第12話 文房具屋に行きたかっただけなのに

 帰り、前回同様誘われたが、今回は文房具屋に行く事を口実にし、さっさと教室を出てきた。


「オレに付いて来いというなんて、珍しい事もあるもんだな」

「たまにはいいだろ? たまには」 


 八尋は、眠そうにあくびをしながら歩く。


「それで、オレに話ってなんなんだ?」

「ああ、もし俺がタイムリープ出来るって言ったら信じるか?」


 そう、今回八尋を連れてきたのは他でもない。タイムリープについて相談したかったからだ。変態、ストーカー、ゴリラには相談するわけにはいかないし、話せる相手は八尋しか居からだ。


「タイムリープねぇー。厨二病にでも目覚めたのか?」

「俺が、そんな事で話があるなんて言うと思うか?」


 もし、目覚めたとしても、報告はしないと思うが。むしろ、なんでそれを報告しに来たと思ったんだ……こいつ。


「信じられないような、話だとは思う。だが、可能性はゼロじゃない。世界は広いんだ、そういう奴が居てもおかしくはない」

「お前……、本当に信じてくれる……のか」


 レティル以外に、こんな話をしても誰も信じてくれないと思っていたが……。こいつ、良い奴だな。


「ああ、だからオレが盗撮しても文句言われる筋合いは無い」

「俺の感動を返してくれ。それとこれとは話が別だろ」


 はぁ……、結局はただの盗撮野郎だったか。盗撮……? 


「そういや、盗撮で思い出したんだが、お前って水羽に、俺の写真を売ってたりしてるか?」

「してるけど、なにか問題でもあったか?」


 しれっと、そんな事を言ってくる。


「逆に、なんでお前はそんなしれっとしてるんだ。盗撮写真が、こっちは売られてるんだぞ?」

「別に、金になるしな……。水羽は高値で買ってくれるから、俺の盗撮写真の販売の中で、お前のが一番高くてプレミア価格な付いてる。誇っていいと思うぜ」


 いや、別にそんなんで誇ってもな……。虚しくなるだけだし。


「素直に喜べないし、普通に犯罪だし」

「いいや、違う。お前以外の人は全員了承している。写真を売る代わりに、写真を撮らせるという契約でな」


 なんだろう、怒るに怒れないんだが……。むしろ、なんで水羽はそんなものを買うんだ? まさか……、写真をナイフかなんかで刺して、ストレス発散とか!? 


「プレミア価格とはいえ、家に居るときの写真を撮るのは無いだろ」

「家に居るときの写真? どういうことだ。オレが撮っているのは、クラスや部活での写真だけだぞ。流石に、外では撮ってないが……」


 外では撮ってない……? じゃあ、水羽が持っていたあの写真は何だったんだ?


「よく分からんが、細かいことは気にしないほうがいいぜ。世の中には、知らないほうがいい事もあるんもんだし」

「だとしても、怖いだろ。異性の友達が、家の姿の写真をもってるんだぞ?」


 普通に学校で盗撮されている、以上に怖い。


「ふっ、オレだったら興奮するな」

「お前に言った、俺が馬鹿だったよ」


 そんな会話をしていると、目的の文房具店へと到着した。


「それで、何を買うんだ?」

「ああ、ちょっと赤ペンを切らしちゃっててな」


 ずらりと、ボールペンが置かれており一つ一つ、じっくり見る。


「文房具なんて、全部同じだろ?」

「まあ、別にこだわりとかあるわけじゃないんだが、安くて長く使えるコスパのいいやつを選びたくてな」

「なんていうか、貧乏性だな」


 まあ、本当に金がなかった時は友達に赤ペンを買ってもらったな。誕生日プレゼントととかで。あの頃の友達は、皆他の高校行っちゃったし今ではもう付き合いはない。まさか、あれは俺が一方的に友達だと思っていただけなのか? 


 ────いやいやいや、そんな事はない。今でも友達だ、きっと……必ず…………。


「まだ、選べないのか?」

「まだ、数分しか経ってないんだが」


 何故かモジモジしていた身体を止め、堂々と宣言してきた。


「オレは待つのが嫌いなんだ。だから、告白して返事もその場で聞くまで逃さないぜ」

「最低なクズ野郎だな、お前」


 色々見て回っていると、安売りコーナーという場所があるのを見つけた。


「へぇ、こんなのもあるんだ」

「そろそろ、決まりそうか?」


 そんな、八尋の言葉を無視し一つ一つしっかり見ていく。そして、ついに三本セットの赤いペンを見つけた。


「これにしようかな」

「やっとか……。てか、すごく悩んだ割にはそんなやつでいいのか?」

「ああ、なんと三本セット五十円。これは、安すぎだろ!」


 そのまま、レジに持っていき購入する。


「いい買い物したなぁ」

「なんていうか、そんなんで喜ぶなんて変わってるな」

「うるせぇ、なんとでも言うがいい」


 こんな、最高のペンを作っている会社はどこなのかと気になり、商品表を見るとそこに水羽カンパニーと書かれていた。


 なんだろう、一気に使いたくなくなったんだが……。


「それじゃあ、もう帰るか? それとも、またどっか寄るのか?」

「要は済んだし、家に帰る」

「ヘイヘ…………ん?」


 八尋は、何かを見てそう反応した。何か気になり、後ろを向くとそこには、時雨・水羽・漆原・レティルの四人が歩いていた。


「へぇ、星雲。予定って八尋と二人で帰る事だったんだぁ。ふーん」


 指をポキポキ鳴らしながら、漆原はこちらに近づいてくる。えっ、なんでこいつ怒ってんの!?


「星雲くん……。最低」

「うわ、星雲くんってホモだったんだ。今まで二人っきりで何をしていたのかな?」

「星雲お兄さんって、ホモだったんですか? ベーコンレタスとか言うあれですか?」

「なんで、ホモになってんだよ! ただ赤ペンがなかったから買いに来ただけだよ!」


 そう弁解するも、信じてはくれないようだ。漆原は、確実にこちらを仕留めるかのように、殺気を放ちながら近づいてくる。


「よし、殴るから覚悟するのよ。星雲」


 そう言うと、右手を振りかぶった。これはやばい、どうするどうするどうする……。そうだ!


「あそこに、すごく強そうで、セクハラ発言して俺の写真を大量に抱えた女が居るぞ!」

「強い」「セクハラ発言」「星雲くんの写真」「女」


 各自、そんな事を呟きそれを探し始める。そのすきに、俺は全速力でその場から逃げ出した。


「あっ、しまった!」


 





 流石に、ここまで出遅れたなら、俺が捕まることはない。ちょっと、怖いが……仕方ない。捕まって、痛めつけられるよりは、逃げ切れて痛みがない方に掛ける。まあ、それで捕まったら、素直に殴られるよりボコボコにされるんだがな……。


 裏道などの、入り組んだ道を使って、どうにか逃げる。


「はぁ……はぁ……」


 ここまでこれば……、多分大丈夫だと思うが。辺りを警戒しようと、一度大通りに出ようとすると、何者かに後ろから口を抑えられた。


「おい、騒ぐんじゃねえぞ」


 そう言われながら、首元にナイフを当ててくる。


「もごごぉぉご!?」

「騒ぐなって、言ってんだろ!」


 怒った、そいつは俺の横っ腹をめがけ、拳を振り上げた。


 くっ……。漆原には及ばないが、普通に痛い……。俺が何をしたっていうんだ。


 そのまま、部下と思われる二人組に手足を縛られ、尻もちをつく。


「てめぇ、久々だな。いやぁ、まさか三年前からなにも変わってないとは……」

「三年前……? 一体なんの話だ!」

「とぼけても無駄だぜ。あの日、受けた屈辱は忘れねえよ!」


 そう言いながら、無抵抗な俺に蹴りを入れてくる。


「グハッ…………」

「オラオラ、あの時の威勢はどうしたんだよ!」


 三年前……、そんな事言われたって覚えてねえよ。俺が、何をしたっていうんだ……、まだ中学生だぞ。


「ちっ、マジでお前の顔を見てたら、ムカついてきたぜ。なあ、あの時のジジイと、何処にいるんだ?」

「知らない……覚えてない」

「はあ……、そんな嘘はバレバレなんだよ。なぁ、大人を舐めてると、こんなんじゃすまねえぞ!」


 怒ったリーダー風の男の蹴りが、顔に当たる直前、俺を探しに来たあいつがそこに現れた。


「おーい、星雲……」


 漆原は、こちらの様子を見ると、いつもの笑顔とはうって代わり、憎悪と怒りを込めたような顔で、睨んだ。


「貴様ら……、ここで何をしてやがる。星雲に、何をしてる……」


 えっと……、助けに来てもらってあれなんだけど……、誰ですかってなるくらい怖いぞ。


「なんだ、てめえは。おいやっちまえ!」

「「へい!」」


 二人の部下は、そう言うと漆原に飛びかかったが、漆原それを華麗に避け、片方の男の首を絞め気絶させた。


「ヒエ……、助けてくれぇ」


 漆原に背を向け、逃げようとしたところをすかさず、そこにドップキックを叩き込む。すると、その衝撃により男は倒れ込んだ。


「ちくしょう、てめえら何やってやがる!」

「それで、もう一度聞くけど。星雲に……何してるのかな?」


 リーダー風の男は舌打ちをし、そのまま先程ポケットに入れた、ナイフを取り出し、俺の首元に当ててくる。


「いいか、これ以上。俺達になにかしてみろ。こいつは殺すぞ!」


 死んでも生き返る事が、分かっているからか、あまりこのナイフで恐怖が沸かない……。むしろ、一度死んでこんな事にならないように、裏道を、通らなければいいんじゃないかと思うほどだ。


「一応言ってあげるとけど……。それ、一番やっちゃいけない行為かもしれないわよ」

「何言って……」


 次の瞬間、いつの間にかリーダー風の男の後ろに居た、水羽によってナイフを持っていた右腕を折られていた。


「グァァァ……、腕がァァ……俺の腕がァァァ」


 痛がっているところを、水羽は顔に足を入れ追撃した。


「グハッ……。なんなんだ、コイツラはいったい…………」


 倒れ込んだ、リーダー風の男に馬乗りをし胸ぐらを掴み何度も何度も地面に頭を叩きつけた。十回を超えたところで、意識がなくなったのかなんの抵抗もしなくなった。だが、それでも構わず水羽はやり続けていたので、襲ってきた相手とはいえ、流石に可愛そうになりそれを止めた。


「おい、もういいだろ。あとは、警察に任せようぜ。下手にやりすぎると、今度はこっちが悪くなるし」

「駄目……。これは、私の責任だから…………。覚えてないの?」


 覚えてる……? この男にも言われたが、三年前……。全く記憶には無いな。首を横に振ると、水羽は小さな声で「そう……」と呟いた。


「それじゃあ、私がこのカスを交番に連れて行くは……」

「水羽。殺す……なよ」

「分かってる。任せて……、みんなは先に帰っていいから」


 そう言い残し、リーダー風の男を担いで交番の方向を目指し歩き出した。

 

「ふう、とはいえまさかこんな事になるとはな……。思いもよらなかった……」

「そうね……。というわけで、早速本題に入れるわ」


 漆原にガシッと肩を掴まれる。その表情はものすごい笑顔に包まれていた。

 

「えっと……、なんでしょうか漆原さん!?」

「いやあね、嘘をついて八尋と帰った件をうやむやにする気?」


 ちくしょう、そのまごまかして帰れると思ったのに……。


「それで、肝心の八尋は?」

「顔の形が変わりそうなくらいボコボコに殴っといたわ」

「ひでえ、あいつは関係ないだろ……」

「いや、さっき別れたあと土下座して謝っているかと思ったら、いきなりスカートの中をカメラで撮ってきたから……」

「あ……うん、それならしかたないな」


 あいつは、そういうやつだ。前に水泳部の女子更衣室の中にカメラを仕掛けたくらいだからな。まあ、それは結局。たまたまその日、女子が休みでその代わりに広く使いたからと言うことで男子が使ってしまい、えらいものが取れたと泣いていたがな。


「それじゃあ、覚悟は出来てるんでしょうね?」

「優しくお願いします」


 時雨とレティルに両手を掴まれ、逃げれなくなった後、漆原は渾身の一撃を腹に当ててきた。

 



 



 


 




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