第10話 謎のタイムリープ
…………。ジリジリジリという、スマホのアラームによって目覚める。
いつもより、早く起きないとな。三つ分の弁当を作らないといけないし。
「ん?」
布団の中からガサガサという音が聞こえてきた。まさか……。
布団を奪い取ると、そこにはレティルが寝ていた。
「おい、起きろ! なんでここで寝てるんだ。父さんの部屋を与えただろ!」
「……んにゅ? ああ、おはようございます。星雲さん」
星雲さん? まあいいか、そんな事より。
「いいから、出ろ!」
「なんですかもう、会って二日目なのに部屋を与えたとか、なんの話ですか」
会って、二日目? 何を言っているんだこいつは。
「レティル、俺達は会って三日目だろ? それに父さんの部屋を与えたのは昨日の話じゃないか?」
そう言い聞かせるが、レティルは困惑した様子で首を傾げる。
「星雲さん。タイムリープ、してきたんじゃないですか?」
タイムリープ……だと? どういうことだ?
「いや、そんな覚えはない。普通に昨日寝て、起きて今だからな」
「ほほう、つまり寝ている間に誰かに殺されたという事じゃないですか?」
殺された、俺が……? だが、誰にも恨まれるような事はしてないはずだし、ましてや殺されるなんて。
「鍵をしてなかったから、泥棒が入ってきて、ついでに俺を殺していったとかか?」
「可能性はなくはないと思いますけど」
だが普通、泥棒は盗むだけで人は殺さない。盗むだけでも犯罪なのにわざわざ、そんな重い罪を更に背負いたくはないからだ。だとしたら、たまたま入ってきたのが殺人鬼とかか?
でも、何故俺の家なんだ? 人を殺すために家が空いてるかどうかを確認していて、それを他の誰かに見られた時点でアウトだし、そんな奴は夜遅くそこらで歩いている人を殺すはずだ。家に入るくらいならな。
「取り敢えずこれは夜にでも考えましょう。ひとまず、今は学校に行かないといけませんしね」
「まあ、最悪死んだらこの時間に戻れるが……。だとしても、なにか引っ掛かるんだよな」
「そんな事より学校です」
「そんな事って、お前な……。こっちは死んでるんだぞ」
「でも、痛みは感じませんしタイムリープしたので、生きてるじゃないですか」
これが、感性の違いってやつなのか? 俺とレティル……いや人間と天使の。普通、人間は一度殺されたらもうその時点で終了だが、こいつの場合はもし殺されても、少し前に戻るだけだからな。そもそも、こいつって死ぬ……のか?
「なあ、お前って死んだらタイムリープするっていうこの能力を持っていたんだよな? そもそも天使って死ぬのか?」
「いいえ、死にませんが」
「じゃあ、その能力意味ないんじゃ……」
「確かに、意味はないかもしれませんね。能力というのは、二体の天使で一つのものを司ります。何故なら片方が何かやらかした時にもう片方が対処できるようにです。なので、片方は不完全な能力となっているんですよね。例えば、私はタイムリープするには死ななきゃなりませんが相方は死ななくてもタイムリープ出来ます。更に過去に遡るタイムトラベルは私は自由自在に出来ますが、相方は制限があります」
確かに、片方が暴れても二つの能力には完全と不完全があるから対処出来るという訳か。痛みを感じないとはいえ、死ななきゃいけないのは面倒だな。タイムトラベルしたところで、状況は変わらないし。
「それじゃあ、さっさと行きますよ。学校にね!」
「おい、まだ話は終わってないから」
レティルを静止するも、聞かずそのまま下へ降りていってしまった。まあ、悩んでても仕方ないか。
前回と同じく、漆原達は窓際の時雨の席に集まっていた。こいつらが、俺を殺した可能性はある……か? いや、流石に考え過ぎか。一応、こいつらからしたら、俺は親しい友人。殺す必要なんて、全くない。
余計な考えを捨て、俺は自分から三人に話しかけに行った。
「おっす、転校生は俺の妹だぞ」
そう発言すると、「えっ」という声を漏らし漆原が首を傾げる。
「どうして転校生の話をしてるって分かったの? それに、俺の妹って…………」
「あっ…………えっと、周りの奴らが転校生の話ばっかりしてからさぁ、お前らもそうかなって」
つい知っていたかは言ってしまった。そりゃ、困惑するわな。
「なるほどね、正解よ。転校生がどんな変態かって話をしてたのよ。ムッツリなのか、オープンなのか」
「そんな、話はしてないって事は分かった」
「あら、今日はツッコまないのね」
「最近、疲れててな。ツッコむ気力がないんだ。だから、今日は俺と関わらないでくれ」
「ツッコむって、どこに何をかしら?」
「なんで、そうなるんだよ。普通にツッコミの話だ、ひわいな感じにするな!」
「全然元気じゃないの。なにが、ツッコむ気力が無いよ。嘘じゃない」
疲れてるのは事実だし、今日は早めに帰りたいから関わらないでくれって言う意味なんだが全く相手にされなかったな。
憎い、自分のツッコミ体質が。
「それで、妹さんってどんな人なの?」
「うーん、最悪の料理の腕前に面倒くさくて、なおかつ俺を殺そうとしたようなやつかな」
「なるほど、ドMの星雲くんとはピッタリね」
「誰がドMだ!」
どちらかというと、MというよりはSに近い……はずだ。
「とはいえ、面白そうな妹さんね。チェックしてあげるわ。この学校にふさわしいかどうかを」
「へぇ、そうか。頑張れよ」
まあ、あいつは別に変態ではないからな。こいつと同調することはないから別にいいか。
「なんか、悩み事? 私でよければ……力になる」
見破られた!? ここは、誤魔化すしかないか。タイムリープの事を話したら、何言われるか分かったもんじゃないしな。
「あ、いや……。悩み事っていうか、いつも悩んでいるっていうか」
「どういう……こと?」
「お前ら三人と、どうやって縁を切ればいいかって」
そう言うと、三人はじっとこちらを見て黙り込む。嘘は言っていない、いつも俺はそれで悩んでいるしな。
「星雲、冗談でも言っていいことと、悪い事が在るのよ」
「冗談じゃなくて、本気なんだが」
本気で、どうすればいいか悩んでいる。
「酷い星雲くん。私達の事……、そんなふうに思ってたなんて…………興奮する」
「お前はなんだ! いちいち、興奮しないと気がすまないのか、この変態が!」
「変態で結構! 誰しも変態にならなくては子供も出来ないし、種は繁栄しない。本能に従ってなにが悪いの」
腰に手を当て、堂々とそう宣言する。
「本能に従うって言っても限度がな……。それに、やりすぎるとそれはそれで公然わいせつ罪で捕まるだろ」
「公然わいせつ罪。捕まっても私は反省しないわ。捕まろうが、拷問されようが、全てを快楽へと変えてみせる」
「改めて、お前の事をやばいやつだと思ったよ」
てか、拷問ってなにをどうすればそんな事になるんだよ。
「そんなこと言っても、私達と離れたら星雲ボッチじゃない」
「ボッチじゃねえし、友達くらい居るし。八尋……とか」
「星雲、それ以上は言わなくていい、涙が出そうになる……」
「ちょっと待て、元はと言えばお前たちのせいだからな! いろんな噂のせいで誰も俺に近寄って来ようとしないし……。それに、中学の時の友達なら、居るから!」
高校から、コイツラのせいで人が寄り付かなくなったが、別に中学の奴らなら居る。
「へぇ、例えばどんな人?」
「消しゴムをくれたり、赤ペンをくれたり、シャーペンの芯をくれたりする人かな」
「なにそれ、どういう人……」
「いや、まあ色々とな…………」
前に、お金がなかった時に色々と物をくれた人なんだが……、卒業してから一度も連絡をとっていない。というか、そもそも連絡先も交換していなかった……、今考えるとあれは友達と言えるのだろうか。
「なんか、複雑な事情がありそうだし、この辺でその話はやめてあげるわ」
「おう……、そうしてくれるとありがたい」
そんな他愛もない会話をしていると、先生が入ってきた。
「はーい、皆さん。席についてください」
言われた通り、全員席に座る。この先の展開もどうなるかも分かっている。転校生として、レティルが来て最初は男達は感激するが、俺の関係者と知っておとなしくなる。
そういえば、あの後レティルはなんか言ってたな。「あっちはそうじゃないかもしれませんけど」あれは、どういう意味だったんだ?
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