第11話 ベンチで一人飯……あれ?

 前回とは違い、レティルに昼を誘われたがそれを断り、外のベンチで一人食べていた。というのも、あいつらがいるところでは、考えられないからだ。誰が俺を殺したのかと。


 レティルの言う通り、考え過ぎなのかもしれない。どうせ、痛くないし死んでも生き返る。のんびり、見つけていってもいいかもしれない。だとしても、俺は死ぬのは出来るだけ避けたいし、同じ日をずっと繰り返したくはない。


 とはいえ、今の俺に出来ることといえば、夜に起きていて誰が殺しに来るのか見るくらいだ。そうすれば、次のタイムリープ時に対応出来る。


 そんな事を考えながら、ご飯を食べていると後ろから声が聞こえてきた。


「なにか……悩み事?」

「うぁ!?」


 いきなりの事で、驚き変な声を上げてしまった。


「誰かと思えば、水羽か。なんだ、あいつらと食べなくていいのか?」

「別にいい……、それよりどうしたの。朝も言ったけど悩みがあるなら……聞くよ」


 タイムリープがどうのこうのって話しても、馬鹿にされるだけだ。なのでそれは話さないでおこう。


「いや、別に。たまには外で食べたくなっただけだぞ」

「そう…………」


 俺達の間に少しの沈黙が流れる。なんだ、この空気……。なにを喋ればいいんだ。


「そういえばさあ、ちょっと頼みがあるんだけど聞いてくれないか?」

「頼み? 星雲くんの頼みなら…………。どんな頼みでも、聞くよ」


 そういいながら、手を取り一気に近くまで寄ってくる。


「この辺で、泥棒をしそうなやつと殺人鬼がいるか調べることって出来るか? 出来れば、今日中に知りたいんだ。あと、近いからちょっと離れてくれない? てか、なんで手を握ってきたの?」

「分かった……。私のコネを総動員する……。あと、離れたくない」


 そう言って、俺の手を離すことなくそのまま何処かに電話をし始めた。流石、天下の水羽カンパニー。頼れるのは、社長令嬢だな。まあ、でもいつもの事もあるしどちらかというとマイナスなんだがな。


「これで、今日の夜には分かると思う」

「ありがとう。本当に助かる。それで、なんだけどこの手は離してくれないの?」

「分かった、離す。その代わり……やってあげたから、膝枕して」


 顔を近づけ、そう頼んでくる。


「分かったよ、いいよ! その代わり、俺は弁当食べるから落とすかもしれんぞ」

「構わない……」


 そう言って、すぐさま俺の膝に頭を乗せてきた。なんだろう、普通女の子にこんな事されたら、嬉しいんだろうがなんの感情もわかないぞ。


「少し、硬い……」

「文句言うな、俺にはどうしようも出来ない……」


 むしろ、どうすれば膝が柔なくなるのか、俺が知りたいくらいだ。


「それで、何に使うの? さっきの」

「まあ、ちょっと知りたくてね」

「ふーん」


 これで、もし本当に居るならすぐに対応して今日は耐えれるはずだ。


「そういえば……、レティルさんと凄く仲がいいよね」


 いきなり、なんの話だ? 水羽には俺がレティルと親しい用に見えるのか、誤解を解いておこう。 


「そんなわけねえよ。俺は、あいつの事を嫌いだし」

「好きの反対は無関心って言う……。ということは、星雲くんはレティルさんに……好意を……」

「無いから、絶対にないから!」


 あんな、図太いやつ嫌いだ。


「そんなに否定して……。ますます怪しい」

「じゃあ、どうすればいいんだよ!」


 誤解を解こうとしてるのに、なんでどんどんこじれていくんだよ。


「星雲くんって、大きい胸と小さい胸どっちが好き?」


 なんだ、時雨みたいな事を言い出したぞ。


「いきなり話が変わったな。うーん、大きい胸かな」

「なんで?」

「おまえが、貧乳だからかな?」


 そう言うと、水羽は顔を膨らませふてくされる。


「冗談だ。時雨も聞いてくるけど、女子は気にするのか? 俺は大きいとか小さいとかはどうでもいいと思うが」

「そりゃあ……気にする」


 やっぱ、気にするのか。なんか意外だな。


「星雲くん、あーん」


 そう言って、水羽は大きな口を開ける。


「どうしろと言うんだ?」

「簡単。星雲くんが、そのお弁当の具材を一つ私の口の中に入れてくれればいい」

「お腹空いているし、あげたくないんだけど……」


 そう言うと、起き上がり水羽は自分のお弁当のおかずを一つ取り、俺の口元まで運ぼうとする。


「星雲くん。あーん」

「いや、ちょっと待て。大丈夫だから、俺もお弁当あるし」

「私のあーん……。嫌なの? それに、お腹空いているって言った」


 嫌って訳じゃないんだが……。水羽は、キラキラした目でこちらを見つめる。


「わかったよ、食えばいいんだろ食えば!」


 仕方なく、水羽の箸に食らいついた。


「星雲くん、美味しい?」

「ああ、美味し……ん!? えっ何してんの?」


 水羽は、自分の箸を舐めわしていた。


「なんでもない」

「いや、なんでもなくない……」

「なんでもない」

「いや、だけ……」

「なんでもない」

「…………はい」


 普通、こんな事を女子高生はするのか? それとも、こいつだけか? 参考例がなさ過ぎて分からないな。


「もう一個食べる?」

「いや、もういい。自分のやつ食べなきゃだし」


 「そう……」と、不満そうに呟き俯く。下手すると、また食べないか聞いてきそうだし、話を変えよう。


「そういや、最近写真部の方はどうなんだ?」

「写真部? たまに行ってる。二週間に一度くらい」

「よく、それでやってけるよな」


 まあ、八尋のやつは毎日部活やってると、言いながら盗撮写真を大量に撮っていたな……。そんな部活だし、他に部員も居ないし適当でいいのか。


「写真は撮ってる……。一応」

「へぇ、どんなのを撮ってるんだ? 見せてくれないか」


 そう聞くと、水羽は胸ポケットから小さい写真入れを取り出し、渡してくる。


「見ていいんだよな?」

「うん……」


 パラパラめくっていくと、坂から見える夕日や、空にかかる虹などの写真があった。


「へぇ、ちゃんと撮ってるんだな」


 更に、ペラペラとめくっていくと、挟まっていた一枚の写真が地面に落ちた。


「なんだこれ?」


 それを、拾い上げるとそれは、家に居るときの寝間着の俺の姿だった。それを見た瞬間、水羽は慌ててそれを奪い取った。


「おい、これはなんだ」

「知らない」

「なんで、俺の写真をお前が持っているんだ」

「知らない」

「じゃあ、それはお前のじゃないんだな? 破いてもいいよな」

「…………」


 黙り込んだんだけど…………。同級生の女子が自分の写真持ってたら、流石に怖いんだけど。


「これは、私が八尋くんから購入したの」

「八尋? なんで、そこで八尋の名前が出てくるんだ」

「八尋くんは、盗撮した写真を売ってるの。だから、これは購入したのもの」


 盗撮写真っていう時点で、犯罪なのにそれを売ってる? 初耳だし、いくつを法を犯せばいいんだ、あいつは。


「とはいえ、水羽はなんでそれを買ったんだ?」

「えっと……。まあ、色々。詳しくは、八尋くんから聞いて」


 まあ、いいか。取り敢えず、後であいつを問い詰めよう。


「それじゃあ、私はそろそろ行く……」

「ん? 何処に行くんだ。まだ、昼休憩は終わってないだろ?」


 別に、残っててほしいっていう訳じゃないが少々気になったので聞いてみた。


「先生に頼まれた。教材を運ぶの手伝ってほしいらしい……」


 先生が、わざわざ水羽に頼んだのか。背が低いし、華奢な水羽に? 殺人鬼がいるか調べてもらうんだし、これくらい協力してやるか。


「手伝ってやるよ。一人だと危険だろ?」

「えっ……いいの?」

「ああ、調べてもらうんだし。それくらいなら別に、やるぞ」


 水羽は頷き、テクテクと歩いていく。まあ、ついでに恩をきせておこうっていう魂胆なんだがな。


「それじゃあ、行こ」










「これを……全部運ぶのか?」


 先生に頼まれた教材は、一人の女子生徒が運ぶには明らかにおかしい量が置いてあった。


「仕方ない、何回かに別けて運ぶか」

「うん……」


 教材をしっかり持ち、自分のクラスである一組に向かう。


「これ、かなり重いが大丈夫か?」

「大丈夫……」


 あれ? という事は、この量を水羽は一人で運んだって事だよな。どんなけ時間が掛かるんだよ。


「そういえば……、一つ聞いていい?」

「なんだ?」

「さっきレティルさんは、恋愛対象に無いって言ってたよね?」

「ああ、それがどうした」


 あんな、意味不明の天使が恋愛対象に入ったらたまったもんじゃない。むしろ、色々面倒くさいし早く居なくなってほしいくらいだ。


「今、恋愛対象の人って居る?」


 恋愛対象の人? つまり、好きな人がいるかどうかって事だよな。まあ、ぶっちゃけ居ない。まず、恋人が欲しいとかの前に、俺にはまともな友達が居ない。なので、恋人よりもむしろそっちの方が欲しい。


「俺は居ないなかな。それよりも、水羽はどうなんだ? 好きな奴居るのか?」

「私は…………居る」


 へぇ、水羽にも好きな奴が居たのか。誰だろう、俺ら以外に喋っている所を見たことがないが。


「なら、俺じゃなくてその好きな奴をストーカーしろよ。俺をストーカーしても、楽しくないだろ?」

「分かった……。そうする」


 意外に素直だな。これで、俺もようやくこいつから開放される。まあ、今夜死んだらそれも無かった事になるんだがな。


「ふぅ、これでやっと一つか……。あと何回、これをやれば終わるんだ」

「そう……。さっさと終わらせないと」


 そう言って平然な顔をして、水羽は歩いて行く。俺はこんなに疲れてるっていうのに……、体の何処にそんな力があるというんだ……。


「しゃあない、あいつらに手伝ってもらうように頼むか?」

「星雲くんが、そうしたいなら……。それでもいいよ」

「んじゃあ、ちょっと行ってくる。すぐに戻ってくるから、先に運んでてくれ」


 水羽にそう言い、俺は教室へと入った。


「お前ら、ちょっと手伝ってくれないか?」

「何をですか、星雲お兄さん?」

「あの、運ばなきゃいけない物があってな、俺と水羽だけじゃあかなり時間が掛かるから、手伝ってほしいんだけど」


 時雨はともかく、漆原はゴリラみたいな力があるし、レティルは一応天使だし力はあるだろう。


「私はいいけど、時雨は?」

「別にいいわよ。お弁当も食べ終わったことだし」

「なら、すぐに行きましょう!」


 良かった、言う事を聞いてくれた。断られたらどうしようかと思ってた。


「じゃあ、付いてきてくれ」


 三人を連れ、教室を出ると大量の箱を抱えた水羽がそこに居た。

 

「おい……、何やってるんだ?」

「星雲くん? 見ての通り、荷物を運んでるだけだけど」

「まさか、これ全部?」


 それは、天井に付きそうなくらいスレスレで、少し触れたら倒れるくらいのものだ。


「これ、私達必要だった?」

「いや、それ以上に俺必要だったのかな」

「もし、星雲くんが居なかったら……。両手で、箱を持って来たから……、要らなかったちゃあ、そうなんだけど……。全然、楽になったよありがとう」


 これをしてってたから、先生は水羽に頼んだのか……。てか、うちのクラスにゴリラが2匹も居るとは思わなかったな。


「アハハ……ハハ……」


 辺りに冷たい空気が流れていた……。












 

 


 


 

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