第16話 夜空……。

 教室に戻ると……、漆原の姿はそこには無かった。水羽に聞くといきなり、体調が悪くなり早退したらしい。

今まで、そんな事は一度も無かったのに……、どういうことだ? 


 一回目も二回目も最後まで残っていた。ということを考えると、体調不良になるわけがない。仮病で帰った……ということになるが、何故だ? あの後何があったんだ? それとも、俺と過去の話をしたからなのか?真相は謎のままである……。







 俺は、レティル達の誘いを断り一人で帰る。無論、あいつらに付いていっても、どうせゲームセンターに行くだけだし。


 そう思い一人で、歩いていると文房具店が目に飛び込んできた。


 これは、行くべきか? 足りない文房具を買っても、もしタイムリープしたら意味がなくなる……。まあ、でも今回は家を出て逃げるし、そんな事は無いか。前回は、ゆっくり選んでいたらあいつらが来たんだよな……。


 なので、今回は前に選んだやつをすぐに購入し店を出た。


 ひとまず、これでいいか。変に裏道なんか使ったら、またあの怖い人達にに会って痛めつけられる可能性がある。前回は、水羽と漆原が助けてくれたが、今回は俺を追いかけて来ているわけではないから、助けてもらえる可能性はゼロに近いだろう。辺りを警戒しながら、慎重に慎重に家に帰った。





 


 



「ただいま」


 鍵を閉め、そのままリビングに向かうと、牛乳を飲む小夜が居た。


「お帰り。お兄ちゃん」

「あれ、今日はコスプレしてないんだな」

「今帰ってきたとこだからね」


 そうか、今まではゲームセンターに行ったり時雨達に絡まれたりで、遅れて帰ってきたが、今日はペンを買うくらいですぐに帰ってきたからか。


「でも、お兄ちゃんがコスプレしてないの? なんて聞くなんて、珍しい事もあるもんだね。どうしたの?」

「まあ、ちょっと気になっただけだ」

「ふーん」


 手に持つ牛乳を飲み干すと、そのままゲームをし始めた。


「着替えないのか?」

「コスプレ? うーん、ちょっと今は気分じゃないかな。お兄ちゃんがなにかリクエストがあるならやるけど」


 別に、小夜のコスプレが見たいわけじゃないからな。


「別にないけど」

「ふーん。お兄ちゃんがなにかリクエストがあるならやるけど」

「えっ……と」

「お兄ちゃんがなにかリクエストがあるならやるけど」

「じゃあ……、メイドとか?」


 そう言うと、パァっと笑顔になりそのまま部屋に走っていた。


「ちょっと待っててね!」

 

 やっぱり、コスプレしたかったんだな。圧力が凄かったし……。


 そうこうしていると、扉がガチャガチャ音を立て、開いた。


「ただいまでーす」

「レティル。一応言うが、ピンポン使えよ? そんな、わざわざピッキングしなくても……」

「よく、私がピッキングしたって分かりましたね。前のタイムリープとかで、同じようなことがあったんですか?」

「まあな……」


 あの時は色々言ったが、もしまた俺が死ぬような事があれば意味が全くなくなる。ならば、言わなくてもいいんじゃないかと、考え方を変えた。


「で、お前は誰と帰ってきたんだ?」

「時雨さんと二人で帰ってきました。水羽さんは、なにやら予定があるって言って先に帰っちゃいました」


 予定がある? 今まではそんな事、一度もなかった……。つまり、俺の何かがトリガーとなって、変わった訳なんだが……。なんだ? 全くと言っていいほど、見当がつかない。


「なにかあったんですか?」


 悩み、うつむいていると、覗き込むような形で下から顔を見てきた。


「あっ、いやなんでもない」

 

 考え過ぎだよな……。


「あ、レティルお姉ちゃん帰ってきましたか?」


 そう言いながら、小夜が二階から降りてきた。


「ただいま」

「おかえりなさいませ、レティルお姉さま」

「似合ってますね、流石小夜ちゃん」


 俺が言うのも何だが、すごい似合ってる。小夜は普通に美人の部類だ。シスコンで、過大評価してるとかではない。中学の生徒会の企画で、ミスコンをした時に、一位になるほどだ。


「レティルお姉さまも着ます?」

「お風呂入ったら着させてもらいましょう」


 小夜は、子供のようにバンザイして喜ぶ。やっぱ、この二人仲良いよな。記憶を変えられ、姉と認識しているが、レティルが小夜の扱いに慣れているような気がする。天界に居たときに妹でも居たのか?


「それで、お兄さま。今日の夕飯はなんでしょうか?」

「今日の夕飯か。どうしようかな」

「なんなら、私が作りましょうか?」

「よーし、今日の夕飯はカレーだ。簡単だから、手伝いなんて要らないぞ。ほら、二人ともゲームで遊んできな」


 絶対にレティルにはやらせる訳にはいかない。あんな、ダークマターはもう二度と食べたくない。食べたら、小夜が起きなくるような兵器だぞ? 毒として、運用できるんじゃないか?


「じゃあ、私は着替えてきますね」

「わた……わたくしは、おゲームを起動しておきましょう」

「小夜、何でもかんでもおをつけたら敬語になるわけではないぞ」


 そう言うと、小夜が顔を真っ赤にしてそっぽを向く。


「ふーんだ、別に知らなかった訳じゃないし。ボケただけだから!」


 「ハイハイ」と、軽くあしらうと小夜はムスッとしながらゲームの元に駆け寄る。


 さて、俺もさっさと作ってここを離れなくてはな。そういや、メイド服を着てわざわざお兄さまっていうのは、演技のためってのは分かるんだけど……、たまに素に戻っていいのか? 


「そういや、広樹お兄さんはコスプレとかしないんですか?」

 

 俺が、コスプレ? いやぁ、考えた事なかったな。


「俺は特にそういうのはする気ないけど……」

「ええ!? お兄ちゃんしないの?」

「えっ……、むしろ今までした事なんてあったか?」

「まあ、ないけど……」


 小夜は演劇の練習のためと、そもそもコスプレが好きだからという訳で着ているが、俺は別に好きでもなんでもないし、そもそも衣装なんてないしなぁ……。そうだ、これを言い訳にしよう。


「いやぁ、コスプレの衣装があったら、俺もするんだけどな……。いやぁ、残念だ」


 そう言うと、レティルが待ってましたと言わんばかりに、どこからともなくメイド服を取り出した。


「なんと、ここに広樹お兄さんの身長と全く同じのメイド服があるではありませんか……。というわけで、どうぞ」

「いや、どうぞって言われても着ないからな」

「ええ!?」

「なんで、驚いてるんだよ。俺は、男だぞ! せめて執事服にしてくれよ。メイド服は流石に女装的な意味になりそうだし」

「仕方ないですね……」

 

 レティルが、そのメイド服を小さくこねると手から消え去り、代わりに執事服が出現した。


「これならいいですよね?」

「いいかどうかって聞かれたら、駄目だって言いたいけど……、まあいいや。今回だけだからな、俺は二度と着ないぞ」


 そう忠告し、お風呂場の脱衣所で着替えてみる。


「なんだろう……、なんていうか似合わないとしか、言いようがないな……」


 そんな事を呟き、外へ出るやいなや二人に笑われた。


「ハハハ、やめてへへへ、お兄ちゃんふふ、お腹がぁぁ、よじれハハハ」

「広樹お兄さん、似合って……ませんね。プププ……」

「お前らが、着ろっていうから着たんだからな!」


 俺は、二度とコスプレをしないと心に誓った。




 


 

「それで……、どうするんですか?」


 ご飯や洗濯、入浴などやらなくてはいけないもの済まし、自室でレティルと話していた。


「ああ、朝も言った通り。俺は、この家を出て公園に避難する」

「何を持っていきますか?」

「スマホと懐中電灯、あとは夜食があればいいだろ」


 そう言いながら、バッグそれを詰めていく。


「一応、包丁かなんか持っていたらどうですか? 襲われたとき用に」

「その状態で、もし警察に補導されたらどうなるんだ。確実に捕まるぞ」


 一応、夜中なんだしその道中に警察に捕まった時が怖い。


「でもですよ。もし、星雲さんを殺した人が既に星雲さんに接触しており、発信器かなにかをつけられていたとしましょう。そうすると、この家に来ずそのまま公園に行くんじゃないですか?」


 レティルが知っている人なら俺に接触している可能性はかなり高いだろう。レティルの言う通り、それも考量したほうがいいか。


「じゃあ、もしもの時のためにバットを持っておくか」

「なるほど……。それで、襲ってきた人の頭をぶん殴るんですね!」

「多分、その人死ぬぞ」


 バッグに入れると、流石に入り切らず飛び出してしまった。


「もう一度確認しますが。私はもし、相手が誰か分かりそうなのであれば、身を犠牲にしてでも調べにいけばいいんですね」

「ああ、そういうことだ。俺からももう一度確認だが、死なないんだよな?」

「はい、死にません。天使なので」


 だよな、良かった。ほっと胸をなでおろし、荷物を背負う。


「じゃあ、行ってくる。もし何かあったら小夜を守ってくれ」

「はい、分かりました。夜道、気をつけて行ってくださいね」

「お前のほうが気をつけろよ」


 レティルが、手を振り見送ってくれた。鍵などを音をたてないように慎重に締め、公園へと走り出す。










 流石に、夜中の0時ともなると公園内には誰も居ない。まあ、こんな時間にわざわざ公園に行くために出歩く人なんてめったに居ないからな。


 さて、どうするべきか。ここからあと六時間もある。俺はブランコに座り、スマホを触る。


 もし途中で寝てしまったら、そのうちに殺されかねない。目を覚ますためにも、ゲームをして時間を潰すとしよう。


 適当なアプリを開き、ポチポチ遊んでいく。流石に暗闇で、ずっとやっていると目が痛くなり、瞬きをし空を見上げる……。


「キレイだな。ここは、電灯があまりないから見えるのか……」


 空一面に星星がきらめき、キレイという言葉が自然と出てくる、ほどであった。


「一人で見るのも、なんか虚しいな……」

「そうだね…………」


 あれ、なんか知ってる人の声が聞こえたような……。ふと、隣を見てみると、そこには水羽がいた。


「えっ!? ちょっと待って……。えっと、なんでお前がこんなところに?」


 そこに居たのは、毎日のように学校で、ストーカーをしてくる水羽であった。


「それは……こっちのセリフ。たまたま散歩してたら、偶然星雲くんが居たから。というか……、そのバックなに?」


 まさか、こんな時間に水羽に会うとは流石に考えてなかった……。


「このバックは、ちょっと夜の公園で一回過ごしてみたくてね。そのための、懐中電灯とかスマホとか夜食が入ってる」

「そうなんだ。でも、あんまりここには居ないほうが……いい。時間も時間だし、警察に見つかったら補導される…………」


 まあ、それはちょっと思ってたな。ここで、過ごすのは流石に見つかりやすいって。


「でも、お前は大丈夫なのか? 水羽も、こんな時間に散歩してたら補導されるんじゃ」

「私は、執事を保護者代わりにして一緒に連れてる。今は公園の外で待機させてるけど」


 執事同伴か……。まあ、それならいいか。嫌いな奴とはいえ、こんな遅くに女の子を一人で歩かせるなんて危険な事は出来ないからな。


「そういえば、懐かしい………この公園」


 水羽は、どこか寂しいそうな感じでそんな事を呟く。


「そうなのか? なんか、想い入れとかあるのか」

「えっと…………」


 水羽は、困惑したような顔をしながらチラチラとこちらを見る。


「ん? どうした」

「星雲くんと私の想い入れのある公園……なんだけど。覚えて……ない?」


 俺と水羽の想い入れの公園? 全く記憶にないんだが。


「まあいい……、忘れたなら。私も……、むしろ忘れてもらったほうが嬉しい。あんな、黒歴史……」


 黒歴史? そんなのが、あったのか水羽には。こいつと出会って二年目だが、一緒にこの公園に来たことは一度も無いはずだ。


「あっ、そろそろ私行かなきゃ……」


 そう言うと、ブランコから飛び降りる。


「そうか、それじゃあまた明日な」

「うん。星雲くんも……気をつけて」

「一応、着いていこうか? その執事さんのところまで」

「すぐ近くだし、別にいい。というか、あそこに……」


 白髪に黒服のいかにもな爺さんがこちらをじーっと見ていた。


「あれか、なんか凄そうな人だな」

「もし、この距離で襲われても。一瞬で、ここまで来て倒せるほどの戦闘力がある」

「なんか、漆原が喜びそうだな」


 水羽はそのまま、その執事さんのもとまで歩いて行き、車に乗り込んだ。散歩とは一体何だったのか……。


 それとも、金持ちの散歩っていうのは車でドライブをすることなのか?



 



 



 


 水羽の忠告を、聞き俺はトイレの中で過ごすことにした。幸い、この公園のトイレはかなり綺麗で、ちゃんと電気もつく。スマホをいじり時間を潰していると、とうとう6時になり日が出始めたので、家に帰ってきた。


「今回で終わらせるんだ、このループを」


 そう、意気込み玄関の扉を開ける。


「ただいま」


 小さな声でそう呟き中に入る。なんだろう、人がの気配がしない。レティルは上に居るのか?


 階段をあがり、父さんの部屋を確認するもそこには居なかった。次に、小夜の部屋に入ると、そこにはまだスヤスヤ眠っている小夜はいるが、レティルは居ない。自室も一応確認したが、やはり居ない。物音とかは何もしてなかったが、下にいるのか?


 カバンは自室に置き、再び一階へと下がり、リビングの方に向かう。


「おーい、レティル。居ないなら居ないって言え」


 そう呼びかけてみるも、返事はない。


「どこに行ったんだろうか? まさか、冷蔵庫付近で寝ているとか!?」


 そう思い、冷蔵庫近くを確認しに行くと……そこには。赤いどろどろとした液体が大量にぶちまけられていた。


「なんだよ……これ。何があったっていうんだ…………」


 冷蔵庫が少し開いていることに気づきそれを開ける。


「……あ!?」


 そこにあったのは…………………、



















 バラバラにされて、詰められたレティルの死体だった。


「なんで、何でこんなことに…………。うっ……」 


 その場に、胃にあるものを吐き出してしまった。流石に、こんなグロテスクなものを見て、一般人が耐えられるはずもない……。


「嘘だ嘘だ嘘だ、なんで……どうして。死なないんじゃなかったのか」


 俺がこいつの能力を一部奪ったからか? 再生能力はあっても、死なない能力は無くなったのか。 

  

 俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ。俺が、居なくなったからだ。だから、殺人犯は標的を変えて……。だけど、なにかが引っかかる。


「うっ……グハッ…………」

 

 足音が、後ろから聞こえその人物がナイフを首元に当て、そのままかききった。そこから、血液が大量に溢れ出し血溜まりがそこには出来ていた。


「なんで……どうし…………」


 最後にそう言い残し、3度目の死を迎えた。

 


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