第9話 円城紡はアニメに夢中①

 夢野に会ってから一週間が経過した。

 俺はいつものように、自分の部屋のベッドでアニメを見ながらだらだら過ごしていた。

 いやー今期はどのアニメもレベル高いわ。

 あれもいいしこれもいい。全く時間が足りないな。

 楽しくなってきたぞう。


「――じゃない!」


 俺はベッドから飛び起きた。

 アニメを再生していたタブレットが床に落ちる。

 夢野さんに言われた小説、まだ一ページも書いてねえ! 

 このままじゃ、夢野さんに幻滅されて速水には捨てられる!

 もう一週間も経つというのに、本当に何もしていない。

 この一週間は、夢野どころか速水にすら会わなかった。

 このままではまずい。

 俺はパソコンの前に座ると白紙のワードファイルを開いた。


「……でも、書けないんだよなあ」


 夢野に見せる新作ラノベ。前に速水に見せたような物じゃダメな気がする。

 悩めば悩むほど書けない。

 俺はバトルもの、それも派手な能力バトルを書くのが好きだ。

 そのせいか、書こうとしても、どうしても『迅雷伝説』と同じような内容になってしまう。

 まだ完結できていないことが尾を引いているのか、どうしても頭に『迅雷伝説』の設定がちらついてしまうのだ。

 だから、全く違うジャンルで書こうとしたのだが……俺には向いていないようだ。

 どうしたものかな……

 パソコンの前で唸っていると、通知音がタブレットから聞こえた。

 なんだ、こんなときに。

 俺は立ち上がると、さっき床に落としたタブレットを拾い上げた。


「やべ、もう始まる時間か……」


 通知は、今日から始まる新アニメ、『はっぴーぱらだいす』……通称『はぴぱら』の放送が始まるお知らせだった。

 原作ラノベが好評で、放送前から話題になっている今期の期待度ナンバーワンアニメである。

 全く、人がせっかく気合を入れて書こうとしているときに。

 天井を見上げて、決意を新たにする。

 これ見てから頑張ろう。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


 三十分後。

 面白い……面白いぞこれ! 本当に今期はレベル高い!

 それは、いつもおどおどびくびくしている主人公・ルナが、強気な親友・ソルと一緒に学校で起きる不思議な事件を解決していく物語。

 登場人物の女の子たちがみんな一生懸命でかわいいし、(当然)男は一切登場してこない徹底っぷり。

 話も意外性があって面白かったし、次回へ続く伏線も感じられた。

 それになにより……センシティブである。

 つまり、なんだかやたらエロいのだ。

 登場人物みんながとにかくかわいくて……こう言っちゃなんだが性的である。

 一話から主人公縛られてたし。

 PTAから苦情が入らないか心配になるよ。よい子は見ちゃダメ。

 原作を確認するために、大手通販サイトで『はぴぱら』を検索してみる。レビューでも評価が高い。

 こりゃ原作も買って読まないとな、と思いながら見ていると、作者の名前が目に留まった。


 作者:どり~みんぐ★もえ。


 …………

 心に引っかかる名前である。

 いや……まさかね。まさかなー!

 苦笑いしながら、俺は『はぴぱら』の一巻を購入した。

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