第14話 ベーコンレタス? ちょっと何言ってるかワカラナイ

 カレーを作りだし何分か経った頃、二人ともお風呂から上がったのか、声が聞こえてくる。


「なるほど、そういうことか……。それなら、納得かな」

「うんうん、やっぱりそうですよ!」


 なんの話で盛り上がってるんだ? 一応、あいつら記憶の中では兄弟になってるけど、会ったのは今日が初だし話すことなんてあるのか? 


 そんな事を思っていたら、小夜が走ってリビングへ突撃してきた。


「お兄ちゃん……」

「ん? なんだ…。」


 悲しい人を見るような顔で、こちらに近づいてきて背伸びして肩を叩いてくる。


「お兄ちゃんが、まさかそうだったなんて。私は、応援するからね!」

「おい、何言ってんだ! なんの話だ、ちゃんと説明してくれ」


 そんな会話をしていると、今度はレティルが入ってきた。

 

「おい、お前らなんの話をし……。っておい! なんだその格好は!」

「これが、どうしたんですか?」

「裸じゃねえか! さっさと服を着やがれ!」


 しかも、さっき言ったばかりじゃないか。なんで、こいつは全然理解してないんだ……。


「いやぁ、忘れてました……。天界だと水浴びしたあと服を着なかったので……」

「ああ、そういうことか……」


 じゃあ、前回はたまたま覚えてたもしくは思い出したから服を着たのか。


「天界って?」

「あ、いやなんでもない。気にしないでくれ……」


 下手に言うと、レティルの話をしなくてはならないし、記憶を書き換えた意味がないだろう。


「それで、お前らなんの話をしていたんだ?」

「あーえっとね……」

「広樹お兄さんが、女より男が好きだって事ですね」

「なるほど、つまり俺が男のほうが好きだから、妹に興味がない。そういうことだな」

「はい、そうです!」

「そうかそうか……。じゃねえよ!」

「ええ!?」

 

 えっ、本気で思ってるの……こいつ。


「さっきも言ったがな、俺は別にホモでもゲイでもベーコンレタスでもないんだよ! 普通に女の子が……好きなんだよ!」

「ということは……、お兄ちゃん。やっぱ、レティルお姉ちゃんのおっぱいを……」

「そうでもねえよ! なんで、お前らはそういう事だけしか考えられねぇんだよぉぉぉ!」


 しっかり誤解を解くまで一時間ほどかかった。そのせいで、カレーの火をつけっぱなしにしていたので、焦げてしまったのはまた別の話だ。



 食事、洗濯、入浴。やらなければ、ならない事は一通り終わり、あとは寝るだけとなった。


「お兄ちゃん……おやすみ」

「ああ、また明日な。今日は窓をしっかり締めて寝てくれよ。扇風機つけてもいいから」

「分かった」


 そう言って、ウトウトしながら自分の部屋へと向かった。取り敢えず、全部の部屋の窓は締め、玄関の鍵も何度も確認した。一つも締め忘れはないはずだ。


「それで、この次はどうするんですか?」


 部屋に戻ると、そこには既にレティルがスタンバっていた。


「取り敢えず、俺は電気を消して起きてる。殺しに来たのが誰か分かったら、水羽に頼んで探して貰えるからな」


 先程、水羽から『犯罪しそうな人及びしたことがある人はその辺には居ないらしい』とメールが送られてきた。


 という事は、殺人鬼ではない別の誰かの可能性が高くなる。油断は禁物だ。


 ふと、俺は帰りの八尋との会話を思い出した。


 あの事についてを聞かなきゃな……。そう思い、俺はスマホでメールをすぐさま送り返した。


『なあ、八尋に聞いたんだがその俺の部屋着の写真、撮ってないらしいんだが、どうしたんだ?』


 既読はすぐについたが、何分か経っても返信がこない。


『もしもーし』


 再び既読は付くものの、やはり返信はこない。寝落ちしてるのか?そう思い、アプリを閉じようとするタイミングで、ようやく返信された。


『写真? なんの事。私知らない』


 こいつ、しらを切る気だな。


『いやぁ、俺の写真の事だ。仕方ない、分からないなら八尋に頼み込んで、俺の写真を全て消去してもらって』


 そう打つと、今度は十秒も経たず返信がきた。


『たまたま夜遅くに通った時に撮った。なんとなく』


 確か、八尋は高額で俺の写真を水羽が買っていると言っていたな。 


『本当にたまたまなのか?』

『たまたま』


 押しが足りないか。


『俺の写真をお前が高額で買ってるって言ってたからな。本当にたまたまなのかなと思って。あと、何に使うんだ?』


 また返信が来なくなってしまった。都合が悪いと止まるのか。


『ナイフで刺して……、ストレス発散?』


 当たりたくない予想が当たったな。


『あんまりやらないでくれよ。写真とはいえこっちもなんか、辛いし』

『うん、分かった』


 まあ、この話は一旦これでいいだろう。



「水羽さんとのラインは終わりましたか?」

「ああ、終わった」

「それじゃあ、私は寝ますね。おやすみないさい」

「待ってくれ……。お前、一緒に起きてくれないのか?」

「眠いので、嫌です。おやすみ」


 清々しく、そう言って部屋を出た。本当に役に立たねえなあいつ。窓から何まで、全ての鍵を閉まっていることを確認し、自分の部屋に戻る。

 電気を消し、布団に包まり気配を消す。


 本当の恐怖はここからだ……。痛みはないとはいえ、今から殺されるの可能性があるかだ。抵抗出来るのが一番だが、今回は鍵を締め忘れが原因なのかと、殺したやつの顔を見る事が目的だ。


 まだかまだかと待ち、心臓がバクバク鳴り他の事に集中が出来ない。そんな現象が何分が経ったのだろうか……。


 そして、ついに『ギシィッ』という音が、下から聞こえてきた。もしもの時のために置いてあった、バッドと懐中電灯を持って下の階へと下がる。ゆっくり……音を立てないように。


 『ガサガサ』という音が、台所の方から聞こえてきたので、覚悟を決め向かう。


「ふぅ……、大丈夫だ。焦るな」


 台所の冷蔵庫に誰かがいる。恐怖を押し殺し、そいつの後ろまでいき懐中電灯をつける。


「何を、やってるんだ! ここは俺の家だぞ」


 そこに居たのは、銀色の長髪をしたレティルだった。


「おい、何やってんだよ。こんなところで」


 そう言って、肩に触るとレティルの体はよろけ腹部に赤くドロドロした物が付着していた。


「おい、レティル。しっかりしろ! 天使は死なねえんじゃなかったの!」

「うっ…………。星雲……さん?」


 目を半分開けた状態で、レティルはこちらを見る。


「まだ、息があるのか? しっかりしろ」

「なんで、こんなところに……? 起こしちゃいましたか?」


 えっ、生きてる? じゃあこの赤い液体は……。ふと、床を見てみるとマヨネーズとケチャップが転がっていた。まさか…………。


「おい、その赤いのって」

「これですか? ケチャップですよ」

「何やってんだよ! 紛らわしい事してんじゃねえ!」

 

 殺されたと心配した俺が馬鹿だった。


「それで、お前は何をやってるんだ?」

「見てわかりませんか?」

「分かったら、聞いてねえよ」

「普通に、マヨネーズとケチャップを吸っているだけですが?」

「普通? ごめんちょっと何言ってるか分からない」


 そんな当たり前のように言われても、ケチャップもマヨネーズも吸わないし……。美味しくねえだろ……。


「いやぁ、喉が乾きましてね。何かないかなと、探していたらケチャップとマヨネーズがありました。なので、美味しくいただきました」

「むしろ、喉が乾くと思うんだが……」


 だかまあ、少しホッとしたな。こんな、死ぬ前に馬鹿げたことをしてくれたおかげでな。


「ハハハ……」

「何が、おかしいんですか?」

「いやなに、少し緊張がほぐれたからな。笑いたくなった」

「変な人です……ね」


 あれ、なんだか急に体から力が……。身体グラつき、そのまま倒れ込む。


「星雲さん、後ろ!」


 腹部を後ろから突き刺され、貫通したのだろう。服は赤く染まり、意識が朦朧とし、体に力が思うようにはいらない。


「まさか…………、あなただったんですか…………」


 意識がかすれる中、レティルのそんな声を聞いた。痛みはないが、もう死ぬんだという事を思わせられるような、恐怖が襲ってくる。最後の力を振り絞り、俺を殺した奴の方を見る……が、そいつはヘルメットをして顔を隠していた。


 ちくしょう、今回の目的……果たせなかったか。そこで、俺の意識はぷっつりと途切れた。



 


 

 

 

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