第8話 解雇された若者4
カイジはナイフで魔物を切っていたが、魔物の回復力が高く、倒される事は無かった。
「兄貴、ここらで逃げましょう」
「そうだな」
キーチは銃で魔物を撃っていたが、やはり回復力が強く、倒せなかった。
目の前の敵はとても大きな、花で蔦を尖らせ攻撃した。
「金は貰っているものな」
キーチも逃げ腰になる。
そこにルカとニアが目の前に現れた。
「おっと、逃げてもいいがニアに金は返せよ」
「お前、再起不能になったはず」
「俺はお前らとは身体の出来が違うんだよ。だから、忠告は聞く物だぜ」
ルカはゆっくりと剣の鞘を抜いた。
普通の剣とは形状が異なった。
少し、柄が短く、刃の部分が細い。柄と刃の間には、大きな水晶が埋まっていて、全体的に派手な装飾品を施していた。
抜いた剣を下に向けニアの足下に線を引いた。
「死にたく無かったら、そっから一歩でも出るなよ。俺もこんな魔力の豊富な所で剣抜いたら、何処まで理性保てるか分からねーからな」
さっきと違い淡々と話した。
「ええ、分かったわ」
ニアはそれに従った。ルカと言う男が変わっていた。
「お前らもだ」
ルカは剣を一振りして、蔦を切り裂きキーチとカイジに逃げる隙を作った。
「わっ、分かった」
二人はニアの近くまで逃げる。
「そうそう、そっから逃げてみろ、地獄の果てまでお前らを追って、蜂の巣にするから」
最後に二人に睨みつけ脅した。
そのルカの左目は瞳の色を変え、黒い瞳が一瞬にして、真っ赤な血と同じ色をしていた。
「ひっ、分かりました」
二人は従うしか無かった。
(これが、魔族の血)
ニアもルカを恐れ始めた。
ルカは魔物の正面にゆっくりと歩き立った。
「さて、始めるか」
ルカは襲ってくる蔦を片っ端から切り始めた。
その速さは魔物の回復力と同じ位だ。
「凄い、でも、あれじゃ倒せない」
ニアが呟いた。
(まだか)
ルカは柄に収まっている宝石を見た。
しばらく攻防が続いていると、コウモリが飛んできた。
「ルカしゃん。持って来ましたでしゅ」
幼稚な言葉を喋るコウモリであった。名前はギギ。
頭にリボンをつけた、メスのコウモリで魔族の高い科学力によって、人語を話すようになった。
「ああ、ギギか遅ぇぞ」
ルカは魔物と戦いながらコウモリを見た。
「そう言わないでしゅ。ルカしゃん、こんな低級魔物になんで本気になるでしゅか」
ギギはそう問いながら、周りを見た。
ニアという女の子に、乱暴そうな三下のキーチとカイジ。そして、ルカの破れた服。
「なる程でしゅ、ルカしゃん。相変わらずお人好しでしゅ」
「グダグダ言って無いでとっととよこせ。ぶったぎるぞ」
「そんな物騒な事言わないで欲しいでしゅ、物は持って来たでしゅ」
ギギはルカに真っ赤な水晶を渡した。
「ああ」
ルカは剣に水晶をかざした。
すると水晶と、剣に埋まっている水晶が光り始め、剣は水晶の色を吸収し、水晶は透明になった。
ルカは剣を投げ、自分も投げた剣以上高くジャンプした。
「終わりだ」
剣は姿を変え、柄が曲がり、刃の部分は縦に筒上になり、口が開いた状態となった。
それはまさしく銃の姿である。
ルカはそれをキャッチすると、一気に引き金を引いた。
「燃え尽きろ!」
呑気なルカと考えられない程の大きい声で、強い口調で叫んだ。
銃から赤い物が現れると、一気に膨らみ、魔物に当たる時には魔物と同じ大きさになっていた。
赤い物は炎となり、魔物を包み込んだ。
ルカが着地した時には、殆ど燃え尽きていた。
「凄い」
ニアはルカを見た。
ルカの銃は再び形を変え元の剣に戻っていた。
ルカはゆっくり、剣を鞘に収めて、ニアの所に向かった。
その時には、左目も元の色に戻っていた。
深呼吸をして、数歩歩くとルカはバタリと倒れてしまった。
「ルカしゃん」
「ルカ!」
ニアとギギが急いで向かった。
「ううっ、力、入んねー」
顔色もどんどん真っ青になっていた。
「当たり前でし、ルカしゃん。どんだけ血を流したでしゅか?」
「うーんと、あいつ等に色んな所殴られ、デカい方に、銃を二発撃たれた」
「それは、動かなくなりましゅ」
「ううっ」
「えっ? 体は治っているのに?」
ニアが聞いた。
「そうでしゅ。田舎者には分からないでしゅが」
(田舎者)
ニアは拳を握り締め、一人と一匹にバレないように怒った。
「ギギ。ニアは依頼人の孫だ。失礼な事言うな。それと、ちゃんと自己紹介しろ」
「これは失礼したでしゅ。僕はギギ。ルカしゃんのパートナーでしゅ、魔物じゃなく、魔族でしゅ」
「私はニアよ。それでこいつはなんで倒れたの?」
「こいつとは、失礼でしゅ。まあ、気持ちは分かりますしゅが」
「おいおい、お前はどっちの味方だ」
ルカが突っ込む。
「ルカしゃんはあくまで、魔族の血が流れている人間でしゅ。その血のお陰で傷は早く塞がりましゅが、回復力の強い魔族とは違い流れた血は戻りましぇん。動かなくなったのも、それが原因でしゅ」
「つまりそれってただの貧血?」
「そうでしゅ。魔物倒すまで倒れなかったのは、ここの魔力のお陰でしゅ、全く、おじいしゃまに言いつけましゅよ」
「それは勘弁して~じーちゃん。また、俺の事、心配しちゃうから、ほら、この通り元気だし~」
元気よく立ち上がったが、ふらついてすぐ倒れた。
「ダメでしゅね」
「バカ」
ギギとニアは呆れていた。
「おい、チャンスじゃないか?」
「ああ、そうみたいです」
キーチとカイジはコソコソ話をしていた。
「逃げろ」
二人は逃げ出した。
「あっ、こら、待て!」
ニアがいち早く気が付き、追い掛けた。
「全く、言う事聞かない人間だ。ギギ追いかけろ」
ルカは近くの気に寄りかかり座った。
「嫌でしゅ、いくらルカしゃんのお気に入りの女でも、人間の肩は貸したくないでしゅ」
ギギはあまり人間が好きでは無かった。
「今回の依頼料、あいつらが持っていると言ってもか?」
ルカは座り込み、タバコを吸った。
「なんでしゅと! 大事な事は早く言うでしゅ」
ギギは一目散に跳び去った。
「分かりやすい奴」
ルカは微笑んだ。
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