第九幕 ギルマス会議(前編)

 CFO初となるギルドマスター同士が集い語らうプレイヤーイベント―「ギルマス会議」―の会場となる「アシュ―のマイルーム」。

主催ギルドである「クロスナイツ」のギルマスであるアシュ―のマイルームは、彼自身の好みか今回のためにあえてそうしたのか、一言で言うと殺風景な部屋であった。マイルーム契約時についてくる「アイテム倉庫」と「オーダーメイド専用棚」、その他は武器防具素材と言った保管オブジェが端の方に整然と並ぶ。

 ・・そして唯一と言える家具オブジェは、大きめの長方形型テーブルとその短い辺に各一つ、長い辺に各四つの計十個の椅子が部屋中央にあるだけである。

「マイルームへようこそ!本イベントにメールで参加希望されていた方々のほとんどの方が参加していただき、ありがとうございます。」

どうやら、希望していたものの中には、今回来れなかった人もいるらしい。

「さて、その椅子オブジェはクリックすることで「座る」ことが可能です。なので、各ギルドのギルドマスターの方が座ってください。私は主催と言うことでこの席に座らせてもらいますが、皆さんは好きな席に座ってください。」

そう告げるとアシュ―は、テーブルの短い辺に一つだけある席―いわゆる議長席あるいはお誕生日席―に座る。


・・・と、次に誰も座ろうとしない。半分は様子見、半分は躊躇と言った感じか・・

一寸、間が開いた後、ライアスがもう一辺に一つだけある席に座る。・・つまり、アシュ―の対面にある席だ。

これを見たギルマスの面々は、思い思いの席に座り、たちまち10の席が埋まる。


・・ちなみにこの時、ライアスは、「この場で一番親しいプレイヤー」にこんな内緒チャットを送っていた。

「・・俺が座る状況?」

「以外ないやろw」

「・・・仕方ない・・」



「ご協力ありがとうございます。なお、同伴で来られた方々には席を用意しておらず申し訳ありません。できれば、各ギルマスの近くに待機していただけたらと思います。」

言われるまでもなく、同伴で来たプレイヤーのほとんどが自然とそうしている。・・ちょっとお茶目な一部が、移動したくらいだ。



その様子を確認したアシュ―は、こう宣言する。

「・・さて、長らくお待たせしました。それでは「第一回ギルマス会議」を開催いたします!」

「開催に当たり、少しお願い事があります。会議を円滑に進めるため、発言は各ギルドマスターのみが行うようにお願いします。同伴の方が意見を言いたい際は、ギルドチャットなどを使い、ギルドマスターの方が整理した上で発言していただけるようお願いします。」

「また、発言の際は「発言良いでしょうか?」など一言、いわゆる「挙手」みたいなものですね。をした後で発言をお願いします。もし複数の方が同時に発言を希望した際は、進行役の指名した方が発言してください。」

「それはまわりくどくない?」「ちょっと横暴だぞ!」と言ったヤジが数人から飛ぶが、

「・・なお、もし荒らし行為のようなこの場の話題と全く関係がない、あるいは会議の進行を妨げるような発言が目立つような方がいれば、失礼ながら主催者である私の一存でフレンド登録を解き、この場から退席してもらいますのでご了承ください。」

「な!?」「おいおい・・」「そうくるか・・」と言った発言がちらほら。


「結構上手い手だな」

「・・ああ。フレンドが解ければ即座に飛ばされるマイルームを会場にしたことといい・・さらに、一見こういったイベント事に何人かいるお調子者を排除するための措置に見せかけて、「クロスナイツが望むような進行を妨げる」発言をする人も飛ばせるって言い方だよね。」

「説明口調感謝w」

「いえいえw」


「・・ではまず、参加していただいたギルドマスター、以後ギルマスと言いますね。の、自己紹介を私から順に時計回りでお願いします。」

 言うとアシュ―は椅子から立ち上がる。・・まぁ、「座る」アクションをやめただけだが。

「では、改めまして。「クロスナイツ」のギルマス、アシュ―です。ギルドの方針は「CFOを最前線で楽しむための組織」です。本日は宜しくお願いいたします。」

アシューが座り、同時に時計回り、アシューの左にいた女性キャラが立つ。

「「CFO生産組合」ギルマスのバッカス。ギルド名の通りギルドタウンにおける生産関係に力を入れている。・・よろしくお願いします。」

この口調は地なのかキャラ作りなのかわかりかねる自己紹介の後、バッカスは座る。一寸間が開いて、その左にいる男性キャラが立ち上がった。

「「シュレディンガー」のギルマス、「黒猫」です。・・元第1サーバーのトップクラスには及ばないかもしれませんが、それに近づくため切磋琢磨するのが方針です。本日はよろしくお願いします。」

続いて、その左の女性キャラが自己紹介する。

「・・「CCC」ギルマスの霞。・・・方針は特にない。今日はよろしく・・」

「これは完全にキャラ作りだな」と思った人が多いであろう発言に続き、その左の男性キャラが立つ。

「ギルド「まったり」マスターをやらせてもらってます「ほわっと」です。その名の通り「まったり自由に」が方針のギルドです。本日はよろしくお願いします!」


 参加10ギルドの内、半分の自己紹介が終わり、アシューの正面に座るライアスが立つ。

「「ボルケーノ」ギルマス、ライアスです。本日はよろしくお願いします。」

聞く人によってはいたってシンプル・・だが、トップクラスの面々にとっては現段階のレベルキャップ、ひょっとすれば唯一のLV90― つまり最強 ―の余裕にも聞こえたであろう。

さらに自己紹介は続く。

「ギルド「ともしび亭」マスターの魚の人です。自由がモットーです。よろしくお願いします。」

「「初心者支援」ギルドマスター、アンナです。方針はギルド名通り。よろしくお願いします!」

「「NightMare」、「ナイトメア」と読みます。ギルマスのKAIです。本日はどうぞよろしくお願いします。」

そして最後の一人の自己紹介。

「・・「新撰組詰所」ギルドマスターの近藤勇。よろしくお願いいたします。」


自己紹介が終わり、「第一回ギルマス会議」は本題に入る。

「自己紹介ありがとうございます。今回は私を含めた以上10名のギルマスで会議を行います。・・と言っても、このまま私が進行を行っては「クロスナイツ」のギルマスとしての意見が言いにくいので、今回の進行は別のものに任せたいと思います。」

そう言うや、アシューの後ろに控えていたクロスナイツのメンバーのうちの一人が、一歩前に出て発言する。

「皆様、初めまして。「クロスナイツ」所属のspencerと申します。今回のギルマス会議の進行を不肖、私が行わせていただきたいと思います。」

「・・なお、今回の議案に関しては主催である「クロスナイツ」から出させていただきますが、議事進行、各ギルドの発言に関しては公正中立に行いたいと思いますので、何卒ご了承ください。」



「・・つまりどういうことでしょう?」

 「ともしび亭」ギルドチャットにおいてミアが尋ねる。

「・・・要するに、会議のネタはうちが出すけど、意見と結果に対しては「クロスナイツ」に対してえこひいきはしないよ。ってことかな。」

「回りくどい言い回しだね。」


「では会議に入ります。まず第一の議案は「ギルドタウンの存続について」。・・「BrightPark」通称BPのギルドタウンが、ギルドメンバーのIN不足で回収されたのは記憶に新しいですが、同じように回収される心配はないか?という案件です。」

「確かにあれは痛かった。」

 軽口を入れるアシュー氏。あれ?

「・・議長。発言よろしいですか?」

「・・・はい。ライアスさん、どうぞ。」

「つい先ほど、「発言はひとこと言った後で」と自分から言っておきながら、今の発言はどういうことなのか、アシューさん、説明お願いします。」


 そう、それだ!・・さて、どう対応するか?


 ギルド内、あるいは別で話し合っているのか、しばしの間の後、アシューが発言する。

「確かに先ほど勝手に発言したのは、自分から言った本会議のルールに則っていないですね。失礼しました。」

「・・ただ、先ほどの発言は「意見」というより「感想」みたいなもので、それぞれの「感想」を会議を邪魔しない程度に言うこと自体は、逆に会議を円滑にすると思いますのでOKということで、みなさんどうでしょうか?」

「・・それは、「クロスナイツ」からの「意見」と見て宜しいですか?」

「あ、はい。そうです。」

自分のギルドのマスターに対しても、一見かもしれないが、適切に進行するspencer氏。なるほど。

「では、先ほど意見したライアスさん。今の返答で納得したかと、新たな提案について思うところがあればお願いします。」

返されたライアスはしばしの間の後、発言する。

「先ほどの意見については、謝罪いただきましたので納得しました。ありがとうございます。」

「新たな提案については、私も同じように思いますので賛成に一票です。」

「ありがとうございます。・・現提案に逆に反対の方はいらっしゃいますか?」

いないということだろう。しばしの沈黙。

「・・ま~、反対する理由はないよね。あ、これは「感想」ということで。」

そうぼやくは、ほわっと氏。

「わかりました。ではアシューさんの提案通り、今後は会議を邪魔しない程度の「ぼやき」はOKということで進めさせていただきます。」

(・・こいつ、やるな。)と、多分何人かが思ったであろう。


「・・では「ギルドタウンの存続について」の議題に戻らせていただきます。」

「まず問題を具体的に話し合うために、皆さん周知かもしれませんが、「ギルドタウンが没収される条件」を確認したいと思います。」

「OK」「んだね」と何人かが相槌を打つ。

「条件1:ギルドマスターがログインしていない時間が1週間続くこと。・・これに関しては問題ないと思いますし、もし該当した場合は、失礼ながら「論外」としか言いようがないので、省かせていただきたいと思います。」

「・・言い方は厳しいけど、その通りだよね。」

「問題は条件2です。「ギルドメンバーが1週間で5人以上ログインしていること。」」

「なお、ここでいう5人とは「のべではなく5キャラ」となります。・・また、マスターはカウントされないようです。」

「・・議長、よろしいでしょうか?」

「はい。黒猫さんどうぞ。」

「失礼ながら、議長のその情報は確かなのでしょうか?・・できれば情報源を教えてもらいたいのですが・・」

一瞬の沈黙の後、

「・・直接運営から聞いた訳ではないので、私の予想です。ただ、知り合いのBPのメンバーから「ちょうど7人、これは当時の必要人員ですね。は、INしていたはずなのにおかしいんだよね・・・」とは聞きました。」

「・・なるほど。その前提で進めていくべきですね。失礼しました。」

spencerは議案を進める。

「もちろん、リアルの都合などで1週間ログインできない人がたまたま重なった結果、いわば不測の事態でこうなった可能性はあります。とはいえ、当時BPにギルドメンバーはおよそ50人はいました。なのに1週間で自分以外に7人INさせることができなかったのは、マスター含めギルドの在り方にも問題がなかったか考えるのは有意だと思います。」

「タウン運営もほとんど野放し状態だったからなぁ。」

アシューの軽口には反応せず、話を続ける。

「先日のアップデートで現在の最低ログイン数は1週間で5人とかなり緩和されました。なので、ひょっとしたらもうタウンを回収されるような事態にはならないかもしれません。ですが、何か思うところがある方は発言をお願いいたします。」

「・・発言よろしいでしょうか?」

「黒猫さん、どうぞ。」

シュレーディンガーのギルマスが席を立って発言する。

「私は元第2サーバー出身なので、件のBPさんの実態を知る訳ではありません。・・が、50人規模のギルドでアクティブが7人行くか行かないかというのは正直、ギルドマスターもしくはギルドの方針に問題があるのではと思います。」

「・・・それはうちみたいなギルドに難あり、ということでいいのかな?」

すかさずこう発言したのはギルド「まったり」のギルマス、ほわっとである。


「・・ほわっとさん、発言する際は・・」

「ああ、すみません。発言いいですか?」

「どうぞ」

ほわっとは立ち上がり、改めて発言する。

「BPさんの基本方針は「マスター含めそれぞれのペースで進める」というものだと聞いたことがあります。・・つまり大きく分けると、うちみたいな「まったり」系のギルドに近いと思います。」

「・・「プレイヤーそれぞれのペースで自由に進める」というのは間違っていると言いたいのでしょうか?黒猫さん。」

黒猫は答える。

「・・プレイヤー個人で見ればそれぞれスタイル、ペースがあるというのは否定はしません。ただ、ギルドという組織を運営する以上は、CFOを効率よく進められるよう尽力すべきだと私は思います。」

「俺も同意見!」「私も同じ意見です。」「・・私も同じです。」

賛同したのはアシュー、バッカス、近藤勇の3名。

「賛同された3名の方、もう少し具体的にお願いします。」

「CFOに限らず、こういったゲームっていうのは結局「強くなる」というのが目標だと思うんよ。ギルドってシステムもそのためにあるから、上手く使っていくようにしないと!」

「・・CFOにおけるギルドやギルドタウンはゲーム攻略、特に高LVの、には欠かせないと思います。であるなら、組織として整える必要があるかと・・」

「・・現状、「新撰組詰所」は、私を含めLVアップを優先しているためタウンはありません。ただ、黒猫さんの意見と同じくメンバーでなるべく効率よく早く強くなって、最前線の方々に追いつきたいと思っています。」

「これは私見ですが、「新撰組詰所」さんは、確かつい一月程前にできたギルドですよね?それにも関わらずGLVは6というのは非常に速いペースだと思います。」

「効率的に上げているって証拠だよね。」

「ありがとうございます。」


そう発言したアシュー、バッカス、近藤勇の3名のLVはそれぞれ86、82、71。80後半であるアシューは間違いなくトッププレイヤーの一人だし、バッカスの82も上位勢の一人だ。

近藤勇の71というLVは本人が言うようにまだ上位勢とは言えないが、短期間で目覚ましく成長していると言える。


「・・議長、宜しいでしょうか?」

「ライアスさん、どうぞ。」

「効率的に上げたいというのは否定しません。ただ、「クロスナイツ」さん、ひょっとしたら他のギルドでもあるかもしれませんが、はLVの低いメンバーに対していわゆる「寄生」プレイを行っていると聞いています。その点についてお伺いしてもいいでしょうか?」

「うわ、言ったよ!」

「・・それは私も聞きたい。」

 ほぼ公然の秘密とされる「寄生」プレイに、真っ向から切り出すライアスに称賛の声も。

「・・「クロスナイツ」さん、返答をお願いします。」

「・・・すいません。少々お待ちください。」

すぐに返答が返ってこず、間が開く。おそらくギルド内で話し合っているのだろう・・さあ、どう返すか?



「お待たせしました。・・まず最初に確認したいのですが、ライアスさんはどういった行為を「寄生」とおっしゃっているのか、具体的に言ってもらっていいでしょうか?」

(強気だ!!!)

 ライアスがこれに返す。

「・・具体的に言うと「高LVのプレイヤーが低LVのプレイヤーとPTを組んだ状態で、高LVのMOBを倒した高い経験値で実質、何もしていないLVの低いプレイヤーのLVをむりやり上げる行為」です。」

「これでは、「ただLVが高いだけでこのゲーム、場合によってはMMO事態のことをほとんど何を知らないままのプレイヤーが増えるのでは?」ということを危惧しています。これは私個人だけではなく「ボルケーノ」メンバーの多くの意見でもあります。」

「それはLVを上げてからでも遅くはないでしょう?やる気があれば。」

アシューのすかさずの返答に、場の空気が凍り付く。


「・・失礼。まずライアスさんのいう「寄生」と言われるような行為自体は存在します。ただ、PTを組むかは個々人の意思。我々が「むりやり」低LVのメンバーとPTを組んでやらせているようにも聞こえる発言は、心外です。」

「更に「寄生」と言うと悪いことだけしかないように聞こえますが、「短時間でLVが上げられる」と言う大きなメリットがあることも事実です。CFOに限らず、LV制のゲームで早いLVアップの手段をとるのは普通の行為ではありませんか?」

「それはそうだ。」

「一理‥ある。」

アシューは続ける。

「またLVの高い方がクエストはもちろん、いろんな行動が取れます。つまり選択肢が増える訳で、よりこのゲームを楽しめると思います。」

「もしわからないことがあれば、wikiを見てもいいし、ギルチャなりで聞けばいいだけです。私自身もメンバーから質問があれば、わかる範囲でちゃんとお答えしています。」

「・・結局は、先ほどの話と重複するようですが、プレイヤー個々人の「やる気」の問題。「寄生」プレイとの関連性はほとんどないと思います。」

「そう言われてみれば・・」

「う~ん・・・」

何人かのギルマスが反応を示す中、spencerが会議を進める。

「質問者のライアスさん。アシューさんの今の回答に対する発言をお願いします。」

「・・・まず、クロスナイツさんの「寄生」プレイに対し、印象の悪い発言があったことについては、謝罪させていただきます。」

「そして、私の質問したデメリットの危惧に対しても考慮している点は確認できましたので、私からの質問は以上とさせていただきます。」



・・一方その頃、

「―――さん、どう思う?」

「・・なんて言うか――――――。」

「そっか。・・・・だろうね。」

「??」


(・・さて、「あいつ」がそろそろ来るかな?)

(・・・そろそろ来る・・・)



「・・・議長。発言宜しいでしょうか?」

((来た!!!!!!))




 これまで意見をしていなかったギルマスの一人が、初めて声を上げた。

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