異世界での邂逅
雅人はあまりの寝心地の悪さにうつろな意識から目覚める。
背中に照りつける陽光が、体を熱し、顔に張り付いた、砂が不快感を増す。あまりの苦しさにうめき声すらあげてしまう。
ゆっくりと目を開ける。そこには都会育ちの雅人とは程遠い縁の場所が広がっていて、雅人の意識は一気に覚醒する。
「さ、砂漠!?」
あまりの驚きに、勢い良く立ち上がる。すると、激痛が体中を走った。
「っ!」
体を見渡すが、怪我等は一切見当たらない。外傷はないとすると、おそるおそる腕を動かしてみる。
「くぅ」
筋肉がばらばらになりそうなくらい痛む。筋肉痛がひどくなったような感じ。立っていられるのは最初の勢いで立ってしまったからで、いったん座ってしまえば再び立つことは困難だと思われた。
「それにしても、ここはどこだ?」
ようやくあたりを見渡す余裕ができて、首をまわす。痛みが伴ったが、我慢すればなんとかなる痛さだった。
しかし、見渡す限り、砂漠、砂漠、砂漠。ここがどこであるか示すような物は何一つない。
遠くを見ようとするが、砂の山に阻まれて、見ることはできない。だからと言ってそこまで行ってそこから先を見る気にはならなかった。
体が痛いのもそうだが、むやみに動くのは危険だと判断したからだ。
そこまで考えて、ふと気づく。ここまで冷静にいられる自分はなんなのだと。
見知らぬ場所に放り出されて、一人になって、体中が痛む。それでも、冷静に現状を受け入れている。
「俺はいったい?」
反射する物体がなく声はどこまでも遠くへ行ってしまった。
「う、うーん」
自分以外の声がして、雅人は飛び上がる。同時に激痛が走り、再びもだえる。もだえればもだえるほど、体が痛む。
きりがないので、耐え忍んでその場にとどまる。しかし、今のはどこから聞こえてきたのか気になり、また動いてしまう。
あたりは見渡したはずなので、だれかがいることなど……。
そう考えて、体が痛くて自分の後ろを見ていないことに気づく。冷静だと思っていたのは自分だけだったようだ。
痛みに耐えながら後ろを向く。
そこには砂漠にあってもおかしくはないのだけど、あまりも不釣合いな光景があった。
オアシス。話には聞いたことがある。テレビで見たこともある。しかし、実際に目にしてみるとここまで異常な光景だとは思わなかった。
広大な砂漠の真ん中にぽつんと泉がわいていて、その脇には南国に生えていそうな木まである。
そして、その近くに女の子が2人と雅人と男が1人倒れていた。
あわてて声をかけるが反応はない。
胸が上下しているところから、3人とも息はしているみたいだ。
男は屈強な肉体を持っていた。サラリーマンでスポーツが苦手な雅人には縁の遠い感じがした。
そして、その男に近いほうの少女はロングヘアーの金髪を砂漠に投げ出し、その細身の体からは弱々しさを感じた。
そしてもう1人の少女は……
「あ、飛鳥」
髪の毛は深紅だが、その顔はまさしく、死んだはずの飛鳥の顔で……
「飛鳥!」
雅人は体が痛むのもかまわず、飛鳥の元へと駆け寄る。
抱き上げて、顔をじっくりと見る。
間違いようがない。それはまさしく飛鳥の顔だった。
涙がこぼれてくる。
この手の中に飛鳥がいる理由なんてわからない。でも、ここに飛鳥がいる。もう手にすることはできないと思っていた温もりがこの手の中にある。
もう離さない。二度と離したくはない。
「ぐるらぁあぁ」
喜びを噛み締めていた雅人は不気味なうなり声を聞いて現実に引き戻される。
「なっ!?」
熊の様な動物がそこに立っていた。
でも、熊なんかじゃない。それはもっと異形の生き物。
体は熊よりも締まっていて、軽そうに見えた。
でも、なによりその纏っている雰囲気が雅人には覚えがなった。
圧倒的な殺気。熊が人を襲うと時はほとんど自らの身を守るためだという。
しかし、目の前の熊には殺気しかなかった。殺すことだけを目的とした目。
それが今、雅人に向けられている。
間違いなく目の前の獣の狙いは雅人だった。いや、雅人の腕の中の飛鳥か。
今すぐ逃げたい衝動に駆られたが逃げるわけにはいかない。
腕の中の飛鳥もそうだが、近くに倒れている2人も放っておくわけにはいかない。
だからといって、できることなど・・・・・・
何かないかと視線はそらさず、手で近くを探る。
冷たいものが手に触ってびくっとする。
ゆっくりとそれを見ると、大きな剣だった。
日本刀ではない。西洋の剣。バスターソードとでもいうのだろうか。
雅人の胸の高さくらいまでありそうな大剣。
ゆっくりと地面に飛鳥を下ろすと、その大剣を手に取る。
日差しを浴びて握るのを躊躇うくらいの熱が感覚が手の平を伝わる。腕が痛むのも気にしている余裕はない。
こんな馬鹿な真似は今すぐ止めろと頭が警鐘を鳴らし続けている。今すぐここから逃げろと、胸を打つ。
手も震えだし、重たい剣が小刻みに揺れる。
それでも、雅人はゆっくりと剣を正面に構える。
静かに前に出る。熊みたいな獣は警戒したのか、うなり声を上げる。
ひるみそうになるのを必死に堪えた。
剣の震えが大きくなった。
勝負は一度きりだ。こんなに重たい剣を振り回すことなんて出来そうにない。思いっきり振り下ろす。それだけだ。
間合いを計りながら慎重に近づいていく。
汗が頬を伝わってたれる。
飛鳥の顔が脳裏をよぎる。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
技術なんて微塵も感じられない一撃だった。
それでも相手に傷を負わせたのは気迫がなせる業だったのだろう。
熊みたいな獣の腕に切り傷を与える。
でも、次の瞬間腕が吹き飛ばされたと思うくらいの衝撃に教われる。
腕で剣を弾き飛ばされていた。手にあった重さが消えた。途端に絶望が雅人を襲う。
熊みたいな獣は両手を振り上げていた。
太陽が隠れ、目の前が暗くなる。
避けなければならないのに足が動いてくれない。
顔が恐怖で歪む。腕で顔を庇うが無駄なことは直感でわかっている。
でも、それは心理とは別のものだ。勝手に手が動いた。
ものすごい衝撃が雅人を襲う。体が宙に浮いた。
そこから先はどうなった良くわからない。我に返ったときは地面に転がっていた。
息が出来ない。肺に受けた衝撃が強すぎる。
腕を動かそうとして、感覚がないことに気づく。
見ると、血だらけになっている自分の手が見えた。
しかし、痛さはない。あまりの痛さに感覚は麻痺しているのかもしれない。
熊のような獣が飛鳥に近づいていくのが見えた。
「や、やめろ」
そんな雅人の願いなど聞き入れられるわけがない。
「やめてくれ!!」
必死に懇願する。
「また、飛鳥を失うなんて」
絶望が胸を染めていく。
「そんなの俺には耐えられない!!」
しかし、そんな気持ちはお構いなしに、太い腕が振り上げられる。
「やめろぉぉぉぉぉお!!」
「ああ。うるせえな」
気だるそうな声が後ろから聞こえた。
声の主は先ほどまで倒れていたはずの男だった。
「って。おいアスナ!起きろ!」
飛鳥に向かって叫んでいる。
「ちぃ」
起こすことをあきらめたのか、男は走り出す。
その動きを見て、雅人は目を疑った。
明らかに人間の動きではない。
速過ぎる。一瞬で飛鳥の前に立ち、そのまま熊みたいな獣を殴った。
すさまじい勢いで獣が飛ぶ。
「アスナ。おい」
男は飛鳥に近寄ると頬をぺちぺちと叩き出した。
「ちょっ、貴様!?」
飛鳥の肌に易々と触らせる訳にはいかない。
「ん?おっさん誰?」
歳は同じくらいにしか見えない男におっさん扱いされた。
「お前こそ誰だ!?」
「へ?俺?……俺は元ディスサイト王直属部隊ディスフリゲート第一隊隊長ダイガ。聞いたことくらいあるだろ?」
「は?」
訳のわからない単語が並ぶ。
当然聞いたことなんてない。そんなに有名人なのだろうか、と思い出そうとするが一向に思い出せない。
「で、お前のほうが誰だよ?さっきまでいなかったよな?盗賊の仲間?」
追いつかない頭にダイガと名乗る男がさらに追い討ちをかける。
「そういえばファラスをどうした?あの光はファラスからだったか……?」
あれって爆発するのか?とぶつぶつといい始めるダイガを雅人は混乱した頭でじっとみていた。
「まあ、先にアスナを起こさないとな。おいアスナ!!起きろってば。あっ、ついでにティルも」
「だれが、ついでです」
もう1人の少女が起き上がる。
「おっ、ティル。無事か?」
「当然です。それより、アスナは起きないのです?」
むくっと起き上がった少女は金髪の長髪をなびかせながら大きな瞳を飛鳥に向ける。
ダイガはその言葉に首を横に振る。
「ま、ティルも起きたし、すぐに起きるだろ。で、だ」
ダイガはその鋭い眼光を雅人に向ける。
「よく見たら怪我をしてるみたいだな」
「誰です?」
「さあ。だからゆっくり話を聞こうと思ってな。アスナを寝かせる場所も欲しいし、移動するか」
頭がついていかない間に、どんどんと話が進められていく。
「ま、待ってくれよ。俺には何がなんだ……」
大声で抗議をしたら喉の奥が気持ち悪くなって思いっきり何かを吐き出した。
大量の血が目の前に広がる。
「えっ……」
そこでやっと酷い怪我をしている自分に気がついた。
そして不思議な物で気づいてしまうとあっという間に気分が悪くなり、意識が遠退いていく感じがしてくる。
「おっさん!」
ダイガが近づいてくるがその姿もボヤけていまいちはっきりしない。
頭が揺れる。揺れる視界の中で真っ青な空が見えた事で自分が倒れたのが分かった。
□□□
飛鳥が死んだのは8月の猛暑日の事だった。
部活の朝練に行くって雅人より早く家を出ていった。いつも通りの一日だった。
連絡は会社で受け取った。真奈美は混乱していた。言いたいことのほとんどがわからなかったが、よく無いことが起きたのだけははっきりとわかった。
病院までどうやって行ったのか覚えていない。気づけば動かなくなった飛鳥が目の前に横たわっていた。
温かかった手を握っても握り返してはくれなかった。
不思議と涙は出なかった。多分真奈美が隣で大声で泣いてたせいだ。
お通やも葬式も淡々と事が進んでいった。それなのに実感はちっとも湧いてこなくて、常にふわふわとしていた。
飛鳥の遺体が燃やされて遺骨になったのを見て初めて涙が一粒こぼれた。
やっぱりそれは真奈美がひっきりなしに泣いていたからだ。
涙が渇れるなんてただの比喩だと思っていたけれど真奈美はホントに涙が渇れていた。
雅人は真奈美を必死に慰めた。ちっとも泣き止む様子は無かった。しかし。いやだからこそ、泣き止まない妻を夫が必死に慰める姿は周囲からすれば涙ぐましい夫婦の姿に見えていたことだろう。
実際は違うのにだ。
真奈美は飛鳥の死をちゃんと受け止めていたのだ。だから、あれだけ泣くことが出来た。本当に悲しかったからこそ出来た。
だけど雅人は飛鳥の死が現実であることを認められなかった。
だから真奈美が泣くのを慰めて認めようとした。真奈美を通して飛鳥の死を受け入れようとした。いや、無理矢理自分の中にねじ込もうとした。
それが他人にどう見えるであろうかも知っていた。
でも、雅人には他にどうすることも出来なかった。部活に行った飛鳥が今すぐにでも帰ってくるような気がしてならなかった。
そう。手を伸ばせば触れられる。
眩しい光が閉じた瞳に飛び込んできて重たいまぶたを開ける。
光なんて久しぶりに見た気がした。
「あっ。目が覚めました?」
陽光で顔が影になりよく見えないが声に聞き覚えがあった。
「あす……か?」
「はい?」
名前を呼ばれて驚いたのか少女はこちらを向く。
その顔は間違いなく飛鳥の顔で。
ちょっと髪の毛が真っ赤だったりするのも変だなとは思ったけれど、返事をした彼女はこの手に入れたかった一番の存在で。
「飛鳥!」
感情よりも体が先に動いた。
手を必死に飛鳥に伸ばそうとする。しかしそれは自らの体に阻まれた。
体が酷く痛む。それも全身。あまりな痛さに唸り声が出た。
「まだじっとしてなきゃダメですよ」
体の痛みで色々なことを思い出した。
訳のわからない世界に飛ばされたこと。
そこで飛鳥を見つけたこと。
熊みたいな何かに襲われ大怪我をしたこと。
そしてバカみたいな力で男が熊みたいな何かを倒したこと。
「ここはどこだ?」
それは今居る場所というより世界の事を聞きたかったのだろう。
「ここはリノビシア。おじさんが倒れていた場所から一番近い所にある町です」
飛鳥の他人行儀な態度に雅人は混乱する。
「君は……」
飛鳥なんだろ?と続けたかったが怖くて口に出せなかった。
「私はアスナです。砂漠では助けて貰ったみたいでありがとうございました」
勢いよく頭を下げる彼女よりも名乗った名前に意識が集中した。
アスナ。飛鳥じゃないのか。
「ちょっと、おっさん。あっ、いや、ダイガさんを呼んで来ますね」
乱暴な言葉遣いをした事を恥ずかしがりながらアスナと名乗った少女は部屋から出ていった。
アスナが居なくなった部屋を眺めてみて驚いた。
見たことのない壁。コンクリではない。木造でもない。テレビの中でしか知らないレンガ造りの壁。その壁に木のふたをしただけの窓。それがつっかえ棒によって開けられていて太陽の光を部屋に取り込んでいた。
よく見てみると寝ている場所だって寝心地のいいものではなかった。確かに布の中に柔らかい綿が入っている。それは布団であることは間違いない。しかしそれは雅人が知っている感覚とは明らかに違っていた。
最初に目覚めた砂漠だってあまりに広大で雅人がお目にかかった事のない光景だった。
そして見たこともない獣。
そんなことを考えている内にある結論に達してしまう。
雅人だって自分を疑った。でもこう思わずにはいられなかった。
日本にこんな場所は存在しないはずだ、と。
「よぉ。おっさん目が覚めたんだって」
不躾にドアを開けて入ってきたのはダイガだった。
混乱している頭をスッキリさせたい。その相手にダイガは合っている気がした。多分偉そうな役職を名乗った為だろう。
長ったらしい役職は何故だが権力を感じざるおえない。
「おっさんって一体何者だ?」
ダイガはその場にあった椅子に座るなりいきなり聞いてきた。
多分雅人が異質な者だとダイガも認識している。
「俺は武田雅人。何者と言われても普通の人間だ」
「タケダマサト?聞きなれない響きだな。いや、マサトはジェイスター帝国にいそうな名前だが……」
ダイガはまた良くわからない単語を並べる。
「ダイガはいきなり何をしているのです」
金髪の少女が部屋に入ってくる。確かティルといったか。雅人と同じ位の歳であるダイガを呼び捨てとはこの子も度胸が座っている。
「まだ何もしてねーよ」
そんなティルの態度を気にすることもなくダイガは答える。
その様子はとても歳が離れているとは思えない。同世代の友達の様だ。
「そんなことどうでもいいからマサトさんの事を聞こうよ」
ティルの後ろでアスナが顔を出した。
「ああ。そうだな」
その言葉で冷静になったのか咳払いをひとつして雅人を真剣な顔で見る。
「俺の事よりここがどこだか教えてほしい。ここは日本じゃないのか?」
「ニホン?どこだよそれは。それよりどっから来たんだ」
「だから日本だよ。ここは日本じゃないんだろ。どの国なんだよ」
「ニホンなんて国はこの大陸には存在しないし外の世界にもあるなんて聞いたことがない。どっちにある?」
ダイガはあっちかこっちかとあちこちに指を指すけれど雅人にそんなことがわかるはずがない。
「あーもう!二人とも落ち着いて話しなよ!!会話が噛み合ってないし先に進まない。とりあえずこの場所から説明!」
痺れを切らしたのかアスナが大声で仕切り始めた。
「ダイガが説明するです」
それに続けてティルがダイガをうながす。
ったくなんで俺がとブツブツ呟くダイガに対してアスナが早く!!と追い討ちをかける。
その様子を見ていた雅人は少なからずショックを受けた。飛鳥と同じ姿をしていても違うのがはっきりしてきた。
言葉遣い。
ちょっとした癖。
全てが少しだけ飛鳥とアスナではずれている。
「おっさんにわかりやすように説明してやる」
ダイガの偉そうな前置きで現状に集中する。
「ここはディスサイト王国の東に位置するリノビシアって町だ。東にリシア砂漠が広がっていて砂漠を渡るための出発点になってたりする。おっさんが倒れたのはこの砂漠だな。場所って言うとこんくらいかな。質問は?」
質問なんて頭の中をぐるぐる回っていたけれど何から聞けば効率がいいのかわからない。
「ここは地球のどの辺りだ?」
その為に大雑把な質問になってしまった。
「地球ね……残念だが俺たちは地球なんてものを知らない」
ダイガは確認するようにアスナとティルの顔を見る。
二人はそれに頷いた。ダイガの認識と同じらしい。
「地球を知らないだって?じゃあ、アメリカは?イギリスは?フランス、シンガポール、アフリカ、インド、チリ、ロシア……」
「あー、ちょっと落ち着け」
地球を知らないと聞いて混乱して世界のあちこちの地名を言った雅人をダイガがたしなめる。
「……ああ。すまなかった」
「今おっさんが言った地名?なのかも知れないが俺には聞き覚えがないし似ている言葉も知らない。ホントにどっから来たんだ」
不思議がるダイガに構っている余裕は雅人にはなかった。日本ではないと思っていた。でも、地球上のどこかだろうとも思っていた。
それならば帰る方法くらい見つかるだろうとたかをくくっていた。
けれどそれは間違いだったのだ。
今、雅人は地球ではないどこかにいる。
「すまない頭が一杯だ。続きはまた後にしてくれないか」
わけがわからなくなってくる。酷く頭が痛みだす。
何をどうしていいか検討もつかない。
「わかった。また後でな。あーあと。おっさんが言った国をちょっと調べてみるよ。もしかしたら何かわかるかもしれないしな」
ダイガから優しい言葉をかけられて、心が意外と落ち着いた。以外に悪いやつじゃないのかもしれない。
「ありがとう」
雅人はそのまま横になった。
「ほら。行くぞ」
ダイガは二人をつれて部屋から出ていった。
飛鳥だと思っていた少女が飛鳥じゃなかった。
地球だと思っていたこの場所が地球じゃなかった。
ここに来てから雅人は全てに裏切れ続けている。
いや違うのかも知れない。雅人が叶わぬ希望を抱いていただけなのだ。
飛鳥がこの手に戻ってくればいいと。ここから家に帰ることなど容易いと。
そうあればと望んでいただけに過ぎない。
そこまで考えたら涙が一筋頬を伝った。
雅人は初めて受け入れてしまった。
知らない世界に来てしまったことを。
何より飛鳥がいないという事実を。
いつまでたっても受け入れられなかった事実を非現実という今の状況がそれを成した。
□□□
「ねえ。詳しい話を私たちも聞きたいんだけど」
マサトがいる部屋から出て前を歩くダイガに向かってアスナは声をかける。
「なんのことだ」
しかしダイガは軽い口調でそれを流そうとする。
「とぼけるなです。ファラスのこと。あのおじさんのこと。全部おじさんが起きたら話すって約束です」
それに対してティルが文句を言う。
「あーそうだっけ?でも、なんか予想以上に話が複雑だから今は無理」
「何が複雑なのよ?」
ダイガの言いたいことが伝わってこない。
「ファラスを狙う盗賊。ファラスから漏れた光。どこか知らない場所から来たおっさん。わからないことだらけだろ」
「それはそうだけどあんたなら何か知ってるんじゃないの?」
「んー。なんも?」
「ファラスが破裂した時一体何が起きたのよ。そもそもファラスってグラゴスを封印ふる為の物じゃなかったの?」
「あっ。それ位は説明してやってもいいか。ファラスが封印する為に作られたなんて真っ赤なウソ。あれはグラゴスの卵みたいなもんだ」
「「は?」」
アスナとティルの声が重なる。
「じゃ、じゃあ私たちが知ってるファラスって……」
「それは国が流した情報だ。グラゴスが倒せないままだったら不安が溜まるだろ?その為に一芝居打ったのさ」
驚く二人を他所にダイガは平然と言ってのける。
「私たちは国に騙されてたってことです?」
「ああ。そうなるね。言っとくが文句は俺じゃなくてクリスに言えよ」
その言葉にアスナはため息をつく。
「クリスさんを呼び捨てにするのってあんた位よ。それに文句なんてない。私たちに実力が無かっただけってことでしょ」
「お前達がグラゴスと戦える様になるなんて誰も想像してなかったからな」
ダイガは意地悪い笑みを浮かべる。
「グラゴス位倒せなきゃ私たちが生きる意味なんてないです」
ダイガの言葉にティルは過敏に反応する。
「そう言うことよ。まあ、初討伐でこんなことになるなんて思ってなかったけど」
「それは仕方のないことだ。現に俺にだってこの事態は予想外だ」
ダイガの困った表情にアスナは意外な感じがした。
「あんたが予想出来ない事態なんてあるの?」
「おいおい。人をなんだと思ってるんだ。俺にだってファラスが破裂したのなんて初めてだしな。研究者達が何をやっても全く反応しなかったのになー。どうしてかね」
アスナは首を横に振る。
「私たちに聞かれても困る」
「そっだよな。あー。クリスに報告しないとな。アスナとティルで行ってきてくれないか?」
ダイガは気まずそうな顔で聞いてきた。
「何でです?ダイガが自分でいけばいいです」
それに対してダイガは困った様に頭をかく。
「どうしたのよ?それが仕事でしょ」
「あー。それなんだけどな……。ちょっと複雑な状況でな」
「国の兵隊で一番偉いあんたに何があるっていうの?」
「ははは……実は軍を止めてきたんだ」
「えっです」
「嘘でしょ」
「いやな。グラゴスに対してなにもしない国に嫌気がさしてな。一人で戦うことに決めた」
「何それ?バカじゃないの!?」
「そう言われてもな。ファラスは一定量の魔力を吸収すると元のグラゴスにもどっちまう。そうするとファラスの保管にも困るってな。国は放って置いてるんだ。グラゴスを野ばらしにしている方が被害が少ないって理由でな」
「何それ?みんなに被害がでても関係ないって言うの?」
「そう思うだろ?だから止めてきた」
憤りを感じていたアスナもダイガの表情を見て落ち着いた。
ダイガもそう感じていたからここに居るのだ。
「ダイガは勝手です。ダイガがいないディスフリゲートは一体どうなるです?」
「ああ。それはハイトに任せてきた」
「ハイトさんも可哀想に……」
ダイガの代わりになる人間はそうそういないがハイトなら大丈夫だろう。
かつて現王とともに双璧と呼ばれて彼ならダイガの代わりも勤まるはずだ。
「そういうことで、城には帰れないんだ」
□□□
「ダイガにあれだけ必死にお願いされるとは思わなかったです」
リシアの町を歩きながらティルがアスナに正直な感想を述べる。
「そうね。だからと言って城に行く気にはならないけどね」
今は二人きりだった頭を下げるダイガを置いてある場所に向かっていた。
マサトとか言うおじさんが気になるのも事実だが、それよりもどうにかしなければならない問題があった。
「ファラスがいつかグラゴスに戻るならラキさんからフランスを譲ってもらわないと」
「でもどうするです。本当のことは話せないです。どうやって譲って貰うのです」
「そこなのよね」
ラキの性格からするとファラスを買った金額を渡さないと頷いてはくれないだろう。
ケチとか意地が悪いとかそんな話ではない。単に生活に必要なだけなのだろう。
「私たちにはお金がないです」
そうそこなのだ。ラキにファラスを譲って貰えるだけのお金がない。
かといって放って置いたらリシアが危機に襲われる。なにもない砂漠だから周りを気にしないで戦えたのだ。グラゴスを相手にしながら町を気にしている余裕などあるとは思えない。
ならばファラスを砂漠の誰もいない所に置いて来ようと言うわけだ。
「とっ。ここだったよね」
3日振りに訪れたラキさんの家のドアをノックする。
「あれ。返事ないです」
しばらく待っても中から返事はなかった。
「留守みたいだね」
アスナは残念な様なホッとした様な気分になる。
「どうしよっか」
ティルに聞いてみたものの答えはあまり期待していない。
「待つしかないです」
事は重大なのだ。悠長な事は言ってられない。
「あれ。アンタたちどうしたんだい?」
それは狙ったかの様なタイミングだった。
二人の後ろにラキが立っていた。
「ラキさん!……えっ」
しかし、喜んだのもつかの間だった。
二人の視線はラキが持っている布袋に集まっていた。
大きく膨らんだそれは重量感を発していてそれはまさしく。
「ん?ああこれ。ファラスを売ったらこんなに高く売れたよ」
最悪の状況に何も知らないラキは笑顔を浮かべたのであった。
「だれに売ったの!?」
アスナは焦る。ティルは焦りすぎて隣であわあわしている。
「グラゴスがいなくなったんっていうんで今日やってきた商人だよ」
もうそんなことになっているのか情報が早い。
「その商人は今どこに!?」
「もう町を出た頃じゃないか?急ぐって言ってたし」
今からじゃもう間に合わない。ラキの言葉にアスナは思わず小さく舌打ちをする。
予想できない事態ではなかった。
ダイガから話を聞いた時点で慌てておくべきだった。
「一旦ダイガの所に戻るです」
ティルの言葉にアスナは頷いた。
その頃ダイガはマサト元に向かっていた。
ウルサイガキんちょがいなくなったのが幸いした。
マサトが寝ている部屋の木製のドアをノックする。
沈黙が流れる。しばらくしても返事はない。
「ふぅ」
ため息が漏れる。
「入るぞ」
今度は返事を待たなかった。づかづかと部屋のなかに入っていく。
部屋の中では布団にくるまったマサトがいた。
「子どもかよ……」
歳は同じ位のハズだが、なんだろう言動に幼さを感じる。
下手をすればあの二人と同じくらいの……
「……なにか用か」
布団の中から声が聞こえる。
これじゃあまるで反抗期のガキだ。
「まあいいや。早速で悪いんだけどさ。お前一体何者だ?」
布団から不思議そうな表情のマサトが顔を出す。
「あれから2日しか経ってないのに傷がふさがっちまった。魔法で治療したとは言えいくらなんでも早すぎる。ひょっとして魔族か何かか?」
「魔法?魔族?何を言っているんだ。そんなおとぎ話じゃあるまいし……」
「お前魔法を知らないのか?」
いよいよきな臭くなってきた。
もうそれしか考えられないか……。そうマサトが呟くのが聞こえた。
「なあダイガさんって言ったよな」
「ああ。そうだけどなんだよ」
「俺はどうやら違う世界から来たみたいなんだ」
マサトは真剣な顔で言った。
魔法。魔族。本やアニメの中でしか知らない言葉が常識としてダイガの口から出た事で認めざるおえなかった。
「異世界か……それなら色々納得も出来るかな」
ダイガは特に驚いた様子もなく淡々と受け止めていた。
「驚かないのか?」
「ん。まあな。何となく予想はしてたから」
「まさか俺以外にもよその世界から来た奴がいるのか?」
「いないことはないよ」
それは朗報だった。その人に会えば帰り方もわかるかも知れない。
「その人はどこにいるんだ?」
今すぐにでも動きたい衝動を抑える。何をするにしても情報が必要だ。
「帰り方を聞きたいなら止めとけ。この世界にいる時点で帰る方法がわからないか。それが無し得ないほど難しいかのどちらかだ。安い希望は持たない方がいい」
ダイガは淡々と言ってのけた。
「それが事実だ」
不満そうな表情を浮かべた雅人に対して容赦ない追い討ちをかける。
「まあ。心配すんな。悪いようにはしないよ。国に言ってどうにか生きていけるように頼んでやる。仕事も時期に見つかるさ」
「なっ。俺にこの世界で暮らせっていうのか?」
「帰り方が分からない以上どうしようもないだろ。それに死にたくはないだろ?生きてくためにはこの世界に溶け込むしかないのさ」
「なんだよそれ。まるで見てきたような言いッぷりじゃないか!」
ダイガの態度は腑に落ちないことばかりだ。
異世界について驚かなかったり。妙にその辺りについて詳しかったり。
まるで自分が体験してきたみたいに。
「アンタもまさか……」
「いや。違うよ。俺は違う」
「俺はってじゃあ?」
「親友だった」
「親友?」
「ずいぶんと昔の話だ。俺の住んでた町に見知らぬ子どもが現れた。どこから来たかもわからない。親も見当たらない。仕方なく宿屋をしていた家の両親が引き取る事にしたんだ」
それはダイガの子どもの頃の話だった。
同じくらいの歳だったダイガはすぐに彼と仲良くなった。
最初は怯えて声も出せない位だったがダイガの能天気な明るさもあって次第に口数も多くなっていった。
しかし、話せば話すほどダイガの頭上には疑問符を浮かべる事になる。
彼が話す、生まれ育った場所についてまったくイメージが湧かないのだ。
それはまるで夢のような場所だった。
空にも届きそうな建造物が建ち並び。その中には人々が暮らし。信じられない位、甘い食べ物が売っていたり。とても長くて大きな箱が人を運んだり。
彼もダイガも幼かったこともあるだろうが、ダイガにとって彼の話す場所はいつでも手の届かない夢の国になった。
「そこだよ。俺が来たのはそこからだ」
話の途中だったが雅人は我慢しきれなくなって割って入る。
「そうか。小さかったからな。具体的な地名は知らなくてな。ニホンとかチキュウなんて言葉は出てこなかった。そうかあいつと同じ場所から来たのか……」
ダイガは感慨深そうに遠くを見る。彼から聞いた地球の姿でも想像しているのだろうか。
「それでその親友は今どこに?」
雅人が聞きたいのはそこだけだった。彼に会えば何かわかるかもしれない。
「ああ……死んだよ」
待ちに待った答えはこに来てから何度も訪れている落胆だった。
「そんな?どうして……」
「アイツは帰りたかったらしくてな。帰る方法を探してたんだ。だけどな、情報なんてどこにもなくて。それで、誰も行ったことのない場所ならってあちこち危険な場所に行ってたんだ」
「じゃあ、そこで」
「ああ。帰ってこなかった。しばらくして死体も見つかったよ。もしかしたら向こうに帰ったんじゃないかって願ってたけどそれも夢に終わった」
「……すまないな」
辛い思い出なのだろう。ダイガの目はいつもと違ってい寂しそうだった。
「でさ。俺もさ色々情報を集めてみたんだ。アイツが帰りたかった場所を見れたらいいかなとか思ってさ。でも、ちっとも見つからない。情報の一つも見つからない。他の世界から来たかもって奴は何人か見つけたんだけどな。その殆どが死んでた。よっぽどこっちと違うみたいだな。この環境に慣れず。仕事も見つからず。どうすることも出来ないまま死んでいったらしい。周りも気味悪がって近づかないしな。だからさ。おっさんは幸運なんだ。住むとこも仕事も紹介してやる。相談にだってのる。だからそれで落ち着かないか?」
ダイガの気持ちは分からないでもない。彼と雅人を重ねているのだ。彼にしてあげられなかった後悔を雅人で果たそうとしている。
「しかし、帰らないと。妻を残してきてるんだ」
飛鳥を失い、次に雅人まで失ってしまっては真奈美の心は恐らく持たない。
「そうか。それなら心配だよな。おっさん子どもは?」
真奈美の話をすれば飛鳥の事を聞かれる事くらい分かっていたはずだ。
だけどやっぱりこころが揺れた。しかもアスナの顔まで出てくる。
「……死んだんだ。ついこの前」
「すまない」
ダイガは素直に謝った。
「……大丈夫。もう受け入れた」
「なら。やっぱり帰るんだな」
真奈美の事を考えたら帰らない訳にはいかなかった。ダイガもそれを分かってくれた。
「なら。少しは戦える様にしとかないとな。あんな奴に負けてる様じゃこの世界じゃ生きていけない」
それは何となく気づいていた。
「さっき魔族とか言ってたよな。それと関係あるのか」
「ああ。まずは魔力から説明しなきゃいけないな。ほれ」
ダイガは指を雅人のおでこに近づけるとおもっいきり弾いた。
「っ!いきなり何するんだ」
「今怒っただろ?そうやって感情が激しく変化した時に魔力ってのは生まれる」
まったくもって意味が分からなかった。
魔力が生まれたと言われてもどこにもそんな力は感じない。
「……?……?特に何も感じないぞ」
「魔力は一定時間体内に溜まるんだ。だけどそれを感じる事は人族には出来ない」
「ならどうやって分かるんだ」
「そこで使うのが魔法って訳だ。えっとさ。ロウソク位の炎を思い浮かべて。指を一本だけ立てる。そんでな……火よ灯れ――点火。って唱えてみな」
「何だよそれ。呪文ってやつか」
「何でもいいからさ。唱えてみなって」
「分かったよ」
ダイガに言われた通りに小さな火をイメージする。
「火よ灯れ――点火。……うぉっ!?」
雅人は自分の指の先に火が灯ったのを見て驚いて、ひっくり返った。
「ま、魔法ってこんなに簡単に使えるものなのか?」
しばらく呆然としていた雅人だったが現実に帰ると疑問をダイガにぶつける。
「まあ大体は使えるよ。高度な魔法とかになると流石に無理だけど」
「他にも使えたりするのか?」
魔法なんてファンタジーの中でしか知らないものが使えた事に、雅人は年甲斐もなく心が躍っていた。
「まだ無理だ。ゆっくり慣らしていかないと。魔法って言うのはイメージが大事なんだ。魔力を使って何をしたいか。それが明確にならない内は無闇に使わない方がいい」
「イメージね……」
確かに今くらいの小さな火であればイメージできたけれど、大きな炎をどう扱っていいかなんてイメージできそうになかった。
「そっ。イメージ次第じゃなんでもできる。ただ、相性がいい魔力ってやつがあってな。さっき怒っただろ?怒りとか情熱とかは炎を扱う魔法に適してる。反対に水とかを扱う魔法には不向きだ。魔力が生まれる感情によって魔法ってやつは使い分けなきゃいけない。ちなみにこれは何となく分類されているだけで明確な線は引かれてない。感情なんて一概に言葉にできる訳じゃないしな。ただ、怒りとか情熱ってのが炎をイメージしやすいってだけなんだ」
「分かった様な分からない様な……」
「今はそんなもんでいいだろ。ここまで年取るとイメージするだけでも一仕事だからな。やっぱさ若い方が想像力豊かだよ。ただ、年を重ねるとな。イメージが固まる。頑固になるとも言うが……とにかく安定するんだ。どうしても固定観念が生まれるからな」
「ふーん。そんなものか」
「そんなもんじゃないか?」
一般論はそうかもしれないけれどダイガが頑固には見えない。
「んでだな。次は魔族の話をしなきゃいけない。砂漠でおっさんを襲ったのも魔族だ」
それは何となく分かっていた。
「魔族っていうのはおそらく魔力の塊だと言われている。魔力は一定時間しか体内に無いって言っただろ。抜けた魔力は空気中を漂うんだ。それには流れがあるらしいんだが、場所によっては魔力が溜まってしまう場所もあるらしい。そこから魔族が生まれる。らしいんだ」
奥歯に何かが詰まった様な言い方だった。
「確証がないのか?」
「無いね。さっきも言ったがそもそも人族には魔力を感じる事はできない。それを流れで見ることなんてできやしない。だからあくまでも推測の域を脱しないって訳」
「で、その魔族は15年前に色々あって数は減ったんだけど。まだちょこちょこ残ってるんだよね。そいつらを倒せなきゃおちおち旅もできない。帰る方法を見つけたいならまずは力を付けなきゃな」
なるほど。これでダイガが長々と説明してくれた理由が見当ついた。
雅人は一人で帰る方法を見つけるための力を得なきゃいけないのだ。それは単純な力だったり、魔法の力だったり、知識の量だったりする。
「身体は動くか?」
時間はない。早速にでも雅人の力を見たいのだろう。
一通り身体を動かしてみて問題はなさそうだった。
「なんでこんなに何ともないんだ」
骨の一二本はいったと思った。血だって信じられない位流したはずなのに今はそれが傷跡すら見当たらない。
「ティルが治癒魔法ど治療はしていた。でもそれでも回復が早い。多分魔法に耐性がないからだと思ってる」
「どういうことだ?」
「俺たちはさ普段から魔法に触れてる訳よ。そうすると効き目が薄くなるみたいなんだよ。といってもこの世界じゃそれが普通だから誰も気づかないけどな。俺がそう思うのはアイツもそうだったからだ」
ダイガの言葉で納得できた。彼も同じ様な現象が起きていたならダイガがそう考えるのも自然な事のように思えた。
「もしかして俺が異世界から来たことを最初から?」
そんな気がしたんだ。ダイガは彼と同じ異世界からの来訪者を心のどこかで待っていたのではないか。
「正直な話し期待してたよ。アイツと同じかもって……」
ダイガは彼が死んだことを後悔しているのかもしれないと思った。
それを雅人を帰すことにより、少しでも無念を晴らそうとしているのではないかと。
「そんな話よりさ。動けるなら付いてこい」
ニヤリと笑うダイガの言うことを素直に聞く事にする。
誰かの代わりでもいい。ダイガが親切にしてくれるならそれを受け入れよう。
「ティルよりも体力無いって相当ヤバイぞ」
ティルが得意とするのは魔法であり荒っぽい事は苦手と言うところからそうあきれられた訳だが、その辺りの力関係がさっぱりな雅人にはなんのニュアンスも伝わらなかった。
ダイガに連れてこられたのは家を出てすぐのちょっとした空き地だ。
それまで自分が寝ていた家を見て雅人はしばらく言葉を失った。そこいらの発展途上国でもお目にかかれないような手作り感、満載のレンガ積みの家。
機械なんてどこにも使った形跡の無い。整った部分などとこにも無い家を見て可愛く思えた。
不思議と愛嬌があるのだ。都会のビルからじゃ味わえないような愛嬌が。
でも心が緩んだのもそこまでだった。空き地に着くとすぐに剣を渡された。ブロードソードとでも言うのだろうか。映画で時折見かけるそれはバカみたいに重かった。鉄の塊であるわけなのだから当たり前と言えば当たり前だった。
しかもダイガはそれを振り回して戦えと言う。
構えることもできずに雅人は剣を地面に落とした。
それで先ほどの物言いだ。ティルならこれを持てるとでも言うのか。
小さな身体でこんな重いものを持っているイメージなど出来そうに無い。
「まだ始まってもいないんだけどな」
ダイガは困った様に首の後ろをポリポリとかく。
「こんなの無理だ」
文句を言う雅人にダイガは呆れてため息をつく。
「おいおい。だったら帰る方法なんて見つかりっこ無いぞ。とりあえず人の間には伝わってないんだから」
そんな事は言われなくても分かっていた。そもそも力をつける為の今だ。
「ちっくしょー!」
維持になって剣を持ち上げる。
ふらつきはしたが何とか持ちこたえると正段に構えた。
剣道の試合とかは確かこう構えていたな。位の感覚だったが意外とバランスがとれるもので落ち着いてきた。
「ほら。手と手は離して。腰を入れる。うむ……まあ一応様にはなったか」
「それで。これからどうしろって言うんだ」
何を当然な事をと言わんばかりのダイガの表情に雅人は背筋に寒気が襲ったのを感じた。
「力のない奴がな。無理矢理力を付けたかったらやることなんて一つしかないんだよ」
何が楽しいのかわからないけどダイガの表情には愉快の漢字二文字が書かれている。
「相手が俺だったことを幸運に思えよ。存分に相手してやるからな」
ダイガはそう言うと雅人がやっとのことで構えた剣を片手で軽く持ち上げた。
そしてそのまま雅人に襲いかかる。
「うわぁぁぁぁぁぁ!?」
この世界に来た所から夢ならばどんなにいいかと本気で思った。
数分後。雅人は濡れていく地面をただ眺めていた。
腕を突っ張り棒にしないとそのまま地面に倒れ込んでしまいそうだ。
「おい。いつまで休んでるんだ。早く立つ!」
すっかり鬼教官と化したダイガに憎しみを覚えつつ、顔を上げる。
何をどうしていたか分からない。なにもしなきゃ殺されると本能で感じた雅人はひたすらに攻撃を避けまくった。
すると重たい剣を持った腕よりも先に足腰が動かなくなった。
どうしようもなくなった雅人は剣を落として膝を付き、そのまま倒れそうになった所を腕でなんとか止めた訳だが……。
それでもお構い無しに怒声を上げるダイガがいた。
「も、もう」
ダイガに訴えかけるように視線を交差させる。
「もうなんだよ」
それでもダイガは態度を崩そうとはしない。
それで心に張り積めていたなにかが切れた。
「もうダメ……」
砂が顔にへばり付くのなんか気にしちゃいられない。
地面に倒れ込む。
「あーあ。まだ始まったばっかだろう」
文明人の体力を舐めちゃいけない。
重たいものすらほとんど持つ機会なんてないのに、それを持ったまま運動するなんてもっての他だ。
全身の筋肉が痙攣しているのがわかる。
立つことすらしたくない。
「情けない」
ため息を付いたのが聞こえた。
「しょうがない。今日はこれくらいにしておくか……言っとくがあれだぞ。この調子じゃ帰るなんて無理だ」
ダイガの足音が遠ざかっていく。けれど何もできなかった。
足が言うことを聞いてくれないから。
腕が動いてくれないから。
40間近のおじさんにできることなんて始めからたかがしれていたのかもしれない。
「……おっ?」
ダイガが足を止めた。それは誰かが走りよってきたからだ。
「おっさん!やっと見つけた。大変なの」
息を切らしながらアスナはそうダイガに伝えた。
「何だよ?」
「何がじゃないわよ!?ファラスがどこかに行っちゃったの!!」
「ファラスってどこのファラスだよ?」
「ラキさんが持っていたファラスよ。さっき説明したでしょ」
「ああ。それか……で、なんの問題が?」
「何が問題って……おっさんが言ったんでしょ!?ファラスからグラゴスが生まれるって」
「ああ。それか……そんな問題でもないぞ」
「はぁ!?なんでよ!グラゴスになったら大変じゃない!」
「ファラスがグラゴスになるにはな、数年かかんだよ。だから慌てなくても大丈夫」
「なに言ってるのよ!?あれがいつファラスになったのなんてわからないわよ!早くしないと!」
雅人には声しか聞こえていない訳だが、その時のダイガの驚き様ったらなかった。
「はっ……?そのファラスってお前たちが倒したグラゴスじゃ……」
「何をバカなこと言ってるですか。私たちがグラゴスを倒したのはダイガと一緒のが初めてて言ったです」
後ろから追い付いたであろうティルがダイガを責めている。
しかし、二人は相当切迫しているのか倒れている雅人に気づく様子はない。
「ちょっと待てよ。この国にグラゴスを倒せる人族は数える程しかいない。それも何人か集まってやっとだ。お前達みたいな奴はいないんだよ」
「どういう事です?」
雅人もそれには同意見だった。さっきから皆目見当もつかないような単語ばかりが並べられていて話についていけない。
「だからさ、そのファラスを手に入れた奴が見当もつかないって言ってる……あっ」
ダイガは何かに気づいたのか声が途切れる。
「どうしたのよ?」
「……ああ。なんつーか一人だけいたよ。そこは納得したよ。で、ファラスはどこに行ったって?」
「……何に納得したのか気になるけどいいわ。砂漠を越えるって商人が買っていったって。東に高く買い取る人がいるからって」
「あー。多分あいつだ。なんつったっけな。ラカン?ボタン?サカン?忘れたけど多分そんな名前だった」
「何者?」
「ただの金持ち。脂ぎった嫌なオヤジさ」
「知り合いです?」
「うんにゃ。しょっちゅう城に来ては俺を貴族にしろってウルサイから覚えただけだ。……追っ払った事もあったかもしれないが」
「貴族です?」
「あー。その辺りは大人の事情だから気にすんな」
「ふーん。よく分からないけど。なんでそいつがファラスを欲しがる訳?」
「ファラスでクリスに交渉でもするんだろうな。これでグラゴスを倒したあかつきにはとかな」
「なんですそれ」
ティルは訳が分からないとでもいいたそうだ。
「そこは大人の事情って奴だ余り気にしなくていい」
「そいつがファラスを買ったのが確かなら行かなくちゃ」
「いつ爆発するか分からない爆弾みたいなものだからな。出来ればそうしたいんだけどな」
ダイガは何か渋っているようだ。
「何か問題でもあるです」
「そうよ。行けない理由なんて無いじゃない」
「ん。いや。アイツをどうしようかと」
アイツこと雅人は地面に突っ伏したまま身体を動かせないままだ。しかも、アスナとティルはそこで初めて雅人が倒れていた事を知った。
「ダイガの乱暴さには私たちも困ってるんです」
傷の手当てをしながら雅人に話し掛けてくるアスナは口振りとは違ってちょっとだけ楽しそうだ。
「仲がいいんだな。でも親子じゃないんだろ?」
顔も似てないし、接し方も親子のそれとは違っていたから違うとは思ったがアスナの事は出来るだけ知りたかった。
「違いますよ。私には両親がいないんです。産まれたばかりの頃に行方不明になってて。なんで色んな人に親代わりになって貰ったんですけど、ダイガもその中の一人です」
アスナが悲しい表情になるのを見て雅人は抱き締めたい気持ちに駆られた。
でもそれはいけない。それはアスナに飛鳥を重ねているだけなのだから。と自らに言い聞かせる。
「すまない。変なことを聞いてしまったね」
「いえ。顔も覚えていない両親のことですから気にしないでください」
強がっているのが手にとるように分かった。
「そうか。ところで俺はこれからどうなるのかな」
その事には触れず話をそらす。これ以上踏み込むと雅人の方が感情を押さえきれなくなりそうだった。
「私たちと一緒に砂漠を渡って貰います。多分マサトさんには厳しい旅になるかも知れないですけど」
ダイガもずいぶんとお人好しだ。いくら親友と雅人を重ねた所で所詮は他人。邪魔になったのなら放り出されても仕方のないことだと思っていたのにわざわざ連れていってくれるのだと言う。
「ありがとう。もう大丈夫だ。急ぐ旅なんだろう。早くいかないと」
立ち上がった瞬間に立ちくらみがした。
ゆらりと体が傾くがなんとか踏み留まる。
「大丈夫ですか?」
心配そうなアスナの顔を見て心配させてはいけないと思う。
人の事は言えない。雅人だってアスナと飛鳥を重ねている。ダイガに放り出されたところで付いていく気は満々だった。
「大丈夫。ちょっとバランスを崩しただけさ」
肩を回して元気な所をアピールする。
「ならいいですけど。あまり無茶はしないで下さいね」
優しく微笑むアスナを見て雅人は部屋から出てダイガの元へと向かった。
ダイガとティルは雅人の治療中に旅の支度を整えていた。
大量の食料、水分。砂漠での日差しを避けるための布。野営をするためのテント等。雅人には使い方も分からない様な道具すらある。
そしてそれらはソリに乗っていた。しかしそのソリを引く物が見当たらない。
まさか人が引くわけでもなかろう。
「ダイガ魔力持つの?」
一緒に歩いてきたアスナが不思議そうな顔をする。
「なぁにたった四人だ。そんなに気にすることでもない」
「私にはそんな自信はまったくないです」
二人には状況が理解できているらしいが雅人にはさっぱり分からなかった。
「一体何をするんだ?」
雅人は不思議そうにソリを指差す。
「まあ。いいから乗りなって」
ダイガがイタズラに笑うのを見て背筋に嫌なものを感じる。
「出来れば夜の間に砂漠を越えたいからな。早く行くぞ」
「はーい」
「はいです」
アスナとティルは素直にソリへと乗り込む。
雅人も一人残されるのはいい気分ではなかったのでしぶしぶとソリへと乗り込んだ。
「とりあえずこれを頭から被って下さい」
アスナに差し出された日除けであろう布を頭から被る。
「準備はいいか?」
後から乗り込んだダイガが最終チェックをしている。
「フライト!!」
ダイガの声と共にソリが浮かび上がる。急な出来事に対応が追い付かずに座っているのにも関わらずソリのなかで倒れ込む。
「ブースト!」
再びダイガの声がしたと思ったら凄まじい勢いでソリが進み始めた。
「はっ?えっ?なにっ?」
雅人はうろたえる事しか出来ない。
「フライトは浮遊魔法。ブーストは物体に推進力を与える魔法。ダイガはその二つを同時に使ってるです」
ティルがそう言ったが雅人にはさっぱり分からない説明だった。
「魔法ですよ」
恐らく怪訝な表情をしていたであろう雅人にアスナが応えた。
「俺が説明を受けた魔法とはずいぶん違うみたいだが」
昼間にダイガに教わった魔法はもっと体から発していた様に感じていた。それに比べて今の魔法は機械的なのだ。上手く説明出来なかったがなんとなくそう思った。
「古代魔法と錬金魔法の違いが分かるです?」
ティルが再び訳の分からない単語を並べる。
「なんだいそりゃ?」
「ダイガに教えて貰ったのは恐らく古代魔法です。これは古くから使われてる魔法です。そして今ダイガが使っているのが錬金魔法。何か違うかというとですね」
ティルは近くにあったリング状の金属を手にとる。
「これを使うのです。通常魔力は魔法を使う際に術者のイメージを元にして具現化するです。でもこのリングには魔法のイメージが予め組み込まれているです。そのため魔力を放出するだけで魔法は発動して術者が魔力を止めるまで動き続けるです。古代魔法と違って自由が効かない分、その安定性は抜群です」
自慢気に説明するティルを見て雅人は分かったような気になる。
つまりは、イメージしなければ発動しない魔法を魔力だけで発動出来るようにした補助装置なのがリング。そのリングを利用した魔法が錬金魔法と言うことでいいのだろう。
ティルからリングを受け取ってしげしげと見つめてみる。それはただの金属の輪でしかない。このリングにイメージを組み込んでいるなんて雅人の知る科学ではまったく理解できない技術だ。そもそもイメージなんて人から人に伝えるのだって難しいと言うのに。
「動かし方はともかく理屈は私達もよく分かってないんですけどね」
相変わらず何故か胸を張るティルの横からアスナが割り込む。
そんなもんなのかもしれない。雅人だってパソコンを操作できるけれど仕組みの説明を出来ないのと一緒だろう。そう勝手に納得することにした。
ソリの先端でダイガは魔法に集中していているのか目を閉じたままピクリとも動かない。
結構なスピードが出ている為、吹き付ける風もかなりのものなのだがそれすら気にならない様だ。
代わってティルだが、することも無くなって手持ちぶたさになったのか横になって寝てしまった。
つまり自然と雅人はアスナと会話をすることになっていた。しかし会話は上手く続かない。
そんな所も飛鳥と重なった。夕飯時に学校での出来事を聞いても会話が続かず気まずい空気が流れる事が幾度かあった。
気づけば飛鳥を重ねている自分に気づいて頭の中から振り払おうと頭を振る。
「どうかしましたか?」
そんな雅人の様子に気づいたアスナが不思議そうに見てくる。
「い、いやなんでもないんだ」
恥ずかしい姿を見られてしまって、もっと落ち着かなくなる。
「マサトさんはどうして私達に着いてきたんですか?ダイガに言われて連れてはしましたけれどまさか二つ返事で付いてくるとも思ってなかったので」
アスナの質問から察するにダイガは雅人の事情をアスナに話していないのだろう。だとすればその疑問に思うのも仕方がない。
理由なんて沢山あった。まずは一人にされた時になんにも出来ないであろうと言うこと。
これはどうしようもない。なにせ雅人はこの世界の事を何も知らない。ダイガに付いていく方が分からないことを教えてくれる。
二つ目はダイガの気持ちが嬉しかったからだし、その過去を払拭してあげたいと思ったからだ。
にくったらしい口の裏に素直な気持ちが隠れていることは十分に伝わってきた。すこし行き過ぎな部分も多いが……
もうひとつは。
まじまじとアスナの顔を見る。何度見ても飛鳥にしか見えない。
アスナが戦いの中に身を置いているのはダイガとの会話の中で何となく感じてはいる。
まだ子どもなのにと思うのは雅人の感覚であって、この世界では珍しいことではないのだろうと思う。
けれど雅人にとってみれば飛鳥が戦っているのと同じなのだ。
最初に見た魔族を思い出して背筋が凍る。あんな化け物を相手にしているアスナの姿は想像出来なかった。
だからなのかいつの間にか雅人の中でアスナを守りたいと思う気持ちが産まれていた。
飛鳥の分までアスナを守る。それが飛鳥を守れなかった罪悪感からくる感情でも構わないと雅人は思った。
「あの。聞いちゃまずかったですか」
黙りこくってしまった雅人に不安を覚えたのだろう。アスナが恐る恐る聞いてくる。
「いや。そんなことはないよ。ただ、理由が思い浮かばなくてね」
優しく微笑むとアスナは安心いたのか表情を和らげる。
「理由がないんですか?」
「ああ」
ただ、それはアスナに言える理由が無いだけだ。
「あえて言うならダイガに気に入って貰えたからかな」
冗談めかして言ったつもりだったがアスナは訳が分からないとでも言いたそうだ。
「ふう」
思わずため息がこぼれた。
「疲れましたか?怪我も完治してないですし、寝ていた方が良いですよ」
少し考えてみたが色々あって疲れていたのは確かだったのでアスナの言葉に甘えることにした。
狭いソリの中で何とかスペースを作ると横になる。
出発する前は傾き始めたばかりの日はもうすぐ地平線の彼方へ沈むところだった。暗くなってきた空に星がいくつか見える。
この世界では違った星空が見えるのかもしれない。そんな事を考えながら雅人は眠りに落ちていった。
「お父さん」
何かを探るように飛鳥がこちらを見ていた。
ああ。これは夢だとすぐに察する。何しろ周りの風景が曖昧にしかとらえられない。認識することを何かが拒んでいる感じだ。
「ねえってば」
そんな雅人のことはお構い無しに飛鳥は急かす。
「どうした?」
飛鳥は記憶の姿より少し幼い気がした。夢のなかであるなら大した問題ではない。
「これなんだけど……」
おずおずと差し出されたそれは夏休みのともだった。
しかし雅人が勉強を教えてあげたことなんてほとんどなかった。教えていたとしても上手く説明できず、お母さんに聞くもん。なんて言われてしまうのが常だった。
しかし開かれたページを見て幾らか納得をする。
夏の星座。そう書かれたページには『家族の人と観測しよう』なんて字面が並んでいる。
「さて、どうしたもんかな」
ハッキリ物を言わない飛鳥に対してのしつけでもあったし、どの場所がいいかと思案していたのも確かだ。
「お願い連れていって」
不安そうな顔でこちらを見る飛鳥に思わず笑みが溢れそうになる。断るつもりなどハナッから無いのにそんな顔までされたらだめ押しにも程がある。
「いいよ。沢山見える場所に連れていってあげよう」
満面の笑みを浮かべると後ろを振り返り真奈美と視線を合わせる。
どうやら真奈美の差し金だったようだ。
家族三人で笑って過ごした日々。
雅人にもそんな過去があった。
目を開けると見知らぬ星空が広がっていた。別に星に詳しい訳じゃないがそれでも不思議と違いが分かるものだ。
飛鳥にせがまれて星座を教えたりもしたからかもしれないな。夢の内容を思い出して苦笑する。
「起きたですか」
隣を見るとティルがちょこんと座っていた。
「ああ。まだ着かないのか」
どろくらいの時間が経ったのかは分からないがとりあえず聞いてみる。
「もうすぐダイガンス河が見えてくるです」
「ダイガンス河?」
「リシア砂漠の終わりです」
それが目的地にどれくらい近づいているのかなんてことは分からなかった。
いつの間にか眠り込んでいるアスナを見つけて雅人はもう一度だけ決意する。
この子は絶対に守り抜くと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます