第11話 速水葵は空気が読めない
翌日。
放課後家に帰ろうとすると、校門を出たところで夢野とバッタリ出くわした。
「あ、夢野さん。久しぶり」
「ふぇ! あ、はぃ! ……あ、部長さん。お久しぶりです……」
急に声を掛けられてうろたえる夢野さん、かわいい。
「今日は学校、来てたんだ」
「はい……休みすぎちゃいました。学校はあんまり来たくないけど……卒業できなくなっても困るので……」
目線は合わせてくれないが、小さい声で答えてはくれている。
よかった、冤罪をかけられたこともあって学校では話してくれないんじゃないかと不安だったんだ。
どうやら杞憂だったらしい。
「やっぱり、仕事との両立は大変なんだな」
「そう……ですね。でも、葵ちゃんがサポートしてくれるのでなんとかなってます。こうして学校に来れたのも、葵ちゃんのおかげです」
「そうなのか? 夢野さん、本当に速水と仲良しだったんだな」
よかった、速水の一方的な片思いじゃなくて。
それにしても速水のやつ、そんなことまでしていたのか。
「はい、葵ちゃんはわたしの一番の親友です。たまに暴走気味で、困ってますけど」
ちょっと苦笑いしながら言う夢野。
そうだよね、この前も暴走していたよね。
速水が夢野を見る目が怪しかったよね。
しかしこうして夢野と話していると、やっぱりあのラノベ、『はぴぱら』の作者とは信じられない……。
こんなおとなしそうな女の子が、あんな過激なシーンも書けるのか?
なんとか夢野本人に確認をとって、サインを書いてもらいたい。
速水に確認をとったとは言えないもんなあ。
「……どうしたんですか? 部長さん?」
怯えたように夢野が後ずさりしながら言う。
「は、いやなんでもない」
いかん、見すぎていた。
ばっと視線を逸らした瞬間。
鞄をひっくり返してしまった。
「ありゃりゃ……ごめん夢野さん、ぼーっとしてたよ」
慌てて地面に散らばった教科書を拾おうとしゃがんで、気付いた。
混ざってやがる……教科書の中に、『はぴぱら』第一巻がっ!
ちら、と夢野の顔を窺ってみる。
明らかに動揺していた。少し顔が青ざめている。
や、やばい……なんとかごまかさないと。
「あ、えーっと……これ、先週アニメ始まったやつ! 一話見たら面白くてさ、原作買っちゃったよ! ルナちゃんかわいい!」
何を言っているんだ俺は。不自然極まりない反応である。
「へ、へー! そうなんですか! わたしも見てみますね!」
夢野の反応も同レベルだった。
目をウロウロさせている。
ごめん! 内緒にしておきたいんだよね!
サイン貰うのは一旦諦めます!
「じゃ、じゃあ俺はそろそろ……」
あたふたと散らばった教科書(と、はぴぱら一巻)を鞄に詰め込んで立ち上がろうとした途端。
後ろから声が聞こえた。
「あ、ユメ! 今帰り?」
速水である。
嫌な予感しかしない。
こいつポンコツだからなあ!
「あ、葵ちゃん……うん、今帰るところだよ」
「それじゃ、一緒に帰ろ。『はぴぱら』の話したいし!」
あまりにも迅速すぎるフラグ回収。
夢野の顔が更に青ざめた。
なに、速水の目には俺が映らないの? 視界から削除されてるの?
「ちょちょちょ……葵ちゃん……!」
夢野の反応を見て、ようやく速水が俺の存在に気付く。
「あ、先輩……いたんですか。何してるんですかこんなところで」
「ずっといたわ。速水が来る前から夢野さんと話していたからな」
それを聞き、速水がむうっとした顔になる。
こいつ本当に夢野のこと大好きだな。
「そうでしたか。で? ふたりでなんの話してたんですか」
圧を感じる言い方である。目が怖い。
「いや、えっと……『はぴぱら』一話、面白かったなって話」
ぴくっと速水が反応する。
視界の端で夢野があわあわしているのが見える。
「ほーぅ……わたしより先にその話でユメと盛り上がっていたと?」
別に盛り上がってはいないけどな。
「ルナちゃんかわいいって話しただけだよ」
「ふーん、なんだそれだけですか。今すぐ帰ってアニメ見直した方がいいですよ? 先輩は、まだまだ『はぴぱら』の魅力に気付いていないみたいですから」
今度はぴくっと俺が反応する。
「ん? 俺が『はぴぱら』の魅力に気付いていないって?」
「はい、そう言ったんです。ルナちゃんかわいいって……それだけ? 素人丸出しの感想じゃないですか。保護欲駆り立てられるルナちゃん見てブヒブヒしてただけでしょう?」
「言ってくれるじゃないか……確かに俺はルナちゃんにブヒブヒしていた。認めよう」
「認めるんですか。相変わらず気持ち悪いですね」
「だがそれだけではない! キャラの可愛さだけじゃない、ストーリーの魅力もがっつり語り合えるぞ! 最新刊まで買ったから、読み終えるまで首洗って待っているがいい!」
びし! と速水を指さして胸を張る。
「やれやれ……これだからにわかは。私は全巻発売日に買って読み込んでいますからね。新参者のあなたとは違うんです」
「うーっわ、古参ぶるタイプかお前は? コンテンツを破壊していくタイプだな。そういうやつは作者にとって迷惑なんだよなあ。なあ夢野さん?」
「!!!!??????」
顔を真っ赤にして驚く夢野。
「何言ってるんですか。作品の本質も理解しないで偉そうに語るにわかの方が作者にとっては迷惑なんですよ! ね、ユメ!」
「…………!!!」
口をパクパクさせて何か言いたげな夢野。
「夢野さんからも何か言ってやれ!」
「ユメからも言ってやって!」
「…………ふたりともやめてっっ!!!」
夢野が、上ずった声で大声をあげた。
しまった、と思った時にはもう遅かった。
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