第21話 円城紡は迷走している

 結局、速水が帰ったあとすぐに俺も帰ることになった。

 まっすぐ家に帰った俺は、どっと疲れが出て、部屋に戻るとすぐにベッドに寝転んだ。


「ふう……なんか、妙なことになったな……」


 俺は枕に顔を埋めて、今日あったことを思い返す。

 俺は、速水に俺の小説の絵師になってほしくて……それで、面白い小説を書くために夢野に俺の小説を見てもらうことにして……そしたら、『迅雷伝説』の偽者が現れて、また炎上して……俺が本物を書いて完結させることになって。

 うん、どうしてこうなった。

 俺が途中で投げ出した『迅雷伝説』の続きを書く、それは実は容易いはずだ。

 プロットは、もう頭の中にできている。

 結末まで、何度も何度も考えたものが。

 だから、それを書くだけなんだけど……


「……こええな」


 それを公開すると、どうなるのか。

 受け入れてもらえるのか。

 それともまた、炎上するだけなのか。

 ごちゃごちゃと考えてしまい、書くことが出来ない。


「夢野さんの言うとおり、速水がイラスト描いてくれたらなあ……俺の小説もなんとなくプロっぽく見えそうなのに」


 こんなこと考えてしまうのは悪いことだと分かってはいるのだが。



 ――ラノベは絵が九割ですからね



 これは、前に何気なく速水が言った言葉である。

 そんなはずはない。ラノベは内容が命である。

 それなのに、速水の絵があればびびらずに自分の小説を公開することができるんじゃないか……そんなことを考えてしまっている自分がいる。

 これじゃ、速水の言うことを認めてしまうようなものだ。

 ……そりゃまあ、ラノベのイラストは重要だけどさ。

 それでもなんとか書いてみようと、俺はベッドから起きてパソコンを立ち上げる。

 しかしそこで、書けない理由がもうひとつあることに気が付いた。


「最後の必殺技名……どうしよう」


 『迅雷伝説』の主人公は雷の使い手で、ベースとなる必殺技がある。

 それが「迅雷砲」だ。

 中学生の頃の俺がかっこいいと思って考えた名前である。

 前に炎上したときは、この名前も馬鹿にされたものだ。

 ……うん、思い出したくない。俺の技名設定資料集……!

 この「迅雷砲」が、「極迅雷砲」になったり「迅雷光砲」になったりするのだが、必殺技につけるルビはルールを決めている。

 それが「○○・ボルト」だ。

 ○○にはメガ、ギガ、テラといった情報量の単位を入れていた(当時はよく意味も分からず使っていたのだが)。

 最初はメガ、次はギガ、その次はテラ……こんな感じで繰り出すたびに進化していき、「ゼタ・ボルト」までは使った。

 あとは、最も大きな単位を使った「ヨタ・ボルト」を残すのみとなっている。

 だから最後は迷わず「ヨタ・ボルト」で敵のボスを倒す予定だった。

 技名は「超爆破壊神迅雷砲」とか考えていた気がする。

 超爆破壊神迅雷砲ヨタ・ボルト! ボスを倒した! めでたしめでたし!


「……ダメだダメだ、こんな恥ずかしい技名! 中二病すぎるだろうが!」


 かっこいい技名、それでいて恥ずかしくない技名、しかもオシャレな技名! 

 そんな技名を考えないと!

 そんなことをああでもないこうでもないと考えていたら、この日はいつのまにか眠ってしまっていた。

 ……全く何も進んでいない。

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