう、気にして無いよ」

 ルカは立ち上がって、ニアを起こした。

「ちょっと、外出て頭冷やしてくる。ギギ、ニアの所にいてくれ」

「仕方ない。分かったでしゅ」

 ルカはバイクのエンジンを入れ、一人出て行った。

「ルカ」

「ほっとくでしゅ、帰って来たら、いつもの態度に戻るでしゅ」

「うん」

 ニアは屋敷に戻った。

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