第10話 円城紡はアニメに夢中②

 月曜日。放課後。

 俺は授業中も、『はぴぱら』のことが気になって仕方が無かった。

 アニメ化したラノベ。

 作者の名前は、どり~みんぐ★もえ。

 そして、女の子二人が活躍するセンシティブな萌えアニメ……。

 ありえないだろと思いながらも、考えれば考えるほど夢野の顔が浮かんでくる。

 速水は綺麗な学園モノって言ってたけど……まさか、女の子しか出てこない速水好みのアニメだから綺麗って言ったんじゃないだろうな?

 なんとか確かめたいけど、どうすれば……夢野に直接訊いてもはぐらかされてしまうだろうし、速水は教えてくれないし。

 ……いや、待てよ

 実直に訊くから悪いのだ。

 あいつは夢野のことが大好きみたいだから……

 うん、試してみる価値はある。

 速水を探しながら校内を歩いていると、ちょうど吹奏楽部の練習に向かう速水を見つけることができた。


「なんですか? 吹部の練習行かなくちゃいけないところなんですけど」


 気だるそうに答える速水。

 久しぶりだというのに態度は相変わらずである。


「いやいや、すぐ終わる話。ちょっと速水に聞きたいことがあって」


 少し間を置いてから、自然体を意識して口を開く。


「昨日、『はぴぱら』って見た?」


 ぱっと速水の顔が明るくなる。


「あ、やっぱり先輩も見たんですか? 最高でしたね!」


 予想以上の反応だ。


「面白かったよな! さすが夢野さんだよ!」

「全くです! さすがユメですよ。アニメ化しても原作どおりルナちゃんは可愛かったですね! 特にルナちゃんが縛られるところなんて……」


 言ってすぐ、口を押さえる速水。

 やっぱりか。爆釣である。

 というか、簡単に釣られすぎである。


「や、やっぱりあれが夢野さんのラノベなのかっ……」

「騙しましたね……非道です!」

「いや、騙したっていうか……速水が勝手に口を割ったというか」

「だまらっしゃい! 誘導尋問とは非道な真似をっ……」


 頭を押さえて蹲る速水。

 コスプレ写真を誤送してきたときといい、今回といい、意外とこいつはポンコツである。

 本気で後悔しているようなので、矛先を変えようと話をする。


「というか、夢野さんも隠す気あるのか? どり~みんぐ★もえって」


 蹲ったまま、速水が答える。


「あー……なんかペンネーム決めたとき寝不足だったらしいですよ」

「なんだそりゃ」


 絶対決めたときはノリノリだっただろ。

 如月とか名乗ってノリノリだった俺だから分かる。


「先輩の如月紡よりはマシとはいえ、なかなかのペンネームですよね」

「おい。さらっと俺のことを馬鹿にするのはやめろ」


 俺は今でもかっこいいと思っているからな! 


「ペンネームのことは置いておくとして、夢野さんも隠さなくてもいいのに。確かにあれを夢野さんが書いているっていうのは意外ではあったけど、面白いし。原作買っちゃったよ俺」


 蹲ったままの速水をフォローするつもりで言ったのだが、速水はすっくと立ち上がりわかってないなあと言いたげな顔を見せた。


「まだ一話ですからね……今はなんとでも言えますよ」


 速水は俺のほうを向いて言った。


「原作買ったって言いましたけど、読みました?」

「いや、まだだ。ネットで買ったから、届いたら読むつもり」

「読めばユメの気持ちが分かると思いますよ。だから絶対、絶対ユメに変なこと言っちゃダメですからね!」


 そう言うと、速水は吹奏楽部の練習に行ってしまった。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


 その日、家に帰ると『はぴぱら』の一巻が届いていたので早速読んでみることにした。

 表紙は萌え系全開のイラスト。

 この雰囲気を見ると、とてもあの小柄な可愛らしい女子が書いたラノベとは思えない。

 俺もいつか、こんな風に書いた小説が本になったら嬉しいよなあと思いながら、ページを開く。

 速水は、読めば夢野の気持ちが分かるって言っていたけど……どういう意味だろう。


 ……二時間後。

 読み終えた俺は、自分の顔がにやにやしていることに気付いた。

 やべえ。なんだこれ。

 面白いけど、それ以上に……エロい。

 官能小説かよって言いたくなるようなシーンまである。

 しかもそれが、女の子同士での絡みである。

 もしかして、夢野もそうなのか? それとも、速水の影響で?

 どちらにせよ、これは人には言えないな……。

 こんなの書いているって人に知られたら、恥ずかしさで生きていけない。

 俺の中二病全開小説とは違った意味で恥ずかしい。

 夢野が自分のラノベを内緒にしている理由、よく分かったよ……。

 よし、決めた。


「この一巻に、サインしてもらおう」


 そう決意しながら、一巻を通学用の鞄に仕舞う。

 俺は大手通販サイトを再び開くと、最新刊までポチっておいた。

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