第2話 襲撃者(しゅうげきしゃ)

キズついたその子の口から出た言葉に

ちょっとビックリしちゃったけど、

すぐにボクのうでにかかえられている

その子のことをもういちど見直した。

長いかみも、長くてほっそりとした手足も、

かっこうだって新しくつもった雪みたいに

まっ白でキレイだ。

でも……かなり、よごれてしまっている。


その時、ボクはちょっと思い出したんだ。

昔のこと……カナタくんとケイコちゃんと3人で

だいぼうけんをしたときのこと。

あの時もボクたちはみんなよそ行きのピカピカの

ふくを着ていた。そして、だいそうげんや暗い

トンネルをぬけて、まわりが金ピカのボクたちの

思い出の場所にたどり着いたとき……ピカピカの

ふくはススやくさやドロで

うっすらと黒くなっていた。

みんなのかおも黒くよごれていたけど、

なんだかたのしくなってボクたちは

大きな声でわらったんだ。

あの時、もともとボクたちはあの金ピカの

思い出の場所……「お宝が眠る場所」って

言われていたところを目ざしていた。

ケイコちゃんもカナタくんもボクも、

それぞれに大切なモノをさがして、

いっしょうけんめいに走っていたっけ。


少しだけ、なつかしい思い出を

見ていたボクだけど、

もう一度目の前のボロボロの子を見る。

きっとこの子も……なにか大切なモノがあって、

がんばってここまで来たんだ。

こんなにキズついてまで、ここまで来たんだね。

助けてあげないと!

ボクはランドセルから

体操着入れの袋を取り出して、

この子をそのふくろの中に入れてあげた。

「ちょっと、せまいかもしれないけど

 少しだけガマンしてね!」

声をかけてから、ひとまず学校のほうへ

向かおうとしたその時!

「勝手にヒトの獲物を持って行かれちゃ困るな。」

すごくこわい感じの低くて重い声が

そこらじゅうにひびいた気がした……

そして後ろから声がしたと思ったら、

その方向から何かが向かってきた!

ボクはあぶないところで首を左に曲げてよけた。

それはうら通りのかべにささった。

空気をつきやぶってとんできた

それはナイフだった。

すごい切れ味でボクの右のほっぺたは図工の

クラスでカッターを失敗したときみたいに

ザクッと切れてしまっていた。

もし、これがまともに顔に当たっていたら……

「今のはただのオドシだぁ。

 別に当たってもよかったがな。」

声がした方向から、大人にしては小さめで

小太りなおじさんが現れた。

カバンをたすきがけにして、

ダボッとした黒色のスーツを着て、

頭はスキンヘッドみたいで、かみは少なめ。

手にはさっきのモノと同じ投げナイフを

何本か持っている。

いちばんこわいのは、引きつったようなえがおを

していることだ。

「とうとう憎っくきA・Rを捕まえて

 廃棄できるんだ、

 こんなに嬉しいことはないよなぁ。

 ついでにチビコロもひねりつぶせるなら、

 ツイてるぜぇ。」

そう言っておじさんはケタケタとわらう。

このヒト……このヒトがこの子を

こんな目にあわせたのか!

ボクの中のおじさんをゆるせない思いと、

この子を守りたいという思いが、こわいっていう

思いを上回り、体を動かす。

「あぁ?何だぁ、その生意気そうな面は?

 ひと思いにやってやろうか?あん?」

そう言ってボクを見下ろすおじさん

……そこにひびく別の声。

「カッテナコトヲスルナ。

 オマエノアトシマツニハ、

 ヨケイナテマガカカルンダ。」

ボクがかばっている子とはちがう、

女の子のロボットみたいな声だ。

おじさんはわらいがおから、

先生にちゅういされた子みたいなかおに変わった。

「おじさんの他にもだれかいるの?」

ボクが声をかけたとたん、おじさんがちょっと

おどろいたかおをして、カバンのなかに

うっすらとしたヒカリが見えた。

「ワレノコエガキコエルカ。カノウセイハアルナ

 ……ソイツモイケドリニシロ。」

「俺にいちいち命令するな!だが、

 報酬のためなら、やむを得んな……」


おじさんのかおが引きしまるのを見て、

ボクはすぐさまにげ出す!

おじさんはさっき見たいに

するどいナイフを投げてくる。

右手に左手に3本ずつ持って、走りながら

右手左手とかわるがわる投げつけてくる。

ボクは後ろをふり向いて

おじさんの動きを読みつつ、

なんとかナイフをよけながら走りつづける。

おじさんはなかなかボクを止められないから、

ちょっとずつ、かおにイライラが見えるように

なってきた。そして……

「イツマデアソンデイル。

 モウイイ、ワレガヤル。」

またあの声がしたと思ったら、今度はたくさんの

ハリがちゅうに浮かんでいるのが見えた。

と、思ったらそれがボクに向かって

まっすぐにとんできた!

ボクは体育のクラスみたいに

(コンクリートの上だけど!)前にころがって、

あぶないところでなんとかよける!

細くて長いたくさんのハリは地面に突きささって

そこらじゅうにひびわれを起こしている。

「オイ、ガキは殺さないで

 捕まえるんじゃなかったのか?」

おじさんはあきれたようなかおだ。

「カイヒドウサヲシテイレバ、カンタンニ

 チメイショウニハナラン。ハリガイフクニデモ

 ヒッカカレバトラエラレル。」

なんてことを考えるんだ……

ボクはこわい思いをおさえて、

またもにげ出した。でも……

「ムダダ。」

もう一度たくさんのハリが

ちゅうに浮かんだかと思ったら、

1本1本がクロスするように

すばやく地面に突きささっていく。

さっきよりよけにくい!

ボクはさけることはできたけど、

とうとうシャツの何カ所かが

ハリにさされて動けなくなっちゃった!

「終わりだ、チビッコロ、観念するんだな。」

おじさんがゆっくりと歩みよってくる。


うう、通学路まで行けば助けがよべる……

あと少しなのに!ボクはどうなってもいい……

せめてこの子だけでも助かって!

ボクはせいいっぱいの力でA・Rちゃん?が

入っているランドセルごと5メーターくらいまえの

通学路に投げようとしたとき、ランドセルの中から

ヒカリが広がって……

A・Rちゃんが外へとび出してきた!

はじめはよわよわしいヒカリだったけど、

どんどんまぶしいくらいになって、そして!

ばくはつしたようなヒカリが走ったかと思ったら、

A・Rちゃんはさっきのかかえられるくらいの

人形サイズから、

マネキンぐらいの大きさになっていた。

カッコウもドレスから昔のヨーロッパのヨロイ

みたいになってる!ボクとおじさんたちのあいだに

ボクを守るように出てきた。

「コノヒトヲキズツケテハイケマセン。

 カンケイナイカタヲマキコンデハイケマセン。」

「……ヤットデテキタナ、A・R……。」

女の人にしては低めのロボット声がひびく。

そしておじさんの持っていたカバンのなかから

暗いヒカリとともに、黒色のふくとカラダをした

お人形さんがそらにうかびあがってきた。

そして暗いヒカリがはじけたら、A・Rちゃんと

同じくらいの大きさになってヨロイをつけた

女のヒト(ロボット?)がそこにはいた。


「C・A……」

「ワレニハムカッテキタイママデノ、

 ソノツミヲセイサンシテモラウ……。」

「雇い主がこう言っているからな……

 ま、俺もワクワクしているがな!」

C・A?ちゃんとおじさんはこわいかおで

A・Rちゃんのことをにらんでいる。

「サイユウセンジコウ……ブガイシャノ

 アンゼンノカクホ。ツギニ、ワタシノ

 ボディノシュウフクヲジッシスル

 ヒツヨウガアリマス。」

こえもうごきもよわよわしく、

立っているのがやっとみたいだ。

そんなカラダなのに、ボクをまもろうと

してくれているなんて……

「助けなきゃ、助けなきゃ!」

ボクはもがくことでなんとかシャツを

やぶれないか、ぬげないかをためしてみる。

そんなことをしている間に、C・Aちゃんは

ふしぎな力で、さっき出していたたくさんの

ハリを自分の右手に集めだしたと思ったら、

1本の大きなヤリになった!

たしかスピアーという名だったと思うけど、

それですばやくA・Rちゃんをつきまくり、

おじさんは後ろからC・Aちゃんに当てないよう

投げナイフを投げつづけている。

A・Rちゃんは両手に白いヒカリを出して、

右手にシールド、左手にソードの形に変形させて

2人の相手をしている。ボロボロのカラダなのに、

必死にがんばってる!

「助けなきゃ!おねがい!

 うごけるようになって!」

ボクはカラダ中にできるだけの力をこめて、

ふくに突きささったハリからのがれようとする。

すごくするどいハリだ……だけど、だからこそ

ボクのシャツはだんだんとビリビリになってきて

……とうとうやぶれて動くことができた!

自由になったボクは背中を向けている

C・Aちゃんに思い切ってぶつかった。

思いもよらないボクの動きにおどろいたすきに、

A・Rちゃんのヒカリのソードが打ち下ろされ、

左手にダメージを受けたみたい。

でも、ボクもスピアーで

らんぼうにふりはらわれて、

遠くまでふきとばされてしまった。

すごいいたみでうごけない間に、

おじさんがボクの上に馬乗りにおおいかぶさる。

「なかなかいい根性してるじゃねぇか……

 だが、これまでだ。

 ノドを切り裂かれたくなければ

 おとなしくしているんだな。」

おじさんはこわいかおと声でボクの首をつかんでいる。

イヤだ……イヤだ!

ボクはなおもカラダをうごかそうと

ていこうをするけど……おじさんの目つきが

さらにするどくなってボクの首をしめるチカラが

さらにこめられたのがわかる。

「う、うぅ……っ……!!」

息ができない……苦しくてどんどん

動けなくなっていく。

「セイメイハンノウガビジャクニナッテイマス……

 コレイジョウソノヒトニキガイヲクワエル

 コトハヤメテクダサイ。」

「オマエノオーダーナドキクヒツヨウハナイ。

 キイテホシイノナラ、ソウオウノコトヲ

 シテモラオウカ?」

C・Aちゃんがそう言うとA・Rちゃんは

かまえをといて、両手のチカラを抜いて

ソードとシールドをダランとさせる。

C・Aちゃんはぶきみなわらいかたをして、

「イイコダ……。」とつぶやき、

スピアーをA・Rちゃんに

めちゃくちゃにふりまわす!

A・Rちゃんはていこうすることができず、

たたかれ続けている……ボクのために!

「おい!C・A!俺にもやらせろ!

 さぁ、お前は終わるまでそっちで寝てな!」

おじさんはボクのえりのあたりをつかんで、

ボクは思いっきり投げられた。

あぁ、ボクはあの女の子をたすける

こともできないのか!くやしさといたみに

ナミダをうかべ、ボクのカラダは空中から

コンクリートの地面へと近づいていく

……もうダメなの!?


……え?あれ、無事なの!?

「ふぅ、ヤレヤレ。間一髪だったな……。」

空からふってきたボクを

やさしくだきとめてくれたのは……。

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