第13話 妹を襲う? ないない

「痛ってて…………」


 殴られてから、十分は経っているはずだが未だにかなり痛い…。あいつ……、どんな馬鹿力で殴ったんだ。

 

「おかえり、お兄ちゃん」

「ただいま。いやもう今日はクタクタだよ」


 さっさとお風呂やご飯を済ませ夜に備えなくてはないのに、さっきの件でかなり疲労してるんだが……。


「そういや、お兄ちゃん。レティルお姉ちゃんはどうしたの?」

「レティル? あいつは、多分友達とかと帰ってくると思うが」


 一応、水羽が心配ということで、三人とも後を追った。俺の場合は、レティルに帰ったら早く夕飯が食べたいから、一人で先に帰れと言われたので、言われた通りに従い一人で帰ってきた。



「そうなんだ……。一緒にメイドコスプレでもしようと思ってたのに」

「レティルの分はどうしたんだ?」


 レティルは、この家に来て一日目。記憶は書き換えても、メイド服などあるはずがない。その問いに対し、小夜は淡々と答える。


「お姉ちゃんの分は、私が前にサイズを間違えて買ったものがあるから、それを貸そうと思ってね」


 あれは、前からあった物だったのか。てっきり、魔法で作ったものだと思っていた。


「お兄ちゃんってさあ、彼女居るの?」


 いきなり話が変わった……。


「なんだ、突然。居るはずないじゃないか」

「だよね、お兄ちゃん。シスコンだもね」

「シスコンじゃない。ただ、妹には過保護になるだけだ」


 レティル……、あれは妹じゃない。断じて妹じゃない。俺の妹は小夜だけだ。


「ふーんそうなんだ」

「なんで、そんな事を聞くんだ?」


 今まで、一度も俺の好きな人だとかを聞いてこなかったのに。


「いやぁ、最近ずっと同じような顔の人をお兄ちゃんの近くで見るからさあ」


 レティルの魔法で、記憶をいじったせいで、近くにいたレティルと妹のレティルで、混濁しているのか?


 ここは、取り敢えず誤魔化しておこう。


「えっとあれは、違う。ただの友達だ」

「なーんだ、友達か。彼女とかだったら面白かったのに」


 面白いって……。こっちの苦労も知らないくせに。


「まあ、でも。男女間の友情は存在しないっていうし……。本当は、その中の誰かがお兄ちゃんに、恋心とか抱いてたりして」

「いや、ないだろ。むしろ、全員俺のことをいじめてくるしな」


 あいつらのせいで、友達も出来ないわけだし。


「それって、照れ隠しってやつじゃないの?」


 照れ隠し? ……いや、あいつに限ってはそんな事はないだろう。


「そういうお前はどうなんだ? 彼氏の一人くらい居ないのか?」

「別に居ないよ」

「ふーん、まあ出来なさそうだもんな」

「フッフッフッ、私は出来ないじゃなくて作らないの。居たところで、ゲーム時間が減ったりお金を無駄に消費しないといけないじゃん」

「人はそれを、言い訳という」


 小夜はゲームを一旦中断し、俺の体をポカポカと殴る。


「ごめんって、冷蔵庫にあるプリン食べていいからさぁ」

「なら許しましょう」


 単純で助かった。ずっとこの調子だと、流石にやだからな。


「プリンプリン!」

「プリン一つで、そこまで喜ぶなんてな」

「プリンは、世界で一番美味しい食べ物だと思ってる」

「そこまで好きなのか……」


 まあ、確かに今まで何か食べたいデザートを聞くと大抵プリンだったな。今度、何個か買ってくるか。


「と言う訳で、明日プリン五つくらい買ってきてね」

「そうだな、覚えていたらな」


 そして、ちゃんと生きていられたらな…………。


 そうこうしていると、ガチャガチャ音がした後、家に声が響いた。



玄関の方からガチャガチャ音がしはじめた。


 まさか、これって……。玄関まで戻り、様子を見ているとドアが開いた。


「ただいまでーす」

「いや、お前なにちゃっかりピッキングして入ってきてんの!?」

「鍵を持っていなかったので」

「だったら、チャイムを鳴らせば良かっただろ……」


 そう言うと、レティル手をポンと叩く。


「あー、確かにそうですね。盲点でした」

「それが、普通の入り方だから! ピッキングを他の家では、絶対にするなよ」

「大丈夫です。この家が、簡単なだけですから」

「俺が言ってる意味わかってる!? 理解してないよな。全然大丈夫じゃないんだよ!」

「小夜ちゃん、どこにいます?」

「人の話を聞け!」


 なんで、学校から帰ってきてまで疲れなきゃいけないんだよ……。


「レティルお姉ちゃん。おかえりなさい」


 そう言って、いつも俺に飛びつくようにレティルに飛び付いた。


「今日学校どうでした?」

「いつも通り、寝てた。そんな事より、レティルお姉ちゃん。お兄ちゃんって、彼女とかいないの? 同じクラスなら分かるんじゃない?」


 頼むから、レティル。余計なことは言うんじゃねえぞ……。レティルは、こちらをチラチラと見た後、こう答えた。


「えっとですね、広樹お兄さんの彼女は四人ほどいます」

「おいいいいいいい!」


 なんて事を言ってくれたんだ! 彼女なんていねえよ!


「お兄ちゃんは、ちょっと黙ってて。四人てことは4股それで、その人達の名前は?」

「えっと、水羽さんと時雨さんと漆原さん……それと」

「おいちょっと待て、全員彼女じゃねえよ! お前何言ってんだ、あいつらはただの友達だ!」

「だから、お兄ちゃんは黙っててって言ってるでしょ! それで、あと一人の名前は?」


 あと一人……って、それ以外で俺が関わっている女子なんていたか?


「えっと、八尋っていう名前です」

「男じゃねえか、だから俺はゲイでもホモでもバイセクシャルでもねえよ!」

「お兄ちゃん、照れ隠しはいいって」

「照れてねえよ!」

「じゃあ、ツンデレ?」

「今の何処にデレ要素があったんだ!?」

「広樹お兄さん。男のツンデレに重要はないと、八尋さんが言ってましたよ」

「あいつはあいつで、何を言ってるんだ!」


 はぁ……、なんでこんな誤解が生まれるんだ……全く。


「四股の上一人は男……、お兄ちゃん、いつからそんな見境なくなったの?」

「誤解だから……。俺はそいつらと友達だから、決して恋人でもなんでもない」

「でも、レティルお姉ちゃんはそう言ってるよ?」

「俺が、基本そいつらとしか喋ってないから、恋人と勘違いしたんだと思う」


 そうだとしても、男と恋人になるとかありえないだろ……、まあベーコンレタスがどうのこうの言ってるから、頭が腐ってるのかな?


「ふーん。ちっ、面白くないの」

「人の恋愛事情に面白さを求めるなよ……」

「女子中学生なんて、体の半分は恋愛で出来てるからね!」

「残り半分は?」

「プリン」

「それは、お前だけだろ……」


 毎日のように、プリンを食べ続けてるからな、こいつ。


「と・に・か・く! 女子中学生は、恋愛事情に飢えてるの、分かった!?」

「ああ、よくは分からんが。覚えておくよ」

「うん、それで良し。というわけで、お兄ちゃんもレティルお姉ちゃんも二人とも、さっさと恋人つくってきて、私に紹介してね!」


 いやまあ……、その前にまともな友達を作らなきゃいけないんですが……。まあ、そんな事をこいつが知るよしもないか。


「この話はここで終わり。さっさと二人でお風呂でも入ってきな……」

「分かった! レティルお姉ちゃん行くよ!」


 俺のセリフを遮り、そのままレティルの手を引き、お風呂場の脱衣所へと走っていった。着替えとか、全く考えてないな……、持ってきてやるか。


 二階へと上がり、小夜のタンスからパジャマやパンツなどを持ち再び脱衣所に行く。 


 戸をノックし「着替え持ってきたんだが、入ってもいいか?」と聞くと「いいよ!」という返事が返ってきたので、開ける。すると、そこには半裸のレティル小夜が居た。


 なので、すぐさま戸を締めた。


「お兄ちゃん、なんで締めるの?」

「むしろ、なんで閉めないと思ってんだ! というか、入っていいか聞いただろ。なんで、お風呂場に入ってないんだ!」

「別にお兄ちゃんに裸を見られても……ねぇ」

「私も広樹お兄さんに、見られても別に問題ありません」

「俺が、問題あるんだよ! いいから、さっさと脱いで風呂場に入れ!」


 小夜は小さい頃から、夏の真っ只中になると暑いからお全裸で涼んでいるので見慣れているが、レティルの場合は、一応妹ってことになってはいるが、流石に裸を見るのは流石に駄目だろ。


「アー、フクヲヌイデタラヒッカカチャッタ。お兄ちゃん脱がして」

「レティルがそこに居るだろ。てか、そんな棒読みで言われても説得力ないから!」

「お兄ちゃんに脱がしてもらうから、いいのに」

「なにがいいんだ、別に誰が脱がそうと変わらんだろ」

「違うもん! お兄ちゃんが、私の服を脱がして赤らめているところを見たいの!」

「いや、それで興奮したら駄目だろ。兄として……」


 血の繋がった兄弟じゃないか……。それに、別に俺は小夜のことを普通に妹としてかわいいと思ってはいるが、女としては全く見てない。無理にでも見ろ! と言われても……、やはり無理だ。


「ふーんだ、でもレティルお姉ちゃんの方を見てから、戸を閉めたよね? ということは、もしかして……やっぱりおっぱいなの!?」

「いや……、別にそういうわけじゃないんだが…………」


 小さいとか、大きいとか別にどうでもいいしな。


「私には戸越しでも見えるよ! レティルお姉ちゃんの裸を想像してお兄ちゃんが興奮してるのを!」

「してねえから! 第一俺は女の裸なんか興味な……」

「嘘だ!」 


 どこぞのヒロインばりの声で、俺のセリフを遮りそう叫ぶ。


「男の人は、全員獣だって言ってたよ!」

「誰がだよ……」

「私のクラスのちょみきー先生が!」


 ちょみきー先生って、あれか。小夜からよく聞く、ちょっと変わった先生の事だよな。子供になんて事を教えてるんだ。


「あとね、ちょみきー先生曰く、男なんて誰も信じちゃ駄目だって」


 ちょみきー先生、なにがあったっていうんだ……。


「というわけで、お兄ちゃんは獣! そして、妹の巨乳に興奮する変態! どぅーゆーあんだすたんど?」

「だから、違うって言ってんだろ! 何度言えば分かるんだ。それ以上続けるなら、三日間夕飯抜きだからな」


 そう言うと、すぐに返事が返ってきた。


「すいません、私が悪かったです。もう、こんな悪ふざけはしません」

「それでいい。さっさと、お風呂入れよ。風引くだろ?」

「分かった! じゃあ、さっさとお風呂入ろうかレティルお姉ちゃん」


 そう言うと、ほぼ同時にお風呂場のドアが閉まる音が聞こえた。まあ、やらないとは思うが、フェイクの可能性もあるし、着替えはここにおいておくか。


 ちゃっちと、作っていくか。

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