第十幕 ギルマス会議(後編)
「・・・議長。発言宜しいでしょうか?」
((来た!!!!!!))
CFO初となる、ギルドマスター同士が集い議論するプレイヤーイベント―「第一回ギルマス会議」―にて、
これまで意見をしていなかったギルマスの一人が、初めて声を上げた。
― そのプレイヤーの名は、「魚の人」 ―
ここにいるギルマスの面々・・のみならず、ここに居合わせたもののほとんどがこのように思ったであろう。
(今更、出る幕じゃないだろう。)
(・・形だけでも参加したことにしたいんだろうけど、・・やっちゃったかな。)
彼ら、彼女らがそう思っても仕方がない。単純に「寄生」に対してはもちろん、言うなればこれは各プレイヤーのやる気、モチベーションに対する議論だ。
LV80ないしそれに準ずるトッププレイヤーが所属するようなトップギルド間での討論に、GLV5の―誰もがおまけで呼ばれたと思われるような―中堅クラスのギルドのマスターが、しゃしゃり出るような場面ではない。
あまつさえ本人のLVもたった50!一昔前ならいざ知らず、現在のCFOにおいては初心者とみなされてもおかしくないLVだ。
なおかつ!つい先ほど、この場の誰もが一目置くプレイヤー、ライアスが引き下がった形の事案だ!!
(・・まぁ、こんな空気の中で発言しようと思ったことはある意味凄いけど・・)
少しでも好意的に見てもこんなところであろう。
― ・・ほんの一部を除いては。 ―
議長を務めるspencerにとっても、この発言は予想外であった。ために、一瞬反応が遅れたが、却下することではもちろんない。
「・・魚の人さん、どうぞ。」
「ありがとうございます。」
魚の人は立ち上がって(正確に言えば「座る」のモーションを解除して)、発言を始めた。
「・・まず初めに言っておきますが、「クロスナイツ」さんの主張や提案が間違っているとは思いません。LV制のゲームにおいて、早くLVを上げる手段を使う事自体は、おかしなことではないと思います。」
(・・あれ?てっきり反対意見を言うと思ったんだけど)
(・・・なんか意外とまともな発言してるぞ?)
などと聴衆の一部がいろいろな意味で意外に思っているところに、それは投下された。
「・・・ですがこれは、上位プレイヤー間の傲慢ではないでしょうか?貴ギルドのルールで行うのは構わないにしても、それを他ギルドまで認めさせるのは筋違いだと思います。」
―この場の空気が凍り付いた―
(・・やってくれる・・!)
誰もが唖然とする中、当の本人であるアシューが真っ先に反論する。
「異議あり!!何をもって傲慢というんですか!!?」
「・・反論を認めます。魚の人さん、回答を。」
「・・CFOのみならず、MMOをある程度やったことのある方なら、「LV=上手さ」と必ずしもならないことは、経験上わかるかも知れません。」
「ですが、CFO、ましてMMO自体初めてという新規ユーザーにとってはどうでしょう?他の人の強さを図るのはLVぐらいしかないと思いませんか?」
「確かに・・」「まぁ、そうかも知れないな」
何人かから相槌が飛ぶ。
「そんないろいろなことが初めての、楽しい時期のはずの新規プレイヤーが「あ、この人レベル高い!いろいろ知ってるんだろうなぁ!」と思って、人によっては勇気を出して、ギルドに入ったりしていざ会話してみたら、」
「「あ、自分、よくわからないんで」「そのくらいwikiみれば?」なんて返される。・・・楽しいと思いますか?」
・・・一堂、沈黙。
だがさすがに、アシューは反論する。
「・・魚の人さんが言っているそれは、「寄生」プレイヤーに限ってのことでは無いですよね?同じような経験をした人はMMO内に多くいると思います。・・かく言う私もそうです。それだけのことで辞めていくというのは、後々同じようなことで辞める「やる気のない」プレイヤーと言うだけではないですか?」
「そうかも知れません。・・ただ、「寄生プレイヤーのPSが低い傾向にある」としたなら、こういった「やる気を殺がせるような事態」を減らすためには動けても、逆に助長するような提案には賛同しかねます。」
「それは・・まぁ」
「新規プレイヤーのことも考えたら、理屈にはかなってるかな?」
会場の空気が魚の人寄りになってきている中、
「・・議長。発言いいですか?」
「バッカスさん、どうぞ。」
親「クロスナイツ」とされる「CFO生産組合」のバッカスが立ち上がって発言する。
「・・魚の人さんの意見は、的外れではないとは思います。ですが実際のところ、GLV8のギルドならびにタウンをきちんと運営するにあたって、高LVのプレイヤーが多数いて欲しいのは事実です。」
「・・この希望はGLV7や8のギルドを運営している他のマスターにとっても同様だと思いますが、いかがでしょうか?」
「賛同します!」
「一理・・あるかも」
GLV7のギルド「シュレディンガー」の黒猫、ならびに「CCC」の霞が賛同の意を示す。
「・・GLV5、LVも50の魚の人さんに実感がないのも無理はないかも知れませんが、高LVのギルド運営、クエストには効率が求められます。そしてそれがCFOの今後につながる。少なくとも私はそう思うので、変わらずクロスナイツさんの意見を支持します。以上です。」
「やる~」「ヒューヒュー!」
周囲から喝采が飛ぶ中、
「・・実感がこもった発言です。私も変わらず支持します。」
「自分も変わらず支持します。」
と言うのは「新撰組詰所」の近藤勇と「シュレディンガー」の黒猫。
結局、魚の人の発言もむなしく元の状態に戻った・・かと思われた矢先、
「ん~、・・でも魚の人さんの意見ももっともだと思うから、私はこちらに一票かな?」
「俺も新規プレイヤーがやる気を出せる環境っていうのが気に入ったから、魚の人さんの意見に賛成だな。」
なんとここで「初心者支援」のアンナ、「まったり」のほわっとが魚の人ひいては「ともしび亭」を支持する発言をした!
これで「クロスナイツ」の提案する「ギルド効率化路線」に積極的なのが「CFO生産組合」「シュレディンガー」「新撰組詰所」、
逆に消極的なのが「ともしび亭」「初心者支援」「まったり」と別れた形に。
「効率化路線」で収まりそうだった会議が、魚の人の発言で2分される状態までなったのである!
そして、参加10ギルドの内、7ギルドがそれぞれの意思を伝えた結果、残る3ギルド「CCC」、「NightMare」そして「ボルケーノ」もどちらを支持するか示さないといけないような空気にもなった。
― となるととりわけ、3つの中でも最強と言われるギルド「ボルケーノ」つまりはライアスがどちらを支持するかが、再び焦点に! ―
「・・などと周りは思っているかもしれないが、実は私は重要ではない。」
「・・・いきなり何を言ってるんだか」「良い機会だから、」
CFO最強と目されるプレイヤーは、「親友」に内緒を飛ばす。
「公表したら?舞台は整えるから。」
「・・・・・・」
俺はリアルでため息をついて、こう返した。
「・・任せた。」
ここでうちのギルドマスター、「魚の人」さんは謎の行動に出た。
「・・・すいません、少し失礼します。<始まりの銃>」
そして、ギルドチャットでも、
「・・ごめん。すぐ戻ります。」
<「魚の人」さんがログアウトしました。>
「へ?」「え?」
再び唖然とする一堂。
・・・重い沈黙の中、誰かが言った。
「・・・もしかして、逃げた・・?」
「嘘だろ!!?」「マジで!?」「そりゃ、あかんやろ・・」
たちまちブーイングの嵐。それもそうだろう。これから会議を進めていこうという中で、理由も告げず突然ログアウトしたのだから。
「大体なんだよ?最後に貼ってる<始まりの銃>って、今時、50のオーダーメイドとか持っててもww」
「LV50で持ってるのは見方によればすごいかもしれないけど、確かに今更だよね。」
「・・・いや、待って。」
周囲から怒号が飛び交う中、多くの武器を見てきたバッカスが、一番最初に気づいた。
「・・この<始まりの銃>単なるオーダーメイドじゃない・・・3回は打ち直してる・・・」
「え?」「ちょっ!?」「マジだ・・・」「どういうこと?」
驚きと疑問の声が、同時に飛び交う。
・・なぜこのような状態になったのか。それはひとえにバッカスの言った「打ち直し」の意味を聞いたプレイヤーが分かっているかどうかであろう。この「打ち直し」というのは一部の上級者のみで通じるいわば俗語であり、より正確には「オーダーメイド装備のリ・オーダーメイド」というシステムである。
「オーダーメイド」は同LVの装備の中では最強に位置する唯一無二の武具ではあるが、実はさらに強化することが可能である。そのやり方は、出来上がったオーダーメイドを一度溶かして、「オーダーメイドインゴット」というアイテムにし、それを素材に使って「もう一度同じオーダーメイド」を行えばよい。これを「リ・オーダーメイド」という。
そして、「オーダーメイドインゴット」には、新たなオーダーメイドに「以前の特殊効果やステータスアップの一部を引き継がせる」効果があるため、以前よりも強力な装備になると言うシステムである。
このシステムを通称「打ち直し」と呼んでいるが、ほとんどのプレイヤーが知らないのも無理はない。「オーダーメイドの素材集め自体かなり面倒なのに、それをもう一度行う面倒の割に恩恵が少ない」のである。ぶっちゃけ、それより上のLVの装備を取りに行った方が、断然楽で大方強い(現時点で最高LVのオーダーメイドであるなら話は別だが・・)。なので、実用的と言えないシステムなのだ。
・・にも関わらず、3度の打ち直し。しかも適正LVで!これに気付いた一部の上位プレイヤーは、驚きを超えて信じられないという気持ちしかない。
「・・・なんで、こんなものを・・」
「あ~っと、ちょっとよろしいですか?議長・・というより、アシューさん。」
「え、俺?」
いきなりライアスに名指しで呼ばれたアシューは、思わず素で返す。
「はい。すいませんが、うちのギルメンが一人ここに来たいみたいなんで、フレンド許可して欲しいのですが、」
これにはいろいろ動揺している面々の一人であるspencerも、議長として抗議する。
「・・ライアスさん。ここに来られるメンバーは1ギルド3人まで。それはお忘れではないでしょう?」
「覚えています。ですが、ここにいる皆さんの疑念を払拭するのと、会議を続行する上で必要な人物なので、曲げてお願いしたいと思います。」
― そんな中 ―
<「Hiro」さんがログインしました。>
(え?なんでこのタイミングで?)
私はそう感じずにはいられなかった。偶然?・・いや、
「こんばんは。・・来て早々ですいませんが、しばらくここで話せないと思います。」
このすいませんは、ギルチャにいるみんなにだろうか、それとも・・
「・・しかし、1ギルドだけ特別扱いは」「・・OKだ。」
spencerが反論しようとする中、アシューが承諾する。
「・・疑念がどうこうはともかく、会議が続行できるというなら呼んでも問題ない・・というか、呼ぶべきだろう。それで、HNは?」
「・・今、フレンド申請を飛ばすようです。」
まさにその瞬間、アシューのもとへフレンド申請が届く。名前を見ることなく反射的に承諾。するとすぐに、
<「Hiro」さんが「アシューさんのマイルーム」に入りました。>
「「ボルケーノ」所属Hiroと言います。・・そして、」
「<始まりの銃>」
「・・・「ともしび亭」ギルドマスター、「魚の人」のメインアバターです。」
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