第13話 魔王(?)メフィストフェレス4

 その頃ルカは、村長の屋敷にいた。

 玄関から侍女を呼び出し、隙をついて堂々と中に入った。

「ニアの部屋何処かな~下着何処にあるかな~」

 鞘に納めた剣を肩にかけ、周りを見ていた。

「困ります!」

 侍女がルカを止めていた。

「えっ? なに? なにか言った?」

 ルカがとぼけている。

 侍女はルカの手を引っ張り、外に追い出そうとした。

 ルカはその力もはねのけ、ゆっくりと前に進んでいる。

「あっ、しかし、君可愛いね~ねえ~名前は~」

 振り向き侍女にも興味があったのか、声をかけた。

「困ります」

「ダメか?」

「ダメです。即刻出て行って下さい」

「名前も教えてくれないの?」

「教えません」

 きっぱりと断った。

「そうか、残念だ~じゃあ、ニアの居場所教えて?」

「出来ません。今、ニアさんは村長とメフィストフェレス様と一緒にいて、誰かと会う事なんてとても出来ません」

「そうか。ちょうど、メフィストフェレスにも会いたかったんだ。やっぱり連れてってよ~」

「出来ません。今、村の存続がかかっているのです。もし、ここで粗相な事があれば、村はおしまいです」

「そうか、んじゃあ、自力で行くしかないみたいだ」

「ダメです」

 侍女が必死に止めていたが、ルカの方が力が強くどんどん先に進んだ。


「話になりませんね」

 メフィストが苛立っていた。

 村長が値引き交渉を始め、メフィストが納得しなかった。

「ですが、この村の財源ではこれ以上は……」

「ですから、話にならないと言っているのですよ」

「いい加減にしろよ!」

 ニアは一連のやりとりをずっと聞いていて、いてもたってもいられなくなり、メフィストに怒りをぶつけた。

「こっこら、ニア」

 村長が止めようとしたが、止められなかった。

「お前な、こっちが下手に出ていれば漬け込みやがって、元はと言えば、お前ら魔族がこの星にやって来たのが問題なんだろう。んで、力が弱い人間が苦しんでいるのに、なんだよその態度」

 一度言ったら、全て言い終わるまで一瞬だった。

 そして言った後で後悔した。

 メフィストが冷たくニアを睨んでいる。

「なっ、なによ。やるの? 無闇に人間に手を出したら条約違反を食らうのはお前だぞ!」

「……」

 更に目が鋭くなり、部屋に沈黙と思い空気が漂う。

 バタン!

 そんな中で急に扉が開いた。

「ちょっと困ります」

「あっ、ニア。すっごい怒声がしたから、もしやと思ったけど、やっぱりいた」

「なんでお前がいる。約束は守っただろう! まだ、注文があるのか!」

「ううん、ない」

 ルカはニアに首を横に大きく振ると、剣を床に置きメフィストの方を見た。

「久しぶりだな」

 二人の男が目を合わせ見ている。

 しばらくすると、一瞬にしてメフィストが消えた。

 そして、次にはルカの目の前に立っていた。

「久しぶりだな~ルカ~」

 メフィストがルカを抱き締めた。

「ああ、じーちゃん」

 ルカは満面の笑みを浮かべていた。

「元気そうで何よりだ」

「ああ、じーちゃんこそ」

「しかし、ルカ痩せたか?」

「うーん、痩せて無いとは思う。さっきも食ったし」

 今までの冷たい感じが一転して、ほのぼのとした空気になった。

 それに取り残されたのが、残りのメンバーだった。

「ちょっとあんた達!」

 ニアが先頭を切って喋った。

「なに、ニア? お望み通りなんとかしたよ」

「なんとかの前に言う事あるでしょう。これ、どう言う事!」

「どうもこうも、俺の魔族の血は魔王メフィストフェレスから貰った物だ。つまり、俺達は正真正銘の血縁関係にあるって訳」

「はあ、そう、って納得行くか!」

 ニアが一人怒鳴る。

「ルカ、あの子お前の新しい彼女か?」

「うん」

「違ーう!」

 ニアは近くにあったジジの電卓取り上げ投げつけ、ルカの頭に命中させた。

 コツンと軽い音がして、電卓が落ちた。

「道は遠そうだな」

「うん」

 落ち込んでいるルカを、メフィストが慰めた。

「メフィスト様、これはどう言う事ですか?」

 今まで黙っていたジジも会話に加わろうと、二人の所に向かった。

 ニアも二人の所に向かう。

「ジジは会った事無かったか、私の孫だ」

「それは分かりました」

 ジジは一拍置いた。

「なんで黙っていたのですか?」

「なんで黙っていたんだ!」

 ジジとニアが同時に言った。

「うーんと~」

 メフィストが腕を組んだ。

「え~んと~」

 ルカも腕を組んだ。

 二人は考え、そして、出た答えが……。

「偽物だと悪いから、確認してから話したかった」

「だな」

 メフィストが頷いた。

「かな~」

 ルカは呑気に言う。

 語尾は違うが、理由は同じだった。

 それを聞きニアとジジが呆れかえる。

「それより、じーちゃん。この村、いい酒と可愛い女の子沢山いるの」

「本当か?」

「うん、今すぐ行こうぜ」

「ああ、つー事だ。ジジ後は頼んだ」

「話を勝手に進めるな!」

 ニアが声を張る。

「頼んだ。ではありません。どうするのですか?」

 ギギも言う。

「ああ、面倒だから、全部最初の半額でいいよ」

「いいのですか?」

「ああ、いいよ。どうせ儲けは出る。元々そんなに単価が高い訳じゃないし、それに……」

 メフィストが優しくニアを見た。

「この村には酒と可愛い女の子、そして、勇敢な女の子もいる。あのまま泣き寝入りするようなら、本当にそれでも良かったが、必死に食いついた子がいる。魔王と知って刃向かう人間を見るのは、好きでね。その勇気を評価しない程私は堕ちてはいないよ」

「じーちゃん。早く行こうぜ」

 ルカは待ちきれないのか、先に進んでいた。

「ああ、分かった」

 メフィストは急いでルカの所に歩いた。

「あっ、待て」

 ニアも後を追った。

「では、そう言う事で」

 残された村長はジジに頭を下げ、お願いした。

「はあ、分かりました」

 ジジもその方向で話を進めた。


「ちょっと、ルカ待ちなさい!」

 ルカを引っ張り出し、部屋の隅で話した。

「どうしたの? ニア」

「どうしたの? じゃない。あんたねその為に用意しろって言ったの?」

「そうだよ。言ったじゃん。メフィストフェレスなら何とか出来るって」

「今度から詳細も話そうか、偽物だったらどうしたのよ」

「その時はその時だ。もう行っていいか?」

「よくないわよ。用意した子みんな私の友人なの」

「道理で可愛い訳だ」

「話逸らさない。なにか合ったら困るのよ!」

 ルカが変な話をする度にニアは頭を殴った。

「じーちゃんなら、なにもしないと思うよ。俺のじーちゃんだし」

「だから、心配なのよ」

 ルカが無自覚で言っている事は、ニアに取って返って心配だった。

「それと、この会話全部じーちゃんに聞かれているよ。なんたって、聴力は人間のニ倍あるし」

「なんですって、なんで、もっと早く言わない!」

 ルカの首を絞め始めた。

「くっ、苦しい~」

 近くでメフィストが困った顔をしていた。



 やっと、宴会場に辿り着いた。

「ちょっと待ってくれ、顔を変えるから」

 メフィストが入り口で立ち止まった。

「ああ」

「ちょっと顔を変えるってなによ!」

 なんだかんだでニアも付いて来た。

「ああ、じーちゃんって、遊ぶ時はいつも変身しているんだ~。人間から遠いと、恐れられるからね~今の顔は一応本当に近いけど、眼の色が違うんだ~ほら、俺の左目見ただろう。あれが、本当の眼だよ。まあ、赤い眼は魔力を解放しないと出ないみたいだけどな。俺もガキの頃悪戯して、怒られた時、赤い眼になって怖かったな~」

 ルカは懐かしがっていた。

「さて、準備が出来たぞ」

 ルカと同じ様な顔の男となっていた。

 耳も鼻も目も尖っている所が円くなり、人間らしくなった。

「メフィストフェレスつーのは、変装が上手くってね。これで、ばーちゃん口説いたらしいよ」

「余計な事は言わんでいい」

 メフィストは照れながら、ルカの頭を殴った。

「あたっ」

 扉が開き宴会の幕が上がった。

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