第二章 最悪な勇者(後編)

第10話 魔王(?)メフィストフェレス1

 ヒルアの村の近くの森。

「予定より早く着いてしまいました」

 黒いスーツを着た青年が話し掛けた。

 耳が長く、色黒の青年。森の中でスーツ姿。結構目立つ格好である。

 名前をジジと呼んだ。

「構わない。しばらく森を散策して時間を潰そう」

 こちらも同じ服、歳はジジより上だったが、まだまだ若い男だ。

 耳や鼻は尖っていて、目は切れ長、輪郭も細長い。黒い髪に黒い瞳、色白の男は明らかに、人間とは違う雰囲気を出していた。男は魔族である。

 それも、強い力を持つ魔王と呼ばれる、魔族の中でも上位に属する魔族であった。名前はメフィストフェレス。

 縮めてメフィストである。

「はい」

 メフィストの方が、立場は上なのだろう。

 ジジはメフィストに逆らえず頷き、森の奥へ二人は進んだ。



 ルカは傷の影響で丸一日眠っていた。

 そして、次の日の昼、ルカは近くの定食屋でご飯を食べていた。

「甘いでしゅ」

「なにが? このラーメン無茶苦茶美味いぞ。この村、小さいが衣食住と女は充実しているな~俺、ここを安住の地にしようかな~」

 ルカはラーメンを啜っていた。

「心にも無い事言わないでしゅ、でわなく、何故止めをささなかったでしゅか?」

「誰の?」

「あの人間でしゅ。僕の悪口言った人間でしゅよ」

「だからなんだ? あの状況で人を殺したら、俺が悪者になっちまう」

 ルカは丼を積み、二杯目を平らげていた。

 血が流れ、お腹が空いて大食いになっていた。

「周りは、俺らを弱い者虐めした悪者として見るだろう。俺はそれを避けたかった。俺はまだ、この村にいたかったからな。あっ、ありがとう」

 三杯目のラーメンを食べ始めた。

「それは分かりましゅ。でしゅが、あの報酬はなんでしゅか」

「ああ、ニアと約束したし、あれの半分位でいいって」

「それが間違っているでしゅ、なんで、そんな約束したでしゅか?」

「女と酒つー宴のセッティングを頼んだから」

「そんなもの、頼まないで下しゃい!」

 ギギが声を荒げた。

「そりゃなんだ? 俺の生きがいを奪う気か? いくらギギでも怒るぞ」

「いっ、いえ、しょんな事は……」

 ルカがギギを睨んだ。

「んじゃあ、美味い飯を食わせろ」

 また、ラーメンを啜った。

「でしゅが、手元に残った金貨はたった十枚でしゅ」

「それだけ残れば、充分だろう。ギルドにちゃんと収めていない訳でも無いんだ。生活には困らない程度あればいい」

 ギルドが仕事を斡旋するので、お金を納めなければならないのだ。

 ルカはすぐに、三杯目も平らげた。

「本当に欲が無いでしゅ」

「欲位、俺もある。生活に困りたくない」

「だったら、もっと稼いで下しゃい」

「それだけあれば充分だろう。一週間は生活出来る」

「本当に最小限の生活でしゅ」

「どうせ、また、ギルドからの依頼が来る。その時に稼げばいいだろう。下手したら、これも多い位だ」

 チャーハンを食べ始めた。

 ラーメン&チャーハンを三杯分頼んで、三つのチャーハンがあった。

「そう呑気な事、もし、大ケガしたら、どうしゅるのでしゅか?」

「ああ、考えた事無かったな~」

「昨日の今日でどれだけ、浅はかなんでしゅか?」

 ギギはルカの言葉に呆れ果てていた。

「そんな事言っているなら、ギルド行って仕事を持って来りゃいいだろう」

「まあ、それもそうでしゅ」

 ギギは外に飛び出した。

 それと同時にニアが入って、ルカの前に座った。

「ん? どうした。俺と付き合う気になったか?」

「ならないわよ!」

「あっそう。つまんねー」

 スプーンをくわえ、拗ねていた。

「つまらなくない!」

「そう言うなよ~あんな一本背負い食らった事無かったから、嬉しくってね」

「あんた。変態だって、思っていたけど、底無しのドMだったのね」

「それは違う。ニアが美しかった、それに敬意を称してだな……」

「それが変だって言うのよ」

「そうか~?」

「って、そんな事話している訳じゃないの、頼みがあるの」

「なんだ? 俺と一緒に寝る事か? 大歓迎!」

「絶対嫌だ! 違うわよ」

「なんだ。つまんねー」

「つまんねーじゃない。あんたのせいで話が進まないの!」

 ニアがテーブルを何度も叩いた。

「分かった。怒らないでくれ、それで、俺になんのようだ?」

 チャーハンを口に入れた。

「ねえ、魔王って倒せる?」

「うっ」

 ルカは喉を詰まらせた。

「ちょっと、大丈夫?」

 ルカの背中をさすった。

「ああ、大丈夫」

 水を飲んだ。

「それで、なんで倒して欲しいんだ?」

 ルカは落ち着いた後、ニアに聞いた。

「今日、急に魔王が来る事になってね。メフィストフェレスつー魔王なんだけど、なに考えているのか分からないから、お礼はいくらでもだすから」

「ふうん」

 チャーハンの山をスプーンで崩し始めた。

「メフィストフェレスが村を襲ったら、困るのよ。もし、怒りを見せたら、魔王は村を一つ潰すかもしれない」

 ニアはメフィストフェレスと呼ばれる魔王を恐れていた。

 魔族より強い力を持った者達を魔王と呼ばれ、戦争の時も人間に恐怖と絶望を与えた。

 戦争を終結させる際、人間との条約を結び、魔王や魔族は武力で持って、人間を襲う事を禁止し、魔族は人間に力を貸すよう法を作った。

 勿論、人間が魔族を襲う事も禁止している。

 魔族も同じ人として、見るようにしたのだ。

 だが、その努力は計り知れない物である。

 二百年の月日で何とか、作り上げ、積み立てた物だった。

「ねえ、ルカって無駄に強いんだし出来ない?」

「無駄はねーだろう。まあ、無理だよ。俺は魔王を倒せない」

 二杯目を平らげ三杯目に手を出した。

「なんで? あんな破壊力のある攻撃。あの水晶はなんなの?」

 ルカが魔物を倒す時に、使った水晶を言った。

「ああ、あれか、石に魔力を溜め込み、銃にチャージして力を放つアイテムだ」

 色が変化する事もある。それは溜める魔力の属性を変えていた。その属性の色が水晶に現れるのだ。

 今回はたまたま、火を使った為、赤く変わっていた。

「それに、相手が魔王だ、正当な理由が無い限り倒したら、俺は一生他の魔王の手から逃れ無いといけない。俺はそんなの嫌だ。それこそ、この村が俺に一生、不自由無く、悠々自適に過ごせる保証をするなら話は別だが、そんな金は無いだろう? そもそも、この村に魔王が来るのは、ここの魔力が原因だ」

「まあ……」

「俺もこの魔力が原因で魔族側から派遣された」

「人間なのに?」

 魔族の三世は人間に近いので、容姿が人間とかけ離れていない限り、人間として扱われた。

「ああ、戸籍上は人間だが、魔力が人間の比じゃない程備わっている。人間側のギルドに登録したら、人間は俺の力を過信して、俺の力以上の魔物退場を依頼してくるだろう。あのふざけた奴らみたいに」

 人間の無茶とは、キーチとカイジの事を言った。

 人間は魔族と違い力を持たない。

 それ故に無謀な事をよくしていた。

 人間は魔族に対して、劣等感を抱いている。

「確かに」

 ニアはその事には納得した。

「俺だってちっとは長生きしたいんだ。んで、あんな無謀な事して、命を落とすのは嫌だから、魔族側のギルドに登録したんだ。あそこなら、俺以上の魔族がいくらでもいる。知り合いもいるし、無理な魔物退治させないから、長生きも出来るって訳」

「長生きしたいなら、安住の地でゆっくりと過ごせばいいのに」

 ニアが呟く。

「どうした? なんか言った?」

「いえ、なにも」

「そー言う訳で、俺は魔王を倒せない訳」

「そこをなんとか」

 ニアがルカに甘えた。

「まあ、相手がメフィストフェレスなら、方法が無い訳じゃないがな」

 ニアの甘えに乗ってしまった。

「本当に!」

「まあな。ただ、その前に俺との約束あっただろう?」

「ああ、あれ……」

 言葉にするのが嫌になる位、ニアは急に機嫌を悪くした。

「ああ、あれ今晩にしてくれないか?」

「はあ? 急になに言っているのよ」

「俺にも覚悟が必要なんだよ」

 ルカは一気にチャーハンを食べた。

「うん、食べた」

 スプーンを置いた。

「覚悟? どんな?」

「メフィストフェレスに会う事だよ。それなりの準備が必要だ」

 ルカは灰皿を見つけ、タバコに火をつけた。

「それと宴とはどうにも繋がんないんだけど」

「まあ、文句があるなら、やらなくてもいいよ」

 ルカはタバコをくわえ、メニューを見ながら言った。

「いいえ、準備します。でも、本当になんとかなるのね」

「ああ、そこは任せろ。スミマセン、バニラアイスちょうだい」

 店員に注文した。

「ニアもなにか食べる?」

「私はいい。ってか、まだ、食べるんかい」

「うん、余裕だよ」

「あんたの胃袋はどうなっているんだか」

 ニアは呆れ果て、そして立ち上がった。

「あれ? 帰っちゃうの」

「私はあんたと違い暇じゃないの! あんたのワガママも聞かないといけないしね」

「そうか、残念だ」

「準備出来たら、呼びに行くから」

「おう、楽しみにしてる」

 ルカが手を振った。

 ニアはそれを見向きもせず歩き去った。

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