第15話 階段でボッチ飯!?

 …………。ジリジリジリという、スマホのアラームによって目覚める。


 レティルに、最初に殺されたのも合わせると四度目の同じ朝。まさか、あの場に既に居るとは思いもよらなかった……。レティルは死なないとはいえ、怪我くらいはするだろうが、怪我していなかったということは、襲われていない。やはり、殺人犯の狙いは俺なのか? 水羽曰く殺人鬼は居ないらしいし…………。悩んでいてもしょうがない、とりあえずレティルを起こすとしよう。


 布団を取り上げ、体を揺さぶる。


「おい、起きろ!」

「ふにゅ!? ああ、星雲さんおはよございます」


 目を覚めるたのを確認した後、俺はレティルの頬を、思いっきりひっぱたいた。


「いきなり、何するんですか!」

「いや、ちょっとな。恨むなら、今晩の自分を恨め」


 あの時は、緊張と恐怖のあまり笑ってしまったが冷静に考えると怒が湧いてきたからな。叩かれたレティルは、不満そうな顔でレティルはこちらを見る。


「まあ、そりゃあ叩かれただけじゃあなんの事か言わなきゃ分からないか。俺は死んでタイムリープしてきた。こう言えば分かるか?」


レティルは「なるほど」と声を漏らし、こちらの襟を掴んでくる。


「って、なるほどじゃないですよ! どういうことかちゃんと説明してください」

「分かった分かった。まず何処から話せばいいのか?」


 なんで、自分で言って自分でツッコんでるんだよという思いは置き、現在の状況を説明した。


「なるほど……、ヘルメットを被った謎の人に殺されたと」

「ああ、油断しているところを後ろからグサッとな。そのせいで、相手の顔を見ることすら出来なかった」


 まだ、来ることが分かっていたら対応が出来たかもしれない……。だがあの時は、レティルのせいで完全に緊張が緩んでいた。流石に、そんな状況じゃあ無理ってもんだ。


「そこで、俺は思ったんだ。殺人犯がそこら辺にいる殺人鬼じゃ無く、更にレティルが襲われていない事を考えると、俺を狙っているんじゃないかと。だから、今回俺は逃げる事にする」

「逃げる? ですか……」


 困惑した様子で首を傾げる。


「ああそうだ。深夜にそこらの公園で、時間が過ぎるのを待つ。俺を狙ってきているのであれば、何も起きずそのまま帰ってくれるだろう。もし、レティルが殺されても、死なないんだろ? だから、それで犯人を教えてたくれればいいんだ」


 こうすれば、誰も殺されず犯人も分かる。完璧なプランだ。


「なるほど、そういうことですか。確かにいいんですね。でも、もし知らない人が犯人だったらどうするんです? どうやって、伝えればいいんですか」

「そうか……、ヘルメットがあるのを忘れていた。それじゃあ、魔法かなんかで、透視する事って可能か?」

「うーん、難しいこと言いますね。調整が難しいんですよね。相手が動いていても駄目ですし……」

「監視カメラ越しだとどうなるんだ?」

「無理ですね。私はそういう魔法は、使えないんですよ。ぎりぎり、その場にいて相手が居てなおかつ動かなければ可能なんですが」


 じゃあ、この案は無理か……。やはり、今回は相手が俺を狙っているのかどうかだけを確かめよか。


「一応言っておきますが、私は人のオーラを見ることは出来ますよ?」

「オーラ?」

「はい、オーラというのは個人個人違うので、それで判別できます。一度会ったことのある人ならですけどね」


 もっと、早く教えてほしかった……。それが分かっていたら、ギリギリのところで、そいつがレティルが知っている人かどうか伝えろと言えたのに……。


 まあでも、どちらにせよあの状況では無理か。


「それじゃあ、そろそろ私は学校の準備していいですか?」

「ああ、話は終わりだ。好きにしていいぞ」


 そういうと、レティルは他の部屋に向かった。


 さて、これからどうするべきか……な。一度逃げる事は決まったが、何時まで公園にいるかだ。朝まで入れば流石に、殺人犯と鉢合わせない……よな?








 

 教室の扉を、開き三人で固まっている時雨達に声をかける。


「おっす」

「おはよう星雲くん。今日は、あなたから挨拶するのね」

「たまにはな……」


 軽い挨拶を終え、自分の席に座る。すると、漆原が机を思いっきり叩いた。


「なんだ、突然」

「星雲、今日転校生が来るらしいんだよ! 男だと思う? 女だと思う?」


 前回、俺が言ってしまって困惑させてしまった。今回は、その反省も活かしそれっぽいことを返しておこう。


「うーん、男がいいな。友達になってくれそうな」

「ああ、そうね。星雲、男友達ゼロだったわね」


 誰のせいだと思っているんだ……。というか、ゼロじゃない。


「何言ってんだ、八尋がいるだろ?」

「えっ……、あの人男だったの?」

「違ったら、なんだっていうんだ」

「地球外生命体の盗撮魔」

「地球外生命体はさておき、盗撮魔は否定しない」


 あいつはいっぺん、ガチで怒られてもいいかもしれない。というか、怒られてほしい。まあ、あいつの場合、女の先生が怒ったら興奮したとか言いそうだな……。


「私達は、星雲くんというなの男友達が居るからその点は勝ってるわね」

「お前は何と勝負してるんだ。てか、勝ち負けもクソもあるか」

「ナニ? オ◯ニー?」

「おい! 朝から堂々とクラス全員に聞こえる声量で言ってんじゃねえ!」

「私はただ、ナニとしか言ってないわよ?」

「もろに、オ◯ニーって言ってるから!」

「キャー、星雲くんが自慰行為を卑猥な表現で言ってるわぁ……。変態だ」

「お前が言わせたんだろうが!」


 クラスの人々は騒ぎ出し、女子生徒は蔑むような目でこちらを見て、男子生徒は憐れむような目でこちらを見る。


 なんでだよ、俺は悪くないのに……。こうやって、俺の評価はこいつらのせいで、どんどん下がっていくんだろうな。


「星雲くん……。下ネタ好きなの?」

「いや、水羽まで何言い出してるの。好きじゃないから全然」

「でも、時雨さん下ネタを喋ってる時……、楽しそうだよ?」

「別に、楽しんでないから。むしろ、ツッコミ過ぎて嫌だから!」


 そう反論するも、水羽はじーっとこちらを見続ける。なんだよ、俺の言ってることを信じてくれないのか。


「何を言ってるの、ツッコミありきの下ネタでしょ? ちなみにこのツッコミは、下のお口に突っ込むという意味ではないけど」

「いちいち言わなくても分かってるわ! もう、お前は本当に黙ってろ!」

「私の辞書に黙るという文字はないわ」

「この学校一の天才さんに知らない言葉があるなんて驚きだわ」

「安心して、下ネタの用語ならマスターしてるから」

「才能の無駄遣いだな」


 一応、トップだからなこいつ。まじで、なんでこの高校入ったんだよ。


「安心して、私があなたを下ネタマスターに育て上げるわ」

「だから、俺は下ネタ好きじゃね……ぐはぁ!?」


 いきなり、漆原が腹パンしてきた。だから、ゴリラなんだよこいつ……。息が一瞬出来なくなるんだよ。


「そんな事より、今日の帰りゲームセンター行かない?」

「ちょっと待て! ゲームセンターの話の前に俺に言う事があるだろ! なんで、殴ったんだ!」


 漆原にそう詰め寄ると、口を開く。


「えっ、殴りたかったからだけど?」

「そんな、当たり前のように言うんじゃねえ!」

「ドM星雲くんには、ピッタリな関係ね」

「うるせぇ、俺には殴られて喜ぶような趣味はない!」


 なんどタイムリープしても、こいつらが疲れる事には変わりないな……。


「殴るで思い出したんだけど、男の子ってやっぱり女子のパンツが好きだったりするの?」

「殴るでどう発展したらそうなるんだ!」


 頭の中おかしいんじゃないか……こいつ。


「えっ、普通に殴るといえば男子。男子といえばパンツだけど」

「お前は、なんで分からないのか、分からないみたいな顔するんじゃねえ!」


 とはいえ間違ってはいない。女子のパンツが嫌いな男子はごく少数だろう。


「で、星雲くんはどうなの?」

「俺はまあどちらかというと、好きだけど。お前らのパンツは要らないからな!」


 先に念を押しておこう。嫌いといったら、謎の持論を言い始めるし好きとだけ言うとパンツ渡してきそうだからな。


「えっ……何言ってるの。私、パンツあげるなんて一言も言ってないけど。まさか、本当は欲しかったの? でも言い出せないの?」

「違うって、本当にいらないから!」

「星雲くん……。もし良かったら…………。私の脱ぎたてを……」


 水羽がもじもじ、しながらそんな事を言ってくる。


「だから、俺は別にパンツは欲しくないからぁ!」


 つい、そう叫んでしまった。すると女子は汚物を見るような目でこちらを睨みつけていた。はぁ、また俺の好感度は下がったよ……全く。まあこれも、もしまたタイムリープしたら、無かったことになるんだろうがな。


「流石に、クラスで大声でそんな事を言うなんて……星雲さん。マジパねえっす」

「お前のせいだろ!」


 そんな、いつも通りの会話をしていると先生がやってきた。その後の展開は変わらず男子たちは大騒ぎ……。流石に、飽きてきたなこの流れ。










 昼休憩、今回もレティルの誘いを断り別の場所で食べる事にした。前回外のベンチで食べた時に、水羽がやってきてしまった。なので、今回はそれ以外の食べる場所を探し、結果行き着いたのは階段だ。


 うちの学校には、普段使われる中央階段・東階段・西階段の他に一部の移動教室で使われる階段がある。そこは、昼休憩中はあまり通る人は居ないので使う事が出来る。


 ただし、そんな場所を使う物好きは居ない。そこを使うくらいなら、外のベンチは沢山あるのでそっちで食べたほうがいい。ここは、あまり掃除がされていないので、ゴミが多いからだ。

 

 そんなわけで、一人で食べようとしていたんだが……。


「いやぁ、星雲と二人で食べるのって久々かしらね」

「うん、なんでお前居るの?」


 何故か、行ったら既にそこで漆原が待機していた。俺の方が先に教室を出たはずなんだけどな……。


「いやぁ、あのメンバーで食べてもいいんだけど。どうせなら、星雲を追いかけて驚かせようと思ってね」

「はぁ……、じゃあもう終わったなら帰ってくれよ」

「いやぁ、星雲と二人で食べるのって久々かしらね」

「無視すんな!」


 まあ、ここで俺が別の場所に行って食べようとしても先回りされたら意味ないし、仕方ないからここで食べるか。


「星雲のお弁当って、いつも誰が作ってるの? 確か、普段両親居ないわよね」

「これか? 自分で作ってる。ふた……三人分な」


 前のタイムリープでも、確かそんな事を聞かれたな。そんなに俺のお弁当に興味があるのか?


「へぇ、食べてみたい。私の少しあげるから、くれない?」

「ああ、いいぞ」


 漆原は、ハンバーグを一口でぺろりとたいらげた。少しとは、何だったのか……。


「美味しい、これって冷凍食品?」

「いや、昨日妹が作った料理があまりにも不味すぎてな、その後作ったハンバーグの残りを詰めてきた」


 「ほぉ……」と、声を漏らし数回うなずく。


「今度、私の分も作ってきてよ」

「ああ、いいぞ。三人も四人も変わらん」


 そう言うと、水羽は子供のように手を挙げて喜ぶ。そういや、前に水羽にも言われたな。まあ、タイムリープしたから、無かったことになってるが……。


「いやぁ、楽しみだわ。星雲が作ったお弁当を食べるの。あ……、星雲に聞きたい事があるんだけどいい?」

「どうした、そんなあらたまって」

「星雲って、プロテイン入りのご飯作れる?」


 プロテイン? 確か筋肉を付けるためのドリンクだよな。あれを入れた料理って美味しいのか? いや、そういう問題じゃないか。


「なんで、そんな事を聞くんだ?」

「私、もっともっと強くなりたいからね。そのためにプロテインを摂取して強くなりたいの。でも、プロテインって私苦手な味なのよね。だから、星雲なら美味しい料理にしてくれるかなぁと」

「今の時点で人間じゃないレベルで強いのに……お前は、どこまで強くなる気だ」


 ボディービルダーを目指してる訳でもないのに……、そんな筋肉を付けて。本物のゴリラよりも強くなるつもりか?


「私は守られるより、守りたいの。大切なものを失わないためにも」

「なんだそれ、なんかあったのか?」

「いや、昔ちょっとやんちゃして頃に仲間の一人が他校の奴に殺されかけてね、一生消えない傷を負わされたの。私が、もっと強ければ守れたのに……」


 中学の頃、漆原は女番長をしていたと聞いたことがある。そのときに、自分の無力差に気づいて強くなりたいと思ったわけか……。


「ごめん、こんな話するもんじゃないわね」

「いや、別に辛くなったら相談くらいなら聞いてやるぞ」

「へぇ、優しいね。おっと、そろそろ戻らないと……それじゃあまた後で」


 漆原は、そのまま走り去っていった。結局何がしたかったんだ、あいつ。

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