第22話 速水葵はわかっている
次の日。放課後。
俺は眠たい目を擦りながら大欠伸していた。
結局、授業中もずっと技名を考えるだけで終わってしまった。
深いため息をつきながら鞄に教科書を詰めて教室を出ると、速水がいた。
「先輩。なんかまた死にそうな顔してますよ」
腕を組み、壁に寄りかかって立っている。
どうやら俺の様子を見に来てくれたらしい。
「そこまでじゃねえよ。小説、進まなくてな」
俺はそのまま歩きながら答える。
速水は横に並んでついてきた。
「『迅雷伝説』、行き詰まっているんですか?」
「いいや、話の筋はもう考えてあるんだけど」
速水が首を傾げる。
「それじゃ、なんで?」
「必殺技名が思いつかなくて」
「はああああああああああ?」
思いっきり呆れたような声で言う速水。
うん、聞きなれた感じの声で安心するぜ。
しかし声でかいぞ、周りに聞かれるだろうが。
「それ、そんな拘るところですか?」
「拘るよ! 大事なところだよ!」
これのセンスがないと炎上するんだぞ! 覚えとけ!
俺の炎上はそれだけじゃないけどな!
「ああ、そういえば先輩必殺技の設定資料集で炎上してたんですもんね……ふひひ」
にやにやと笑う速水。
久々に気持ち悪い笑い声を聞いた気がするな。
「笑うな。とにかくこれは大事なことなんだ。速水がいい技名思いつくって言うのなら是非考えてもらいたいね」
「はあ。というか、最後はヨタ・ボルトで決まりなんじゃないですか?」
「え!?」
バレてる!? そんなバカな。
「いや、そんな驚かなくても。だってまだヨタが残ってるじゃないですか」
髪を弄りながら、当たり前のように答える速水。
「これまで規則正しく使われていた技名ですし。最後はそれ使う予定だったんでしょ?」
た、確かにそのとおりだが……そんなことまで覚えてくれているものなんだな。
やっぱり速水はちゃんと俺の小説を読んでくれていたようだ。
夢野の言っていたことは本当だろうと理解しているが、それでもなんだか照れくさい。
「……速水の言うとおりだ。確かにその予定だったんだけど。やっぱりダサくないかなこれ」
「微妙です」
「微妙!?」
一番ショックな回答だよ!
「ヨタ・ボルトは別にいいと思いますよ? 今までずっと使ってたんですし、変えるほうが不自然です。ただ、問題は漢字名の方ですね」
「う」
「今までのは正直ダサいです。迅雷砲に色々くっつけてますけど……漆黒とか破壊とか。なんか幼稚っぽいです」
「ぐふぅ!」
やめてくれ!
当時はかっこいいと思っていたんだよ!
「とにかく、技名は後回しでいいでしょ。話の本筋をさっさと書いてください」
「相変わらず厳しいな」
「じゃないと書いてくれないじゃないですか」
ふぅっとひとつため息をついた後、速水は急に俺に顔を近付けて、じっと俺の目を見て言った。
「書いてくださいね、先輩」
どきっとした。
近いから、だけじゃない。
聞いたこともないような、綺麗な声だった。
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