第14話 魔王(?)メフィストフェレス5

 それから三時間後。

 宴会は盛り上がり波が治まった頃。

 呼んだニアの女友達は、深夜になり遅くなったので、家に帰した。

 ルカは酔いがメフィストより早く、寝言を言いながら、床で眠っていた。

「なんだ。だらしないな」

 メフィストは、ルカに文句を言いつつ、まだ、飲んでいた。

 隣にはニアもいる。

 ニアは二人をほっといて帰る事が出来なかった。

「しかし、ニアさんは飲まないのか?」

 メフィストに進められた。

「ええ、弱いんでいいです」

 実際はそんなに飲む気分にならなかった。

 傍らに魔王がいるのだ。緊張して飲めない。

「そうか、それは残念だ」

 そう言い、ボトルをまた開けた。

「さて、なにを話そうか?」

「えっ?」

 ニアは意外な言葉に驚いた。

「なにか知りたそうな顔をしていたからな」

「まあ、確かに……」

 知りたく無いと言えば嘘であった。

 あの魔王がこんなに砕けた人とは思えなかったからだ。

「なんでもいいよ。話せる範囲ならなんでも話す」

「じゃあ、メフィストフェレス様」

「メフィストでいいよ。長いし、こっちの方が好きだからな」

「何故、最初冷たく接したのですか?」

「そこから聞く。まあ、いいか、あえて言うなら、威厳かな~人間は魔王を恐怖の対象としている。そう思わせておいた方が仕事し易いんだよ。特に、人間と接する事の多い私はな。下手に人間は襲って来ないだろう。まあ、今回はたまたま、近くに孫がいたから、こうなってしまったがね」

「そーいえば、偽物とか言っていたけど」

「実際、魔王を名乗るバカな魔族も少なくないからな。ルカには細心の注意を促している。魔王の孫も狙われ易いからな。もし、偽物と名乗るバカがいれば、容赦なく殺せとも言っている」

「へー、でも、魔族の方が強い事無いですか? 相手は純血、ルカは混血ですから」

「その心配なら、大丈夫だ。本当に不意を撃たれない限り、ルカが負ける事はまず無い。今日は私もいる。ルカは安心して眠っているだろう。ニアさん。ルカの上着の左内ポケット見てごらん」

 ルカが丁度寝返りを打って、仰向けの状態になった。

 ニアは隙をついて、ルカの内ポケットを見る。

「これって」

 ニアは驚き、声を上げそうになったが、声を殺し、素早くメフィストの元に戻った。

「あれって本物ですか?」

「ああ、間違い無く本物の対魔族退治用のエクソシストの銃だ。当たれば魔族は只では済まない」

 ニアは白き銃を見たのだ。

「なんであれを」

「あれの本当の持ち主は、私が唯一愛した女性の物。そして、その女性の血を唯一受け継いるのは、ルカなんだ」

「じゃあ……」

「二百年前の戦争を終結に向かわせた、勇者の子孫なんだよ」

(だとして、最悪な勇者だ)

 ニアの勇者へのイメージが、完全に壊れてしまった。

「うーん。でも計算が合わないのですが、ルカって実はすんごい年寄りなんですか?」

「いや、ルカは年相応にしか生きていないよ、娘が人間より長生きでな」

 酒の入ったグラスを一点に集中して見ていた。あまり、話したくなかった。

「いずれはルカの死も見届け無くては、ならないのだな。ルカは私の血が少ないのだから」

(メフィスト……)

「すまない。しんみりとした話になってしまった」

「いえ、私こそ」

「だから、一日でも多く孫と一緒にいたかったのに、ルカがさ~酷いと思わないか~」

 急にテンションが上がった。

「でも、世界見たいから旅に出たいとか言い始めてさ~これ、反抗期だと思わない。いや、きっとそうだ。じいちゃんを独りにするな~」

 メフィストは無茶苦茶な事を言っていた。

 いくらお酒の力でも急に変わり過ぎだった。

 本来の形のようだ。

(ルカの性格は全部この人譲りなのね)

 ニアは納得していた。

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