第五章 最低な世界
第32話 最低な世界1
ここは魔界。
魔族を専門に雇い、仕事を斡旋するギルドの本部は、魔界にあった。
本部はその性質上、世界中のあらゆる情報も、集結している。
「全く、あのガキは何処でも、問題を起しますね。誰に似たのやら」
書類片手に、文句を言っている男がいた。
名前はベルセブブ。周りには、ゼブルと呼ばれていた。
気に入っていたので、そのまま、偽名としても使っている。
ゼブルは魔王の一人で、ギルドを治めていた。
青いストレート髪にメガネの奥に輝く、黄金の瞳を持つ美男子だが、本来は巨大な蠅の姿をしていた。ここ十数年戻っていない。
戦争が終わり、蠅の姿は少し周りと浮いていたので、人の姿をしていた。
最後に元の姿に戻った時の事は、思い出したくない。
(あんな仕打ち)
思い出しただけで、眉間にシワが寄る出来事であった。
「それで、いつここに足を運ぶか分かりますか?」
側近に聞いた。側近も勿論魔族である。
「はあ、本日の昼頃かと」
「そうですか、その間に仕事済ませないといけませんね。書類持って来て下さい」
「はい」
側近の魔族は、ゼブルの言う事を聞いた。
魔界と呼ばれる所、そこは、この世界で最も、科学と魔力が満ち溢れた場所。
あらゆる所で便利な道具が発明され、人々に使われ、豊かな国ではあったが、反面、暴力の絶えない場所でもあった。
魔界は魔族の為に造られた国ではあるが、人間が来てはいけない決まりは無い。
しかし、魔族の多い国となると、足を運びたがらないのも事実である。
ハクチの街が特殊だった。
ハクチは魔族、人間両方が共存出来るように造られた初めての街であり、共存に成功した街でもあったが、魔界は違う。
初めは共存を目的としていたが、いつしか、魔族が大半を占め、人間はごく一部となった……。
「ニア、何読んでいるんだ?」
バイクを運転しながら、ニアに聞いた。
ギギは後ろで寝ていた。
元々、コウモリは夜行性で、いざと言う時に動けるように、必要が無い時は寝ているのだ。
「魔界のガイドブック。魔界に行くにも、魔界の情報は必要不可欠でしょう? だから、勉強しているの」
「ふうん」
「ねえ、ルカ」
「なに?」
「魔界って、犯罪が絶えない最低な世界って本当?」
「なにそれ」
ルカはニアを見る。
「ルカ、前」
「へっ? うわぁぁぁ」
木の幹にぶつかりそうな所を、急いでブレーキを踏んで、事なき終えた。
「ちょっと」
「ふう。ゴメン、ギギ大丈夫か? って、いない」
「ふう。じゃないでしゅ」
地面とくっ付いたギギが、起き上がりゆっくりと飛んできた。
さっきの急ブレーキで、慣性の法則が作用し、運転席に勢いよくぶつかり、上手い事跳ね返り飛ばされたのだ。
「あっ」
「あっ、でも無いでしゅ」
「悪い」
バイクから降りて謝った。
「悪いってなんでしゅか? 僕の事何だと、思っているでしゅか」
「パートナーだけど。少なくとも、異性じゃないな」
「それはそれで、傷付くでしゅ」
「傷付くのが嫌なら、ちゃんとベルト絞めろよ」
(傷付くの意味違うから)
ニアは思ったが、あえて言わなかった。
ルカはバイクを端に寄せた。
「あれは嫌でしゅ」
ギギはベルトに指を差した。
ゴムで出来た荷物を、抑える為のベルトであった。
これをシートベルト代わりにしようと、ルカはしていた。
「これ、苦しいでしゅ」
「羽を抑えればいいだろう?」
「羽が傷つくでしゅ。それに僕は実験材料でもありましぇん!」
実験台になる被験体を想像したのだ。
「そうか、残念だ」
ルカは小さく舌を打った。
(こいつ、ある意味、本物の悪魔だ)
座席にいた、ニアにその音が聞こえた。
この一人と一匹はそんな関係だと、改めて知った。
「明らかに、からかっていましゅよね~」
「さあな」
ルカはしらを切り、ニアから、ガイドブックを取り上げた。
「ニア。飯にしようか?」
「えっ、ええ」
「その間にこれ読んでいるから」
「でも」
「魔界はそんな場所な訳無いだろう? そんな場所だったら、じーちゃんが俺を、そこの学校に入れるはず無いんだから」
「ああ、確かに」
ニアは納得して、調理道具を出した。
「それより、昼飯なんだ?」
「カレーよ」
昨日仕込んでしておいた物だ。
殆どタダで、この道のりを行っている、その位の手間は安い物である。
「やったぁ~」
ルカは飛び回っていた。
なにを出しても喜ぶので、ニアもこの時ばかりは、嫌な思いもしなかった。
「少しはケガ人をいたわるでしゅ」
ギギは拗ねていた。
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